彼女のすべてを把握しておくのが彼氏の役目



※下品注意。ヒント:お月のあれ



 ある日の午後。はいつも通り机に向かい、政府からの書類を片付けていた。提出する書類を順調に何枚か仕上げていたが、昼ごはんを食べた後だからかなんなのか、睡魔がを襲った。

(んん……それとも、あれの前だからかな)

 あれ、とは女性に月に一度訪れる生理現象のことだ。今月はいつもより少し遅れている。許容範囲内ではあるが、遅れるといつ生理が来るのかわからず調子が狂ってしまう。おまけに妙にお腹はすくわ眠気が強いわでいいことがない。
 なんとか眠気をこらえていようとしたのだが、目を開けたと思ったら次の瞬間には舟をこいでいるということが多くなってきた。報告書がミミズののたくったような字で汚れていく。

(だめだ眠すぎる……ちょっとだけ横になろう)

 ほんの少し、十分か二十分でも眠れば違ってくるかもしれない。はそう思い、座っていた座布団を枕にして横になった。寝転がってからすぐに瞼が重くなってくる。

(ちょっとだけ……ちょっとだけ……)

 と自分に言い聞かせながら、は眠りについた。
 目が覚めたのは、妙な音が聞こえてきたからだった。
 意識が覚醒する前、の横からなにかの音が聞こえてきた。はあ、と人が息を吐き出すような音だった。目を開ける前にそれを耳で感知し、なにかがおかしいと判断した脳が目を開けさせた。眠りから覚めたの目に映ったのは、恋人である燭台切光忠の顔面のアップだった。

「わっ……!? 光忠くん!?」

 が思わず大声を上げると、光忠が伏せていた視線を上げての目をとらえた。すぐに恋人に向ける甘い笑みが彼の顔に浮かぶ。ちょうど添い寝する形で、光忠がのすぐ右隣に寝そべっていた。

「あ、おはよう。起こしちゃった?」
「あ、いや、うんまあ起きたけど……なにしてんの?」

 の至近距離、というか、ほぼ体がくっつくような距離だ。恋人どうしとはいっても、仮にも仕事中にこんな距離感はちょっと……と思っていると、は右手の違和感に気が付いた。なにかがあたっている。
 が視線を右手のほうへ下げると、の右手を光忠がつかんで動かしている。自分の股間にの手のひらを当てて、局部を擦るように上下に。

「ちょっ……人の手でなにしてんの!?」
「え? なにって、ちょっとムラっとしたから。ってば無防備にうたた寝してるんだもん」
「いやムラっとしてもいいけど我慢してよ」
「えー、ちゃんと起こさないようにしてたよ? 寝ているの手コキとか正直すごく興奮してるけど、僕全然声を出してなかったよね?」
「いやいやそういう問題じゃないからね!? 私が起きる程度にはあはあ言ってたからね!?」
「そう? うーん……やっぱりどうしても抑えきれないよね」
「いいから、いい加減手離してよ……!」

 光忠が再びの手に自分の逸物を握らせたまま上下に動かし始めた。握らされているそれは、夜にする行為の時と同じような硬度と熱を持っている。手から伝わってくる感触に思わず赤面すると、光忠が艶っぽく目を細めた。

「ねえ……僕のもうこんなに硬くなっちゃった。の可愛いお口でしてほしいな……」
「やっ、ちょっと待って……! なんでその気になってるの!? しかも口って……!」
「え? だって今生理中だよね? だからエッチは無理かなと思って」
「えっちょっと待ってなんで光忠くん私の生理周期把握してんの」

 光忠が何気なく言ったセリフが、今までで一番の精神に攻撃力を発揮した。確かに光忠の言う通り、遅れていなければ今頃生理中だが。

「だって、いつも月初めになるとエッチを断るから、たぶんそうじゃないかなと思って。今日は三日目かな?」
「スバリ当てなくていいから! えええ光忠くんそんなこと把握してどうするの……!? すごい嫌なんだけど……!」
「どうするって、大事なことだよ。ちゃんとの体調を把握するのは恋人の役目だろう?」

 といってを見つめる光忠はとてもかっこいいのだが、言っている内容が内容なのでかなりの違和感である。ドン引きを隠さない表情でが手を引こうとするが、光忠の力は強く、そう簡単には開放してくれなかった。

「生理前はもエッチに積極的になるからね。ねえ、生理中は? も欲求不満じゃない? 今はしたくないかな?」
「いや全然欲求不満じゃないから。ていうか、今月は少し遅れてるからまだ生理なってないし……」
「え!? じゃあエッチできるってこと……!?」
「ちがーう!! なんで即そっちのほうに話を持っていくの!」

 生理になっていないということを聞いた途端、目の色を変えてがばっと身を起こす光忠。そのままの上に覆いかぶさろうとしてくる。それに気づいたは慌てて光忠のいる方向とは逆方向に転がった。

「あっ、ひどいなぁ逃げなくてもいいのに」
「いやいや逃げるでしょこんなの!」
「でも逃げるを追い詰めてエッチに持っていくのも……いいね……はあ……」
「えっ……!? 光忠くんおかしいよ! 私全然その気じゃないからね!」
「また、そんなこと言って。僕はもうのイイところ、全部知ってるんだよ? ちょっといじったらすぐにエッチな声出すようになるって知ってるから」
「え、やだやだこっち来ないで!」
「あはは、その顔すごくそそるね。逃がさないからね、……」
「ひいっ……!」

 光忠の低い声を聞いた途端に、は本能的に這いずって逃げようとしたが、服をつかまれて失敗に終わった。ずるずると服を引っ張られて体を引き寄せられる。
 結局、その日は最後まで致してしまった。光忠の執念の勝利なのかもしれない。


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