会長からセクハラを受けています その6


 受付の昼休みは、基本的に「取れる時に取る」という形だ。三人が交代で回し、必ずひとりは受付にいる状態を保つ。事前に受付の来客システムに入っている来客予定とは別に、社員が取引先と当日に約束してお客様を招くこともある上に、飛び込みの営業やこの近くを通りすがったのでご挨拶を……という取引先も少なくない。そしてそれらは当然システムに入っていない。来客予定がないからといって受付をカラにするわけにはいかないのだ。もちろん、相手方も昼時は避けてくるのだが、必ずしもないとは言いきれないため、交代制で休憩を取っている。
 昼時には社内に休憩時間を告げるチャイムが鳴るが、受付には関係ないことなのだ。
 たまたま、今日は昼休みに入る時間がチャイムと同時だった。朝にギルガメッシュと約束した通りに、会長室へと直通のエレベーターに乗る。朝から情事に及んだおかげでへろへろになりながらも、弁当を作ってきたことは褒めてほしい。作ってとは言っても、昨晩の残り物を詰めてきただけだが。

(それでもお弁当持ってきただけすごいと思いたい……ギルが朝から襲ってきたせいで、朝ごはん食べれなかったし、お腹空いた……)

 今にも鳴りそうなお腹をさする。十時ごろに取る十分間の休憩中に総務からお裾分けでもらったお菓子を食べたが、やはりそれだけでは足りなかった。お客様を案内する時も、お腹が鳴りそうになるのを必死で堪えていたのだ。恨みがましくエレベーターの階数表示を睨みつけていると、会長室に着いた。
 ノックを四回してから会長室の扉を開けると、全面ガラス張りの窓を背景に、秘書のシドゥリが立っていた。先に来て鍵を開けて準備していたらしい。会長室のデスク、ソファセットとは別に、ケータリングのワゴンが置かれている。ケータリングは軽くつまめるようにとサンドイッチだが、具材の豪華さや量が今までが見てきたコンビニのそれとは違う。今朝急にギルガメッシュから昼食を用意しろと言われて、仕事の合間を縫って調達してきたのだろう。シドゥリの苦労が忍ばれる。

「シドゥリさん、お疲れ様です」
「はい、お疲れ様です。今回も会長の気まぐれに付き合ってもらってるんですね。昼食はウルク商事ビルで取る、なにか用意しろと言われて驚きました」
「ですよね……お昼ごはんほとんど食べないのに……」
「きっとさんと一緒に過ごしたいということなんでしょう」
「う……そ、うですかね……」

 アーモンド型の目を細めてシドゥリが言うものだから、面映ゆくなる。

「朝からあんなに機嫌がいい会長なんて、ここ数年見たことありませんから」

 さらに念押しされて、照れでなにも言えなくなる。の様子を微笑ましいというようにシドゥリは見つめている。まるで母のような優しい目線に、思わず頬をかいた。

「なにを余計なことを言っている、シドゥリ」
「ギル」

 自分がいないところで暴露され、ジト目でシドゥリを睨みながらギルガメッシュが会長室に入ってきた。の元へ一直線に近寄り、上着も脱がないままを抱きしめようとする。慌ててそのたくましい胸を押し返す。

「こら、抵抗するでない」
「だめだめ、スーツにファンデーション付いちゃうから……」
「その時は着替えるだけだが? 瑣末なことを気にするな」
「気にするから! そのスーツ私の一月の給料より高いでしょ絶対!」
「ふん、まあいい。食べるぞ」

 ギルガメッシュはの腰に腕を絡めてデスクのほうへと向かう。シドゥリがそれを追って、ケータリングのワゴンを押してデスクの近くに運ぶ。サンドイッチを適当にピックアップして小皿に分け、デスクの上に置いた。ギルガメッシュが脱いだ上着を受け取ると、会長室の隅のコートラックにあるハンガーにかけた。
 流れるような動作だった。は呆然とシドゥリの動きを見ていた。一辺の無駄もない動きは、慣れもあるだろうが、自然と気が回る彼女の性質もあるのだろうと思わせるものだった。
 せめてお茶くらいは入れようとが動こうとすると、デスクの椅子に座ったギルガメッシュから手を引かれた。彼を振り返ると、ぽんぽんと膝を叩いている。

「……はい?」
「貴様の席はここだ」

 と、至極当然といった顔で膝を示される。テーブルで向かい合って昼ごはんを食べるものだと思っていたので、困惑しきりである。そんな当然のようにキャバクラのようなことを求められても困る。というか恥ずかしいし食べづらい。顔を赤くしながら睨んでみるが、ギルガメッシュは顔色を変えない。

「そらどうした、早くせんと休憩時間が終わってしまうぞ」
「ぐうぅ……!」

 足元を見られては仕方なかった。自分の羞恥心を押し殺すと、持っていた自分の弁当をサンドイッチが乗った皿の脇に置き、ギルガメッシュの膝に横向きに乗る。すぐさまの腰を支えるように腕が回され、手がそろりと脇腹を撫でた。思わず足を動かすと、ギルガメッシュがにやりと笑った。
 シドゥリが入れたお茶がデスクに置かれた。出ていこうとするシドゥリを呼び止めたギルガメッシュは、「総務に連絡しておけ」と言った。にはなんのことだかわからなかったが、シドゥリは頷いて部屋を出ていった。
 ふたりきりになってしまった。なんとなく恥ずかしくて、すぐ近くにあるギルガメッシュの顔を見られない。照れ隠しにサンドイッチと自分の弁当を引き寄せた。

「そのサンドイッチも、好きなものを食べるがいい」
「え、でもこれギルの分じゃ」
「よい、どうせシドゥリが気を利かせて二人分用意したものだ」

 確かにひとりで食べるには多いと思っていたが、の分も含まれているとは。やはりシドゥリはできる女性だ。
 シドゥリの気遣いに甘えてたまごサンドを手に取り、一口かじる。

「お、おいしい……」

 ずっしりとパンに挟まれたたまごは、ほんの少しピリッとした辛味がある。パンも程よく甘みがありしっとりとしていて、作られてからそう時間が経っていないことがわかる。パンの控えめな甘さとたまごの味が絶妙にマッチしている。今まで食べたたまごサンドとは比べ物にならない美味しさである。
 がサンドイッチに感動していると、ギルガメッシュが口を開けた。

「我にも食わせろ」
「うん……?」
「貴様のその手に持っているものを食わせろと言ったのだ」
「えっと、じゃあはい」

 と、指定のあったたまごサンドをもうひとつ手に取り、ギルガメッシュに差し出すが、ギルガメッシュはそれを受け取らない。の腰に両手を回したままで、動こうとしない。

「我は貴様の持っているものが食べたい」
「……新しいのじゃなくて、これ?」
「そうだ。我にあーんしろ」
「あ、あーん……!?」

 ギルガメッシュは頷くと、再び口を開けた。腕をまったく動かす気がないことから薄々あーんさせる気ではないかと疑っていたが、やはりそのつもりだったようだ。恥ずかしさに色々抵抗したくなったが、休憩時間は有限だ。羞恥心をもう一度押し殺すと、ギルガメッシュに向かって自分の食べかけを差し出した。

「あ、あーん……」

 ギルガメッシュが口元のたまごサンドを頬張った。音を立てずに咀嚼しているところをみると、育ちがいいことが窺える。

「おいしい?」
「美味くも不味くもない」
「ええ……」
「貴様の弁当を寄越せ」
「えっ……! だ、だめ! これ昨日の夕飯の残り物と作り置きの常備菜しか詰まってない!」
「だからなんだ? 貴様が作ったものだろう、いいから寄越せ」
「ぜ、絶対ギルの口に合うはずない!」
「食べてみんとわからんだろう」
「ひゃっ……!」

 断っても頑なに弁当を寄越せと譲らない。が断り文句を言うたびに腰や太ももをいやらしい手つきで撫でさすってくる。

「〜っ……もう、不味くても後悔しないでよね……わかったから、そのえっちな手つきをやめてください……」
「最初からそうやって素直に寄越せばいいのだ。やはり貴様には体に直接訴えたほうが早いな」

 セクハラをしてくるギルガメッシュをスルーして、たまごサンドを皿に置いて弁当を開ける。昨日夕飯に作ったミニハンバーグと、朝ごはん用に作っておいた玉子焼き。それと週末に作り置きしてある常備菜、ふりかけが乗った白米。ケチャップのかかったハンバーグを箸で取ると、ギルガメッシュにあーんする。

「どう、かな……?」

 こんなに人が食べるところを緊張して見たことはない。心なしかゆっくりと咀嚼しているギルガメッシュを見て、は不安で眉を曇らせた。
 やがて、ごくんと喉を動かしたギルガメッシュが、口を開いた。

「中の玉ねぎの大きさがバラバラだな。これでは味に差が出るぞ。それを誤魔化すようにケチャップが多くかけられている。ケチャップの味が強すぎる」
「うっ……」

 確かに、自分しか食べないと思って作っていると、具材の大きさなどバラバラでも気にしない。そしてギルガメッシュの言う通りに味を誤魔化すためにケチャップを多くかけている。どうせ自分しか食べないものだし、それなら多少不味くても気にならないと思って作ったらこの通りの結果だ。
 最初からギルガメッシュの口に入るものだと思って作っていたら、もう少し丁寧に作っただろう。普段の手抜きを見透かされて恥ずかしいやら悲しいやら悔しいやら。落ち込んで俯いてしまうに、ギルガメッシュはもう一度口を開けた。

「──だが、悪くない」
「……え?」
「弁当の中身を残らず寄越せ」
「え……ほ、本気で? 時間経ってるし、手抜きで作ったんだよ?」
「我は悪くないと言ったはずだ。そこのサンドイッチよりもな。早く寄越せ」
「っ……う、うん……!」

 ギルガメッシュの言葉に嬉しくなって思わず破顔すると、ギルガメッシュの目元が柔らかくなった。
 それから、ギルガメッシュはの弁当をすべてあーんで平らげた。玉子焼きにも常備菜にも一言改善点を言い、後は黙々と食べていた。空になった弁当箱を見て、嬉しさが心にじんわりと広がった。
 はシドゥリが取り分けたサンドイッチを食べた。具材がぎっしりと挟んであるので、食べかけだったたまごサンドと海老カツサンドを食べてお腹が十分膨れた。海老カツサンドは外はサクサク、中はぷりぷりで、タルタルソースとの相性が素晴らしかった。どこのお店のものかシドゥリに後で確認しなければ、と思うほどに美味しかった。
 ギルガメッシュは、食後のお茶を飲みながらが食べる様子を眺めていた。にあーんはしなかったものの、美味しそうに食べるを見て、満足そうに笑っていた。
 もお茶を飲んで一息、といったところで、昼休みの終わりが迫っていた。歯磨きや化粧直しなどの時間を考えると、そろそろ戻らなければいけない。
 それに、先ほどからギルガメッシュの手つきがまた不穏なものになっている。食べている最中は手を出さなかったのに、食べ終わった後から脇腹や太ももをゆっくりと撫でたり揉んだりしているのだ。ギルガメッシュの目線がくちびるに熱く注がれ、じわじわと体の熱を高められている。本格的に火がつく前に、仕事に戻らなければ。

「ギル、もうそろそろ……」
「ん? そうか、もうそんな時間か」

 ギルガメッシュがそう言って頷いたので、は膝から降りようとした。が、その前に腰をぐっと引き寄せられて、もう片方の手でジャケットのボタンを外され、ぎょっと目を見開いた。ジャケットの中に入り込んだ手は、さらにシャツのボタンを手際よく外していっている。慌ててその手を掴んだ。

「ちょ、ちょっと……! なにしてんの!? もう昼休み終わるから戻るってば!」
「もうそろそろデザートの時間だと貴様が言ったのだろう」
「そんなこと言ってない……! んっ、んんっ……」

 ギルガメッシュが待ちかねたようにのくちびるに食らいついた。ちゅ、ちゅぱ、と音を立てて吸い付き、舌での上顎を舐め上げる。口の中の性感帯をざらざらとした舌で愛撫され、はたちまち抵抗の力を削がれてしまう。
 がキスに夢中になっている間に、ギルガメッシュの手はシャツのボタンを外し、ブラジャーのホックを外して直接乳房を揉んでいた。親指で乳房の頂をこねくり回されるたびに、の口から声にならない嬌声が上がる。キスと乳房への愛撫でその気にさせてしまおうと、ギルガメッシュはくちびるを離してはまたすぐに吸い付き、唾液を交換する。白い胸を強弱をつけて揉み上げ、乳首を摘んだり転がしたりすると、の目がとろんと潤んだ。

「あ、ん、だめ、ギルぅ……昼休み、終わっちゃうから、んっ」
「くくく……そんないやらしい顔で仕事に戻る気か? 客に襲われても知らんぞ」
「んっ、いやらしくなんか、ひゃっ」
「我はもう火がついてしまったぞ」
「あ……」

 ギルガメッシュが腰をの腿裏に押し付けると、硬い感触があった。その熱さに思わず下腹部が切なくなって、唾を飲み込む。の変化を見逃さず、ギルガメッシュはスカートの中に手を忍び込ませた。

「あっ、ギル、だめっ……!」
「ほう? 我の言いつけ通りにガーターストッキングにしたか。いい心がけだ、。我に抱かれる準備をしていたとはな」
「ちが、違うの、ギルに抱かれたかったとか、そんなんじゃ、あっ」

 捲れあがったスカートの下には、色っぽいガーターストッキングがあった。は口で否定しているものの、下着の色と合わせられたところを見ると、明らかに男に見られることを意識している。パンティをすぐ下ろせるという理由だけでガーターにしろと言ったギルガメッシュだが、思いの外に不似合いで淫靡な光景に、笑いが止まらなかった。パンティ一枚の無防備な秘部に指を這わせ、の真っ赤に染まった顔を見つめた。

「貴様がどういう顔をしてこれを買ったのか、興味深いぞ
「っ……やだ、そんなこと言えるわけ、やあんっ、そこ、いじっちゃ、あっ」
「そら、卑猥な音が聞こえてきたぞ? このまま指でイくか?」
「あ、やっ、だめ、もどらなきゃ、あっ、ぁン……!」

 ギルガメッシュが敏感な突起をパンティの上から指で押し潰したりこねたりするだけで、の腰がガクガクと震える。クロッチ部分をずらして直接そこに触れられると、くちゅくちゅとが感じている証拠が音を立てた。

「ならん、このままでは離さんぞ」

 ギルガメッシュがスラックスのファスナーを下ろし、赤黒く勃起したモノをの太ももに押し付けた。

「あっ、ん、擦り付けちゃ、」
「貴様とて、このままでは終われんだろうが」
「ギル……ん、ほんとに……? ギルも、お仕事あるのに……」
「ふん、コレを放置するほうが仕事に集中できんわ。五分でいいから貴様の中に入れねば気が済まん」

 と言って、デスクにを押し倒そうとする。はその胸を押しとどめると、首を横に振った。ギルガメッシュの眉がむっと吊り上がる。

「貴様……ここまでさせておいてお預けを食らわす気か!?」
「ち、ちがう……あの、前からだと、シャツにファンデーション付いちゃうから、後ろから、お願い……」
「──」

 ギルガメッシュが固まった。固まった彼の顔を見上げていると、不意にを抱きかかえて、デスクから数歩離れた全面ガラス張りの窓の手前で降ろした。まさか、と思う間もなく、背後から抱きつかれ、腰を掴まれて持ち上げられた。

「ま、まって、まさかギル、こんなとこで」
「望み通り後ろから犯してやる……! 貴様の痴態をここで見せつけてやるわ!」
「やっ、やだ、バカバカ、なに考えて、ああっ……!」

 の口での抵抗も虚しく、腰を高く持ち上げたギルガメッシュが剛直をの濡れそぼった性器へ突き入れた。窓ガラスに手をついて体を支えた直後に貫かれ、中を慣らすこともせずに性急に中を突かれる。

「あっ、あんっ、だ、めぇ、こんな、んっ、誰かに見られたら、あうっ」
「見せつけてやれ、我に抱かれてはしたなくよがっている姿を、どこぞの人間に見てもらえ!」
「やだぁっ、やめ、あっ、んっ、ああっ……!」

 ギルガメッシュは腰を絶え間なく動かしながら、のジャケットとシャツを引き剥がし、引っかかっていただけのブラジャーも肩紐を外して床に落とした。の上半身は完全に露出してしまった。
 ウルク商事ビルの最上階からの眺めは、同じようなビルの高層階が見える。目線を少し落とすと、中層のビルの屋上。それらのビルの中はブラインドが降りていたりしてよく見えないが、もしかしたらこの情事を見ている人がいるかもしれない。突き上げに耐えながら羞恥で目をつぶると、よりいっそう激しく奥を突かれるのだ。

「あうっ、ひ、んっ、はげし、だめっ、」
「いい締め付けだ……! 興奮しているのか、? どこの誰ともわからん輩に見られているかもしれんこの状況に」
「んっ、ちが、こうふんして、あっ、ちがうのぉ、あん、だめぇ……!」
「は、貴様の口はいつも逆のことばかり言うな。気持ちいいと言え、!」
「ひゃ、ああん、きもち、い、いいよぉっ……!」
「なにが気持ちいいのかはっきり言え! 正直に言わんとイかせてやらんぞ……!」
「あんっ、後ろから、ギルに、んんっ、いっぱい突かれて、はげしいの、きもちいいのっ……! こんなの、はずかしくて、あうっ、おかしくなっちゃう、んふぅっ、きもちいいのっ、だめぇっ……!」

 ぱんぱんと腰を突き上げる音が響く。広い会長室は防音もしっかりしているはずだが、この激しい情事の音ももしかしたら外に漏れているかもしれないと思うと、の膣内がきゅんと狭くなった。
 痴態を余人に見られる可能性のあるところで犯され、恥ずかしいことを口にしながらその興奮で男の肉棒を締め付けるに、ギルガメッシュの興奮もいつになく高まっていく。膝を落としての腰を強く掴むと、ズンズンと奥を目掛けて突き上げた。

「ひゃあっ、あうっ、そん、な、やあっ……! もう、イ、く、ああぁっ、イっちゃうぅ……!」
っ……! く、うっ……!」

 目の前が真っ白になるような感覚の中で、ギルガメッシュの肉棒がの中で震え、どくどくと精を流し込まれているのがわかった。しばらく全身を襲った快感の波に揺られ、窓に手をついたままでいる。すると、ギルガメッシュが肉棒を抜こうとしてきた。

「あっ……だ、だめ! 今抜いたら……」

 中の精液が垂れて、会長室に敷き詰められた絨毯を汚してしまうかもしれない。その一心で出ていこうとするギルガメッシュを止めるように力を入れる。

「ぐっ……! 貴様、この淫乱め……! 二回目をしろと言うのか……!」
「え、ええ? いやそうじゃなくて、中のが垂れ、あっ……!?」

 当然、力を入れると中のギルガメッシュを締め付けることになり。最後まで言い切らなかったのセリフを「もっとえっちしたいから抜かないで」の意味だと解釈したギルガメッシュが、再び臨戦態勢になる。

「ち、違うから! えっちしたいって意味じゃなくて……!」
「抜かないでそのままもう一度しろと言っただろう、ようやくその気になったか……!」
「違ーう! 第一、もうすぐ昼休み終わるんじゃ」
「とっくに終わっているぞ」
「……はい?」
「昼休みならとっくに終わっている。この部屋は応接室と同じでチャイムが聞こえんようになっている。知らんのか」
「え……え!?」

 興奮で熱くなった体が一気に冷めていった。腕時計を見ると、確かに休憩時間は十分ほど前に終わっていた。
 の考えていた予定では、ギルガメッシュと昼ごはんを食べて休憩時間内に戻ることになっていたので、当然受付の他のふたりにはなにも言ってない。仕事をすっぽかしたことになっているのではと、みるみるうちに血の気が引いた。

「こうなることは想定内、貴様の上司の総務課には早退する旨をシドゥリから伝えてある。無断でサボったことにはならん」

 そんなを見下ろし、額の汗を拭いながらギルガメッシュが言った。それを聞き、シドゥリが会長室を出ていく前にギルガメッシュが「総務に連絡しておけ」と言ったのはこのことかと得心がいった。得心はいくのの、強制的に半休になったことにはもやもやする。

「ギルのバカ、もうお昼にえっちしないからね」
「なに? なぜそうなる!? あれだけよがっておきながら貴様……!」
「そ、それとこれとは別です! えっちするたびに午後半休取ってたら給料減るでしょ!」
「はっ、その分我が養ってやる。というか仕事なぞ今すぐ辞めろ、我が娶る」
「だっ……そんなのだめだから! 仕事は辞めません!」
「チッ、強情め」

 もし仕事を辞めてギルガメッシュから与えられるままになると、それこそだめになってしまう気がする。人間としても、ギルガメッシュの恋人としても。

(仕事を辞めるのは絶対だめ。だって、そんなの)

 今以上に──
 不意に、中のギルガメッシュが動き出した。硬さを保ったままの肉棒をゆるゆると動かしており、は信じられない気持ちで後ろを振り返った。

「あの……ギル?」
「半休になったのだ、心置きなく我に付き合えるな、?」

 ニヤリと顔を凶悪に、かつ色気たっぷりに歪ませたギルガメッシュがを捉えていた。逃げようにも、既に性器がハマったままである。

「え、あの、待って、こんなところでほんとに二回もするの!?」
「今までもここでさんざんセックスしただろうが」
「そっ……そうだけど……そうだけど……!」

 だからといって会長室での情事が容認されているわけではない。部屋の主はこの通りだが、本来なら仕事場である。仕事をする場所である。決してセックスをする場所ではないのだ。

「あ、朝もしたのに!」
「だからなんだ? 我は今抱きたいと言っている」
「ひゃ、ん、動かないで……!」
「付き合ってもらうぞ、

 結局、二回戦をする羽目になったは、行為の疲れと食後ということもあって、身支度を整えた後に眠ってしまった。



 終業時間までの間、はほとんど寝ていた。途中で何度か目を覚ましたの耳には、息つく暇もなく仕事をするギルガメッシュとシドゥリのやり取りが聞こえてきた。

「その件は担当に任せてある。我が下す判断でもない。過去のデータと経験を元に考えろと言っておけ」
「そのように。では、明日の担当者との面談は」
「取り消しておけ。その時間に中国社との電話会議を入れろ。中間報告が上がっておらん。なにを渋っているのか知らんが、待てん。直接報告してもらおうではないか」
「かしこまりました」
「それと明日の会食はキャンセルだ。先方に伝えておけ」
「はい。では、また昼食をピックアップしておきます」
が好みそうなものでいい」

 の名を呼ぶその一瞬の、柔らかい声音。
 突然名前を出されて、体が震えそうになった。特に布擦れの音もしなかったし、ギルガメッシュは仕事に集中している。おそらくが起きていることは気づいていないはずだ。

(こんなの、こんなのってない)

 シドゥリとのやり取りは半分も理解できなかったが、との時間を工面するために仕事をいくつかキャンセルしたり、しわ寄せのように溜まっていることはわかった。ギルガメッシュの心遣いが、嬉しくて、苦しくて、切なくて、悔しくて、涙が出そうになるのを懸命に堪えていた。

(私は、ギルの妨げになってるんじゃないの……?)


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