2.くっつかないでください移ります変態が



私が不動遊星と出会ってから、早一ヶ月がたとうとしている。
相変わらず彼は、私を見るたびに「付き合え」と交際を迫ってくる。
もちろん私は断っている。
あんな変態臭がするやつとは絶対に付き合えない。
ホワイトデーの一件しかり、その後のあれこれしかりだ。
たとえば、名前を知っていた件について。
聞きたくなかったが、怖いもの見たさに負けて聞いてしまった。
いわく、二月のチョコ渡し事件からその後、私に会いたい一心であの駅で張り込んだそうだ。
そして私が学校に行くとなると、後をつけて……大学を割り出した。大学内でも私の後を付回し、友人との会話の中や、講義中に書いたレポートから私の名前を割り出した……というわけだ。
それから、あの駅で私の姿を遠巻きに見ていた、らしい。
……はっきりいってストーカーだ。誰がどう見ても。
大体、遊星の自宅から私のマンションは近くない。車で四十分くらいかかる。電車を使うともっとだ。
そして遊星の通う大学からはもっと遠い。一時間は余裕だ。
なのに……なのに奴はいる。マンションから出ようとすると、いるのだ。待ち伏せだ。
そして、講義が終わり校門から出ようとすると、いるのだ、奴が。
なんと遊星は私より年下だった。私は大学三年、奴は一年だ。ちなみに私は文系、奴は理系だ。
……大学一年生って、忙しいんじゃないの?講義とか、課外活動とか、バイトとか。
なのに、いる。遊星は待ち伏せている。校門の近くに、蟹頭が見える。
…………私は何も見なかった。蟹など見なかった。遠巻きにして通り過ぎよう。それなら気付かれないだろう。
、やっと終わったのか」
早速気付かれた。見てみぬフリを決め込んでから二秒とたっていない。
人が行きかう中で、よく私に気付くものだ。
喜んだ表情でこちらに近寄ってくる遊星。犬みたいだ。
「…………はぁ」
「どうしたんだ、ため息なんかついて。嫌なことでもあったのか?」
「いや、あんたの顔見て憂鬱になったの」
「そうか、俺と会えなくてさびしかったのか。さびしがりやだな、は」
「違うわ!毎日のように待ち伏せされて憂鬱だっつってんの!」
「なっ……そうなのか?」
「そうなの!やめてよ待ち伏せは!」
「一緒に行き帰りだけじゃ駄目ということか……四六時中一緒にいたいのはもおなじなんだな」
「話を聞けぇぇ!」
こんな調子で、遊星との会話は会話ではない。超がつくほどのプラス思考と思い込みの激しさだ。
奴と話していると埒が明かない。私は大学の最寄り駅まで歩き出した。
「遊星、待ち伏せはやめて。学校の行き帰りだけじゃなくてバイト先にも来るのも」
「なぜだ?それをやめると、と接触する機会がまったくないんだが」
「それでいいじゃない。私ら他人だし」
、好きだ。付き合ってくれ」
「話聞いてた?」
「聞いている。俺は君が好きだ。だから、一緒にいたい。そばにいたいんだ」
私は驚いて遊星を見ると、彼は真剣な表情をしている。
真顔でそんなことを言われると、さすがに恥ずかしい。
「待ち伏せするのも、少しでもそばにいたいからだ。本当は、恋人同士になって、一緒に、ずっと一緒にいたい。だが、君は俺を拒むから、それは叶わない。だから、こうやって君の後をついて回るしかないんだ」
遊星は突然私を抱きしめた。私はすっかり油断していたので、難なく抱き寄せられる。そのままぎゅっ、と力をこめられたので、逃げられない。
「だから、俺の数少ない喜びを奪わないでくれ」
「ゆ、遊星……」
「君に迷惑そうな顔をされるたび、胸がつぶれそうだ。……俺が嫌い?顔も見たくない?」
「そ、そんな」
「嫌いなら、言ってくれ。もう君の前には現れない」
「そ、そんなこと、言われても……」
はっきり言って、待ち伏せは迷惑だ。が、遊星自身が迷惑か、嫌いかというと、そうでもないのが悔しい。
(イケメンだし、そこそこ身長もあるし、いい大学にも行ってるし!)
それに、なぜだか憎めない。ストーカーまがいのことをされても、犬のように喜ぶ姿は、なんというか……。
(べ、べつに可愛いなんて思ってねーし!ちげーし!)
一瞬よぎった考えに、自分で全否定する。
「べっ、べつに……嫌いじゃない……」
「っ!本当か?」
「あんたのことは別に、嫌いじゃない。でも、毎日のように待ち伏せされるのはいや!」
喜色が浮かんだ顔が、みるみるうちに悲しみの表情になっていく。
「だから……三日に一回ぐらいにしてよね……」
「…………!」
また、腕に力をこめられて、抱きしめられる。ぎゅう、と音がしそうなほど。
「ぐえっ」
「わかった。が言うなら三日に一回にする」
「そ、そう」
「でも、メールは毎日する」
「そう…………え?」
「あとで、メールする。これから毎日しよう」
…………事態は三歩進んで二歩下がったみたいな、微妙な展開をした。
絶対毎日メールが来る。この男が言うんだから間違いない。
……好き」
(でもまぁ、毎日来られるよりは、ましかな……?)
待ち伏せの恐怖から逃れた私は、道端で抱き合っているという事実も忘れていた。



「わかった。じゃあアドレス教えるから」
「いや、もう知っているから大丈夫だ」
「…………なんで!?なんで知っている!?」
の携帯をハックし」
「やめろぉぉぉ言うなぁぁぁ!」
っ……あまり暴れると、からだが余計に密着して」
「え?」
「俺の理性が切れる五秒前だ」
「古い!うわやめろ腰を押し付けるなぁぁなんか当たってるぅぅぅ」
のにおい……いいにおいだ……興奮するっハァハァ」



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