スコールとおそろい



 その日、正午近くに起床し食事を取ったは、バイトまでの時間をどうしてすごそうかとぼんやり考えていた。食事中は誰も見かけなかった。管理人の手伝い当番はバッツだと聞いているので、他の三人は出かけているのだろうか。洗濯や皿洗いなどの家事もしてあった。
「……やることなーし……」
 部屋でさびしくつぶやく。久しぶりに一人かもしれない。と、その時、こんこん、とドアをノックされた。

 スコールの声だ。今まで向かいの部屋にいたのだ。彼一人ならとても静かなので、気付かなかった。
「はーい」
 返事をしてドアを開ける。
「どうしたの?」
「今、パソコン使ってないか?」
「使ってないけど。使いたいの?」
「ああ。少し貸してほしい」
 が持っているパソコンについてだった。
 スコールのいた元の世界では、電子技術が発達しているらしく、彼は現代社会にも違和感なく溶け込んでいる。こうやってたまにパソコンを貸借しているのだ。
「うん、いいよ。どうぞ」
 といって、はスコールを部屋へと招き入れる。今まではがバイトに行っている間貸す、という状況だったのでパソコンごと渡していたが、今日は暇なので、どうせならスコールが使うところを見たい。スコールもそれが気になったのか、それとも単純にの部屋に入りづらいだけか──彼は結構が異性ということに気を遣っている──少し躊躇している。だが、そういったことを気にする様子がないに、小さく息を吐いて、スコールは部屋へと入った。
 小さいテーブルの上においてあるパソコン。その前に座ると、スコールは慣れた手つきでパソコンを起動させる。スコールが何をするのか、興味が湧いたは、スコールの近くに座る。
「ね、一緒に見ててもいい?」
 スコールはちらり、とを一瞥すると、無言で頷いた。
 インターネットブラウザを立ち上げたスコールはなにやらキーボードをたたいている。横から覗くだけなので、具体的に何をしているかはわからない。ページの色が変わったと同時に顔を近づけてみると、そこは大手インターネットショップのページであった。スコールが買い物?と意外に思っている一方で、スコールはよどみなく手指を動かし、検索している。
「あ、シルバーアクセサリー……」
 ページのあちこちに、シルバー製のリングやらネックレスやらが並んでいる。
 そういえば、原作ゲームのスコールはシルバーのアクセサリーをしていた。ライオンの意匠がかっこいいやつ。
(やっぱりこういうアクセサリーがすきなんだ……そういうところはまだ十代の男の子なんだなぁ)
 滅多に年下らしさを発揮しないスコールについて心の中でぼやく。
 画面には、どくろやクロス、羽をモチーフにしたアクセサリーが映っている。
「うーん……スコール、こういうごついのはあんまり好きじゃないでしょ」
 派手に彫金されたアクセサリーを指差して言うと、スコールが小さく頷いた。
「うん。私も、こんないかにも中二病的なやつはあんまり……」
「中二……?」
「ううんこっちの話」
 スコールは少々訝りながらも、が首を振るのを見て、また画面に目線を戻した。
 スコールが原作で身に着けていたのは、もっとシンプルなものだった。もシンプルなアクセサリーが好きだ。
「こういう、ちょこっと意匠とか文字が入ってるのが、私も好きだな」
 横から覗き込んで、好き放題言う。あまり言っていると怒られそうだが、スコールは気にした様子もない。しかし、見ていると値段が高い。万単位が基本らしい。
「ひぇー、高い」
「値段はブランドによるが、大体の相場はこれくらいだ」
「へぇ……メンズものって高いよねぇ」
 何とはなしに画面を見つめていただが、あるペンダントに目が留まる。
 長方形にカットされたシルバーのペンダントトップ。側面はよく見ると曲線を描き、小さなブラウンダイヤが埋まっている。
「こういう、シンプルなのが好きだな」
 画像を指差してが言う。何気なく言ったのだが、隣のスコールを見ると、なぜか彼は頬を少し赤らめていた。
(ん……?)
「…………それ、ペア」
「え」
 画像をよく見る。確かに二本のペンダントが並び、説明文には「ペア」と書かれている。よく見ていなかった。もしかしたら、買ってくれとせがまれたとスコールは思ったのかもしれない。
「いや、別に欲しいわけじゃないんだけど……」
(あれ?)
 スコールは依然として頬が赤い。照れているようだ。
「別に……かまわない」
「え?」
「欲しいなら、買う」
 スコールはいつもと同じ調子で言うが、照れているのは顔を見ればわかる。画像をクリックして購入しようとするスコールを、は押しとどめた。
「い、いやいいよ!スコールの好きなものを買えばいいよ!」
 せっかく自分のお金を使うのだったら、自分の好きなものを買わなくては。のお金ではない。だから余計に、他人に合わせて使ってほしくないというか。
 スコールは構わずに購入画面に進んでいる。
「別に……いい。あんたには世話になっているから……」
 画面を見つめて、の方を見ようとしない。耳がほんのり赤く染まっている。照れているようだ。
「でも」
「こういうの……嫌いじゃない」
(かっ……かわいいんですけどぉぉぉ!!なぁにこれぇぇ!!)
 思わず悶絶する。スコールの態度はの萌えツボを激しく刺激した。本当なら転げまわってじたばたしたかった。だが、そんなことをすれば冷たい視線は不可避だ。
「あ、ありがとう……嬉しい、よ」
「……」
 スコールは黙ってパソコンを操る。何も言わなくても恥ずかしがっているのはわかった。
 その後、数日して届いた品はめでたくの手に渡った。のペンダントは白金色、スコールは黒味がかったシルバー。
「おそろい!おそろい!」
 そういってはしゃぐに、スコールはふいっ、とそっぽを向いて照れていた。


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