ふとした瞬間に頭をよぎるのが男の性



※かなり下品です



 次の定例会議が三日後に控えた本丸の離れでは、審神者であるがネクタイを片手に悪戦苦闘していた。政府から支給された制服のような軍服のような服装がネクタイを結ばなければならない服なのだ。制服は特に着用を義務付けられているわけではないが、着用して会議に出席する審神者が圧倒的に多い。ネクタイが上手く結べないは制服ではない、かっちりとした服装で出席していたが、なんとなく肩身が狭くなってきたので今頃ネクタイを結ぶ練習をしているのだ。
 午前中に消化することにしている日課任務をすべて終わらせ、午後からの仕事に期限が迫っているものがないか確認したうえで、姿見の前でネクタイと格闘し始めて三十分がたった。何度やっても結び目がきれいな三角形にならない。なにが悪いのだろうか、とネクタイを解きながら眉根を寄せていると、部屋に燭台切光忠が声をかけながら入ってきた。本日の近侍は彼だ。
「あれ、なにしてるんだい?」
「今度の会議に制服着て出席しようかなぁと思って、ネクタイ結ぶ練習してたんだ。でも全然上手く結べないんだ……」
「へえ」
 光忠の首元を見ると、いつものようにきっちりと黒いネクタイが結ばれている。いつ見ても決まっている。
「光忠くん、悪いけどネクタイの結び方教えてくれない?」
「僕? いいよ。じゃあ見よう見まねでやってみようか」
 が教授を請うと、光忠は二つ返事で了承した。自分のネクタイを解くと、の隣に並んだ。
「まず太いほうを長めにとって細いほうに重ねて」
「うん」
「一周まわして後ろから引っ張って」
「うん」
「穴に通して細いほうを引っ張りながら結び目を上にあげて出来上がり」
「うん……ん?」
 出来上がったものを鏡で確認しても、先ほどの練習のときと同じように結び目が偏っている。きれいとは言えない。
「あれ? 光忠くんはきれいに結べてるのに……」
「うーん……手順は間違ってないから、練習あるのみかもね」
 光忠が苦笑いしながらそう言うと、は再び肩を落とした。ネクタイを結ぶ練習はこのぐらいで切り上げようと、ネクタイを解く。
「やっぱりそうだよね……ありがとう、教えてくれて」
「どういたしまして。でも、練習よりもっと手っ取り早い方法があるんだけどな」
「え?」
「僕が結んであげる」
 というと、光忠はが解いていたネクタイを手にとって結び始めた。ものの数秒できれいに結ばれたネクタイを見て、は感嘆の息をもらした。
「すごい、やっぱり上手いね光忠くん」
「ふふ、どうしても上手く結べなかったら僕を呼んでね」
「うん、ありがとう」
 が頷いたのを見計らって、光忠がのネクタイの結び目に指をかけた。解いてくれるのかとは待っていたが、光忠はの首元をじっと見つめて動かなかった。
「どうしたの?」
「うん、なんだかネクタイ締めたって卑猥だなって思って」
「は?」
 急に出てきた卑猥という言葉に思わず素っ頓狂な声を上げる。光忠はそれを意に介した様子もなく、恍惚とした表情で続ける。
「ネクタイ締めたを見るのが初めてだからかな。首輪みたいですごくやらしい」
「はい?」
「首輪とリードつけてエッチとかしてみたいよね」
「いやいやまったくしたくないけど」
「あ、でもネクタイをきゅっと少しきつめに締めて『苦しいよぉ……光忠くんっ……』て言って苦しそうに口を開けたに僕の僕をつっこんでじゅぽじゅぽしてみたいかも」
「…………………………光忠くん、そういう趣味があったの?」
 今までノーマル、もしくは多少特殊な嗜好の情事をしてきた光忠だが、首輪とリード、そしてネクタイ云々のプレイはノーマルとは言いがたい。近侍をローテーション制にしてから次々と露呈する光忠の変態性欲に、は今回もドン引きを隠せない。
「え? そういう趣味って?」
「だから、首輪とかそういう……SM的な趣味」
「えっ、これSMになるの? 僕Sじゃないよ?」
「ええ……そうかなぁ。今のすごいSっぽいよ、よく知らないけど」
「ううん、僕はどっちもだよ。両方」
「え? つまりSでもありMでもあるってこと?」
「うん。被虐嗜好っていうのかな、そういうのもあるし。僕が舐めて唾液でべとべとになったの足で、思いっきり顔とか首とか踏まれたい」
「ええぇぇ……」
 片目を潤ませてうっとりとを見つめている光忠。彼の嗜好にますます引いてしまう。距離を取りたいが、ネクタイをつかまれたままなので後ずさりが難しい。しかも今日の近侍は光忠なので、部屋から追い出すのも不自然だ。
「はあ……なんかムラムラしてきちゃった。ねえ、このままネクタイエッチしようよ」
「いやいやいやしないよ!? これから仕事に戻るから! しかもネクタイエッチってなに」
「あ、そっか、そのネクタイ会議につけていくから汚せないんだね」
「汚すってネクタイでなにするつもりなの……?」
「じゃあ僕を思いっきり踏んでよ。エッチはしないから、僕の僕を踏んで。僕はそれでいくから」
「や、やだ! ていうか昼間になに考えてるの!?」
「そんなぁ、蛇の生殺しだよ。は僕を踏むだけでいいんだよ?」
「踏みたくないから! そんな趣味ないから!」
「僕と一緒に新しい境地を開拓してみたくない?」
「ちょっとかっこよく言ってみてもいやだからね!」
 は光忠の手を解くと、光忠を部屋から追い出して着替え、無理矢理仕事を再開した。光忠はの後ろで不満そうに口を尖らせていたが、仕事中は大人しくしていた。夜になって部屋に忍んできた光忠はネクタイ以外のプレイをに請うたが、は頑として受け入れなかったので足を舐められただけにとどまった。


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