あの恋を、続きからもう一度 第五話(終)


 電車を降りても、は俺に手を引かれるままだった。もし迷っている素振りを見せたら、そこで俺はをタクシーに乗せて帰すつもりだった。横目で見る限りでは、今日いきなりこんな展開になって多少戸惑ってはいるものの、俺と関係を持つことに迷っている様子はなかった。
 それなら、もう帰す気はない。俺の部屋で朝を迎えてもらおう。
 薄暗い夜道、の小さな手を引いて歩く。

「さっきの彼、大丈夫だった?」
「同期のこと? 大丈夫だよ。幸村くんを追いかけたいって言ったら、じゃあ行ってこいって言ってたから」
「……そう」

 話題のひとつとして口にしただけで、実はそこまで気にしていたわけじゃなかった。がいいならいいか、次はなにを話そうかと思っていると、のほうが先に口を開いた。

「割と最近まで悩んでたんだ、お付き合いをするなら幸村くんか、それともあの同期かって」
「……彼も、に本気だったのかい」
「それは……よくわからない。幸村くんみたいにストレートに恋愛感情をぶつけてくれるってわけじゃなかったから。友達の延長線上みたいな感じで、一緒にいてそこそこ楽しいし楽だなって関係だった。たぶん向こうも。価値観も近かったから、結婚するならこういう人のほうがいいのかなって」

 あのカフェで初めて会った時のことを思い出す。遠目で見たの同期の雰囲気は、確かに恋人というよりも友人の色が強かった。あそこまで乗り込んでくるような男が友達の延長線上で付き合っていたのかどうかはわからないが、今はもう終わったことなので心の中でとどめておいた。

「幸村くんが私を本気で好きでいてくれることは、十分伝わってたよ。本当に嬉しかった。だから、気持ちだけで考えるなら悩むことなく幸村くんだなって思ってた」
「それじゃ、なにを悩んでたんだい?」
「私ってもう三十半ばでしょ。だから、この恋愛が最後かなと思って。だから、結婚するとしたら……って思うと、悩ましくて」
「……? 俺は最初にと結婚したいって言ったはずだよ」
「うん、覚えてる。今となってはその言葉も本気だってわかる。でも、付き合ってからも上手くいくとは言い切れない。歳も離れてるし……もし上手くいかなくても幸村くんには次があるけど、私はもう次を考えるような歳じゃない。もし結婚したとしても、結婚は式を挙げたらゴールじゃなくてその先もずっと続くことだから……その、長く一緒にいるなら歳も近くて楽な同期のほうがいいのかなとか考えてしまって、悩んでた」

 黙って先を促す。口を挟みたいことはあったけど、今はの話を聞きたかった。

「決めるなら早くしたほうがいいよねとか、でもそんなことでふたりを推し量るのも失礼だなとか、色々悩んだ。終いには考えるのも疲れて、もうひとりで生きていこうかなとも思ったよ。でも……」

 少し自嘲気味に笑ったは、言葉を切って息を吸った。俺の手を握り直して、の少し冷たい指先が当たった。

「どんな時でも幸村くんは優しくて、無理に関係を進めようとはしなかった。私の心を見透かしたように、その時の私の気持ちに歩調を合わせてくれた。私のことをよく見てくれてるのが伝わってきたから、すごく嬉しくて、そのうち手を繋ぐだけで子供みたいにドキドキするようになって……仕事中でも家でぼーっとしてる時でも幸村くんのことを考えてることに気づいて……そこまで来たらもう、答えが出たようなものだよね?」

 そう言って照れくさそうに笑った彼女に、なんと言って答えたのだったか。の言葉に舞い上がりすぎてもう覚えてないけど、繋いだ手を強く握り返したことだけは覚えている。

 ***

 マンションに着くと、が口を閉じた。俺も緊張でなにを話せばいいのかわからず、部屋に着くまでの間、ふたりの間には靴の音しかしなかった。
 鍵を開けて、どうぞ、と部屋に招き入れる。照明をつけて暖房もつけて、ワンルームの部屋が浮かび上がった。まさかを今日連れてくることになるとは思ってなかったから、部屋の中は朝のままで少々乱れている。定期的に綺麗にしているつもりだから汚いということはないだろうけど。でも、そんなことを気にしている余裕はなかった。
 がなにかを言う前に彼女を後ろから抱きしめる。

「ゆ、」
、好きだよ。本当に、ずっと前から」
「幸村くん……」
「君が好きで……あの頃も今も、毎日楽しくて、苦しい。君に俺を見てもらいたくて、苦しくて焦れったくて……君が欲しくてたまらない。だから、ここまで来たからには今度こそ君を抱きたい」

 まだコートも脱がないうちから迫って、我ながら本当に余裕がない。でも、今のうちにはっきりさせておかなければ。今ならまだ、かろうじて我慢できる。すごくキツいけど、今ならまだこの手を放せる。

「でも、もしの中に少しでも嫌だと思う気持ちがあるなら、俺はなにもしない。今からタクシーを呼んで君を帰すよ」
「……」
「返事を聞かせて」

 ここまでの道中、少しはの気持ちがわかったけれど、それでもまだ確信じゃない。これでも少しは怖いんだ。やっぱりまだ迷っているとかまだ踏ん切りがつかないって言われたらどうしようって。だからはっきりとした言葉が欲しい。俺を今夜――今夜から受け入れてくれるのか、それともおあずけなのか。
 の体が動いた。抱きしめていた腕を緩めると、は俺のほうを振り返って、俺をまっすぐ見つめてきた。
 十年前から恋焦がれた微笑みが俺に向けられている。その頬はほんのり赤く染まっている。間近にある艶かしいくちびるに見蕩れていると、のひんやりとした指先が俺の頬に触れた。

「ありがとう、こんな時でも私のことを気遣ってくれて。そう言ってくれる君だから――こんな私を大切に想ってくれる幸村くんだから、ここまで着いてきたんだよ」

 の両手が俺の顔を引き寄せて、自身も背伸びする。更に近くなったくちびるが、動く。

「私も、幸村くんが好き。だから、今夜は」

 の声が途切れたな、と思ったら、俺が自分の口を押し付けて塞いでいた。
 ――ずっと待ち望んでいた。この瞬間を、その言葉を。ずっとずっと前から。
 どうしよう、夢みたいだ。
 期待はしていたけど、本当に受け入れてもらえるなんて、天にも昇るような気持ちだった。心から好きな人と両想いになるって、こんなに嬉しいものなんだね。
 幸せで胸がいっぱいで、溢れ出した嬉しさがの体を抱きしめる。夢中で柔らかいくちびるを求めて、が合間に苦しそうな息をしている。
 ごめんね、でもちょっと止められそうにない。こんなに好きな人と両想いになったのなんて初めてだから、色々歯止めが効かないんだ。

「はぁっ、は、ん……!」

 ああ、なんてそそる声なんだ。もっと聞きたい、もっともっと感じた声を上げさせたい。逃げようとする体を抱き寄せて、さらに深く口付ける。
 興奮する俺をなだめるようにの手が背中を撫でる。厚手のコート越しの指先に、ゾクゾクとしたものが背筋に走る。
 くちびるを離しての顔を覗き込むと、赤く染まった頬はそのままに、俺を見返して照れくさそうに微笑んだ。
 無意識に強ばっていた体から力が抜けていく。まだ緊張は残っていたけれど、これで少しは余裕ができたはず。
 のコートを脱がせて肩から落とす。上着のボタンを外すと、今度はが自分から上着を脱いだ。コートの上に重なってパサリと乾いた音がした。
 ああ、ハンガーにかけないとシワになってしまうな。と思って手を止めたら、今度はが俺のコートに手をかけて脱がせた。ジャケットのボタンに触れた手にまた興奮しかけて、思わずその手を掴んだ。
 ジャケットを自分で手早く脱いでその辺に放り、ネクタイも荒々しく解いて、俺をぼうっと見つめていたを抱き寄せた。

「ごめん、落ち着こうと思ったけど、すぐには無理みたいだ。できるだけ優しくしたいんだけど……もし乱暴だったら言って」

 ああ、かっこ悪い。ふたりの初めての夜、しかもクリスマスなのに、俺は十年越しの想い人を前にして興奮を抑えきれない。まるで中学生に戻ったみたいだ。
 は俺のベッドに腰掛けて隣をぽんと叩いた。俺がそこに座ると、俺の顔を引き寄せて軽くキスをしてきた。
 離れていくくちびるを追いかけるように顔を押し出して、またキスをする。
 今度は舌を入れる。の舌に絡めたりざらざらの感触を楽しむように押し付ける。舌が疲れてきたら離れて、お互いの目を見てまたすぐに合わせる。口内の温かさも歯列の形も覚えそうなほど何度も舌を入れて、くちびるどうしがくっつきそうなほどにその口を吸った。部屋の中に、ちゅっというリップ音がしばらく響いた。

「……落ち着いた?」

 唾液がとろみを帯びて舌と舌の間で糸を引く頃に、が言った。もちろん体はまだまだ興奮していて既に勃起しているけど、気持ちの面ではだいぶ落ち着いたと思う。は逃げないし、時間はたっぷりあるんだ。

「ああ、もう大丈夫」
「そっか」
「これからが本番だよ」

 そう、ここからだ。落ち着いたからといってこのチャンスを逃す気はない。
 をベッドに押し倒す。長く続いたキスは気持ちに余裕をもたらしたけれど、体には一層の興奮を。そしてそれはも同じだ。

「キス、よかった?」

 すっかり蕩けた瞳で俺を見つめてくる彼女の襟元を乱しながら首筋を吸うと、悩ましげな吐息が漏れた。

「うん……キス、上手いんだね幸村くん……」
「ふふ、にだけだよ。のくちびるだったら何時間でも吸っていられるよ」
「そ、それは……私の口、すごいことになりそう……んっ……!」

 茶化そうとするの口を塞いで、また舌を送り込む。冗談だと思ってるのかな。むしろいつでもキスしてたいんだけどな。
 君に関することは全部本気だってことを、これから教えてあげるよ。
 最後にくちびるを舐めてから口を離すと、俺は本格的にの服を脱がしにかかった。

 ***

 広くもない部屋の中に、粘膜を擦る音が響く。
 俺は下着一枚で、はとっくに全裸。今日はそんな予定じゃなかったから可愛くない下着なのが恥ずかしいとか電気消してとか言っていたけど、全部却下した。普段使いのシンプルな黒の下着もばっちり見たし、電気ももちろん消さない。どんな姿だって見たいし、今夜のを目に焼き付けておかないと。
 の体は執拗なキスと愛撫ですっかり高まっていて、パンティを下ろす前からそこは濡れていた。恥ずかしがるの太ももを押さえつけてそこを舐める。の愛液なのか俺の唾液なのかわからなくなる頃に指を入れ、腟の中もほぐしていく。一刻も早くこの中に入りたくて俺の股間は痛いくらいに張り詰めていた。下着だって先のほうが先走りで濡れている。でも、それ以上にに気持ちよくなってほしい。

「あ、あっ……! 幸村く、んっ」
「イきそう?」
「っ……! う、ぁ、ダメっ……!」

 中の張ったところをぐにぐにと押しながら陰核を吸うと、が腰を浮かせて軽く達した。引い抜いた指にじっとりと愛液が絡んでいる。それを余さず舐めてから、俺は下着を下ろした。弾み出てきた性器はこんなに勃起したのも中学高校以来かもしれないと思うほどに天を向いていて、俺の興奮具合を物語っている。それに避妊具を被せて、息が整ったばかりのの脚を開かせる。
 上体を倒してと抱き合うような体勢になると、先端がの入口に当たった。が小さく声を漏らして、目が合う。黒目がちの瞳は濡れて、この先の快楽を期待している。切なげな表情は綺麗なのに、瞳と体は淫らに変化している。想像以上の反応に、俺はもう辛抱たまらなかった。

「あっ……ん、んう……!」

 ゆっくりと挿入して根元までぴっちりと収めると、息を吐いて耐えるに口付けた。



 くちびるを吸ってから顔を離して腰を動かし始める。何度か軽く抽挿を繰り返すと中が俺の大きさに慣れて違和感が薄くなる。中の肉が俺のモノに絡みついてきて、俺は興奮で頭がおかしくなりそうだった。

「すごい、絡みついてくる……!」
「あっ、あ、んっ……!」
、気持ちいい?」
「んっ……きもちいい、幸村くん、あっ……!」

 奥を突くたびに声が蕩けていくから、本当に気持ちいいんだろうな。中も奥を突くと張り返すように吸い付いてきて、うっかりすると射精しそうになる。俺全然早漏じゃないのに。
 俺ので気持ちよくなってるが可愛くて綺麗でいやらしくて、体もすごくエッチで、もうその事実だけでイきそうだ。こんなに気持ちいいセックスがあるなんて。
 ああ、そうだ、今とセックスしてるんだ。十年前、どうやって振り向いてもらおうかと毎日頭を悩ませて、熱を持て余していた相手と。
 ――ようやく俺のほうを見てくれたんだ。本当に、夢みたいだ。

「っ、はあっ、あ、ああっ……!」
「っ、ぅ……!」

 が俺にしがみついて、腰を押し付けてきた。直後に、股の擦れと中への刺激でまた軽く達したようだった。いきなりきゅっと締まった腟内に、動きを止めてなんとか射精をやり過ごした。

、イったのかい」
「はあっ、ん、うん……っ」
「ふふ……エッチだね」
「ち、ちがう、久しぶりだから……」
「久しぶりでも、俺に腰を押し付けてひとりでイったのは十分エッチな証拠だよ。ふふ……」

 俺からの刺激を待たずにイったのはなんであろうといやらしいし、そんな彼女に俺はすごく興奮してる。がそんなことをしたんだから、俺も少しは自分勝手に動いてもいいかな。
 一旦引き抜いてを四つん這いにさせると、後ろから一気に挿入する。

「あっ! ん、幸村くん……!」
「ごめん、ちょっと勝手に動くよ」

 の腰を掴み、奥を目掛けて深く律動する。達したばかりで鈍い反応だったは、奥をガンガン突くとすぐに高く甘い声を出してよがった。いやいやと首を振るに構わず突き上げて貪っていると、また中がきゅうっと締まった。

、またイきそう?」
「はあっ、はっ、ん、ダメ、イ、くっ……!」

 俺の腕を掴んだ直後、息を詰めて達する。一瞬の後に荒い息を吐いて俺の枕にへたりこんでしまう。お尻だけを俺に突き出しているような体勢はすごくいやらしくて、もう本当に限界だった。
 再び正常位になると、の脚を開かせて腰を突き上げる。

「や、あっ、ダメ、ゆきむら、くん……!」
「なにもダメなことなんてないよ。ほら、乳首だってこんなに硬くなってる」
「あっ、あん、やあっ……!」
「ああ、気持ちいい、すごくエッチだよ、可愛い」

 硬くなった乳首を親指で押しつぶすようにして胸を揉むと、また中がきつくなる。の体に触れると面白いように反応が返ってきて、中もとろけそうなほど気持ちいい。どうしよう、ハマりそう。

「俺も、もう出すよ、……!」
「あっ、ん、ああっ……!」

 に覆い被さるようにして抱きついて、律動をより深くする。ベッドがこの部屋に置かれてから立てたこともないような軋んだ音を出して、俺たちふたりの重みを受け止めている。
 の息が詰まったのを聞いて、俺も今度こそ衝動のままに欲望を吐き出した。
 そのまま息が整うまでじっとりと汗に濡れた体を重ね合っていた。どこかの部屋からかすかに聞こえるはしゃぐような声で、ふと今日がクリスマスだったことを思い出した。
 クリスマスなのにケーキもプレゼントもなにもないや。俺はデートの誘いを断られて傷心してヤケ酒を飲んで、は同僚との関係を整理して。本当ならそれで終わる一日だったのに、あの駅でばったり会っただけでこんなことになっている。
 ねえ、やっぱり俺と君は結ばれる運命ってやつじゃないかな。運命なんて子供の頃から全然信じてない俺が言うのもなんだけど。だって十年後に再会した時も本当に偶然あの席に座って、偶然隣が君だったんだ。俺はまた君に惹かれて、ついにはこうやって中学生からの想いを遂げたんだ。もし十年前に喧嘩した後に仲直りできていたら、案外中学生の俺にも目はあったんじゃないだろうか。想像してもどうしようもないたらればの話を考えてしまうほど、俺は君に不思議な縁を感じているんだ。
 そうだ、もうクリスマスは過ぎたけど、明日プレゼントを買いに行こう。俺は指輪がいいな。君と俺を結ぶペアリング。
 明日の予定を立てた俺は、早くもソワソワしてしまう。まだ少し息が荒いにキスをして、中に入ったままだったモノを引き抜いた。
 明日のことはシャワーを浴びながら話そう。洗いっこしながら細かい予定を立てよう。君の欲しいものもちゃんと聞かないとね。

 ***

「……で、私はなんでベッドから起き上がれないんでしょうか」
「それは、まあ……昨夜、俺の興奮が収まらなかったせいだね」

 翌朝、俺のベッドを占領したはベッドの横に座った俺を恨みがましく見上げながら言った。思いついた今日の予定にあんなに胸を躍らせていたのに、それを自分で壊す羽目になって苦笑いしか出ない。
 昨夜はあれから一緒にシャワーを浴びて、一日遅いクリスマスプレゼントを買いに行こうと話したところまではよかった。も、指輪はともかくデートには乗り気だったし。
 その後洗いっこしたんだけど、これが落とし穴だった。俺は泡だらけのの体に大層興奮して、思わずゴムもつけずに挿入してしまったほどだった。なんだかんだ言いつつ盛り上がってしまい、最後にはのお尻にぶっかけてお風呂エッチは終わった。
 お風呂から上がって、若干疲れを見せるの髪を乾かしてあげたり俺のパジャマを着せて彼パジャマを楽しんだりした。そこで終わればよかったんだけど、まあそうはならなかった。狭いベッドで身を寄せ合うとやっぱりの体の柔らかさが伝わってきたりいいにおいがして、おやすみって言ってベッドに入って二分もしないうちにムクムクムラムラしてしまって、後はご想像の通りだ。気が付けば深夜を通り越して朝のニュースが始まろうかという時間だった。

も困った顔しつつ受け入れてくれたから、つい熱が上がってしまってね。俺、だったら何回でもできるかも」
「私にはそんな体力ないんですけど……」
「うん、ごめんね。大丈夫かい」
「うん……だるいだけで、体はどこも痛くないよ」

 よかった。いやよくはないんだけど、の体がなんともないようでよかった。これからは体力配分に気を付けないといけないな。俺は今でもたまにテニスをするから体力はあるほうだけど、はそうじゃないんだから。
 の髪を指で梳いていると、彼女が眠そうに瞼を閉じた。

「ねえ、なにもしないから一緒に眠っていい?」
「……ほんとになにもしない?」
「絶対って自信はないから、なにかされてもいいなら頷いて」
「言ってること矛盾してない? ……いいよ」

 いいんだ。そういうのが俺を煽ってるってことに気づいてないのかな。まあ、ああは言ったものの疲れているに無体を強いるつもりはない。今はただ、くっついてイチャイチャしたい気分だった。
 布団に潜り込んでの頭の下に腕を差し込む。はおとなしく腕に頭を置いて、俺の胸に顔をくっつけた。体を抱き寄せると、ふたりの体はぴったりとくっついた。俺の体温であったかくなったのか、そう時間をかけずにはうとうとし始める。
 腕の中のを見て、俺は胸がいっぱいになった。
 ああ、幸せだな。昨日の今頃はなんでに会えないんだろうって落ち込んでたけど、今は本当に幸せだ。昨日は色々あったけど、あのと晴れて結ばれて恋人になったんだ。今なら全然信じてない神様を崇めたっていい。

「おやすみ、。愛してるよ」
「うん……私も、好き、だよ……」

 は半分夢の世界だったが、ちゃんと俺の愛の告白に返事をしてから目を閉じた。それから俺の腕に頭を預けて本格的に寝てしまった。
 時間は朝の九時を過ぎたぐらい。普段なら休みの日とはいえ朝からだらだらするなんてほとんどないけど、たまにはこういうのも悪くない。ましてや恋人が一緒なら。
 昨日の頑張りのせいか、俺もまだ眠い。腕の中の愛しいぬくもりを抱いて、幸福感に包まれながら目を閉じた。





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