くちびるの味 さらに続き



 今夜部屋に行く、と夜這いの予告を受けたは、それからが大変だった。夕食時に光忠の顔を見て赤面、廊下で行き会って赤面、一人で入浴中も思い出して赤面。これでは恋人と言うことを周囲に隠している意味がない。昼間に物干し場という公衆の場でいちゃついてしまっていて、隠しているということに説得力もあったものではないが。
 そして今、寝室に敷かれた布団を前に、はなぜだが恥ずかしくなって顔をうつむかせた。
(ああ〜もうなんでこんなに緊張するの……初体験てわけでもないのに、思春期の少女か私は)
 彼を目の前にすると、緊張する。恋人になる前は緊張したことなどなかったのに、この関係になってからは変に意識してしまっている。少ない男性経験の中で、こんなことは初めてだった。
(それだけ、本気で好きってことなのかな)
 意識をするということは、彼に好かれたい、変に思われたくないと思っている証拠だ。嫌われたくなくて上手く立ち回ろうとする自分を、光忠は好きになってくれたわけではないのに。
(はあ、少し落ち着こう。仕事でもするかな。皆が寝てからだと考えると、そんなに早く来ないだろうし)
 頭を冷やすには仕事が一番ということで、寝室の隣の部屋へと移動する。文机においてある書類受けに、まだ目を通していない書類があったはずだ。明かりをつけて、それに目を通す。
 だんだんと仕事の内容に没頭していき、すっかり光忠のことを頭から排除していたは、不意に部屋の戸を開けられて、一瞬飛び上がった。見ると、戸を開けた光忠が驚いたような顔でこちらを見ていた。寝間着がわりの浴衣を着ている。
「あれ、こんな時間まで仕事してたのかい?」
「あ、うん」
「寝てちゃダメ、とは言ったけど、まさか仕事してるとはね」
 呆れが混じった笑みを浮かべながら、光忠は部屋へ入ってきた。は書類を机に置き、明かりを消した。光忠がの目の前に座る。
「うん……なんか、落ち着かなくて」
「緊張してる?」
「……うん、こういうの、久しぶりだし」
「……久しぶり、ね」
 光忠が低くつぶやいたかと思うと、手をつかまれて引き寄せられた。すぐ近くに彼の顔がある。いつもの微笑を浮かべてはいたが、目が笑っていなかった。
「まあ、生娘じゃないとは思ってたけど、改めて君の口からそういうこと聞くと……あまりいい気分じゃないな」
「光忠、くん」
「昔の男に嫉妬なんて、かっこ悪いよね。でも、今夜で君は僕のものになるから、それも今夜でおしまいかな」
「んっ……」
 独り言のようにしゃべってから、光忠はのくちびるを口でふさいだ。くちびるに触れると、興奮した様子でぐっと口を押し付けられる。すぐにのくちびるを割って舌が入ってきた。口内を存分にかき回した光忠が離れると、細い銀糸が糸を引いた。失言だったとが謝る暇もなく、横抱きにされて寝室へと運ばれる。光忠は布団にを下ろすと、律儀に寝室の戸を閉めてからに覆いかぶさってきた。まだ多少は理性が残っているらしい。
 またすぐにキスの続きが始まった。息継ぎの隙間も与えないかのような濃厚なものだ。舌を絡め取られて吸われ、息苦しさもあいまっての頭がぼうっとしてくる。キスの合間に目を開けて、の表情と潤んだ目を見た光忠は、そこでやっとくちびるを離した。
「もう、君が何を言っても止まらないよ。いい?」
 光忠の質問を上手く働かない頭で受け取る。もう引き返せないのはだって同じだ。もう体が、舌の絡ませあいだけで火照ってしまっている。が小さく頷くと、光忠はの寝間着の帯を解いた。寝間着を肌蹴させると、喉元に吸い付いてくる。強く吸われて、一瞬肌に痛みが走り、それからじんじんとうずきだす。だんだんと胸元へと下りていった光忠は、両胸を手で揉むと、片方の頂点を口に含んだ。
「んっ……ひゃ、あっ」
 舌先で転がすように舐めしゃぶられる。たまに強く吸われ、ちゅぱ、という音が室内に響く。もう片方の乳首は指でつままれたり押しつぶされたりと、ひっきりなしにいじられている。頂点から口を離した光忠は、胸全体を舐め、それが終わるともう片方をまた口に含んだ。先程と同じようなことを繰り返す。硬くなった乳首をいじられるたびにの声が上がりそうになる。それをこらえていると、光忠が顔を上げて笑った。
「声が出ないようにしてると、逆に燃えるんだけどな」
「……?」
「声を我慢できなくなるくらいに、めちゃくちゃにしてやりたくなるってこと」
「あ……」
「ねえ、脚って感じる?」
 唐突な質問が投げかけられた。脚、とはどういうことだろう、と思っていると、光忠の手が太ももに下り、肌をなぞりながら膝裏をつかまれる。ぐっと膝を上げて、足先を目の前に持ってくると、今度は足首をつかんだ。
「え、ちょ、ちょっと、なに?」
「昼間、舐めるの好きなのかなって言ったけど、本当に好きみたいだ。君の全身、舐めまわしたくて仕方ないよ」
「あっ、やっ」
 何をされるのかを理解したが脚を引こうとするが、足首をしっかりとつかまれていたのでそれはできなかった。光忠は足の指にくちびるを寄せると、舌を出して足の指を舐め始めた。
「ひゃっ、や、やだ、だめっ」
「だめ? どうして?」
「き、汚いよそんなところ、あっ」
「汚くない」
 足の甲や裏、指の間も器用に舐め続ける。くすぐったさの中にも確かに快感があり、それが自分でも信じられないことだった。あまりの刺激に、はびくびくと体をはねさせる。足を引こうにも、やはり強くつかまれている。満足するまで放してくれないようだ。
「足の指、可愛いね。食べたいくらいだ」
「え、ひゃあっ、ああっ」
 足全体を舐めたところで、今度は小指を口の中に入れてしゃぶり始めた。くちゅくちゅとわざと音を立てるように唾液を絡ませてしゃぶられる。は羞恥でどうにかなりそうだった。 
 小指を思う存分しゃぶった後、光忠は右足を放した。だがこれで終わりではなく、左足が残っている。左足にも、右足をしたようなことをする。丹念に足全体を舐めてから、小指をしゃぶる。
「や、もう、やめ、んんっ」
「気持ちよさそうにしてるのに……まあ、ここはこれくらいにしておこうかな。見て、僕の唾でべとべとになってる……すっごくやらしい」
 ここは、の言葉にいやな予感を覚える。光忠は足先から膝へ、膝から太ももへと手を這わせると、内股に吸い付いた。柔らかい肌を楽しむように、リップ音を立てながらあちこちへ吸い付く。いたずらに強く吸い付いては赤い鬱血を残していく。
「ふ、ぁ、ぁあっ」
「内股も弱いのかな? 僕もここ、好きだよ。肌がすべすべで、ずっと舐めてたい」
「な、めないで、あっ」
「どうして? 感じすぎちゃう?」
 光忠が内腿を舐めるだけでぞわぞわと快感が走り、腰をくねらせてしまうので、性感帯であることは間違いない。足先への執拗な愛撫だけでも股の間が濡れてしまったのに、内腿も舐められてはかなわない。それを知ってか知らずか、もう片方の内股も同じように赤い痕を残しながら舐める光忠。自分の体が知らないものになってしまったかのように、すでに息絶え絶えにまで感じてしまっている。
「すごく濡れてるよ、ここ。そんなに舐められるのよかった?」
「っ……!」
 内腿も思う存分舐めた光忠は、の入り口を指で広げながら言った。そんなことを言われなくても、液体が尻の割れ目のほうまで滴っていることは自身にもわかった。いやらしい身体を責められているようで、は返事をせずに顔を背けた。
「じゃあここも、いっぱい舐めてあげるね」
「あ、ああっ」
 入り口だけではなく膨らんでしまっている最も敏感なところを、舌先でぐいぐいと押すようにいじられ、中からあふれてきた愛液を音を立てて吸われる。愛液なのか光忠の唾液なのかわからなくなるまで舐められ続け、は我慢の限界を迎えた。
「ああっ、ああぁっ、もうだめっ、いく、いっちゃうっ」
 その言葉を聞いて、光忠は快感で膨張したところを強く吸った。の目の前に火花が散ったかと思うと、腰がしなり、一気に鼓動が早くなった。荒い息を繰り返すを見下ろして、満足そうに光忠が笑う。
「舐められていっちゃったね」
「……っ!」
「その顔、すごく可愛い」
 光忠の言葉に目をつぶって羞恥に耐える。そんな姿が気に入ったのか、光忠が可愛いと言ってくるが、その言葉もの羞恥心を増幅させる言葉でしかない。
 光忠が半端に乱れていた自分の浴衣を脱ぎ捨てると、全裸になった。力なく投げ出されたの脚をつかんで開かせると、あふれ出している愛液を自分の勃起したものにすりつけた。いやらしい水音を立てて、光忠がの中に入ってくる。
「ひゃ、ああ、あっ」
「っ、すごい、中もすごい濡れてる……ねえ、めちゃくちゃにしていい? もう我慢できない……」
「う、あ、ああっ」
 の返事を待たずに、光忠が激しく腰を動かした。すぐに奥までほぐれた中を容赦なく突かれ、は声を我慢することも忘れて甘い嬌声を上げた。行為の前、光忠が戸を閉めてくれてよかったと、自分の声を聞きながらぼんやりと思う。
 角度や体勢を変え、光忠は宣言どおりめちゃくちゃにの中を突き上げる。快感で腰を引いてしまうの身体をつかんで責め苛む。が小さく痙攣するたびに一旦動きを止め、中の収縮が収まるとまた腰を突き上げる。
「ああっ、はあっ、や、もう、だめっ、いく、いっちゃう……!」
「僕も、出すよっ、受け取って、っ……!」
 大きく背を反らせたの腰をつかまれ、ぐっと奥のほうへと精を放たれた。二、三度腰を動かして出し尽くすと、光忠はの身体の上に倒れこんだ。息が整うまで、二人は黙ったままだった。
「……これで、君は僕のものだね。絶対、もう放さないよ」
「光忠、くん……」
「ねえ、舐められるの、結構よかったよね? これからエッチするときはいっぱい舐めていい?」
「えっ……や、やだよ!」
「ええー、あんなに感じてたのに?」
「か、感じちゃったけど……! 恥ずかしくて死にそうだからダメ!」
 自分が汚いと思っている場所をあんな風にしつこく舐められるなんて、しかもそれがこれからも続くかと思うとたまったものではない。が強く却下すると、光忠は不満そうに口を尖らせていたが、やがてぼそりと口の中でつぶやいた。
「……まあ、感じてるなら、そのうちクセになる、よね?」
「え?」
「ううん、なんでもない」
 つぶやきの内容を聞き取れずにが聞き返すが、光忠は教えてくれなかった。ただ、なぜか機嫌が良さそうに笑っているので、何かたくらんでいるのではないかと嫌な予感を覚えた。そしてその予感は外れていなかったと、後々身をもって知ることになる。


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