会長からセクハラを受けています その5


 ギルガメッシュの突然の同棲宣言を受け、あんぐりと口を開けたまま呆然とする。胸を張って仁王立ちするギルガメッシュを見つめていたが、ギルガメッシュがの反応が乏しいことに片眉を跳ね上げたことで、我に返る。

「どうした、もっと喜ぶがいい。喜びのあまり我に抱きついてもよいのだぞ?」
「いやいやちょっと待って……! ここに住むってどういうこと?」
「言葉通りだが?」
「さも当然のようにいきなり同棲宣言されてもなんのこっちゃなんですけど!? わかるように説明してくださいっ!」
「まったく、仕方のない女だ」

 ため息をついて腰に手を当てるギルガメッシュ。なんだそのため息は。ため息をつきたいのはこちらだ。

「言ったであろう、貴様との時間が足りんせいで、貴様を見ると頭が働かんと」
「う、うん……え、だからここに住むってこと?」
「そうだ。案ずるな、ここに我の荷物を持ち込むことはせん。どのみち入らんだろうからな」
「そりゃそうだけど」
「この近くに我の荷物を置く部屋を借りてある。貴様はなにも言わずに我を迎え入れるだけでいい」
(近くに部屋があるならそこに住めばいいのでは……?)

 ギルガメッシュの言葉にそう思っただが、口にはしなかった。方法はどうあれ、多忙を極める身であるのにとの時間を捻出しようとしてくれていることは単純に嬉しかったのだ。
 がギルガメッシュと一緒にいるときも、表情を曇らせる瞬間があることを、目ざとく見ているのだ。
 我が道を行くようで、周りの人間のことをよく見ている。のことも、が思っている以上に見ている。
 胸が、苦しくなった。
 また表情が曇りそうになったところで、ギルガメッシュの腕に絡めとられた。抱き寄せられて顎を持ち上げられ、くちびるに熱のこもった視線を注がれる。

「ぎ、ギル?」
「おかえりのキスがまだだな」
「えっ……!? お、おかえりのキスって……」
「ん」

 といって、くちびるを突き出して迫ってくる。腕の拘束を強くして迫ってくるものの、いつものように強引にキスはしてこない。なんとしてもからキスをさせたいらしい。
 目を伏せたギルガメッシュのまつげが長い……と思いつつ恥ずかしさでキスをためらっていると、ぐぐぐっと腕の力がさらに強まった。痛い。馬鹿力は多忙の中にあっても健在のようだ。
 腕の力は弱まりそうにないし、これ以上待たせるとギルガメッシュが短気を起こして押し倒される……という展開もなきにしもあらずだ。は恥ずかしさを押し込めて、目の前の形のいいくちびるに口をつけた。

「お、おかえりなさい、ギル……」

 きっと顔が真っ赤になっているに違いない。顔が熱い。
 くちびるを離して精一杯の声量でおかえりなさいを言うと、ギルガメッシュの口角が吊り上がった。直後に、くちびるを食べられた。

「んっ!? ん、んん〜っ」

 強引に舌をねじ込まれて、の舌を熱心に吸ってくる。呼吸すらもさせてもらえないような激しいキス。ちゅ、ちゅぱ、じゅうっ、という音と、のうめく声が狭い室内に広がる。

「はあっ、はあ……ぎ、ギル……」
「貴様の児戯のようなキスでは足りん、次からはこれくらい濃厚なものにしろ」
「む、むり……」
「無理なものか」
「あっ、や、どこ触って」

 口元やら頬やら、リップ音を立てながら吸い付いてくるかたわらで、ギルガメッシュの手はの臀部を撫でている。自分のほうへの体を引き寄せながらの体に腰を押し付けてくる。下腹部に、硬いモノが当たる。

「だ、だめ……今日、お昼にもえっちしたのに」
「たったあれだけで足りるか」
「ん、でも」

「っ……!」

 耳元に低く、熱のこもった声を吹き込まれる。たったそれだけで下腹部が疼いてしまいそうになるのを必死で耐える。明日も仕事。寝るにはまだ早いが、ギルガメッシュに付き合っていてはいつ眠れるかわからない。は唾を飲み込むと、意を決してギルガメッシュの体を押し退けた。

「きょ、今日はもうだめ! お昼にしたからだめです!」
「むっ……」
「キスでその気にさせようとしてもだめなものはだめです!」
「チッ……我に躾られた淫らな体のくせに、なかなか足掻くではないか。小癪な」
「いやほんとにもう体力ないから勘弁して」
「ふん、まあいい。興が削がれた。シャワーを貸せ」

 から腕を離すと、ギルガメッシュは浴室へ向かった。ぽいぽいと服を脱ぎ散らかしてさっさと中に入る。すぐに中からシャワーの水音が聞こえてきた。割とあっさりと諦めてくれたことに胸をなで下ろす。
 バスタオルを浴室の前に置き、客用の布団を敷く。ここに引っ越して来た時に家族が置いていったもので、長らく使われてなかったが、まさかこんな形で使うことになるとは。枕にカバーを付けて、は自分のベッドに寝転ぶ。

(なんか、どっと疲れたな……)

 ギルガメッシュは本当にここに住む気なのだろうか。いつだって有言実行の男、そしてそれを実行するにあまりある財力と名の持ち主だ。おそらく本気だ。
 嬉しいのに、心の底から喜べないのは、の心に住まう不安が原因なのか。

(どうしたらいいんだろう)

 ギルガメッシュのそばにいても、どこか不安で。いつかこの幸せが壊れてしまうのではないか、ギルガメッシュが離れていってしまうのではないかと、怖くて。そんなに寄り添ってくれるギルガメッシュの心が嬉しくて、苦しかった。

(あ、ギルの着替え……どうするんだろう……)

 ここにはギルガメッシュの着替えなど置いていないし、ギルガメッシュは手ぶらに近く、着替えを持ってきているようには見えない。コンビニで下着ぐらい買って来るべきかと思ったが、に心地よい睡魔が降り、だんだんと瞼が重くなっていった。

(まあギルがコンビニに売ってるパンツを履くかどうかわからないし……一晩くらいなら、なんとか……)

 一度目を閉じてしまえば眠りに落ちるのは簡単なことだった。夢の中でギルガメッシュが全裸で部屋の中を歩き回り、それを顔を赤くしながら注意している自分の姿を見ながら、は眠りについた。



 目が覚めたのは、体の違和感からだった。
 完全に覚醒する前から、何度か目を開けてはまた眠るということを繰り返していた。夢か現かはっきりしない中でひとつだけ確かなことは、ギルガメッシュがの隣に横になっていて、彼が絶えずの体にいたずらをしていることだった。

 全裸のギルガメッシュが、のパジャマのボタンを外し、ブラジャーをめくってあらわになった乳首をいじる。が起きないように、そっと。しかし確実に反応させるような、そんな手つきで乳首をコリコリと指で転がす。眠っていても刺激に反応して勃起する乳首を見て、ギルガメッシュが興奮したように片方の乳首を口に含む。鼻息荒く口の中で乳首を舐めると、いっそう硬さを増していく。ちゅっ、と乳首を吸うと、がんん、と声を出した。
 起きたかと動きを止めての様子を見守る。は薄く目を開けただけで、すぐに寝息を立て始めた。それを見て、ギルガメッシュはまたいたずらを再開する。
 胸の谷間に顔を埋めてぱふぱふと柔らかさを楽しんだ後、下半身へとターゲットを移した。
 そっとパジャマのズボンをおろすと、可愛らしいレースのパンティが目に入る。色気のある、というより女の子が好きそうな、というデザインのそれは、によく似合っていた。の股間にむしゃぶりつきたくなったが、衝動をこらえてそっと指を這わせた。
 クリトリスのあたりを指でなぞると、の足が動いた。何度か指を往復させて反応を楽しんだ後、さらに奥のほうへ指を進める。乾いているはずのパンティは、湿り気を帯びていた。
 思わず笑い声を上げそうになった。やはり淫乱の素質がある娘だと、その娘を満足させられるのはこの我しかいないと。喉の奥で笑いを殺すと、最後の砦であるパンティに手をかけた。
 仰向けに寝ているの両脚を慎重に開かせ、パンティをするすると下ろしていく。指先を舐めて湿らせてからの膣口を探ると、くちゅ、と音が立った。指先を割れ目に沿って這わせると、ねちゅ、と襞が吸い付いてくる。

「ん……ぁ……」

 が甘い声を上げて、脚を閉じようとしてくる。それをそっと押しとどめ、もう一度指先に唾液を付けてから、割れ目から少しだけ内部へと侵入する。中は湿っていて、の体温であたたかい。そのままゆっくりと中指を出し入れさせる。

「んっ……ふ、ぅ……」

 声とともにきゅっと内部が狭まった。異物の侵入を感じ取って、体が反応しているのだ。

「この、淫乱め」

 口の中でつぶやく。興奮はますます抑えきれず、指を出し入れしながらのクリトリスに優しく口付ける。くちゅ、にちゅ、と粘着質な音が、の股の間から立った。
 ギルガメッシュの熱い吐息と舌、そして指の動きに、の口から甘い声が小さく上がる。体が確実に覚醒へと向かっているのがわかる。ギルガメッシュはもう止められず、左手で自分の肉棒を扱きながらとうとう二本目の指をの中に入れた。

 ──その違和感に、目が覚めた。
 目を開けてみると、カーテンから漏れる朝日の中で、自分の股間に顔を埋めている男の姿が映る。体は目覚めた直後だというのに熱に浮かされて、快楽が全身にたゆたっている。認識が体の状態についていかず、は混乱のあまり硬直した。

「もう起きてしまったのか。まだ寝ていてもよかったのだぞ?」

 の股間から身を起こした男が、艶を含ませて笑っている。唾液に濡れた口元を舌なめずりして、の両脚を抱えた。

「ギル……? え、なに、ちょっと、」
「今更待てるか。昨夜もお預けで、シャワーから出てみれば我を差し置いて眠りこけおって……貴様の寝顔に精液をぶっかけてそれを写真に収めてやろうかと思ったぞ」
「え、え? 待って、ギル、あっ……!」

 の制止も聞かず、準備が整った膣内へ屹立を進ませるギルガメッシュ。頭はいきなり受け入れたと思っているのに、体のほうは待ち構えていたと言わんばかりにすんなりと入っていく。目を白黒させるをよそに、ギルガメッシュは腰を思うままに動かし始める。

「あ、あっ、まって、ギル、あっ、なに、これぇっ……!」
「惚れた女が隣で無防備に寝ているのだ、据え膳食わねば男ではあるまい」
「なに、そ、あっ、はあっ、あんっ……!」
「寝ている間もしっかりと反応しておったぞ。まったく淫らな体をしおって……」
「んあっ、や、そんなこと、ああっ」
「ないとは言わせんぞ! 我のモノを美味そうに咥えこんで離さんではないか……!」

 狭く小さなシングルベッドが、ギルガメッシュの激しい動きでギシギシと音を立てている。いつも情事に及んでいたホテルの広いベッドとは違って、狭い範囲で身を寄せ合うようにして、しかし激しさは変わることがない。やがては、頭の混乱をよそに、ただ男の欲望を受け止めて嬌声を上げることだけしか考えられなくなっていった。
 ふと、枕元の目覚まし時計がピピピッと鳴り始めた。本来の起きる時間になってしまったらしい。

「んっ、ギル、もう、時間、だめだから、あっ……!」

 が中断を持ちかけると、ギルガメッシュは手を伸ばして目覚まし時計を止めた後、さらに激しくの体を貪った。

「あっ、ひゃ、ああっ! だめ、ぎ、る、ああんっ……!」
「あと十分、いや、五分で終わらせてやる、だから大人しくしろ……!」
「は、あん、やあっ……!」

 の体を逃がすまいと、汗だくの上半身を倒しての体を強く抱きしめるギルガメッシュ。いやいや、と首を振るのくちびるにキスをして押さえ込むと、ラストスパートをかけるように腰を動かした。

「んんっ、ふ、んん〜っ! あ、だ、め、イっちゃう、そんなにしたら、イくのぉっ……!」
「いいぞ、イけ、我もそろそろ終わらせてやる……! 中に出すぞ、!」
「あん、だめ、中は、やあんっ、仕事、行くのにぃっ……! イ、く、ああぁっ……!」
「奥に出してやるからなっ……! 残さず受け止めろよ!」

 ぱんぱん、と肌がぶつかり合う音とベッドの軋む音、お互いの荒い息と嬌声が部屋を支配する朝の時間。絶頂を迎えたの最奥目掛けて精が放たれる。内部で脈打つ肉棒を感じて、の腰が震える。
 射精の余韻に浸っていたギルガメッシュは、が自分の体の下で暴れているのに気づいた。

「ばかばかギルのばか! 出勤前になんてことするの!」
「セックスだが、それがどうした?」
「中に出しちゃうし、体はべとべとだしっ……! 遅刻しちゃったらどうするの!」
「その時は我が会長権限で遅刻をなかったことにしてやる」
「ばかーーっ!」

 情事後の赤い顔のまま涙目で怒る。その顔も、力で叶わないと知りつつ暴れていることも愛おしくなって、思わずぎゅっと抱きしめるギルガメッシュ。はしばらくその腕の中で怒っていたが、ギルガメッシュが離してくれないことを察すると、体の力を抜いた。

「ばか……」
「ばかばかと、我に対してそんなことを言う女は貴様くらいだぞ」
「ばか、すけべ、変態」
「よし、今日から毎日朝昼晩と一日三回抱いてやる」
「すみませんでした許してください」
「遠慮するな。今日の昼は会長室に来い。午前は社外に出ているが、貴様がいるなら戻って昼食を取ってやらんこともない」

 ギルガメッシュの発言に、は驚いた。多忙のあまり、いつも接待以外で昼食を取らない、もしくはゼリー飲料で済ませるギルガメッシュが、に会いに本社ビルにやってきて昼食を一緒に取ろうと言っている。ギルガメッシュの健康状態が少なからず心配なにとって、願ってもない申し出だった。たとえその後に重度のセクハラが待っていようとも。

「ほんと?」
「本当だとも」
「……じゃあ、お昼に会長室で待ってる」

 そう言ってギルガメッシュに抱き着くと、を抱きしめる腕の力が強まった。苦しいくらいだったが、その苦しさが幸せで、苦しいのに満たされていく。
 いつまでもそうしていたかったが、時間は無情に過ぎていくもの。ギルガメッシュが首筋を舐めてくるのを感じつつ、ちらりと時計を見ると、そろそろシャワーを浴びなければ本当に遅刻しそうな時間だった。

「ギル、もうそろそろシャワー浴びなきゃ」
「む、そうか。ならば手早く済ませるぞ」
「うん……?」

 といって、の中から出て身を起こすギルガメッシュ。やけにあっさりと離れるなと思いつつ、も起き上がって浴室へと向かう。一緒についてくるギルガメッシュ。

「なんでついてくるの!?」
「貴様こそなにを言っている? ひとりずつシャワーを使っていては時間の無駄だろうが」
「えっ……いや、たしかにそうだけど……!」
「貴様の中まできれいにしてやるぞ、ありがたく思え」

 ニヤニヤと笑いながらしっかりとの体を捕まえたギルガメッシュは、を浴室へと押し込める。ばたん、と浴室の扉が閉まる音が、呆然とするの耳に入る。
 その後、文字通り中を「きれいに」されたは、赤いど派手な高級車に送られて遅刻ギリギリに出勤を果たしたという。なぜかふらふらと足元がおぼつかず、朝からげっそりとしていた様子が、同僚の受付の女性たちに不思議がられていた。


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