3.盗撮が犯罪って知ってますか?



五月に入ると、気温は暖かいを通り越して、暑い日がある。
「あーつーいー……」
今日は特に暑い。この時期半袖など着ていないので、体温調節が大変だ。
私は前方に座る遊星の肩を、暑い暑いと言いながらつついた。
今、私は遊星のバイクに乗せてもらっている。赤い大型二輪だ。
バイクに乗っている遊星は、認めたくないが格好いい。元々イケメンなだけに。とても不本意だが。
大学が終わり、今日はバイトもないのでマンションに帰るのだ。
そこに、いつもどおり現れた遊星に乗せてもらっているというわけだ。
乗せてもらうと楽だ。駅まで歩かなくていいし、電車を待たなくてもいい。
この楽さを味わってしまうと、なかなか二人乗りを断れない。正直、遊星にしがみつかなければならないので抵抗があるが……
信号待ちの暇に任せ、つぶやきながら遊星をつつく。
遊星は少し笑ったようだ。
、この先においしいアイスクリーム屋があるんだが、寄っていくか?」
「何っ!アイス!?」
「ああ。少し、わき道にそれるんだが」
「いくいく!」
暑さから逃れたい、というよりも、おいしいアイスが食べたかったので、私はすぐに頷いた。
遊星も頷いた。
「わかった。……下校デート、だな」
「え」
遊星は前を見ているので、顔が見えなかったが、絶対にやけている。
私は下校デートなんてつもりじゃないが、傍から見ればそうなのだろうか。
わき腹をどついてやろうかと思ったが、信号が青になったので、それは叶わなかった。



アイスクリーム屋というより、屋台に近い。車型の屋台だ。そばにテーブルと椅子が何脚かあり、親子連れが何人かアイスを食べていた。
今日みたいに暑い日は、繁盛していることだろう。
色々な種類があったが、ここは自分の一番好きなものに限る。
「クッキー&クリーム、カップでください」
私は自分の分をさっさと決める。が、店員が頷く前に遊星が声をあげた。
「おい、コーンにしろよ」
「は?カップがいいんだけど」
「ここは俺が出す。だからコーンにするんだ!」
「いや、別にいい」
「コーンにしろぉぉぉ!」
「はぁ……まぁ別にコーンでもいいけど。大声出さないでねー」
年下におごらせるのは気が引けたが、せっかくおごってくれるのだったら素直に甘えよう。
苦笑いしている店員さんに、すみませんやっぱりコーンで、と伝える。
「かしこまりました。お連れ様は?」
「そうだな……ミルクでももらおうか」
店員さんはかしこまりましたーというと、遊星から代金を受けとり、コーンにアイスを盛る。
アイスを受け取る。クッキー&クリームが一番好きだ。
今日は暑いので、早く食べないととけてしまう。
「…………ありがと、遊星」
なんだか貸しを作ったみたいで癪だが、おごってくれたのは事実なので、礼を言う。
遊星は少し微笑んだ。
が喜んでくれたなら、俺も嬉しい」
……いつものことなので、流す。いつもならここでさらにスキンシップという名のセクハラが入るが、遊星本人もアイスを持っているので、それは免れた。
それにしても、あんまりそういうことを人前で言うのはやめていただきたいのだが。ほら、店員さんがいいカップルねー、みたいな目で見てくるから。
「…………」
言いたいことはあったが、ここで遊星に言ったところで柳に風なので、言葉を飲み込んだ。
遊星相手に、正確な会話のキャッチボールは望めない。やつの異常なプラス思考と妄想によって、私がまったく意図しない返答をされる。
私はアイスを持っていない手でこめかみを揉んだ。
、とけるぞ」
「え、あ、やばい」
こめかみを押さえていたら、アイスがとけていた。コーンの端からすこし垂れている。
「んもう……」
端から垂れたアイスが手につかないように、コーンを舐める。
見ると、コーンに近い部分もとけて、今にも垂れてきそうだ。それもちろちろと舐める。
ふと、遊星のほうを見ると、アイスそっちのけで携帯電話をいじっている。折りたたみ式ではなく、タッチ式の新しいやつだ。
遊星はバイクに詳しいだけでなく、機械類にも詳しい。遊星のパソコンも自作らしい。
…………なんか、冷静に考えてみると、遊星ってかなりお得物件じゃない?メカに強いし、バイク乗ってる姿も格好いいし、工学系で頭もいい。加えて、イケメン。蟹頭だが。
しかし、遊星はただ携帯をいじっているというよりも……携帯を私のほうに向けているという事は。
私は舐める作業を中断して、遊星に向き直った。すると、遊星は携帯を下げた。
…………あやしい。
「遊星」
「なんだ?」
「今、携帯で写真撮ってた?」
単刀直入に聞くと、遊星はビクッと肩を弾ませた。
おいおい……本当に盗撮かよ!
「こらぁ!何勝手に撮ってんだ!携帯よこせ!」
「あっ、やめるんだ……!」
携帯を操作して、画像フォルダを開く。
今しがた撮られたであろう画像が出てくる。コーンを舐めているところだ……。
しかし、問題はそれだけではなかった。
「おい……まて。なんか覚えのない私の画像があるんだけど」
明らかに、今日以前に撮られた写真がある。私はそんな許可をした覚えはない。
ペットボトル飲料を飲んでいる時とか、食べ物を口に入れる前で、口を開いている時とか。
完全に盗撮です。本当にありがとうございます……じゃない!
「おいぃぃ!何微妙な場面ばっかり撮ってんだ!」
私は憤慨のあまり遊星の耳を引っ張った。
「あっ……っ……」
……なんか、感じてるんですけどこの人。何頬を赤らめてやがる!
変態だとは思っていたがここまでとは……!私は耳から手を放した。
「あ……」
残念そうな顔をするな。
、もっと俺を攻撃しろ!」
「嫌だ断る!とにかく、この画像は全部消すからね!」
「やめるんだ!俺の今夜のおか……いやなんでもない」
……おい、今なんて言った?



「消す。全部消す」
「やめろ!そんなことするんじゃない!……はっ!これは……!おかずがない悶々とした夜を味わうプレイなのか……!?」
「違う!今自分で盗撮の使用目的言っちゃったから!」
「俺の想像の中で……ハァハァ」
「うわぁぁぁおいやめろ今妄想にひたるんじゃないぃぃぃ」



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