時間を溶かす熱情 二日目


※旅行二日目。ほぼやってるだけです。


 幸村が目を覚ますと、目の前が真っ暗だった。
 頭と視界から眠気が晴れると、の体に抱きついているから視界が暗いのだとわかった。横向きで寝ている彼女の胸元に、顔を埋めるようにして抱きついている。寝ていてもへの欲望に正直な自分がおかしかった。
 を起こさないように頭を動かして、枕元のあたりにはめ込まれているデジタル時計を見やる。午前五時を少し過ぎたあたり。まだ日が昇っていない時間だった。光源はフットライトの暖色の灯りしかない。
 まだ起きるには早い時間だが、頭が冴えてしまって、もう一度眠ることも難しそうだ。諦めて、の胸の谷間に再び顔を埋めた。昨夜はヘトヘトになるまで付き合わせてしまったので、が起きる気配はなかった。半ば寝ている状態のの体に浴衣を着せたのは幸村だった。
 穏やかな寝息が頭上から聞こえる。呼吸のリズムで胸が上下し、幸村の鼻先にの肌が触れる。柔らかく滑らかな感触に、不埒な感情が湧き起こってくる。朝立ちのタイミングも重なってムラムラした幸村は、の体をそっと仰向けに倒し、浴衣の袷の隙間から胸元に手を差し込んだ。
 下着をつけていない、柔らかな乳房の感触。そういえば、浴衣を着せる時にブラとパンツを着せるのを忘れていた。ということは、は今ノーブラノーパンの状態。我ながらなんとエロい格好をさせてしまったのか。

(こんなのもう朝エッチするしかないよね)

 昨夜の自分のファインプレーにご満悦の幸村は、頭を完全にその方向へシフトさせた。
 の浴衣をめくり、胸だけ露出させる。まだ柔らかい状態の乳首を指先で捏ね、が起きないことを確認すると、もう片方の乳首をペロリと舐めた。口に含んでくちゅくちゅと口の中で捏ね回すと、徐々に乳首が硬くなってきた。
 感じているのか、それとも単なる体の反応なのか。どちらにしても、幸村を興奮させることには変わりない。
 乳首を弄る指先にもう少し力を入れる。押し潰した上で捏ねたり摘んだり。口に含んだほうも、音を立てないように吸ったりと、幸村の愛撫はエスカレートしていった。

「う……ん……」

 頭上から吐息混じりの声がした。動きを止めての顔を見上げる。彼女は起きてはいなかった。ただ、覚醒しつつある状態かもしれない。

(ここで起きても止めないけどね、もう)

 幸村は既に完全に勃起している。が起きたところで、行為を止めはしない。今回の旅行中は、幸村の好きにしていいとが言ったのだから、せっかくの権利は有効に使わせてもらう。
 そう腹を決めると、乳首を弄っていた指と舌の動きを再開させる。手はもう胸を思いっきり揉んでいる。口に入れたほうも、音を立てないようにという配慮はもう一切しない。硬く尖った先端を赤子のように吸い、舐めしゃぶった。遠慮のないリップ音と唾液の水音、そして胸への刺激に、ついにが目を開けた。

「ん……は、ぁっ……あ、え……? せい、いちくん……?」
「やあ、起きたかい。おはよう

 挨拶する瞬間だけ顔を上げてに笑いかける。天使のように爽やかで甘い笑みを投げかけた後は、またの胸にしゃぶりつく。

「おはよう……? あっ、や、なにして、あん……!」

 はまだ状況が飲み込めていないようで、困惑しながらも体の快感には声を上げている状態だった。

「精市くん、あっ、ダメ、朝からこんな、やぁっ……!」
「朝にエッチしちゃいけないってことはないだろ? それにほら、こんなに硬くなっちゃってるよ、乳首。ふふ、やらしいね」
「あっ、は、んっ……」

 ちゅうちゅうと吸ってやると、はダメと言いつつ素直に声を上げる。起きて早々に甘い声を出す様子に、さてはと思った幸村は、の股座へと右手を伸ばした。
 果たしてそこは、潤みを帯びて幸村の指を受け入れた。
 が起きてからそう時間は経っていない。これは、寝ている間の愛撫にも反応していたと見て間違いない。その事実のあまりのいやらしさに、幸村は口元が緩むのを抑えきれなかった。

「ねえ、これ、なんだい? 濡れてるよ、
「や、やだ、あっ!」
「ぐちゃぐちゃだよ。寝てる間に触られても感じるんだ。エロすぎない?」
「ダ、メ、あんっ」
「二本目も余裕だね。もう入れていいかな」
「んっ……えっ?」

 枕元に転がっていたコンドームの箱を引き寄せて一枚取り出し、バリッと破って手早く性器に着ける。戸惑っているをうつ伏せに転がして尻を高く上げさせ、濡れた割れ目に亀頭を擦り付けた。

「あっ、精市くん……!」

 グチュ、と卑猥な音を立てて、のそこは幸村を受け入れた。二本の指でほぐしたとはいえ、中はまだ窮屈だった。それに加え、も興奮しているのか、幸村を容赦なく締め付けてきた。

「は、あっ……昨日も思ったけど、、後ろからだと一段と締まるよ……興奮してるのかい?」
「あっ、や、ちがう、奥に……!」
「ああ、奥に届いてるのかな。でも、興奮もしてるよね?」
「あっ、んんっ……!」
「ふふ、エッチだなあは……」

 ゆっくりと抜き差しして中を慣らし、硬い感触がなくなったところで本格的に律動を開始した。腰を掴んで奥を目掛けて突くと、から切ない声が上がった。

(バック、の顔が見えないのが難点だな……)

 後ろからの体位が、の体の構造的に一番感じるのだろう。後ろからのほうが中の締め付けがいいし、幸村としても気を抜くと本当にすぐイきそうになる。だが、欠点はの感じている顔が見えないこと。やはり、感じている時の表情こそ一番の燃料だ。あと顔が見えないからキスもできないし、胸が揺れているところも見えない。バックはバックで白く丸い尻を見ながらできるのだが、魅力は正常位に劣る。

「はあっ、あっ、精市、くん……!」

 きゅうきゅうときつい締め付けは極楽かと思うほどに気持ちいいが、こうやって名前を呼ぶ顔が見れないなんて。やっぱり可愛くてエロい表情を見ながらエッチしたい。不満が募った幸村は、ぐっと腰を押し付けると一気に引き抜き、を仰向けに転がした。

「あっ……! せ、精市くん……はあっ、あっ」
、もっと呼んで」
「精市くん、精市……あっ、ああっ……!」
「は、あ……やっぱり、の感じてる顔、最高だよ」

 が呼び捨てで呼んだ瞬間に奥まで突き入れ、両脚をぐっと広げて激しく犯し始める。の切なく歪んだ表情を、の嬌声を聞きながら眺められるのが最高だ。自分のモノがを悦ばせていると実感できるし、キスも存分にできる。
 それと、今回に限ったことだが、脱ぎかけの浴衣という状態もまたそそる。腰の帯と両袖に引っかかっているだけの姿は、きちんと着ている時の姿と比べての乱れようを表しているようだった。

「ねえ、キス、ほら舌出して」
「はっ、んっ……」
「ふふ、やらしい……」

 幸村の言う通りに舌を突き出すは、快楽に支配されて幸村の言いなりだった。腰を押し付けて上体を倒し、その舌をくちびるごと食べる。舌を絡ませながら膣の奥深くを突くと、が悲鳴のような嬌声を出した。

「はあっ……、もう出すよ、いい?」
「あっ……! ん、いいよ、イって……!」
っ……! の中で、出るっ……!」

 ラストスパートをかけて激しく腰を使い、衝動のままに射精した。に体重をかけて抱きつくと、汗みずくの幸村をがそっと抱きしめた。
 のなめらかな肩に口をつけながら息を整えていると、が幸村の髪を撫でた。

「もう……こんな起き抜けでエッチすることになるなんて……」
「気持ち良くなかった?」
「き、気持ち良かったけど……」
「俺も。最高すぎて、まだ勃ってるよ」
「……精市くんのばかぁ……」
「そうだね、に関してはばかになったかも」

 幸村が言い切ると、がしょうがないなと言わんばかりに目を細めた。幸村としては冗談のつもりで言ったわけではないのだが、はわかっていないようだ。

(もう一回したいって言ったら、さすがに怒るかな)

 昨夜の一連のセックスで、幸村が文字通り「いっぱいする」つもりだとわかっているだろうし、も少し警戒しているかもしれない。しかし、先程の様子からもわかる通り、とて体のほうが高まったら幸村を拒むことはしない。ここはやはり、体を弄りまくってその気にさせるしかないだろう。
 入ったままだったモノを抜き、使用済みのゴムを処理する。昨晩と今回のも合わせると五枚も使っている。クズ籠の中はティッシュに包まれたものだらけだ。

「外のお風呂入ろうか」

 そのまま少しうとうとしていたを助け起こし、力が入らない様子のの腰を抱き支えながら、テラスの露天風呂へと向かう。こっそりと手ぬぐいの中にコンドーム一枚を忍ばせていくことも忘れなかった。
 外は朝の清廉な空気が漂っていて、東の空が少しずつ白んできていた。鳥の鳴き声が庭のほうから聞こえてくる。
 シャワーブースで汗を粗方流してから、檜の露天風呂へつかる。汗を流す時も、の体に抱きついてあちこち撫で回し、風呂につかった後もを膝の上に乗せ、背中やうなじに吸いつきながら湯を楽しんでいた。文字通りピタリと引っ付いて離れない幸村に、が時折悩ましい声を出した。

「あ、んっ、精市くん……」

 胸を揉みながら、うなじや耳たぶを吸ったり舐めたりして、湯の熱さのせいではなくの首筋がほんのり赤くなる。滑らかな肌の感触が楽しくて、いつまでも肌を吸っていたい心持ちになった。

「んっ、や、ダメ……こんな、外で……あんっ……!」

 弄っている乳首がどんどん硬く尖っていき、指で押し潰そうとしてもできないまでに育った。の声も順調に甘さを取り戻している。もういいかな、と思った幸村は怒張をの尻に押し付けた。

「あっ……! そん、な、ダメ、精市くん……」
「そうかな、部屋どうしは結構離れてるから大丈夫だよ。が大声出さなければ、ね。それにほら」
「あっ……! ん、は、あん」
「ここ、トロトロだよ。ももうエッチの準備できてるじゃないか」

 の秘所に指を這わせると、明らかに湯ではないぬめり気があった。中に湯が入ってしまうので指は入れず、入口をなぞるだけにした。それでも感じるのか、の顔が更に赤くなった。

「ね、ゴムも持ってきてあるし。そこに手をついて」
「んもう……初めからやる気だったんじゃない……」
「だって、こんなのエッチするためにあるようなお風呂じゃないか。せっかくと来たんだし、ここでも思い出を作っておかないとね」

 これから幸村は高校に上がる。またテニス部が忙しくなるし、U-17日本代表にもおそらく招集されるだろう。今まで以上にと会う機会が減ってしまうのはほぼ確実だ。次にいつふたりで旅行に行けるとも限らない。だから、このチャンスは絶対に逃したくない。幸村はできる時に最大限をやる主義だった。

「うう……わかった、何回してもいいって言ったのは私だし……して、いいよ。声、我慢する……」

 もっともなことを言われて二の句が告げなくなってしまったは、大人しく檜の縁に手をついて臀部を幸村に突き出した。

(我慢するって言われたら、出させたくなっちゃうな……)

 と思ってしまった幸村だが、そんなことをすれば今度こそは怒るかもしれない。それはまた別の機会にしよう。
 縁に置いてあった手ぬぐいの中からゴムを取り、張り詰めたモノに装着する。昨日の今日で、随分スムーズに着けられるようになった。
 目の前にある形のいい尻を撫で、割れ目に先っぽを擦り付ける。入れずにクチュクチュと音を立てて遊んでいると、が肩越しに振り返って不満げな声を出した。

「は、んっ、精市くん……や、早く……」
「早く、なんだい」
「ん、んぅ……は、早く……入れて……」
「欲しい?」
「っ……欲しい……精市くんが、欲しいよ……」

 幸村の誘導のままにねだる姿にクラクラするほどの欲情を覚えて、後ろから一気に貫いた。

「ああっ……! や、あっ、はあっ」

 そのまま勢いよく律動すると、幸村の動きに合わせてバシャバシャと湯が跳ね返る。水音も肌がぶつかり合う音も想像以上に大きく響き、もしほかの宿泊客がこの時間にテラスに出ていたら、聞こえてしまうかもしれない。そうとわかっていても、あまりの興奮と快楽で腰を止められない。

「っ、、ほら、もっと声も抑えないと」
「んっ、う、んぅ……!」
「、締まるっ……」

 の片腕を引っ張って背を反らせ、左手での口元を覆う。の声よりもよっぽど湯が跳ね返る音のほうが大きいし、幸村の性急な責めのせいでも声を我慢できなかったのだが。口を塞がれた瞬間に中がきゅうっと締まり、もしや口を塞がれて興奮したのかと見当をつけた幸村は、ますます興奮して奥深くまで性器を突き入れた。

(エロすぎる……口を塞がれて興奮するってなんだよ……!)

 もはや余裕もなにもない。を求めるだけのただの男になって、夢中でに抱きついた。後ろから胸を揉みしだき、乳首をつねってやると、また中が狭まる。

「はあっ、気持ちいい……中、溶けそうだよ」
「んっ、む、うっ……!」

 幸村が奥深くまで入ろうとするたびに締め付けの抵抗にあい、それがまた気持ちよくて強く突き上げる。
 胸も背中もお腹も、太腿もふくらはぎも局部も全部、の体は気持ちがいい。どこを触っても気持ちいい。きれいで、可愛くて、すごくいやらしい。

(最高だ)

 やっぱり、しかいない。もうしか見えない。
 こんなに人を好きになるなんて、幸村自身も想像できなかった。異性と付き合ったことはあるけれど、感情のやり取りは薄くて、性欲もあまり湧かなかった。それが今、なりふり構わず腰を振って、無我夢中でひとりの女を求めている。
 の口を塞いでいた手を離し、両手での体に抱きつく。強すぎる中への突き上げから逃げようとするを押さえつけて、溢れ出る想いを叩きつけた。

、俺のこと好き?」
「んっ、はあっ、精市、くん、好き、大好きぃっ……!」
「俺も、が好きで好きでたまらないよっ……!」
「ああっ、精市く、んっ……!」
「はあっ、俺、もう、っ……!」

 一気に高まった気分のまま、幸村はの中で達した。昨夜から立て続けに射精したせいか、量が少なくなった精液を出し終わると、腰から力が抜けていった。それはも同じようで、幸村の絶頂を包み込んで受け止めた後、檜の縁に手をついてヘナヘナと湯の中に座り込んだ。

、大丈夫かい」

 と聞いても、荒い呼吸の中で声を出す余裕がないのか、首を振るだけだった。幸村もさすがに疲れて、ゴムを取って口を縛ると露天風呂の外側に一旦置いて、の隣に腰を下ろした。
 最初は熱い湯が少しぬるく感じるくらいに体が熱かったが、時間が経つと、外の肌寒さで頭だけが冷えて、体は暖かいのが心地良い。はまだ息が荒くて、縁に頭を預けるようにして浸かっていた。半開きのくちびるにキスをしたかったが、今すると苦しそうなのでやめた。代わりに、体を抱き寄せて濡れた首筋をぺろぺろと舐めた。筋肉がなくてひときわ柔らかい首筋は、戯れに軽く吸い付いただけでも薄く内出血が起きる。白い首筋に赤い鬱血が映えて、なんともいえず色っぽい。

「ねえ、痕つけてもいい?」
「ん……? あ、こら、見えるところにはつけないで……んっ」
「うん、やっぱりエッチだ」

 肩と首筋の境い目にきつく吸い付いて、濃い鬱血を残した。この肌に幸村のしるしが残っていると思うと、妙な満足感を覚える。
 上機嫌に首筋や顎の下を舐めたり吸ったりしていると、が幸村をなだめるように後ろ頭を撫でてきた。湯の暖かさと疲労で、まぶたが眠そうに降りてきている。

「ん、せいいちくん……」
、眠いならあがるよ。のぼせるから」
「ん……」
「今度も俺が体洗ってあげるよ」
「う……それは、ちょっと……」
「ダメなのかい?」
「昨日、エッチなとこばっか触ってきたし……」
「心外だなあ。俺はちゃんとの体を隅々まで洗っただけなのに」

 嘘ではない。ただ、泡だらけになったが思いのほかエロくて、特に胸と秘部を念入りに触っただけである。
 今回はさすがにも疲れているようなので、変なちょっかいを出さずに体を洗ってあげた。体を拭いて髪を乾かしていると、朝食の時間になった。
 昨日夕食を取った個室と同じ場所だった。サワラの西京焼きが出てきて、朝から好物を前に、ひそかに目を輝かせていた幸村である。
 朝食を堪能し、部屋に戻ってが入れたお茶を飲みながら、チェックアウトまでゆっくりと過ごす。幸村としてはもう一回セックスできるだけの余力はあったが、の体力が持ちそうにない。の体に負担をかけてまですることではない。
 座椅子をくっつけて肩を寄せ合い、お互いのことを話して、時折キスを交わして。セックスもいいものだが、こうやって穏やかに過ごすのも、心が満たされる。


「ん?」
「好きだよ」

 と言うと、の頬にぱっと紅葉が散る。

「わ、私も、大好き」

 照れながら言ったそのくちびるに、軽くキスを落とす。さらに赤くなったの肩を抱き寄せて、額や頬にもキスをする。

「ふふ……ああ、幸せだな……を好きになって、本当に幸せだ」
「ん、私も……来年も、ふたりで旅行に行けたらいいね」
「うん。次は俺にも払わせてくれよ」
「うーん……じゃあ、また精市くんの誕生日に行こう」
「払わせない気だな。まったく……」
「もー、いいの。私には残業代というものがあるんです。だから本当に気にしないで」
……」
「精市くんと旅行に行きたいのも、デートしたいのも、私がしたくてしてることなの。だから、負担だなんて思ってないし、財布が厳しくなったらちゃんと言うから。ね?」

 そう言って笑うは、本当に裏表のない顔をしていた。の本心なのだろう。それは間違いない。だが、それに甘んじるほど幸村にプライドがないわけじゃない。

(俺が、もう少し早く産まれていれば)

 普段は詮無いことは考えない幸村がそう思ってしまうほど、今の状況は歯がゆかった。ただ、の言う通りにするしかない。それがわかっているから、なおさらもどかしい。
 歳なんて関係ない。にそう告白したのは幸村なのに、今はとの差を痛感している。

(歳の差が関係ないのは、対等な立場だった場合だけだ。俺は、子供だ……)

 知らず暗い顔をしていたのか、が笑って幸村の顔を撫でた。

「たぶん、精市くんはこんなの納得しないんだろうなあ」
「……そうだね、承服しがたいよ。俺には如何ともし難いだけに、なおさらね」
「うん、わかってる。私も、いつもこういう贅沢ができるほど余裕があるわけじゃないよ。たから、年に何回か我慢してもらえないかな。ダメ?」
……」

 お願いするべきなのは幸村のほうだ。こんな年下の子供相手でもこんなにしてくれて、どうか愛想を尽かさないでほしい。絶対に将来有望株だから、自立するまでは、どうか。

「わかった。そのかわり、俺が自立した後は、絶対にには払わせないよ」
「精市くん……」
「俺は根に持つほうだからね。を俺の奥さんにしたら、一生、俺の扶養に入ってもらうよ」
「ふ、扶養って」
「俺にこんな思いさせるんだから、絶対に結婚してもらわないと割に合わないよ」
「あはは、それは怖いなあ」

 ちっとも怖いと思ってない顔で笑っているを見て、幸村もようやく笑みが浮かぶ。
 苦しい。こんなに好きで、心も体も結ばれてこんなに幸せなのに、苦しい。幸せだと思っていても、次はこうしたい、もっともっと、と更に求めるようになる。ただ、幸村との間にある差は、欲求を先に進ませてくれない。苦しい。
 きっと、は幸村がこんなにもどかしく思っていることも承知の上で、我慢してと言っている。そうするしかないから。そのことにとらわれては、こうやってふたりでいる時間を楽しく過ごせないから。

(かなわないな、もう)

 普段幸村が主導権を握っているように見えて、実際はに手も足も出ないと思うことが多かった。これも、まだ未成年だからだろうか。結婚してを養えるようになったら、違ってくるのだろうか。
 悩みは尽きないけれど、お互いがお互いのことを考えて、それを言葉を惜しまずに伝え合っているうちは、おそらく大丈夫だろう。
 への想いを再確認した幸村は、愛しい人にありったけの想いを込めてキスをした。

 ***

 その後、チェックアウトまでゆっくりイチャイチャして過ごした幸村たちは、大満足のうちに帰途に着いた。電車の中でも手を繋いで身を寄せ合うふたりは、どこからどう見てもバカップルだった。
 電車の窓の外は、見慣れた景色になっていた。
 もうすぐ、家の最寄り駅に着く。そこで降りて、をマンションの前まで送って、そこで解散する予定だ。けれど、左手に握った小さな手から伝わる体温を、まだ離したくはなかった。

(離れたくない)

 週末の電車の中は、そこそこの人が乗っている。ザワザワとした周囲の雑音を聞き流しながら、左手に力を込めた。の右手も、一瞬力が入る。
 幸村は心を決めると、のほうへ向き直った。

。この後……俺、まだ帰りたくないって言ったら、どうする?」

 が幸村の目を見返した。少し疲労が見える顔色。本当ならこの後帰って家事をしたり、明日の仕事に備えてゆっくり休みたいはずだ。だから、幸村は断られても仕方ないと覚悟はしていた。
 けれど、はすぐに目尻を下げた。

「……うち、寄っていく?」
「……! ああ、お邪魔したいな。けど、本当にいいのかい」
「うん。私も、もうちょっと精市くんと一緒がいい」

 本当に、言うことがいちいち可愛くてしょうがない。愛欲にまみれた時間のせいで、頭がおかしくなってしまったのかもしれない。キスしたくてたまらない衝動を抑え込んで、幸村はぎゅっとの手を握った。

「……エッチ、してもいい?」
「そ……そんなこと公衆の面前で聞くんじゃありません」
「だって、ダメなら覚悟が必要だろ。襲わない覚悟が」
「襲わない覚悟って文言はおかしいような……」
「……ダメ?」
「……い、いいよ……」

 顔を真っ赤にしたが小さく呟いた。可愛くて仕方ないの反応ににっこりと笑みをこぼすと、の手を意味深に撫でた。
 電車を降りたふたりは、コンビニで食べ物や飲み物を買い込んでからのマンションへ向かった。の部屋に入ると、もう我慢できなかった。持っていた荷物を放り出して、幸村はに抱きついた。
 あとは、思う存分欲をぶつけ合うだけ。
 のにおいがするベッドで交わって、この日は撃ち止めとなった。昨日から続けざまにやりまくったせいか、さすがに出るものがなくなった。も体力の限界だった。一箱十個入りのコンドームは二日間で残り三枚となり、意外と早くなくなるものなんだ、と思った幸村だった。
 夕方に差しかかる頃、幸村は惜しみつつも実家へと帰宅した。自分の部屋に入った途端、疲れが襲ってきた。特に腰が重い。と一緒にいる時は気づかなかったが、やはり初体験で七回はやりすぎだったかもしれない。旅の荷解きもほどほどに、自分のベッドに飛び込んだ。
 けれど、心が今までになく満たされている。なにをしていてもの顔が浮かび、その度に愛しく思う気持ちが胸の内に広がっていく。そして、恋しくなってくる。さっきまで会っていたのに、もう会いたい。
 幸村が自立した大人であれば、に対する溢れそうな想いを、また別の方法でも表すことができるのかもしれない。今はまだ、本人に直接ぶつけることしかできない。
 幸村との初旅行は、ふたりの仲が存分に深まったものとなった。
 たった一夜を共にしただけなのに、ひとりで寝ることが物足りないと感じる、自宅での夜だった。


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