花を散らすきみ


 ちゅ、と音を立てて吸い付かれるたびに、腰から力が抜けていく。内腿を他人に触れられているというだけで、なぜこんなにもぞわぞわとするのか。体を洗う時などに自分で触れてもなにも感じないのに。くちびると、時折こちらの反応を楽しむかのように肌を滑る舌先。

「あっ、ふぁ、だめ、王様」

 足の付け根に近い内腿を舐められ、我慢できずに肘をついて上体を起こした。手を伸ばして男をはねのけようとしたが、自分の股の間に男の顔が埋まっている光景が目に入ってきて、つい手を下ろした。

「どうした? 抵抗せんのか」
「……っ、そこで、しゃべっちゃ、ひゃっ」

 性感を呼び起こされて敏感になってしまった内腿。そこにくちびるをつけたまま語りかけるギルガメッシュ。唾液で湿った肌を吐息がくすぐっていくたびに、微細な快感を拾って脚が震える。

「つい先ほどまで生娘だったわりに、よい反応をする」

 ギルガメッシュが視線を向けた先には、まだ快楽を感じることに恐怖を感じつつもさらに大きなそれを求めて頬を染めるマスターの顔がある。少女の秘部を割り裂く前に何度も絶頂を与えられたことで、さらなる高みを知ってしまっているのだ。

「ここからならよく見えるぞ。貴様の浅ましい下の口がもっと、と口を開けているのがな」
「や、そんなことない、あうっ」
「女はここで最も感じる。そう教えただろう」

 快楽を求める体を否定しようとしたが、それはギルガメッシュの指が最も敏感な突起を押しつぶしたことによって叶わなかった。全身に走る電流のような刺激に思わず腰が浮く。

「ひゃうっ、あっ、そこ、やだ」

 カリカリと突起の先端を指で弄ばれ、脚をばたつかせる。ギルガメッシュはその言葉には耳を貸さず、少女の胴の脇に手をついて、涙を浮かべて刺激に耐える顔を見下ろしている。秘部に添えた手は動きを止めることはなく、指で引っかいたり、手のひら全体で突起を押しつぶしたりする。

「んう、だめ、なん、か、やだ、あっ!」
「このまま果てるか。よいぞ、許す」
「や、ああ、あああっ」

 男の腕をすがりつくように握ると、腰をしならせて果てる。まだ暴かれて間もない体の中心からは、快楽に溺れた証が漏れ出ている。ギルガメッシュが一度中で放った白濁と混じりあって秘裂を汚す光景は、なんとも淫靡なものになっていた。
 生理的な涙を目尻から流す少女の顔を、ギルガメッシュが舌でなぞっていく。流れた涙を掬い、頬を撫で、最後にくちびるを食む。絶頂を迎えて荒い息を吐くマスターに覆い被さるように。舌をねじ込んで口内を舐め回した。

「んん、は、んうっ……!」

 荒い息を整えようと、キスの合間に息を吸おうとするが、それを許さないとでも言うかのように口を塞がれる。ギルガメッシュの舌は一通り口の中で暴れ回ると、舌を絡めとってきた。直後に、粘膜と体液を通してギルガメッシュの魔力が流れ込んでくる。

「ん! んん〜!」

 舌が痺れる。舌を伝って入ってくる唾液が、少女の口の中を満たしていく。口内から溢れた唾液が口の端からこぼれ、少女の白い頬を汚していく。耐えきれずにそれを嚥下すると、体の中が一層熱くなる。あまりの苦しさにのしかかっている男の胸を叩くと、あっさりと口を解放された。飲みきれなかった唾液を指で拭いながら、赤い双眸を細めて笑っている。

「触れてやったわけでもあるまいに、それほどまでに体を震わせおって。よほど我の魔力が美味いと見える」
「! ち、ちが、」
「そら、口を開けろ」
「んっ……!?」

 唾液を拭った指をいきなり口の中に突っ込まれた。

「美味いか? 存分に味わえよ」
「ん、ぅ……」
「それを綺麗にした後にこれをくれてやる」
「……!」

 腰に硬いものを押し付けられた。これ、の意味を理解して、頬と体が熱くなる。また、彼を自分の中に受け入れるのだ。
 初めては耐え難い苦痛だった。だが、それだけではなかった。確かに、苦痛の中に今まで感じたことがないような感覚があった。それが気持ちいいことなのかどうなのか、少女にはまだわからなかったが。
 綺麗に、と言われても、どうすればいいのかわからない。わからないが、とりあえずギルガメッシュの指を丁寧に舐める。口内に突っ込まれた時から指についていた唾液は自分のものと混じりあって区別がつかなくなっていたが、ほんの少し感じ取れる痺れを頼りに、彼の指をしゃぶった。

「我のものをしゃぶる姿、なかなか様になっているぞ、雑種。次は別のものをしゃぶってもらうとするか」

 一心不乱に指を吸う姿を笑われ、羞恥で体が熱くなった。指を吸わせて擬似フェラを楽しんでいたのだ、この男は。
 ギルガメッシュは指を抜くと、少女の両脚を開かせた。

「あっ」
「さて、そろそろ褒美をくれてやる。力を抜け」
「あ、ああ、」

 先端を少女の入り口に擦り付けて湿らせると、息つく間も与えずに中に侵入してきた。一息に貫き、少女が痛みを感じる前に体を揺さぶり始めた。

「さすがにまだ硬いが、だがまあ、それをほぐしていくのも処女を抱く醍醐味よな」
「あっ、あっ、や、もっと、ゆっくり……!」
「はっ、もたもたしていると中を裂かれる恐怖が増すだけだ」
「う、ううっ」

 腰を突き上げられるたびに苦悶の声が漏れる。容赦がないように思えるが、その実奥を突き上げたりせず、小刻みに、丁寧に中をほぐされているのがわかる。痛みをなくすためには行為に慣れるしか方法がないが、それでもできるだけ痛みを感じないように動いているのがわかって、胸が苦しくなった。

「おうさま、おうさまっ」
「……よい、許す。褥では我の名を呼べ」
「……っ、ギル、さまっ……!」

 ああ、この感覚だ。痛みの中に、痛みではないなにか。中がじんじんする、熱い、胸が苦しい、切ない。

(好、き。ギル様が、好き)
「……なにを泣いている」
「……? っ、あ、」

 ぐちゅぐちゅと中をかき混ぜる音が止んだ。代わりに、少し戸惑ったような低い声が降ってきた。閉じていたまぶたを持ち上げると、視界がにじんでいる。確かに、泣いていた。

「あれ……なんでだろう……?」

 ハラハラと湧いて出てくる涙を、目をこすって拭う。つらいわけではないのに、なぜ涙が出てくるのだろう。自分でもわからない。

「……仕方のない女だ」

 低いつぶやきが耳をくすぐったかと思うと、涙を吸われた。苦味を含んだ声音とは裏腹にくちびるは優しく触れてくる。その心地よい感触に目を閉じる。苦しかった胸がだんだんと落ち着いていく。それと同時に、涙も止まった。
 少女が落ち着いたことを確認すると、ギルガメッシュは律動を再開した。先ほどよりも少しだけ性急な動きで。

「ん、んあ、ギルさま、あっ」
「、そろそろ種をくれてやる、一滴残さず受け止めろよ……!」
「あっ、ひ、ああっ!」

 ギルガメッシュは上体を倒し、少女の体を強く抱き寄せる。少女もその背中にすがりつき、激しい動きを精一杯受け止める。やがて、男は息を詰めて欲望を中に注ぎ込んだ。

「あ、ああ……」

 中に放たれた精から強烈な魔力を感じて、少女はえも言われぬ感覚に腰を震わせた。唾液のびりびりとした痺れが何倍にもなって腟内を刺激する。男の剛直を受け入れることが気持ちいいのかもわからないままなのに、中に出されることが気持ちいいと感じるなんて。
 未知の快楽に目を閉じると、処女喪失から溜まりに溜まった疲労が襲いかかってきた。まだ体内にギルガメッシュが残ったままだ。ここで眠ってしまっては、確実に後でなにか言われる。そう思いながらも襲い来る睡魔に抗いきれず、意識を沈ませていった。
 完全に意識が閉じる間際、低い声が自分の名を呼んだ気がした。いつも呼びかけるような雑種ではなく、少女の名前を。



 唐突に浮上した意識に任せて目を開けると、暗闇の中だった。
意識が覚醒するまでぼうっと目を開けていると、だんだんと暗闇に目が慣れてくる。自分の体の重さが作るシーツの波立ちと、令呪が彩る右手が目に入った。そして、隣で横たわっている男の顔。

「まだ寝ていろ」

 サーヴァントは睡眠を必要としないことは知っていたので、声をかけられても驚かなかった。暗闇に慣れたといっても、顔の詳細まではわからない。どこに目があるのかもどんな表情をしているのかもわからないが、なんとなく当たりをつけて見つめ返した。

「うん……あの、王様」

 返事は返ってこない。しかし、言葉の先を待っている気配があった。

「あの……手を繋ぎたいんだけど……触っても、いいですか」

 意を決して要望を口に出す。二度の情事のせいで、すっかり声が掠れている。自分のものとも思えないようなひどい声だった。
 少女の要望を聞き届けたギルガメッシュは、吐息だけで笑った。

「呆れた厚顔さよな。王の寵愛を二度も受けておきながら、まだ足りんか」

 いや足りないとかそういうわけでは。ギルガメッシュの言葉につっこみが出かかったが、声が掠れていたので音にはならなかった。
 だめかな、と思った直後、右手に触れる体温があった。

「王様?」
「浅ましい願いを聞き入れてやるのが王の務め。感謝に打ち震えながら眠るがよい」

 やれやれ、とでも言いたげな声音だった。その割に指まで絡ませてくるのは一体どういうことなんだろう。実は手を繋ぐの好き、とか。一度目の情事が終わった後もこうしていたし。

(……まあ、どっちでもいっか)

 好き嫌いはどちらでも構わなかった。こうして自分の言葉を聞き入れてくれたことこそが、嬉しかったのだから。

「王様、ありがとう……おやすみなさい」

 目が慣れる前に、少女は目を閉じて再び寝入った。表情を判別できるほどに目が慣れていたら、見ることができただろう。この時のギルガメッシュがどんな顔をして少女を見つめていたのかを。
 今はまだ、誰も知らないことだった。


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