会長からセクハラを受けています その4


「ふあ……」

 こらえきれずに出たあくびのせいで、目元に涙がにじむ。手にしていた湯のみを流しに置き、茶托をシンクの脇に置くと、目尻の涙を指で拭った。スポンジに液体洗剤を染み込ませると、湯のみ、お茶出しに使った急須と茶こしを洗い始める。

(昨日は会長のせいで朝帰りになっちゃったから、さすがに眠いや……)

 が働くウルク商事のボスであるギルガメッシュは、昨日の昼過ぎに一ヶ月ぶりに日本へ帰ってきた。しかし、昨日は外部の仕事を片付けていたらしく、ウルク商事のビルには入らなかった。空港に着いたであろう時間に受け取ったメッセージに「日本に着いた」とだけ書かれていたので、もしかしたらひと目だけでも会えるかもしれないと期待していただけに、は落胆したものだった。
 定時になり、帰ろうとした時に、ギルガメッシュから電話が入った。

「いつものホテルで待っていろ。二十二時には戻る」
「う、うん……待ってる……あの、ギル」
「なんだ?」
「おかえりなさい」
「──」

 スマートフォンのスピーカーの向こうで、息を呑んだ気配がした。

「……突然可愛いことを言うな」
「あれ、だめだった……?」
「仕事が手につかんだろう」
「え、それは困る……早く、会いたいから、その……お仕事頑張ってね」
「ぐっ……貴様、それはわざとなのか?」
「え?」
「ホテルに着いたら覚えていろ、立てなくしてやる」
「え、ええ?」

 なにがギルガメッシュの琴線に触れたのかわからないままスピーカーに耳を傾けていると、静かになったと思ったら、ちゅっ、というリップ音が聞こえてきた。

「……!」

 もろに耳元にリップ音を吹き込まれ、はスマホを落としそうになる。今は外で、人目を避けて大通りから一本外れた界隈で通話をしている。人目を避けると言っても、大通りから比べれば人がいないというだけで、完全に無人ではない。ちらほらと通行人がいる中で、スマホを握りしめて顔を真っ赤にしているの姿は、傍目から見ればさぞ滑稽なことだろう。

「い、今の……!」
「たまにはこういうのもよかろう? さあ、貴様もしろ」
「え!?」
「我がやったのだぞ? 貴様もして当然だろう」
「で、できないよ、今は外だもん……」
「我は気にせん」
「私が気にするの!」
「我の仕事のやる気に関わるぞ、早くせんか」

 まったく傍若無人の我様ルールである。しかし早く会いたいと言った手前、仕事を早く終わらせてもらいたい。そのためにも、はぐっと羞恥心を押し殺して、小っ恥ずかしい真似に挑んだ。

「ちゅっ……こ、これでいい……?」
「──ならん、我への愛の告白がなかった。もう一度だ」
「なっ……! なんでそんなことまでっ……!」
「そら、早くせんと我の仕事がどんどん長引くぞ?」
「うう……」

 ギルガメッシュに急かされ、は羞恥心と焦りで正常な判断力を失っていく。冷静に考えれば、ギルガメッシュの言うことに従わずとも電話を切ってしまえばいいのだが、軽い羞恥プレイとギルガメッシュに早く会いたい一心で、ギルガメッシュの声に抗えなかった。通話口に口を近づけて、口元を片手で覆った。

「ちゅっ……ギル、大好き。早く、会いたい……」

 スピーカーの向こうは、しばし無音だった。こんな恥ずかしいことを言わせておいて無反応なのかとムッとしていたら、数瞬の後に、満足そうな声が聞こえてきた。

「そうかそうか、そんなに我に会いたいか。ならば期待に応えてやるのが恋人の務め。録音した今の音声を聞きながら仕事を片付けてやるゆえ、ホテルでシャワーでも浴びて待っているがよい」
「ちょっと待って録音したってなに!? なに勝手に録音してんの!? 消して!」
「せっかくいい感じで録れたものをなぜ消さねばならん」
「は、恥ずかしいから……!」
「今更なにを言う、褥ではいつも言っていることではないか」
「……! ……!」

 羞恥心のあまり、声も出なくなった。上機嫌に笑い声を上げたギルガメッシュは、もう一度リップ音を吹き込んでくる。

「望み通り早く仕事を片付ける。今夜は終電で帰るなどと戯れ言が許されると思うなよ」
「え、あ、ちょっと」

 明日も平日だから、それは困る。
 そう言い募ろうとしたが、すでに電話は切られてしまっていた。
 その後、当初言っていた二十二時よりも一時間も早く例のホテルの部屋へと現れたギルガメッシュは、に再会を喜ぶ間も与えずベッドに押し倒したのである。そこからはもう、獣のように愛欲に溺れるだけだった。

「あっ、ひゃ、うっ、も、だめ、あ、んっ」
「まだ、もう一度だ、……!」
「や、も、むりぃ……もう、これ以上、壊れちゃ、う、あっ、ああ〜〜っ……!」
「まだ、だ、我の許しなく、壊れてはならんぞ……!」

 お互いの性器が擦れて痛いという程にまぐわい、はその激しい行為の最中に意識を飛ばした。
 次に目を覚ますと午前一時をとうに過ぎていた。終電などとっくにない。始発で家に帰り、身支度を済ませてそのまま今日出社したというわけだ。

(昨日のアレのおかげで、腰とアソコは痛いし、体はだるいし……やりすぎなんだってば……中に出すから、あとが大変だし……)

 ギルガメッシュは先の結婚宣言以来、避妊具をつけないままセックスに及ぶことが多い。が付けてとせがむと付けるが、昨夜のように早く入れたくて仕方がないといった興奮状態の時はまず付けない。ギルガメッシュは嘘はつかないので、本当にが妊娠しても構わないと思っているのだろう。急に子供ができても、共々養っていける甲斐性もある。
 としても、ギルガメッシュと一緒になるのはやぶさかではない。むしろ嬉しいのだが、まだ心の準備ができていないのだ。

(ギルのことは好き、ギルも私のこと大切にしてくれる……でも、どうしたって不安が抜けない……)

 ギルガメッシュがいくら今のに惚れたと言っても、の中にはまだ言いようのない不安が渦巻いている。ギルガメッシュとの関係をひた隠しにするのはそのせいだ。彼と付き合っていることが他人に知られたら、釣り合いが取れてないとか、体で取り入ったのではないかとか、そういうことを言われるんじゃないかと頭に浮かんできてはの不安を大きくする。
 離れていてる時間のほうが長いから、そんな妄想をするのではないか。そばにいたら、それも治まるのではないか。そう思い込もうとしても、そばにいても漠然とした不安は一瞬姿を隠すだけで、ギルガメッシュと離れるとすぐに頭をもたげてくるのだ。
 であれば、これはギルガメッシュの問題ではなく、自身の問題だ。
 泡にまみれた湯のみを持ったまま思案にふけっていると、手の中の湯のみが泡で滑った。シンクとぶつかった音で意識を取り戻すと、は蛇口を上げて泡をすすぐ。きれいになった茶器類を水切りトレイに並べ終わると、手を拭いた。
 今はこんなことを考えている場合じゃない、さっさと受付に戻らねば。と、思った次の瞬間、後ろから抱きすくめられた。

「ひゃっ!? ちょ、ギ……会長……!」

 背後から香ってきた香水で、体に触れてきたのがギルガメッシュだとわかった。突然のことに硬直するの体を、背後から回した手であちこちまさぐっている。首筋に寄せられたくちびるから熱い吐息が漏れている。
 すでに興奮状態である。

「今日も職務に励んでいるようだな、結構」
「あ、ちょっ、と、いつから……」
「なに、つい先程からだ。貴様の後ろ姿を見ていたら、触れたくなった」
「なんで……! 仕事中、なのに」
「洗い物をしている姿というのは、なぜかそそる。それに……」
「あっ、や、」

 ギルガメッシュの両手がの尻を撫で上げた。の尻を自分のほうに引き寄せ、タイトスカートの上から撫でさする。

「改めて見ると、このタイトスカートとやらはなかなかに良い。貴様の腰から太ももの形がもろに出ている。実に性的だ」
「ん、そんなこと、言われたって……!」
「こうして尻を突き出していると、貴様の下着の線も浮かび上がっているな。こんないやらしい格好で客の男達の前に立っていたのか、貴様は」

 ギルガメッシュはの尻の谷間に股間を押し付けた。服越しにもわかるほどに硬度を持ったモノが尻の谷間に収まり、腰の小刻みな律動で擦れる。昨夜の情事を思い出し、思わず小さく声が漏れる。

「は、ぁん……や、擦り付けちゃ、んっ……」
「もう感じているのか? まったく、貴様の体は淫らよな。我以外の男も、このいやらしい格好で誘っていたのか、ん?」
「そんなこと、してないっ……あ、んっ……ふ、ぁ、」

 の顔を後ろに向けさせたギルガメッシュは、口答えをするくちびるをふさいだ。舌を中に滑り込ませての舌を吸うと、ふさがれた口の中で甘い声が上がった。

「あまり声を出すと、応接室まで聞こえるぞ」
「っ……!」
「我はそれでも一向に構わんが、見られたくなければ声を抑えたほうがいいのではないか?」
「っ……ギルがこんなこと今すぐやめればいい話でしょ……!」
「もう火がついたものは止まらん」
「あっ!」

 ギルガメッシュが身を屈め、尻の割れ目を広げるように肉を掴むと、の秘部にめがけて鼻先を突っ込んだ。スカート越しに思いっきりにおいを嗅がれた後、熱い吐息が吐き出され、の秘部はその熱をもろに受ける。触れられたわけでもないのに、ぞわぞわと快感で下腹部が震える。

「雌のにおいがするな。我のモノを擦り付けただけで準備万端とは、いじらしいではないか」
「やだ、あついっ……! しゃべっちゃ、やんっ」
「なんだ、これで感じているのか?」

 ぐりぐりと鼻先をスカートの上から秘部に押し付け、においを嗅いでは興奮した息を吐く。時折思い出したように尻たぶを揉まれ、は口元を覆って嬌声を堪えた。

「もう、やめてぇ……あ、ふ、っ……」
「そうだな、そろそろ我も仕事に戻らねばな」

 と言うと、ギルガメッシュは立ち上がった。ようやくギルガメッシュのちょっかいから解放されると安堵しかけたその時、カチャカチャと金属音が後ろから聞こえてきた。慌てて後ろを振り向こうとしたのスカートをギルガメッシュがたくし上げ、下着をパンストごとずり下ろした。

「やっ、だめ、会長……!」
「今度からガーターのパンストにしろ。いちいち下ろすのが面倒だ」
「なっ、なに言って……!」
「破ると怒るではないか」
「当たり前ですっ!」
「しーっ……静かにしろ、秘め事を余人に見られたくはあるまい?」

 怒らせているのはギルガメッシュだと言うのに、なぜに咎があるように言われなければならないのか。理不尽な言われように憤慨したが、確かに人は呼びたくない。口をつぐむの隙をついて、スラックスを下ろして性器を露出したギルガメッシュが、屹立した肉棒の先端を秘裂にあてがった。

「待って……! そんなの、急に入らな、あっ……! だ、め、んぅっ……!」

 の制止も聞かず、ギルガメッシュはメリメリと中へと押し進む。シンクに手をついて耐えるの体を抱き寄せ、髪をかき分けてうなじへ噛み付いた。

「っ……まだ、狭いな……だが、中まで濡れている」
「ぁ、だめ、まだ動いちゃ……あっ、あんっ、だめったら、ひゃ、ぅ……!」

 ほぐれていない中を、腰を小刻みに動かして慣らしたギルガメッシュは、うなじの噛み跡をべろりと舐める。の腰の高さまで膝を曲げると、奥をめがけて突き上げを開始した。

「あっ、ひ、やだっ、こんなとこで、だめぇっ……!」
「仕方あるまい、貴様がいやらしい格好をして我を誘うからだ」
「誘ってなんか、んっ、ふぁっ……!」

 ギルガメッシュのくちびるが再びの口をふさいだ。静かにしろと言いたいらしい。舌を執拗に絡め取られ、時折強く吸われる。性感帯を撫でられ、吸われるたびに下腹部が疼いた。中のギルガメッシュを締め付けてしまったのか、ギルガメッシュが興奮したように息を吐いた。

「いい締め付けだ……! ようやく興が乗ってきたか、
「んっ、ちが、そんなんじゃ、ないっ……!」
「つれぬ口だ。下の口は素直だというのに」

 いつの間にかベストとシャツのボタンを外され、ブラジャーをたくし上げられ乳房が露出する。尖った先端をぎゅっとつままれ、は背をしならせた。

「ひゃっ! や、だめ、強くしないで……!」
「なにを言うか、強いのが好きなくせに。嘘をつく口はふさいでしまおうか」
「んっ……! む、んぅ……!」

 ギルガメッシュは左手での口を覆うと、さらに激しく腰を突き上げた。ギルガメッシュの指の隙間から、の堪えきれない嬌声が漏れる。激しい突き上げのせいか、それとも口をふさがれたせいか、膣内が狭まる。
 嫌だと思っていても、体は快楽に流されている。これまでのギルガメッシュによる開発で、すっかり快楽に弱い体に、そしてギルガメッシュを受け入れる体にされてしまったのだ。顔だけでなく耳も首筋も赤く染めて突き上げに耐えるの姿に、一層ギルガメッシュの興奮に火がつく。

「はあっ…………!」
「んっ、んん〜っ! はっ、も、ゆるして……!」
「ならん、まだ許さん! 貴様のようなふしだらな社員は、我自らがしっかりと躾ねばな……!」

 一体なにをどう躾けるというのか。大体、は普段通り給湯室でお茶を入れた後の片付けをしていただけなのに、ふしだらとはどういうことなのか。タイトスカートだって、制服だから今までだってギルガメッシュは何度も見てきただろうに。一体なにがギルガメッシュの性欲に火をつけたのか、にはまったくわからなかった。
 激しさを増す責め立てに、の膣が限界を迎えようとしている。それを感じ取ったギルガメッシュが、の乳首を指で引っ掻いたりつまんだりする。

「んぁっ……! や、ふぅ、んんっ……!」
「イくのか? いいぞ、我もそろそろ貴様の中に出したいと思っていたところだ……!」
「ん、んんっ、ぁ〜〜……っ!」

 ふさがれた口の奥で、甲高い嬌声が上がる。の体が絶頂を迎え、びくびくと跳ねた。ギルガメッシュはの動く腰を押さえつけて突き上げ、ラストスパートをかける。やがて、衝動に抗わずに熱を解放すると、ずるりと中から肉棒を引き抜いた。白く濁った精液がどろりと膣口から垂れ、の足元に滴った。
 ギルガメッシュの手が口元から外れると、は生理的な涙が滲んだ目で後ろの男を睨んだ。

「もう、ばかっ……こんなところで、最後までしちゃうなんて……! また中に出しちゃうし、首は唾液でベトベトだし……って、話聞いてる?」

 の糾弾をよそに、ギルガメッシュはのむき出しになった乳房に吸い付いていた。柔らかな肉の感触を楽しむように吸い付き、赤い鬱血を残して乳首を舐める。放っておけば、二回戦に突入しそうなギルガメッシュの肩を叩く。

「あ、だめ、ギル……! 仕事中だから、もうだめだってば……!」
「うむ、足りん……もう一回」
「しません! 昨日、あんなにえっちしたのに……」
「昨日は昨日だ。今日もまたやるぞ」
「今日も……!? むりむり絶対むり……!」

 昨日の今日で、体がだるいとか腰が痛いとか、そういう状態にならないのだろうか。いくらなんでも性欲魔人すぎる。

「この後会長室に来い。じっくりと人目を気にせず抱いてやる」
「会長室を一体なんだと思ってるんだ!? だめだから! 仕事中でしょ!」
「貴様を見ると、頭が働かんのでな、どの道今日は仕事が手につかん。それもこれも貴様との時間が足りんせいだ」
「えええ……それは、仕方ないよ。ギルは忙しいし、私も仕事があるから……」

 いくら淋しくても不安でも、ギルガメッシュがそもそも日本にいなかったり、翌日仕事があるから終電で帰らなければならない日が多い。離れている間を埋めるように触れあっても、離れてしまえばあっという間に心に穴が開く。穴には次から次へと淋しさと不安が流れ込んで、の心の底に澱みを作っていく。
 胸が苦しくなった。こんなことをギルガメッシュと会っている間も考えるようなら、本当になんとかしなければならない。けれど、どうすればよいのかがわからない。ギルガメッシュの問題ではなく自身の問題ならば、ギルガメッシュにも相談できない。
 結局は、対等の立場ではないから、相談もできない。
 そして、そう思っているのは、おそらくだけなのだ。

(こんなこと、ギルには言えない)

 自分でもバカげた考えだとわかっているから、言えなかった。
 不意に、頭にポンと手を置かれた。ギルガメッシュの顔を見上げる。静かな瞳と普段通りの表情からはなにも読み取れなかった。ポンポンとの頭を撫でた後、ギルガメッシュはにやりと口角を上げた。

「いいことを思いついた」
「いいこと?」
「なぜ今までこの考えに至らなかったのか不思議だが……まあいい。後で楽しみにしていろ、
「え? え?」

 ひとりで納得してひとりで満足している様子のギルガメッシュに、が困惑して問い返すが、なにを訊いても「後でわかる」としか言わなかった。
 結局、その場は収まった。会長室に呼び出されることもなく、その後の仕事は何事もなかったように過ごした。給湯室から戻った時に遅かったね、と先輩ふたりに訝られたが、なんとかごまかした。
 終業時間になった。しばらく端末を眺めて待っていたが、ギルガメッシュからはなんの連絡もない。

(後で、が一体いつなのかぐらい、教えてくれたっていいのに)

 ギルガメッシュからの連絡を待つのを切り上げて、自宅へと帰る。洗濯をしたり夕食を食べたり風呂に入ったりして過ごしていたが、その間もギルガメッシュからの連絡はなかった。
 今日はもう呼び出しもないかな、と思ってテレビをぼんやりと眺めていた。最近、テレビをつけても集中して見ていないせいか、なんとなくチャンネルを合わせたバラエティはなにを話しているのかいまいち頭に入ってこず、特段面白くはなかった。
 テレビを見ていてもしょうがないし、昨日の今日で無駄に消耗したし、早いけどそろそろ寝ようか。がテレビを消して立ち上がったその時だった。
 ぴんぽーん、とインターホンが鳴った。
 思わずベッドの枕元に置いてある時計を見る。もう二十一時を回っている。宅配便を頼んだ覚えはないし、宗教や新聞の勧誘にしては働きすぎだ。誰かが訪ねてくるにしても、訪問をためらうような時間帯である。一体、こんな時間に誰が……

「おい! 早く開けぬか!」

 ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽーん。
 聞き覚えのありすぎる大きな声と、激しいインターホンの連打。は自分がパジャマ姿だということも忘れ、慌てて玄関へと駆け寄った。ドアチェーンを外して玄関を開けると、思った通り、ギルガメッシュが立っていた。すぐに開けてもらえず、目を不機嫌そうに細めている。

「なっ……なんで!?」
「なんでもなにもあるか。いいことを思いついたと言っただろう」
「はい?」
「いいからとっとと部屋に入れぬか」

 があまりのことに呆然としていると、ギルガメッシュは勝手に三和土に靴を脱いで部屋へと入っていった。ドアから手を離して彼を追う。部屋をぐるりと見渡して、ギルガメッシュはため息をついた。

「信じられんほど狭いな。豚小屋か?」
「ひとり暮らしの部屋になにを求めてるんだか……で、けなすために来たの?」

 が若干疲れながらギルガメッシュの意図を問うと、シングルベッドにどかりと腰かけた彼は、胸を張ってこう言った。

「ふん、喜べ。貴様と過ごす時間を増やすため、日本に滞在する際はここに住むことに決めたぞ!」
「…………は、あああぁぁ?」

 なぜか得意満面でふんそり返るギルガメッシュ。開いた口がふさがらない
 この部屋にギルガメッシュの私物が入りきるのだろうかと、混乱のあまり、場違いな心配が頭に浮かんできたであった。


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