会長からセクハラを受けています その3


 基本的にギルガメッシュは海外を飛び回っていることが多い。日本にはほんの数日滞在し、取引先との商談や視察を終わらせると、すぐにまた海外へ飛ぶ。そのためか日本に定住する家を持っておらず、と会う時はいつも例のホテルのスイートルームである。そのホテルはギルガメッシュがオーナーを務める会社のもので、常に最上階のスイートルームはギルガメッシュのために空けてあるという。そんなところでもギルガメッシュという恋人との次元の違いを思い知らされて、はどことなく暗い気持ちになる。当然尊敬もしているが、格差を思い知って突き放されたような感覚のほうが強い。

(この人といつまで一緒にいられるのかな)

 格の違いを知るたびに思うことだった。いずれギルガメッシュは自分を置いてでは手の届かない、それこそ一目見ることも叶わないような、遠い場所に行ってしまう気がするのだ。今でさえ世間一般でいうような──こういうとギルガメッシュは我を凡俗どもと一緒にするなと怒りそうだが──カップルの過ごす日常とは程遠い。
 普段は時差を気にして電話ができず、メッセージだけの短いやり取り。たまに日本に帰ってきたと思ったらすぐにホテルに呼びつけられ、贅を尽くした広い部屋で狂ったように体を貪られる。デートらしきものをしたことは一度もないし、食事もがへとへとになっているのでまともに向き合って取ったことがない。身につけているものも持っているものも、なにからなにまでとは違う。たまに本気でどうして付き合っているんだろうとわからなくなる。
 それでも。そんなぐちゃぐちゃの考えはギルガメッシュに会えば頭の中から追い出されて、単純にこの男が好きという気持ちだけが残る。息継ぎすらさせてくれないようなキスも、の体力などお構いなしに抱いてくることも、全部が愛おしいと思ってしまう。
 そう、例えばこんな公衆の面前で思いっきり抱きつかれても、恥ずかしさよりも嬉しいという気持ちのほうが大きいのだ。

「我の出迎えとは殊勝な心がけだな、。そんなに我に会いたかったか?」
「ぐえっ……ぐ、ぐるしい……」
「そうかそうか、我に会いたくてたまらず苦しかったのだな。よいぞ、もう我慢せずともよい。存分に再会を喜びこの胸に泣きつくがよい」
「い、いだい……」

 効果音をつけるならぎゅうぅっという音だろうというほどの熱すぎる抱擁を受け、は潰されたカエルのような声を出した。
 ギルガメッシュはビジネスマンのくせにやたらとたくましい体をしている。そのたくましい体に見合う馬鹿力をお持ちであり、その力で思いっきり抱き締められれば、でなくとも情けない声が出るはずだ。
 土曜日の昼下がり、ここは空港のロビーの一画である。たった今日本に降り立ったギルガメッシュを迎えにきたは、ギルガメッシュの視界に入った途端に熱烈な抱擁を受けた。いつも通りド派手なブランド物に身を包んでおり、やたらと目立つ金髪ゆえに見つけやすくて助かったのだが、周囲の目線も引き付けやすい。その状態でぎゅうぎゅうと抱きつかれればどうなるか、推して知るべし。

(恥ずかしい、けど……やっぱり会えたのは嬉しいし、ギルも喜んでくれてるんだよね……?)

 衆目をはばかることなくを胸の中に収めてすりすりと頬ずりをしている。うん、たぶん喜んでるんだろう。
 そうして過ごすこと数分、やっと腕の力が弱まったかと思うと、くちびるを近づけてきた。思わずギルガメッシュのくちびるを手で覆うと、赤い瞳がむっとつり上がった。

「こら、拒むでない」
「いやいやここじゃだめだから」
「なぜだ?」
「なぜだ、じゃない! 公共の場で周囲の目もあるんだから……!」
「ふん、そのような瑣末な」

 どうでもいいと鼻を鳴らして、再び顔を近づけてくる。も負けじと押し返そうとするが、力ではまったく叶わない。短い攻防の末にくちびるが触れ合う……寸前で、涼やかな声がギルガメッシュを阻んだ。

「会長、お時間です。さんにちょっかい出してる場合ではありません。次の予定が」
「ええい邪魔をするなシドゥリ! 仕事なぞ知らん! 我はの欲求不満を解消せねばならんのだ!」
「ちょっ、大声でなんてことを!!」
「わがままを言わないでください。車をつけてありますから早く」
「断る! 我はまだと……!」
さんも一緒ですよ」
「いやだと一緒に……なんだと?」
「だから、今日はウルク商事の仕事なのでさんも一緒です」

 そうなのだ。会長であるギルガメッシュの来客予定の対応と、ギルガメッシュの捕獲のため、昼から休日出勤扱いとなっている。これはにシドゥリからこっそりとお願いされたことなので、受付のほかのふたりは休みである。
 と離れずに済むとわかった途端に機嫌を直したギルガメッシュ、シドゥリとともに用意されていた車に乗り込む。運転手付きの高級車で、車内はとんでもなく静かで揺れが少ない。ギルガメッシュとともに後部座席に乗り込むと、すぐさま腰を抱かれた。

「あ、ちょ、ギル」

 ちゅ、ちゅっと頬と首筋に吸い付かれた。前の座席に座るシドゥリと運転手を見るが、ふたりはこちらのことを気にしてないようだった。

「まって、こんなとこでっ……!」
「シドゥリたちのことなら気にするな」
「気にするなって言ったって」
「キスぐらいさせろ」
「っ……! ん……ぁ、ん……」

 その言葉で抵抗する力を奪われて、ギルガメッシュのくちびるを受け入れてしまう。ああ、これもバックミラーにばっちり映ってるんだろうなと思っていたら、革張りのシートに押し倒された。バックミラーを気にするを気遣ってか、それとも。

「あの、なんか、当たってる……」
「当てているのだ」
「わーーなんで出すの! しまって!」

 ファスナーを下ろしてボロンとイチモツを露出してきたギルガメッシュを、信じられない気持ちで見上げる。まだ本気になっていないような表情だが、彼の立派な息子はギンギンの臨戦態勢である。前席のふたりからは見えないだろうが、こちらのやり取りはばっちりと聞こえているだろう。もしも自分の上司が後部座席で恋人に性器を露出したとしたら、なら退職を考えるレベルでドン引きである。気まずさで死にたくなってくる。

「いやいや絶対だめだからね!? 車の中でしかもほかに人がいるとか無理だからね!?」
「む、コレを見てもまだそんな戯言をいうのか? 見るがいい、この張りつめたモノを。これが欲しくないのか貴様」
「戯言を言っているのはむしろ会長では!? たいそうご立派ですが謹んで遠慮します!」
「ふ、そう褒めるな」
「嫌味だよ! 嫌味で言ったんだよ! もーー絶対えっちしないから早くしまって!」

 えっちしない、の一言に口を尖らせるギルガメッシュだが、逆になぜここでできると思ったのか知りたい。いや、やっぱり知りたくない。

「……一体いつなら貴様を抱けるのだ。やっと会えたというのに」

 はギルガメッシュの仕事のついでのようなものだから、ギルガメッシュの仕事さえ終われば普通にプライベートの時間でなんでもできる。なのに、それをそのまま伝えるのもかわいそうになってくるほどにしょんぼりしているように見えて、は身を起こしてギルガメッシュの頭を撫でた。

「……お仕事が終わるまで、待ってるから。そしたら一緒にいられるから」
「……
「だから、お仕事頑張って、早く終わらせて……そしたら、ご褒美に、いっぱい、えっちして、いいから……」

 おそらく、これは墓穴を掘っている。明日は日曜日で休みだから、問答無用で例のホテルに泊まることになる。なにもなくてもこれでもかと抱かれるに違いないのに、こんなことを言ってしまっては文字通りの失神コースではないだろうか。
 恥ずかしさのあまりギルガメッシュの顔を見れなかったが、頬に手を当てられて顔を上げさせられた。絶対笑っているんだろうなというの予想通り、少しだけ耳元を赤く染めたギルガメッシュの、色気に満ちた笑みが目の前にあった。

「その言葉、違えるでないぞ」
「う……うん……わかったから、それ、しまって……って、なんかさっきより大きくなってない?」
「貴様が愛いことを言うからだ、馬鹿者」
「うう……私のせいなの……?」

 ギルガメッシュの言い分に納得がいかず、今度はが口を尖らせる番だった。しかし、そのくちびるをギルガメッシュに舐められ、すぐに引っ込めることになる。
 ウルク商事の本社ビルへ到着した一行は、それぞれ仕事へと散った。は五時までの来客の対応をすると、することもなくギルガメッシュの仕事が終わるのを待った。七時頃にシドゥリが受付の控室に顔を見せた。もう社外の客が来る予定は終わったので受付の照明を落とすらしい。まだギルガメッシュの仕事は応接室で続いているが終わるまでどうするかを訊かれ、は社内で待つと答えた。それならば、と会長室へと通された。部屋の主がいない会長室は、広く、淋しかった。
 いつ終わるのかわからないので食事をとるわけにもいかず、はぼうっとガラスの向こうのネオンを見つめて過ごした。受付の対応だけで特に動いたわけでもないので、そんなに食欲が湧かなかったのが幸いだった。
 八時半にさしかかろうかという頃に、会長室のドアがガチャリと開いた。ソファセットに座っていたがソファの背もたれ越しに振り返ると、ギルガメッシュがふらふらとこちらに歩いてくるのが見えた。一見して疲れているとわかる様子だった。手にしていた資料をテーブルに投げ捨て、ソファにぼすっと倒れこんだギルガメッシュは、の元まで這って移動して頭をの膝に乗せた。

「ギル……?」
「……シドゥリめ、ここぞとばかりに仕事を詰めおって……我は働いた、働いたぞ……」
「お、お疲れ様……」

 ぐりぐりと太ももに顔を押し付けてくるギルガメッシュの頭を撫でると、彼は仰向けに体勢を変えた。さらさらの金髪がの黒いボトムの上に広がる。右手をその金糸に絡ませ、左手を所在なさげに泳がせていると、ギルガメッシュの右手に絡み取られた。指と指とを絡める貝殻つなぎというやつだ。

「長時間のフライトの後にこんなに仕事を詰めるやつがあるか……奴は鬼だぞ、気を付けろ……」
「私には優しいんだけどな、シドゥリさん……」

 シドゥリはこの会社の所属というわけではなく、ギルガメッシュ個人の秘書のようなものだ。多忙を極めるギルガメッシュの秘書を務めるには、鬼と呼ばれるような手腕が必要なのかもしれない。

「これ、見てもいい?」
「構わん、好きにしろ」

 ローテーブルに投げ出された資料を手に取る。ホテル事業へのコンサルティング計画などが細かに記されていた。経営学などはからっきしのが読んでも、半分も意味を理解できなかった。

「ホテル……?」
「周辺の商業施設へも提供が決まっている。今日はその計画のすり合わせと行政対応だ」
「へえ……」
「我を馬車馬のように働かせた腹いせに、その商業施設に貴様の望む店でも入れてやろうか」
「え?」
「なにが欲しい? 温泉が有名らしいぞ、出来上がったらふたりで行くか」

 ギルガメッシュの発言に、思わず見ていた資料をよけて太ももに乗っている顔を見る。にやりと口角を上げたその表情は、冗談とも本気とも取れる顔だった。ギルガメッシュは身を起こしての肩を抱き寄せると、耳たぶに吸い付いた。ギルガメッシュのくちびるがもたらす甘い痺れに、は手にしていた資料を取り落とした。

「ひゃ、ん、でもそこ、ホテルなんでしょ……?」
「スイートルームに和室も用意させればいい。風情はそれなりに出よう。温泉宿で情事にふけるのがこの国の伝統であろう?」
「なにその伝統……んっ、は……ん、」
「そろそろご褒美とやらをもらおうか」
「こ、ここで……?」
「この前もここでセックスしただろう、なにを今更」
「あっ、あの時とは状況が違う……! ゴムもないのに……!」

 この前とは喧嘩の後で会長室に連れ込まれた時のことを指す。あの時はが文句を言う余裕すら与えずに行為に及んだくせに、仲直りしたという結果によってアレがラブラブえっちに変換されているらしい。ポジティブにもほどがある。
 反論しようとしたのくちびるに、ギルガメッシュの人差し指が触れた。息がかかるほどの距離で艶笑され、は息をのんだ。金糸の間からのぞく宝石のような瞳にまっすぐに見つめられると、なにも言えなくなった。

(ずるい)

 その一言でさえも、互いのくちびるの間に吸い込まれて、音になることはない。



 ぎし、ぎし、と、ギルガメッシュの律動に合わせて本革張りのソファが軋む。向かい合うようにソファの上に座り、片足を絨毯の上についてまぐわっている。は目の前のたくましい体に腕を回し、不安定な体勢にも関わらず激しく腰を振るギルガメッシュの動きに必死でついていく。

「んっ、あっ、あん、はげし、あうっ」
「激しいのが好きだろう? そら」
「あっ、や、だめっ……ソファ、よごしちゃ、う、」

 ギルガメッシュは背もたれ側のの脚を自分の肩にかけると、の腰を持ち上げて、舌から深く奥をえぐるように腰を動かした。

「あぁん……! それ、や、ひ、ん……!」
「我がいない間、その淫乱な体をさぞ持て余したのだろう? 素直に溺れるがよい」
「んっ、もてあましてなんか、あぅっ、おく、こすれて、ああっ……!」
「、は、いい締め付けだ……!」

 革と汗ばんだ体が擦れる音と、ソファが軋む音。ふたりの息遣いと、嬌声と、肌を打つ乾いた音、そして粘膜が擦れる粘着質な音。会長室の広い空間にそれらが響いて散っていく。ギルガメッシュの仕事場──自分の職場で淫蕩にふけっているのだと思うと、背徳感で興奮してしまう。ほんの数人しか知らない、ふたりの関係。
 ぴりりりり。
 そこへ乱入した軽快な電子音に、はびくりと身を強ばらせた。ギルガメッシュの携帯端末からのものだ。ギルガメッシュは床に散らかしっぱなしのスラックスを引っ張りあげて、ポケットから端末を取り出す。鳴り続ける電子音は電話の着信を意味する。繋がったままのをチラリと一瞥すると、なんとその着信を取ったのだ。

「!? ……ぁ、ん、……!」
「シドゥリか、どうした?」

 通話している最中なのに、止めていた腰の動きを再開させるギルガメッシュ。信じられない、と視線を送るが、まったく意に介していない様子でニヤニヤとを見ている。

(絶対、わざとだ!)

 この男、先ほどの温泉宿で情事にふけるとかいう発言もそうだが、アダルトビデオの見すぎか漫画の読みすぎではなかろうか。セックスの途中で電話を取るという発想はそのへんのものだろう。

「施錠の時間? わかっている、十時だろう。それまでにはここを出る」
「……っ、んっ……ぅ、ぁん……!」
「まあ、そうだな。やり残したことがあるのでな。今その最中だ」
「……! ん、は……!」

 ギルガメッシュは器用にも通話しながらの性感帯を的確に突いている。冷静に考えればギルガメッシュから離れてしまえば済むことなのだが、声を通話相手であるシドゥリに聞かれまいと抑えることしか考えられなくなっている。ギルガメッシュはそんなを見て、さらに声を出させようと腰を使ってくる。

か、いるぞ。代わるか?」
「……!!」

 といって端末を差し出してくる。血の気が引いた。今の状態では、とてもではないが電話などできない。なのに、目の前の男は無情にも早くしろと急かすように端末を突き出してくる。おずおずと端末を手に取る。あまりシドゥリを待たせても不自然だ。

「も、もしもし」
『もしもし、シドゥリです。遅くまでお疲れ様です、さん』
「そんな、シドゥリさんも、っ……!?」

 がシドゥリと会話を始めた途端、両手が自由になったギルガメッシュが激しい出し入れを再開させた。先ほどは口を閉じればなんとか抑えられた声だったのだが、今回はそうもいかない。通話をしているからには喋らなくては──口を開かなければならない。口を開いた時に嬌声を抑えられるかどうか。ギルガメッシュはその葛藤にやきもきするが見たくて電話を代わったに違いない。

『会長から聞いているかもしれませんが、私からも改めてご注意をと思いまして』
「あっ、は、はい、っ、なんで、しょう……?」
『今おふたりがいらっしゃるビルは、夜十時には施錠となりますので、それまでには』
「ひゃっ!? ん、っ……!」
さん? どうかされましたか?』
「いえ、なんでも、んっ……ないです、ごめんなさい、ぁん……!」

 ギルガメッシュがの乳首をつまみ上げたせいで、大きく声を上げてしまった。ニタリと口角を上げたギルガメッシュは、両手での両乳首をコリコリといじる。その間も腰の突き上げは止まることなく、は漏れそうになる嬌声を堪えるのに必死だった。挙句にの顔に音を立てて吸い付いてくる。

『はい、では。十時までにはそちらを退館されてくださいね』

 ちゅ、ちゅっ、ちゅぱ。
 のくちびるの近くにわざと吸い付き、音が入るようにしている。顔を背けようにも、乳首をぐりぐりと押し潰されながら中を突かれると、はもう声を抑えるだけで精一杯だ。

「んっ、ゃ、は、はい、わかりました……っ、あ、〜〜っ!」
『……はあ、会長にも困ったものですね』
「えっ?」
『いいえ、なんでも。以上です、よろしくお願いします。それではこのまま電話を切らせてもらいますね』
「はい、お疲れ様です……っ、んんっ……!」

 ツー、ツー、という無機質な音を聞いて、やっと終わったと息を吐く。ビルの施錠時間を伝えられるだけの、普通ならば短い通話。たったそれだけのやり取りなのに、どっと疲れてしまった。

「なにを呆けている。こちらはこれから本番だぞ」
「あっ……!」

 一旦腰を引き、の体を背もたれに預けるように倒すと、ギルガメッシュは絨毯に膝をついた。それから再びの中へ侵入する。正常位に近い体勢で、の体を抱き締めるようにして腕を回すと、激しく腰を突き上げた。

「ひゃあっ、あ、あっ、ギル、ぎるっ……!」
「通話中、いつもより締め付けがすごかったぞ。シドゥリに嬌声を聞かれた気分はどうだ?」
「やだっ、言わない、でぇっ……! あっ、あん、おく、きもち、いっ……!」
「は、もはやソファを汚すことも頭にないようだな……!」

 びくびくと快楽に震えるの体を押さえつけるように抱きしめ、甘い声を上げる口に吸い付いた。口の中をかき回した後は顎から首筋を軽く甘噛みしながら舐めしゃぶる。まだこれから外に出なければいけないのに、の体はギルガメッシュによってベトベトにされていく。

「そろそろ、出すぞっ……!」
「あっ、や、だめ、そとに、あんっ、そとに出してぇっ」
「ならん、中に出すぞ、!」
「だめ、だめぇっ、妊娠しちゃうの……! あん、イく、イっちゃ、う、ああぁっ……!」
「いいぞ、イけ! イきながら我の子種を受け取るがいい! く、っ……!」

 がギルガメッシュの背中に爪を立てて絶頂すると、ギルガメッシュもそれを追っての膣内に射精した。最奥でじわりと白濁が広がっていく感覚と、精を吐き出すたびに脈打つ肉棒に身を震わせる。やがてその脈動も収まり、ギルガメッシュの荒い息も整った。しかし、いつまで経っても中から肉棒を抜かない。が不審な目を向けると、目を細めて事もなげに言ってのけた。

「我の子種が奥まで行き届くように蓋をしているまでだ」
「も、もう……ほんとに赤ちゃんできたらどうするんだか……」
「その時は貴様を娶り、子供を育てるまでだ」
「えっ」
「えっ、ではない。元々貴様を娶るつもりではある。孕めばそれが少し早まるだけのこと」
「ほ、本当に……?」
「我は嘘は言わん」

 いつまでギルガメッシュと一緒にいられるのかと、会えない間ずっと考えていた。明らかになにもかもつり合わないのに、いつまでも一緒にいられるのかと。そう思ってくれるほど、自分はギルガメッシュにとって飽きない女であり続けられるのかと。不安でしょうがなかった。
 それを見透かしたようなギルガメッシュの発言に、は戸惑いを隠せなかった。

「我の妻となり我の子を産むのは嫌か、
「い、嫌じゃない! 嫌じゃない、嬉しい、けど」
「不安か」
「……うん、不安だよ……私はこんなに普通で平凡で、頑張ってギルにつり合うようになりたいって思ってるけど、それでもやっぱり埋められないものは、あるよ」
「ふん、不安要素を自らを磨くことで解消しようという殊勝な心掛けは買うが、肝心なことを忘れてはならんぞ」
「肝心なこと……?」
「我は、今の貴様に惚れたのだぞ」
「あ……」
「貴様は確かに目立って優れた容姿でもない、能力的にも平均、価値観も世間一般と大差はないだろう。だが、だからこそだ。我と同じ視点を持ち同じ思考回路を持った人間をそばに置くことになんの面白みがある? それは確かに楽ではあるが、有意義だとは思わん。なんの刺激もないからな」
「ギル……」
「貴様は我を相手にしていても媚びへつらったりせず、自分なりの視点のままで我のそばにいる。それは希少なことだと貴様はもう少し自覚を持つべきだ」

 そうギルガメッシュに言われても、いまいちピンと来なかった。自分が無意識にやっていることに自覚を持てと言われてもよくわからなかった。要するにギルガメッシュのお眼鏡にかなったのだからもっと自分に自信を持て、無理にギルガメッシュに合わせようとしなくていいと言っているのだろう。

「それでも不安ならば、我と貴様を縛りつけるものでも作らせよう」
「縛りつけるもの……?」
「わからんか。この指に合わせたものを作らせようと言っている」

 というと、の左手を取って、薬指にくちびるを落とした。ギルガメッシュの整いすぎた外見と王子様のような仕草に、は顔を真っ赤にした。

「へ、あっ……!?」
「貴様を嫁にもらう前の仮予約のようなものだが、貴様が安心するなら作らせよう」
「え、いや、あの」
「なんだ、嫌か? まさか貴様、我というものがありながら別の男になびくつもりか!?」
「ち、違うよ、そうじゃなくて……! その、うれしくて……」

 ギルガメッシュを信用していないわけではないが、ギルガメッシュとていつまでも不変であるわけではない。いつまでも変わらない愛だとかそういうものは、おとぎ話のようなものだ。そうだったらいいね、というだけで、誰もがいつまでもただひとりを愛せるわけではない。それはギルガメッシュとてわかりきっていることだろう。その上で、の不安を解消しようと心を尽くしてくれることが嬉しかった。

「うむ、ならばすぐにでも作らせよう。出来上がった暁には遠慮なく受け取れ。我は貴様が思うよりも一途だということを思い知るがいい」
「う、うん……でも、なんかタダで高価なものをもらうのは気が引けちゃうな……」
「恋人からの贈り物になぜ気が引けるのだ。気になるならば少し早いクリスマスプレゼントだと思えばよかろう」
「それはいくらなんでも早すぎない?」

 ギルガメッシュの言い草に思わず笑みをこぼすと、生意気だとでも言うかのようにこつりと額同士が触れあった。特に痛くもない力加減にギルガメッシュの気持ちが表れているようで、胸が苦しくなった。
 中に入れた体勢のままだったギルガメッシュが体を離した。中からどろりとしたものが流れ落ちてくるような感覚がして、は慌てて入り口に力をこめた。これは、先にお手洗いに行ってからでないと、身だしなみを整えられそうにない。
 腕時計の文字盤を見れば、もう十時までゆっくりもしていられない時間だった。とりあえず簡単に服を着て、それからお手洗いに行こうと床に散らばった下着を身に着けていると、同じく服を着始めたギルガメッシュが手を伸ばしてきた。肩を抱き寄せられ、くちびるに柔らかい感触。

「ん……ギル?」
「今宵はこのまま貴様をホテルに連れ込んでも良いのだろう? まあ、帰ると言われても帰さんが」
「うん、今夜はずっと一緒にいるよ。その、ご褒美の件もある、し……」
「はっ、言われずとも。今宵は貴様が気絶するまで抱いてやるから安心するがいい」
「安心……!? そこに使う言葉は安心で合ってるの……!?」

 そんなふうにじゃれ合っていると、すぐに十時を過ぎてしまっていて、結局ふたりしてシドゥリから説教を受ける羽目になったのである。
 その際、ギルガメッシュは電話の件についてもしっかりと説教を食らい、また鬼のような仕事量を詰められることになる。


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