スコールとカードゲーム



「次、スコールの番」
「…………」
 の声に、スコールが黙々とカードを繰る。スコールは机上と手元のカードを見比べ、慎重にカードを選んでいる。カードを繰る音、冷房の通風の音、時々がかける声しかしないリビングは静かだ。
 スコールとは、スコールの元いた世界のカードゲームに興じている。はFF8をプレイ済みである。特にカードゲームは、全種類のカードをコンプリートするために奔走した経験がある。やりこんでいると自分でも思う。スコールがカードを持っているというので、彼にカードを借りて二人で対戦している。
 ちなみにライトが管理人手伝い、ジタンとバッツが私用外出中だ。
 スコールがカードを置く。すると、セイムが発動して一気にが不利になる。
「ぎゃぁぁぁひどい!」
 最後のマスにカードを置いても、手持ちの一枚ではセイムにもプラスにもならない。の負けだ。
「スコール強いー……やっぱルールが宇宙ルールっていうのは鬼畜だよー……」
「オープンなしのランダムハンドなんだ。条件は同じはずなんだがな」
 情けない声を出すに、スコールが小さく息を吐く。
 ルールはランダムハンド、セイム、プラス、ウォールセイム、エレメントである。オープンがあると確実に負けそうなのでなしにしてもらったのだが、結果は見ての通りだ。
「くっ……三連敗……!」
「三回負けたほうが罰ゲームだったな」
 スコールがカードを片付けながら言った。その冴え冴えとした青い瞳に見つめられ、はたじろぐ。
 スコールは、カードゲームは好きだが、罰ゲームの類はあまりやりたがらないだろう。だから、罰ゲームといっても軽いものだろう。そう思ってこの勝負を吹っ掛けたのだが、思いのほか乗り気である。
(スコールの出す罰ゲームって何……?全然思いつかないな)
 寡黙な彼は、何を言い出すかわからない。シビアなもの、突拍子の無いもの、割と簡単なもの。どれも言いそうで怖い。
 が心臓をばくばくと鳴らせ、緊張の面持ちでスコールの言葉を待っていると、スコールは静かに切り出した。
「膝枕」
「………………はい?」
 あまりの突拍子の無さに思わず聞き返すが、スコールは二回も言わない、と言いたげに口を閉ざした。
 膝枕。座した人間の腿を枕代わりに頭をのせ、寝転ぶ。主に恋人同士、夫婦間で行われる行為。
「───っええぇっ!?膝枕!?本気で!?」
 声を大にして叫ぶが、スコールは表情を変えない。
「何でも言うことを聞くんだろう?」
「えっ、で、でも」
「この間の貸しもある」
「この間って……あー……あれか」
 痴漢から助けてもらい、ライトに黙ってもらっている件だ。確かにあの時貸しにしといてやる、と言っていた。
「貸しと罰ゲームをあわせたんだ。それで膝枕だけ。決して悪い条件じゃないと思うが」
「そ、そんなぁ……は、はずかしいんだけど……」
 そう、一石二鳥ではあるが、は膝枕自体がとても勇気のいる行為と思っているので、そう簡単には受け入れられない。自分の脚に、スコールの顔が載っていると考えただけで緊張が走る。
 スコールが嫌なのではない。イケメンに膝枕というおいしい状況、ここは感激すべきところなのだろうが。
 スコールはじっとの反応を見ていたが、どうやら心底嫌がっているわけではないと悟った彼は、おもむろに立ち上がった。リビングのソファの角に座り、カードゲームをしていたのだ。はちょうど長い直線部分の頭にいる。
 スコールはの隣に座り、寝転ぶ。自然とスコールの頭がの腿に落ちる。
「って、ギャー!何してんの!」
「膝枕」
「わかっとるわ!私、いいって言ってないんですけど!?」
「ほかに、罰ゲームが思いつかない」
 だからおとなしく膝枕をしろ、ということらしい。そりゃあ、考えれば考えるほど、膝枕は簡単で、おいしい条件であるが。
(あああ〜頭動かさないで〜髪の毛がぁ〜)
 髪の毛がやんわりと肌を刺激する。重みに慣れていない腿の部分に、結構重量のある頭部が載っているというのも、ぞわぞわしてくる。なおかつ、重大なことがある。スコールが下からを見上げているのだ。
「あ、あんま見ないで……すっごい恥ずかしいから」
 目を窓のほうに逸らしながら言うと、スコールは大人しく顔をのひざのほうに向け、寝返りを打った。その感触に、またぞわぞわ感じる。
(まさか太ももが性感帯……?)
 しょうもないことを一人考えていると、スコールがテーブルの下にあった麺棒を取り、一本取り出してに差し出してきた。
 なんというお約束な展開だろうか。スコールは案外こういったテンプレート的展開が好きなのか。
 スコールをジト目で見つめてみても、そっぽを向いているので効果は無い。大人しく麺棒を受け取る。ブラウンの髪を掻き分けて、麺棒を耳に入れる。
(そーっと、そーっと……)
 麺棒では傷つくことは無いだろうが、耳の内部は繊細だ。慎重に麺棒を操る。
「痛くない?」
「ああ……もう少し強くても良い」
「うん…………髪、さらさらだね」
 戦いの中にあっても、美形は髪がさらさらなのだ。ライトの例もあるので、確定事項だ。
 空いている左手で恐る恐る髪をとかす。スコールは何も言わないので、嫌ではないのだろう。頭を撫でるように、優しく髪をすく。
 そうしているうちに麺棒効果のせいか、スコールがうとうとし始める。の膝の方を向いているので、からはその様子がわからなかった。気付いたのはスコールが完全に寝入ってしまってからだ。ぴくりとも動かなくなってしまったので、控えめに名前を呼んでみる。
「……スコール?」
「…………」
 反応はない。やはり眠っているようだ。相手が眠っているならば恥ずかしいことなど何もない。
 に余裕が出てきた。そのせいか、寝顔をのぞきたくなった。そっと身をかがめて、そっとスコールの前髪をかき上げる。普段眉間に寄せている皺が無いので、普段より幼く見える。むしろ年相応に見える。
(普段は気を張ってるのかな……こんな、何も起こらない世界で?)
 そう考えたが、いずれもとの世界に戻れば、また戦いの日々なのだ。感覚が鈍らないようにしているのかもしれない。
 さらさらと髪をすく。できるだけ刺激しないように、優しく。
(おやすみ、スコール)
 この転寝が、彼にとって心地いいものであるように。そう願って、は髪をすくのだった。


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