番外編その4  時間を溶かす熱情 一日目


※番外編その3の後の話。幸村の中学卒業と誕生日祝いに旅行に来たふたり。長いですがほぼやってるだけ。二日目に続きます。


 三月にもなると、日中は少し寒さが和らいできたと思えるような気温になるが、幸村達が旅行で訪れているところは街中ではなく、昼間であっても寒かった。
 卒業式を無事に終えた幸村は、待ちに待ったとの旅行の日を迎えた。同じ神奈川県内の温泉郷・箱根に来ている。
 午前中は移動、昼食を食べてからはロープウェイに乗ったり美術館や公園を散策したりとデートを楽しんでいたのだが、はっきり言うと幸村はそのデートに集中できていなかった。美術館も草木が美しい公園も、幸村の行きたいところではあったのだが。
 なぜなら、

(今日で、やっとに手を出せる……!)

 を見ては、そればかり考えていたからである。
 我慢、忍耐、辛抱の日々からやっと解放される。既に十五の誕生日は過ぎているし、もうゴールしてもいいよねという気持ちでいっぱいだった。
 この日に備えて一週間前から自家発電も禁じている。そのせいか昨夜は興奮でなかなか寝付けなかったし、と普通に話すだけで勃起してしまいそうになるので諸刃の剣ではあったが、今夜に直接注げるのだと思うと禁じざるを得なかった。欲望のすべてを本人にぶつけることができるのだ。
 泊まる旅館に着き、チェックインの手続きをしているの後ろ姿を眺める。和モダンで統一された広く清潔なロビーも、ロビーから見えるライトアップされた見事な日本庭園も、頭の半分でしか認識できていないような感覚。もう半分はへの欲望で埋まっている。

(早く夜にならないかな)

 コンドームもちゃんと持参しているし、装着も練習してきた。準備は万端、あとは夜を待つだけである。

「お待たせ、部屋に行こう」
「うん」

 の抵抗を黙殺して彼女の荷物を持って歩き出す。予約から支払いまでがやっているのだから、このくらいはさせてもらわないと困る。
 部屋に入ると、想像以上に広く、贅沢な空間が広がっていた。
 部屋の中央にどんと置かれたダブルのベッド、その側らには畳が敷かれてあり、ローテーブルと座椅子が二脚、壁際にはテレビが備え付けられている。全面ガラス張りの窓からは、テラスと綺麗に手入れされた庭が見える。テラスには籐の椅子が置かれてあり、檜の露天風呂から湯が流れていた。テラスに通じる通路にはシャワーブース、その手前にアメニティがずらりと並んだ洗面台。

「わあ、すごい……! 庭がきれいだね!」
「結構大きいお部屋だね。……その、本当に大丈夫なのかい」
「あ、お金のこと? だから、そんなの幸村くんが心配しなくていいんだって」
「でも、電車賃も出させてもらえないなんて」
「旅行に行こうって言ったのは私なんだし、幸村くんの卒業と誕生日祝いなんだから、本当に気にしないで。はい、もうこの話はおしまい」

 と言うと、は荷物を幸村の手から取って、中身を取り出し始めた。
 今回に限ったことではない。幸村がまだ未成年だからか、は絶対に幸村に支払わせようとしない。食事に行く時もそうだ。小遣いを無駄に使い込むたちではないから多少の余裕はあるのだが、それでも「好きなことに使いなよ」と言われて絶対に受け取ってもらえない。こういう時、歳の差というか、自分が未成年であることにもどかしさを感じずにはいられなかった。ちなみに、高校へ上がってからも「私との交際のためにバイトとかは絶対にしないでね」とから言われている。テニスがあるのでバイトもなかなか難しいのだが、そうなると高校卒業するまでも、ずっとに負担させることになる。そんなことはさせたくないと思うと、外へデートにも行きづらくなってしまう。

(俺が自分で稼げるようになったら、には絶対に払わせないようにしよう)

 はそんなことを気にしたそぶりも見せない。の部屋で過ごすことになっても、「どこか行きたいところはないの?」と連れ出そうとする。そう言われるたびに、自分の立場を痛感する幸村である。
 まあ、ここでこの問題を考えても仕方ない。せっかくの旅行だ。存分に楽しまないと損だ。

「お部屋に露天風呂が付いてるとこ、初めて泊まるかも。すごいね、部屋からお風呂入ってるの丸見えだ」

 がはしゃいだ足取りでテラスの露天風呂に向かっていった。

(こんなの、絶対エッチするためにあるよね)

 の後を追いながらそう思う幸村。頭の中は、ほぼそのことしか考えられなくなっている。
 テラスに出ると、ライトアップされた庭が目に入ってきた。紅葉の季節に来ると、庭の紅葉を眺めながらゆっくりできるのかもしれない。今はまだ寒い。


「ん? ……ん、っ……」

 を後ろから抱き寄せて、くちびるを重ねる。ようやく捕まえた。ここに来るまでのデート中、キスしたくてたまらなかった。
 舌を絡めた後、湿っぽいリップ音を立てて口を離すと、は頬を染めて少し困ったような顔をしていた。

「わかってるよ。まだエッチは早いって言いたいんだろ」

 と幸村が言うと、ますます赤くなった。

「う、うん……夕食まで時間あるけど、まずはお風呂入りに行きたい……」
「うん、準備したら行こう。俺も、早くの浴衣姿見たいしね」

 と言いつつ、本当はちょっとだけ即エッチを期待していたのだが。まあ浴衣姿が見たいのも本当だ。旅館のものとはいえ、浴衣姿でテンションが上がらない男はいないだろう。

「でも、お風呂入って夕食を食べたら……その後は」
「ひゃっ!」

 目の前にあるほんのり赤い耳たぶを軽く吸うと、が高い声を上げた。

「今度こそ抱くよ」

 そう耳に吹き込んでやると、が顔を真っ赤にして小さく頷いた。そんな仕草も、今の幸村には下腹部への刺激になる。
 貴重品を金庫に入れ、お風呂セットを持って部屋を出る。
 有数の温泉郷とあって、檜の露天風呂から岩風呂、陶器風呂など風呂だけでも色々ある。寒いのであまり長い時間は出ていられないが、もう少し暖かくなれば長湯も出来たかもしれない。
 幸村は風呂にそこまで好みがあるわけじゃないし、普段も長湯したりしないたちなので、今回も早々に上がる。どこの風呂に浸かっても、絶えず煩悩で支配されていたのもある。体をいつもより念入りに洗って、髪もいつもより念入りに手入れして風呂場を出た。
 風呂場のすぐ目の前にあるラウンジに、がすでに座っていた。入浴客にサービスで振る舞われているジュースを飲んでいる。

「あ、幸村くん。ゆっくりできた?」
「ああ。は? 待ったかい?」
「私もさっき来たところ。ちょっと熱かったけどいいお湯だったね」
「そうだね」

 頷きながら、幸村の視線は浴衣姿のに釘付けだった。今は羽織を上に羽織っているので分かりづらいが、体の曲線が出るのが浴衣というものである。これはなかなかそそる。温泉の熱い湯につかって火照った頬も、化粧っ気が薄くなった白い顔も、すべてが幸村を誘惑してくる。
 幸村の視線に気づいたのか、が首を傾げた。

「どうしたの?」
「ん? 浴衣姿が可愛いなあと思って見惚れてたんだよ」
「ゆ、幸村くん……」
「それに、すごく色っぽいっていうのかな、見ているだけでそそられるよ。なんの変哲もない旅館の浴衣なのにね。これ飲んだら早く部屋に戻ろうか。キスしたいよ」

 口を挟む間もなく口説き始める幸村に、はただ口をぱくぱくさせているだけだった。幸村がジュースを飲み干す頃に、ようやくが声を出した。

「そ、そういう幸村くんだって……」
「ん?」
「その……浴衣、すごく大人っぽいっていうか、かっこいい……です」

 頬を赤らめて恥ずかしそうに言う姿に、今すぐ抱き締めたい衝動に駆られた。ラウンジにはそこそこ人がいるので、ぐっと堪えた。その代わりに、テーブルの上のの手を握って熱く見つめる。

(そんなこと言われたら、余計にのことしか考えられなくなっちゃうんだけど)

 手のひらから伝わってくる肌の感触と体温にすら欲情しそうになる。意味深に手を撫でると、はますます赤くなった。
 その後、お互いなにも話さずにラウンジを後にして部屋に戻った。ちょうど夕食の時間だった。キスしたかったが、ここですると火がついてしまいそうだった。たった一週間ではあるが、禁欲期間を経た年頃の本能は、いとも簡単に箍が外れそうだった。我慢しなくてもいい状況なだけに、止まれる自信もない。
 夕食が用意された個室で、旬の野菜や魚介がふんだんに使われた会席料理を味わった。と言いつつ、やはり視線の大半はに向かっていた。おいしそうに料理や酒を口に運ぶを、可愛いなあと眺めながら食べていたので、なにを食べたのか正直よく覚えていない。美味しいと思いながらすべて平らげたのは確かだが、詳細な感想を求められると困るところだった。
 デザートのシャーベットまで食べ終わり、個室を後にする。部屋まで帰る途中に、に改めて礼を言った。

、ご馳走様」
「ん? ああ、そんな気を遣うことないのに。美味しかった?」
「うん、良い味だった」
「それならよかった。私は幸村くんに喜んでもらえるのが一番嬉しいよ」

 酒が入っているせいか、普段は照れるようなこともさらりと言ってのける。幸村を見上げて上機嫌な笑みを浮かべるに、本当に食べたいのはだけど、と言いそうになった。さすがに陳腐すぎるセリフかと思ったのでやめた。
 部屋に戻り、ドアが閉まった瞬間に幸村はを抱き寄せていた。は抵抗せず、幸村にされるがまま腕の中に収まった。甘えるように幸村の胸に擦り寄ってきて、もうスイッチが入りそうだった。

「ふふ、今日は素直だね」
「ん……幸村くんと一緒にいられるから、浮かれてるかも」
「……そんな可愛いこと言ってると、もう欲しくなっちゃうよ」

 冗談半分、いや三割ほど冗談だったが、腕の中のは顔を上げてこう言った。

「……ベッド、いこ」

 幸村が固まっている隙に、は幸村の手を引いてダブルのベッドまで歩いた。ベッド脇に着くと、持っていた部屋のキーを手近なサイドテーブルに投げ出して、羽織をするりと脱いだ。
 旅館の浴衣はの体の線をはっきりと拾っていて、やはり扇情的だった。手が伸びそうになった幸村よりも早く、の手が幸村の羽織紐を解いていた。
 の両手が幸村の肩を滑り、羽織が軽い音を立てて床に落ちた。
 その両手が背に回るのと同時に、幸村はのくちびるに吸い付いていた。

「んっ……!」

 右手での顔を固定し、左手で腰を抱いて、音を立ててくちびるを吸う。薄く開いた口の隙間から舌を入れ、口内をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。

「は、っ……」

 漏れ出るの吐息は、少しだけアルコールの匂いがした。舌を吸っていると幸村までクラクラしてきた。アルコールのせいなのか、への欲情が一気に押し寄せてきているからなのか、幸村にはわからなかった。
 お互いの唾液がとろみを帯びて来た頃、の腰を抱いたままベッドへとゆっくりと押し倒した。その際に裾がはらりとめくれて、の白い腿が顕になった。カッと血が上ってくるのを感じた幸村は、帯を手早く解いて浴衣を脱ぎ捨てた。
 下着だけの姿になった幸村を、が熱に浮かされたような目で見ていた。彼女の上に跨ると、幸村の顔を引き寄せるようにが両手を伸ばしてきた。
 もう我慢できないと思っているのは、幸村だけではないようだ。
 また口を寄せ合って、唾液を交換する。ちゅぱ、と大きなリップ音が時折部屋に響く。それほど夢中でのくちびるを吸っていた。途中で幸村が乳房を揉み出しても、はこれまでのように抵抗などせず、幸村の不埒な手を受け入れていた。

、本当にいいんだね」

 くちびるを離して囁く。もう止まれそうにないほど幸村のモノは下着の下で張り詰めていたが、最後の確認だった。
 の心も体も、今夜全部幸村のものにする。そして幸村も、すべてをに捧げる。その意思確認。

「うん……いいの、幸村くん……精市くんのものに、して欲しい……」

 激しいキスで息を乱しながらも、ははっきりと言い切る。そのくちびるにまた口付けながら、幸村はの帯を解いた。胸元にやった手で浴衣をはだけると、電灯の下での肌が明らかになる。上下とも水色の下着を見て、幸村は懐かしい気持ちになった。

「これ、付き合う前に俺が見ちゃった時の下着?」
「ん……たぶん……」
「懐かしいな。あの時の、俺が何回オカズにしたと思う?」
「そ、そんなの……わかんない……」
「まあ、俺も数えてるわけじゃないけど。数えるのも馬鹿らしくなるくらい、と言っておこうか」

 の頬に朱が散る。会話したことで、のぼせ上がっていた頭が少しだけ落ち着いた。
 ブラの上からやわやわと胸を揉んでから、背中のホックに手を伸ばした。意図を察したが背を持ち上げる。ホックを外し、の肩から浴衣と一緒に取り去ると、眼下には露わになった胸元があった。

「電気は、このまま……?」
「ああ、全部見たいから」
「は、恥ずかしいよ……」
「ダメ、隠さないで。今から俺のものにするんだから、ちゃんと全部見たい」

 胸を隠そうとするの手を掴んでどけさせる。なにも遮るものがない体を、じっと見つめる。

「……きれいだ。それに、すごく可愛い、

 胸元のふくらみから腰の曲線に釘付けになった幸村の言葉に、恥ずかしそうに身をよじるだが、全部見たいという要望に応えるためか、されるがままになっている。そんなところがずるいくらいに可愛い。
 乳房は寝転んでいてもある程度丸みを保っており、色付いた頂点はまだ柔らかいが、先端だけはツンと天を向いている。ほぼ無意識に右手を伸ばして片方の胸を手のひらに収める。ブラ越しではない直の感触と、幸村の手の動きに合わせて形を変える姿に、気がつけば左胸の乳首に吸い付いていた。

「あっ……! ん、精市、くん」
(こんな時に名前で呼ばれるの、すごく興奮するな)

 まさか、これを狙って今まで名字で呼んでいたのかと思うほどに下半身に来た。できればくんを付けないで欲しいところだが。
 無音の部屋には、幸村がの乳首を口で愛撫する音が響いている。本能のままに吸うちゅぱちゅぱという音、舌で舐めしゃぶるクチュクチュという音。愛撫だけでなくそれらにも興奮するのか、の両膝がすり合わさっている。

「そ、そんなにしたら、んっ、ダメ……」
「ん? ああ、こっちばかりだったね。じゃあ右もいっぱいしてあげるよ」
「そ、そういうことじゃない……! あ、あっ……」

 右の乳首も口に含み、舌先でぺろぺろと舐め、強く吸う。既に解放された左胸の乳首も今度は右手で摘み、は幸村の頭を抱き締めて腰をくねらせた。

「んっ、あっ……」

 そのうち、舌で押しても潰れないほどに口の中のものが硬くなっていた。

「気持ちいいかい?」
「う、ん……恥ずかしいけど、気持ちいい……」
「……今更だけど、俺、本当に初めてだから上手くできないと思うけど、俺なりにを気持ちよくさせたいと思っているよ」

 胸元から顔を上げて、を見つめながら言うと、は幸村の顔を優しく撫でた。

「今日はそんなこと気にしなくていいんだよ。精市くんの好きにしていいの」
……」
「もちろんふたりで気持ちよくなるのがいいんだけど、でも、今日は私をイかせようとかそういうことは考えなくていいからね。私は精市くんに優しく触れてもらうだけでも気持ちいいから」

 こっそりと不安だったことを言われて、幸村は照れ隠しでに抱きついた。まあ、童貞が初体験で女性をイかせることなんて、高望みだとわかってはいたつもりだ。ただ、それではが気持ちよくないのでは、自分の独りよがりな行為になってしまわないかと心配だったのだ。

「これからゆっくり色々知っていけばいいんだから、今日は気にしないの」
「……わかった。じゃあ、これからいっぱいとエッチして、色々教えてもらおうかな」
「せ、精市くん……」
「今夜も、いっぱいしてもいいよね?」

 再び胸を揉みながら見つめる。はもうなにも言わず、黙って首を縦に振るだけだった。幸村も口を閉じて、の体を愛でることに専念する。
 胸から下へ、くちびるを這わせながら下りていく。腹部の悩ましい曲線を通って、下腹部へと到達する。くちびるがへその下を這うと、が腰を揺らした。

「……触ってもいい?」
「ん……パンツ、脱がせてから……たぶん、汚しちゃう……」

 の太腿をさすりながら了解を取ると、幸村はの下腹部を覆っていた薄布を一気に引き下ろした。片足から完全に取り去っただけで、もう片方のの足首に引っかかっている状態だったが、構わずに両脚を持って広げた。
 広げられた秘所は、内部から溢れ出た液によっててらてらと光を反射していた。

「……すごい、本当に濡れてる……」
「そ、そんなにまじまじと見ないで……私だって、興奮してるんだから……」

 初めてで上手いわけがない幸村の愛撫で感じたということは、も幸村を求めているという証拠だ。それを実感した幸村は、居ても立ってもいられなくて、いやらしく光る粘膜に口をつけた。

「あっ! や、だめ、汚いから、んっ!」

 暴れるの両脚を押さえつけて舌で嬲る。愛液が出ているところを舐めると、新しい愛液がどんどん出てきて幸村の唾液と合わさった。
 割れ目に舌先を入れたり、その上にある陰核を舐めたり吸ったり、割れ目に指を入れながら舐めたり。それらをどれくらい行っていたか、夢中だった幸村はわからなかったが、の嬌声は甘みを帯びて聞いたこともない声になっていた。股の間もすっかりぐちょぐちょになっている。足首に引っかかったままだったパンツは、すでにそこにない。それだけは脚を動かしてよがっていたのだ。
 息を乱してあられもない姿を晒すに、もうパンツが我慢汁で濡れているほどだった。その状態に気づいたが、手を伸ばして幸村の下着を下ろそうとする。腰に一瞬の指が掠めた。それだけなのに、びくりと体が震える。

「精市くんも、脱いで」
「……わかった、自分で脱ぐよ」
「……私も、舐めようか?」

 なにを聞かれたのか理解するまで少しかかった。フェラチオをしようかと言っているのだ。幸村がの性器を思う存分舐めたように、も。
 考えるより先に、首を横に振っていた。想像しただけで射精しそうだった。

「今日はいいよ、また今度お願いしようかな」

 好きな女の痴態を前にして、ただでさえ痛いほど勃起しているというのに。ものすごく魅力的な申し出だったが、絶対かっこ悪いところを見せてしまうので辞退することにする。
 湿ったパンツを脱ぎ捨て、ナイトテーブルの引き出しに入れておいたコンドームを取り出す。根元までゴムを付けると、の両脚を広げ、その間に体を寄せる。十分潤って柔らかくなった入口に先端を擦り付ける。それだけで気持ちよかった。

「……入れるよ、
「うん……精市くん……っ、ん、んん……」

 なんだこれ、あったかい、気持ちいい、なんだこれ。
 中に入れた途端、柔らかい肉が幸村の屹立を包み込んだ。薄いゴム越しとは思えないほどの感触。の中の体温も粘膜の感触も、すべてが幸村の性器に伝わってくる。指を入れたはずなのに、張りつめたモノを受け入れるにはまだ狭くて、幸村の侵入に対し抵抗感があった。それがまた気持ちよくて、一気に突っ込んでしまいたい衝動に駆られる。ぐっと堪えてゆっくりと腰を進め、やがてすべてぴったりと収まった。
 ああ、待ち望んだの中にいる。今、と本当にセックスしてるんだ。
 興奮のあまり頭がどうにかなってしまいそうだった。あと、単純に気持ちよすぎて、ろくに動いてもいないのに出そうだった。
 しかしこんなところで負けるわけにはいかない。初めてでまだ要領はわからないが、とにかく動いてみるべきだ。
 幸村は吐精感をやり過ごすと、ぎこちなく腰を動かし始めた。抜けないように、押し付けすぎないように。この感覚に慣れるまで、ゆっくりと抽挿を繰り返した。

「……ん、精市くん……」

 しかし、が名前を呼んだだけでも出そうになる。もう我慢するのもつらい。

「……ごめん、もう、出そうだ」
「いいよ、我慢しないで……気が済むまで、いっぱいしていいから……」
「……っ!」

 衝動に抗わず、溜めに溜めた欲望を吐き出す。脳を支配する快楽に、一気に心臓が脈打つ。出し終わったものを引き抜くと、ゴムの先端が白濁で膨れていた。
 が起き上がって役目を終えた避妊具を汁がこぼれないように外し、口を縛った後、ティッシュに包んでクズ籠に放った。幸村のほうへ向き直ったは、幸村がもう新しい避妊具をつけているのを見て笑った。

「たくさん出したね」
「……溜めてたからね。とエッチできるのに自分で処理するなんて、もったいないだろ」
「そ、そういうもん……?」
「だから、こんなんじゃ終わらないよ」

 を抱き寄せてキスすると、またベッドの上に押し倒した。激しく舌を絡ませ合っていると、射精後でも芯が通っていた男根がさらに張り詰める。キスをしたまま右手で割れ目にあてがい、とろけるように柔らかいそこへ侵入した。根元まで一気に挿し込んで、ゆっくりと抽挿を開始した。

「んっ……! は、あっ……!」
「ん、ぅ……気持ち、いい……の中、すごい……」
「あっ、あっ、精市く、ん……!」

 一度出した後だから今度はもう少し長くもつだろうと思っていたが、の中が想像以上に気持ちいい。腰を押し付けるたびに幸村を締め付けて侵入を拒もうとしてくるのに、引き抜くたびに名残惜しそうに吸い付いてくる。
 こんなの気持ちよくないわけがない。なんていやらしい体なんだ。半ばキレた状態で、幸村はの体を貪った。

「はっ、あっ、ああっ……!」

 も気持ちよくなれるように、がっつかずに優しくしようと最初は思っていたのに、気付けばガツガツと腰を突き上げていた。の甲高い声にハッとなったが、もう腰が止まらなかった。

「あっ、せ、いちく、激し……!」
「ごめん、止まらない……! の体、良すぎるよ……!」

 辺りにはの嬌声と幸村の荒い息、ぱんぱんと肌を打ち付ける音と、ベッドが軋む音が満ちていた。
 の体に覆い被さるように上体を倒すと、が両腕を伸ばして幸村に抱きついてきた。幸村も浮いた背に腕を回し、きつく抱きしめてくちびるを塞ぐ。

「はあっ、んっ、ぁん……!」
……!」
「せい、いちく、すき、すきぃ……!」
「……っ! 俺も好き、大好きだ、もう全部、俺のものだ……!」

 ぐちゃぐちゃにキスをしながら深く腰を打ち付けると、中がきゅうっと締まり、ますます激しくしてしまう。

(可愛い、好き、最高だ)

 これが、夢にまで見たとのセックス。幸村に責め立てられているは、言葉に表せないほどエロくていやらしくて、それでいて綺麗で、羞恥に耐える表情がこれ以上ないほど可愛かった。気持ち良すぎて、への想いも高まりすぎて、腰と脳が溶けそうだった。
 幸村の全身は汗に濡れて、幸村に激しく揺さぶられているに伝っている。心臓がテニスをしている時のように早く動いている。それはの体からも伝わってきて、の心臓の音も早い。体も膣内と同じように熱くて、彼女も幸村と一緒に高まっているのだ。幸村の背にしがみつく腕の力は強く、求められているのだと実感する。
 ああ、幸せだ。惚れた女が自分とひとつになってくれて、こんなに求めてくれている。仕事もある中、旅行の手配もすべてやってくれて、こちらには一銭も出させないで。
 出会った頃は、赤いバラに想い人を重ねて悲しい顔をして、幸村のほうへ全然振り向いてくれなかった。それが今は、幸村の思いの丈を受け入れて、同じように求めてくれている。

「っ、もう、出る、っ……!」
「あっ、んっ、いいよ、イって、精市くん……! あっ、ああっ精市っ……!」
、――う、ぁっ……!」

 締め付けが増す中の動きに耐えきれず、幸村はをきつく抱きしめて二度目の射精をした。脳内が真っ白になるほどの快楽が襲い、幸村の全身から力が抜け、の上に覆い被さった。
 お互い汗でびっしょりと濡れて、息も荒い。男根もまだ膣内でビクビクと脈打っている。情事後の余韻に浸りながら、そのまましばらく言葉もなく抱き合っていた。
 やがて、一足先に息を整えた幸村がのくちびるにキスをした。行為中の激しいキスではなく、軽く吸いつくようなキスを繰り返す。まだ少し息が乱れたも幸村に応えるように、幸村の背に腕を回し直した。

「……気持ち良かった?」

 キスの合間に、が目を細めながら聞いてきた。幸村はにっこりと笑いながら、もちろんと頷いた。

「最高に気持ち良かった……今、世界で一番幸せだよ。世界で一番好きな人とひとつになれて。童貞卒業を世界で一番好きな人にさせてもらえるなんて、すごいことだと思わない?」
「も、もう……幸村くんてば」
「あれ、精市って呼んでくれないのかい?」
「あっ、あれは……つい、盛り上がっちゃっただけだから……!」
「ふうん、じゃあエッチの時だけ呼び捨てで呼んでくれるんだ。それはそれで、すごくエロくていいと思うよ」
「もう……ばか」

 が照れて顔を逸らすが、まだ幸村が上に乗った状態なので全然隠せてない。幸村は可愛くて仕方ない恋人の照れ顔にキスを降らせながら、幸せいっぱいだった。

「はあ……もう、が好きすぎてどうにかなりそうだよ」
「ん、私も……幸村くん、誕生日おめでとう。それから、中学卒業も」
「ありがとう」

 キスしながらの胸を揉み、時折乳首を引っ掻いてやると、情事後で敏感になっているの体が跳ねた。股間に再び熱が集まっていく。

「ねえ、もう一回していい?」
「え」

 まだ入ったままだった幸村のモノが、すでに勃起していた。幸村は体を起こして用済みのゴムを外して捨てると、新しいゴムをそそくさと着ける。

「え、お、終わりじゃないの……?」
「え? だって、俺が満足するまでしていいんだよね? じゃあ、もう一回。俺、もうこんなになっちゃったから」

 そう言い放つと、固まったままのの入口に指を這わせ、中を調べる。

「あっ、や、幸村くん……!」
「うん、まだ濡れてるね。お、締め付けてくるよ、俺の指。ほんとエロい体してるね、
「は、あん、幸村く、」
「精市、だろ。……もう入れるよ。ほら、四つん這いになって。今度は後ろから」
「も、もう少し休ませてもらえないかな、なんて……」
「ダメ。俺はもう十分休んだから。――もう、十分待ったよ」
「あ、ああっ……!」

 動かないの体を、幸村が勝手に反転させて尻を持ち上げる。指の探るような動きで再び濡れてきたの中に、制止を振り切って挿入した。

「や、あっ……! は、ぁん、幸村、くん……!」
「ああ……すごい、締まる……!」

 部屋には再び、激しい息遣いとふたりが睦み合う音、ベッドが軋む音が鳴り響いた。
 その後、もう一回セックスを堪能した幸村は、ヘトヘトになったを支えながらシャワーを浴びた。そこでも体を洗うフリをしての体を好きなだけ弄び、興奮を抑えきれず、結局ベッドに戻ってからもう一回した。
 最後にはが気を失うように眠って、この日のエッチは終わりを迎えたのである。今までの憂さを存分に晴らした幸村は、大満足でを腕に抱いて眠りについた。


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