天化と目覚めのイチャイチャ


 が夢から目を覚ますと、目の前に天化がいた。彼は、寝台の横に椅子を置き、そこでの顔を覗き込んでいた。

! 目、覚めたさ?」
「天化……」

 が体を起こすと、天化は、ぱっ、と表情を輝かせ、を抱きしめた。

「私、どれくらい眠ってた?」
「三ヶ月と、ちょっとさ」

 また三ヶ月も眠っていたことに、は申し訳なく思った。天化を三ヶ月もひとりにしていたのだ。

「ごめん、心配かけた?」
「んー……スースが、いずれ目を覚ますから心配ないって言い残してったから、あんまり心配はしてなかったさ。でも、すげぇ淋しかった」

 天化は、抱きしめる腕に力をこめた。もそれに応えるように、天化の背に腕を回す。

「ごめん、淋しい思いばっかりさせてるね」
「本当、悪い女さ……でも、これからは、ずっと俺っちのそばにいてくれるよな?」
「うん、もちろん」

 天化は、その返答に満足そうに微笑むと、にキスをした。最初はついばむように優しく触れていたキスは、徐々に激しさを増した。舌を入れて絡ませ、の口内を荒らした。がはぁ、と息を漏らすと、天化は耐え切れずに寝台へ押し倒した。

「目覚めたばっかで悪ぃけど、いい?」
「……うん、天化」
「俺っちがどんなに淋しかったか、体に教えてやるさ」



 天化はの中で二度射精しても、を解放しなかった。音を上げて逃げようとするの腰を押さえつけて、天化はを揺さぶる。

「あ、あっ、てん、か……!」
……まだ、寝ちゃダメさ」

 律動するたび、ぐちゃぐちゃ、と水音がの股から上がる。精液と愛液が混ざったものが染み付いて、シーツはすっかり湿っている。
 中のモノはまだまだ硬度を失いそうにない。というより、熱は上がる一方のような気がした。

「三ヶ月、ずっとひとりでしてたんさ。の寝顔見ながら……」
「うっ、ん、あっ」
「寝てるに悪戯しながら……」
「んん、う、あ」
「顔に、精液かけたこともあるさ。胸にも、おなかにも、脚にも……」

 天化は、一旦自分のものを引き抜き、を四つん這いにさせた。物足りなさげにひくつくそこに、勢いよく挿入する。そのまま、温かく締め付けてくる中を蹂躙する。
 律動の激しさは落ち着いたものの、の体に対する容赦のなさはちっとも落ち着かない。が眠っていた間の淋しさや行き場のない情熱を、ここぞとばかりにぶつけている。

「うあぁっ」
「でも全然満足できなかったさ。がいなかったから」
「天化……! あんっ、ああっ」
「はぁ……気持ちいい。も、気持ちいい?」
「う、んっ……あ、ああっ」

 が身をしならせた。天化は、絶頂の余韻に浸るに、後ろから覆いかぶさり、耳たぶを噛んだ。

「いっ!」
「ダメさ、ひとりで勝手にいくなんて……悪い女」

 そう言うと、天化は腰を打ちつけた。骨が鳴りそうなほどの強い打ち付けに、は悲鳴を上げる。寝台も、ぎしぎしと悲鳴のように軋んだ音を出している。

「やぁっ、あっ、だめぇっ! そんなにしちゃ、こわれ、ちゃ……!」
「壊さねえ、壊してみたいけど……俺っちもいくから、一緒にいこ?」
「あっ、あっ、い、くっ……!」
「う、あぁっ、……!」

 最後に、天化がぐっと腰を押し出すと、は再びのけぞった。射精が終わるまでの腰を離さずにいた。そして、寝台に身を沈めたの横へ、天化は手をついた。の背中や耳元、うなじにキスの雨を降らせる。背中が終わると、の体を反転させ、今度は胸元や首筋、顔中にキスをした。それも終わると、くちびるにしゃぶりつくようなキスをする。激しい行為で息を乱しているのにも構わずに。時々息をつがせてやり、また舌を絡める。狂ったように、キスをしていた。

「愛してる、
「はぁ、はぁっ……てん、かぁ……」

 息が整ってくるうちに、激しい行為の疲労が体に降りてきた。まぶたが勝手に閉じていく。いくら目を開こうとしても、まぶたが重くて開けられない。
 眠気に抵抗してみたものの、結局は眠ってしまった。意識が落ちる直前まで、口に寄せられる天化のくちびるの感触を感じていた。

***

 翌朝、が目を覚ますと、天化が寝台に腰掛けて体を拭いていた。に背を向けているからか、が目を覚ましたことにまだ気づいてないようだ。声を上げずに、ぼんやりと天化の背中を眺める。彼の左わき腹の癒えない傷から、血がにじみ出ていた。

(……やっぱり、その傷は治らないのかな)

 と思いながら見つめていると、天化が視線に気がつき、振り向いた。

、起きたさ?」
「うん……その傷、治らないのに、あんなに激しくしちゃダメだよ……」

 かすれた声でが言うと、天化は可笑しそうに笑った。体を拭き終わった手巾を桶に投げ、に覆いかぶさった。

「優しくしようと思っても出来ないのは、のせいさ」
「え、私?」
が、俺っちを狂わせてるの。可愛くて、愛しくて……憎くて仕方ないから、傷のことなんて忘れて夢中になっちまう」

 天化が、の首筋を舐めた。時折、首筋の血管の上を天化の歯が掠める。いつの間にこんないたずらをするようになったんだろう。なだめるように天化の頭を撫でると、甘えるように首を甘噛みされた。なぜ悪化した。
 天化の独占欲は増す一方のようだ。以前はの行動が原因だったが、今はそれに加えて、大戦後で喪失感を抱えているせいもある。を見つめる瞳は以前から熱いものだったが、今はそれだけではないような気がした。彼を心の底から安心させられることができればいいのだが。それこそ、が彼と一生を共にすると誓うことができたらいいのに。
 の体は綺麗に拭かれて、ちゃんと寝間着を着ていた。天化がなにもかもしてくれたらしい。しかし、ちゃんと着せられていたはずの寝間着は、もう脱がされかけている。寝間着から覗く胸元には、無数の赤い痕が残っている。おそらく、首筋やうなじ、背中にも同じものがたくさんあるはずだ。服で大半は隠れるだろうが、顎近くの首筋や耳元のものはさすがに隠しきれない。好いた男にこんなに想われて嬉しい限りだが、これでは人前に出られない。楊ゼンあたりが、目聡く察して生暖かい目で見てきそうだ。

「……天化」
「ん?」
「好きだよ」

 と言うと、天化はぴた、と動きを止めた。の瞳を呆然と見つめた後、強くを抱きしめた。

「天化、いたい……」
「あー、もう、本当に悪い女……どこまで俺っちを骨抜きにすれば気が済むんさ?」
「天化?」
「自覚なしってとこが、憎らしいさね……それとも、わかっててやってるんさ?」
「??」

 天化がなにを言っているのかさっぱりわからなかった。天化と付き合い出してから気づいたことだが、は男心に理解がない。これでも恋愛経験はゼロではないのに、なぜか天化をやきもきさせてばかりである。今もそんな状況のような気がする。

(う……だって、私の恋愛事情なんて、この世界じゃ誰にも相談できないし……)

 蝉玉は貴重な同性の友人だが、彼女の恋愛観は特殊ゆえに相談できない。ほかに話をするとなれば楊ゼンか太公望だが、楊ゼンにこんな赤裸々な話をするのは恥ずかしすぎる。太公望は論外だ。干物のように枯れたジジイの価値観はお話にならない……気がする。そんな話をしたことがないのでわからないが、勘だ。
 のほうが年上なのに、これはいけない気がする。妲己から男心について少し学んでおけばよかったかもしれない。

、俺っちも好き。もう一生、離さねぇ」

 天化はそう言うと、のくちびるに優しくキスをした。昨夜のがむしゃらに激しいものではない心地よいキスに、は目を閉じた。

「だから、……元の世界に帰るなんて、俺っちから離れるなんて、言わないで欲しいさ……」
「!」

 は身をこわばらせた。
 元の世界のことを忘れていたわけではないが、いつの間にか優先順位が変わっていた。太公望や天化のことのほうが、の中で大事になっていた。
 しかし、元の世界に帰ることを目標としてここまで来たのだ。帰らないでと言われて、簡単に、うん、と頷いてしまえるものでもなかった。仮に今すぐ帰れるとなったら、自分はどうするだろうか。答えがすぐに出るとは思えなかった。
 体を硬くして押し黙ってしまったを、天化は一層強く抱きしめた。をもう離すまいと、自分の元に縛り付けるように、強く。


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