近くにあって、どこまでも遠いひと


「わかった、じゃあ卒論が終わるまではシフトに入れないでおく」

 バイト先の社員の言葉に、すみませんと頭を下げる。
 冬の時期はスイーツ全般の売り上げが上がる時期で、平日でも暇な時間が少ない。その時期に穴を開けることが申し訳なかった。
 しかし、これも卒業がかかっているので仕方ない。社員も学生バイトの扱いは心得ているのか、そこまで困ったような態度を表に出さなかった。

「そっか、まあしょうがないわ。でも卒論明けたらクリスマス期間中は入ってくれるんでしょ?」
「あ、はい。無事に終わればクリスマスは入れると思います」
「うんうん、それなら全然大丈夫。いや、大丈夫じゃないけどなんとかなる」

 ちなみにクリスマスイヴとクリスマスは朝から晩まで人の列が途切れることがない。予約のケーキを捌くことも大変だが、当日のカットケーキを買い求める人も普段の何倍もの数が来る。従業員が休憩に行く隙もないほどである。
 正直この悪夢のような二日間に出勤するのは嫌だが、このバイトも年内いっぱいで終わる。それまではちゃんと働いておきたい。
 が感慨に浸っていると、社員がの顔をじっと見つめてきた。

「な、なんです?」
さん、前から隈濃いほうだと思ってたけど、前より濃くなってない? 卒論だからって寝ないとだめだよ」
「え、そうですか? ちゃんと寝てますって。生活リズムを整えてる最中だから隈が濃くなってるのかも」
「ふーん、ならいいけど。これから帰るとこ? ケーキ買ってく?」

 社員が腕時計をちらりと見ながら営業してきた。商魂たくましい。

「えーっと、これからまた卒論しに行くので、ケーキは買っていけないです。すみません」
「え、どこですんの? 学校の図書館てもう閉まってるよね?」

 大学の図書館は午後七時で閉まる。なので、それからは駅前のコーヒーチェーンで卒論の続きをすることになっている。コーヒーチェーンにも、閉店時間近くまで居座るのがここ最近のの日課だ。

「ふーん、家じゃ集中できないとか?」
「まあ、そうですね。どうしてもさぼっちゃうんで。じゃあすみませんが、シフトのほうよろしくお願いします」

 社員との話を切り上げ、駅前へと向かう。
 全国どこにでもあるコーヒーチェーンは、電車までの時間をつぶすサラリーマンや、と同じように勉強道具を広げている学生、世間話に花を咲かせている女性客などでにぎわっている。適当に値段の安いコーヒーとサンドイッチを買い、空いた席へと座る。もうここの店員もの顔を覚えるころだ。
 客の話声は、気になるほどではないが、店内音楽が聞こえる瞬間は少ないほどだ。このざわつきがちょうどいい。自分のことに集中しやすくなる。それこそ、家にいるよりはよっぽど。

***

 コーヒーチェーンの閉店時間が迫ってきたので、仕方なく家に帰る。駅からはそう離れていないので、とぼとぼと歩いていうちに家に着く。
 家の玄関のドアの前で佇む。
 ドアノブにかける手を離してしまいたくなる。けれど、迷いが出る前にノブを回した。
 迷ったら、もうドアを開けられなくなりそうだ。

「ただいま」
「おかえり」
「……」

 待ち構えていたかのように、すぐに声が掛かる。声の主は、見なくてもわかる。ライトだ。
 の帰りが遅いから、待っていたようだ。
 ライトの姿を、できるだけ視界に入れないように靴を脱いで上がる。

「遅かったな。九時を過ぎるようなら、連絡を」
「忘れてた。集中してて」

 早口に言い放って、ライトのそばを通り過ぎる。ライトはなにか言いたげに息を吸い込んだが、の後姿を見送っただけで、結局なにも言ってこなかった。
 背中に視線を感じて、胃が縮む。

「お、おかえり
「おかえりー」
「ただいま。ごめん、連絡入れなくて」

 リビングに入ると、バッツとジタンがいた。ふたりの声に咎めるような響きはなかったが、詫びを入れる。そういえば、夕食が不要ということも誰にも告げてなかった。

「私の分のごはん、作っちゃったよね? ごめん、それ明日の朝に食べるね」
「んー、そっか。これからも遅くなりそうか?」
「うん。夕飯も、卒論終わるまではいらない」

 バッツが頷いた。のほうを見て、いたって明るい調子で言った。

「真剣なのはいいことだけど、あんま遅くなってリーダーを心配させんなよな」

 一瞬、言葉が出なかった。胸の途中で息が詰まって、声が出て来なかった。

「……うん、そうだね。気を付ける」

 背後で、また息を吸う気配がした。それを聞くなり、は無意識に口を開いていた。

「お、お風呂って、もしかして今スコールが入ってる?」
「ん、ああ。スコール上がったら呼びに行かせようか?」
「あ、うん、じゃあお願い」

 ジタンにそう返すと、視線を下げて踵を返した。後ろに立っている男の姿をなるべく見ないように。そのつま先すらも、今は見たくなかった。
 自室に入って、ドアを閉める。鞄を放るように置いて、深く息を吸い込んだ。見慣れた自分の部屋に帰ってきて、ようやく息ができるような感覚になった。ざわつく心を落ち着かせるように、意識して息を長く吸い込んだ。
 あの日以来、ずっとこんな調子だった。
 あれから、まともにライトの顔を見られない。あの出来事を思い出すのも、蒸し返されるのも、気を遣われるのも嫌で、ライトと接触すること自体避けている。
 ほかにバッツ達三人もいるおかげか、ライトを避けても関係性があからさまにギクシャクすることはなかった。今は忙しい時分だから、の態度は卒論の締め切りに追い詰められていて余裕がないゆえだとごまかすこともできる。ライト本人がどう思っているかはわからないが、少なくとも表面上は、大きな問題は起こっていない。
 ライトは、あの日から変わらない。あの夜の翌朝も、いつも通りだった。ライトの振る舞いだけ見ていると、まるであの夜のことはなかったかのような。それほどまでに、変化がなかった。
 なんだ。気にしているのは、意識しているのは、私だけか。
 そう思うと、胸の中心が温度を失っていった。
 それからだ。ライトと顔を合わせないように、なるべく家にいる時間を減らしたのは。
 卒論はいい口実だった。実際に締め切りも迫っているし、これを落とすわけにはいかないから、追い詰められているのも事実だ。朝起きて早々に大学や市の図書館へ行き、閉まるまで居座る。図書館が閉まれば、作業ができるコーヒーチェーンへ。
 そのおかげか、卒論はみるみるうちに進んだ。ほぼ手をつけてないような状態から、章を組み立てて文章を打ち込んでいく段階になった。
 バッツ達は、とライトの間になにかあったと勘付いているかもしれない。先ほどのバッツの言葉にも、微妙な反応をしてしまった。観察眼に長けている彼らがなにも気づかないはずがない。がライトを避けていることも、よくよく見ればわかることなのだ。
 ふう、と息を吐く。
 この家にライトがいると思うと、体に力が入って、息が上手くできなくなる。自然と呼吸が浅くなる。
 嫌いなわけじゃない。嫌いになれない。嫌えるはずがない。
 好きだから、避けているのだ。
 好きだから、これ以上好きになるのが怖い。この気持ちの行く末は見えているのに、これ以上のめり込むわけにはいかない。
 好きな相手を無視するようなことをして、苦しくないわけがない。家にいて息が苦しく感じるのは、自分の行為を自分自身が咎めているのだ。
 自分の家を居心地悪くしてでも、彼を避けねばならなかった。
 これ以上好きになってしまったらいけない。
 ライトは、いずれの前から消えてしまうのだから。

***

 光を受けて輝く銀の髪。海が凍ったような瞳。背筋が伸びた美しい立ち姿。
 好きになったのは、いつからだろう。その姿を目で追うようになったのは。
 きっと、昨日今日に始まったことではない。もうずっと前から、ほかの人とは違う感情を抱いていた。
 その感情に向き合わずに逃げ続けて、あの夜改めて突き付けられただけだ。
 向き合わなかったのは、やはりライトが異世界の住人だからだ。
 好きになっても仕方ない。好きになっても、その先には別れが待っている。
 だから、好きにならない。この感情は違うのだ。どきどきするのは、ライトさんがかっこいいから、だから照れているだけ。そうに違いない。
 ここまでうまくごまかしてきたのに、どうして今。好きの気持ちに気づいてしまったんだろう。
 手の届かない人を好きになっても、実ることがない想いを抱いても、どうしようもないのに。
 適当にごまかして、適当に楽しくやっていれば、別れが来たって一時悲しむだけで忘れられたかもしれないのに。
 どうして、どうして――

「――さん」

 女性の声で呼ばれている。そこで、目が覚めた。
 まだ重たいまぶたをこすって、あたりを見渡す。

「あれ、私、いつの間に寝て……」
さん、お久しぶりですね」
「え、あ――コスモス」

 声のほうに顔を向けると、まばゆい美貌の女神が立っていた。
 本当に、久しぶりな気がする。バッツ達が来た時に夢で会って以来だから、何ヶ月ぶりか。

「コスモス、私の夢に出てくるってことは、もう大丈夫なの?」
「はい、おかげさまで。元のようにはいきませんが、少し力を取り戻しました」

 そういえば、以前よりも彼女が纏う輝きが増したような気がする。後光が差しているとはこのことだ。それも、力が戻ったことの表れなのだろうか。
 なんにせよ、彼女が力を取り戻せてよかった。それはいい。
 しかし、それが意味することは――

「じゃあ、もうすぐ」

 この先は、続かなかった。喉が震えてしまって、声にならなかった。空気をただ通すだけになった。

「ええ。――戦士たちを、こちらの世界に戻すことができます」

 の言おうとしたことを継いだコスモスにも、なにも返せなかった。ただ、心だけはどんどん冷たくなっていった。
 ほら、やっぱり。好きになっても、こうなるじゃないか。どうしようもないじゃないか――!
 目を開けると、そこは最近常連になったコーヒーチェーンの店内だった。いつもの席に突っ伏して眠っていたようだった。
 腕時計はこの店の閉店間際を指していた。コートを羽織ってマフラーを巻いて席を立つ。コーヒーカップを返却口に置き、店員のほっとしたような声に見送られて店を出た。
 ここ最近、いつも夜が更けた頃に家路につく。晴れた日は星が見えて、それを時折見上げながら、駅から家まで歩いて帰るのが最近のお気に入りだった。

(そういえば、私のカップ、割れたんだっけ)

 あれ以来、家でカップを使っていなかったから、今まで忘れていた。卒論が終わったら買いに行こう。
 それまでには、あの居候達も、いなくなっていることだろう。
 家の玄関を前に、急に足が重くなった。地面に足を縫いつけられたように動かなくなった。

(……はやく、知らせてあげなきゃ)

 だから、家に入るんだ。

(みんな、コスモスがどうしてるか、知りたがってる。ライトさんだって)

 だから、踏み出して、家に入って、伝えなくては。
 そう思っているのは本当なのに、どうしても足が動かない。
 どのくらいそうしていたのか。そろそろ指先が冷え切るころ、不意に玄関のドアが開いた。
 ドアが動いた瞬間、ライトが開けたのだと思った。なぜか、ドアの向こうに彼がいると確信に近いものがあった。
 果たして、ドアから顔を見せたのは、ジタンだった。

「……ジ、タン」
「おっ、なんだ、ちょうど帰ってきたとこか? いつもより遅いから心配してたんだぞ」
「あ……うん、ごめんなさい。ぼんやり歩いてたら遅くなっちゃった」
「あのなー、こんな寒い中そんなことして風邪でも引いたらどうすんだよ。リーダーだってうるさいんだし、気を付けろよな。大事な時期なんだろ?」
「う、ん……ごめん」

 ライトのことを言われて、また息が詰まった。

(……ライトさんじゃなくて、よかった)

 ドアが開く前はライトだと思っていたのに、実際に開けたのが彼じゃなくて、ほっとしていた。
 さっきはなぜ、ドアの向こうにいるのがライトだと思ったんだろう。

(……顔が見たかった、とか……?)

 まさか。主に彼に会いたくなくて、ここに突っ立っていたはずだ。
 ジタンの後についてリビングに入ると、一同がそろっていた。
 ちょうどいい。ここで、コスモスに会ったことを話そう。
 みんな、もうすぐ元の世界に帰れるんだよ。だから、

(だから、もうすぐ――)
?」

 誰の声だったか、すぐにはわからなかった。その声に顔を上げると、視線の先にライトがいた。
 帰りが遅くなったを心配そうに見つめて、なにも言わずに、じっとの様子をうかがっている。
 その目は、なにも変わらない。ただ、の身を案じてくれる、出会った時から変わらない目。
 その顔を見た瞬間、なにも言えなくなった。
 もうすぐお別れだなんて、言えなかった。

***

「うわ、ひっどい顔だね」

 開口一番に言われた言葉に、は遠慮なくにらみを返した。向かいの席に座ったカムは、のにらみにもまったく動じなかった。
 例によって、大学の図書館で卒論を進めているところだった。今とカムが座っている窓際の大きな机には、ふたり以外誰もいない。締め切りが近づいたこの時期、ひとり掛けのほうに人が集まっているので、大きい机は空いていることが多かった。

「図書館では静かにしたら」
「別に騒いでるわけじゃないし」
「……邪魔なんだけど」
「かといって俺が来る前は進んでたようには見えないけどね、その顔」
「うるさいな」

 カムの言う通り、資料を広げてから一ミリも進んでいなかった。図星を刺され、は悪態をついて黙り込んだ。カムも、必要以上に口を開こうとはしなかった。
 そのまましばらく静かになった。

「……カムのところには、コスモス来た?」
「コスモス……? いや」
「……もうすぐ、戦士たちを帰せるんだって。つい昨日」
「……そっか。それ、みんなにはもう話したの?」

 首を振って答えた。カムは、またしばらく黙った。
 資料に視線を落としたままで、今隣に座っているカムがどんな顔をしているのかわからない。しばしの沈黙が、どこか落ち着かなかった。

「俺はさ、なんだかんだあの人達が来てからこの件に関わってるし、がどんな気持ちなのか想像ぐらいはできるつもりだよ」
「……」
「けどさ……コスモスの話は、なるべく早くしてあげたほうがいいんじゃない」
「……そうだね」
「つらいなら、俺から言うけど」

 カムには最初にライトが来てから今までずっと、相談に乗ってもらったり話を聞いてもらっていた。だから、がライトに好意を持っていることも、とっくに察しがついていたのかもしれない。

「いや、いい。私、言うから」

 これは意地だ。自分の気持ちに向き合うことが怖くて、ずっと逃げてきたから、せめてもうすぐ訪れる別れのことくらいは、自分から伝えたい。今更勇気を出したって、ライトがの元からいなくなることは変わらないのに。今更見栄を張ろうとする自分が、実に滑稽でみっともなかった。
 カムと別れて、ふらふらと歩き出す。もうなにもする気が起きなくて、図書館の閉館時間前に大学を出た。コーヒーチェーンに寄ることもなく、歩いて自宅まで帰った。
 どうやって切り出そうか。いきなり早く帰ってきたにみんな驚くかもしれない。自宅に連絡する気も起こらなくて、ただおぼつかない足取りで歩いていた。
 もうすぐ元の世界に帰れると知ったら、ライトはどんな顔をするだろう。

(そんなの、決まってる)

 こちらの世界になじみつつも、コスモスのことをあんなに気にしていた。が見ていないところでも、おそらく元の世界に帰る手がかりをずっと探していた。クラウドも言っていたように、完全に目的を忘れることなどなかっただろう。
 ずっとこちらの世界にいてほしいなんて、そんな高望みはしない。
 この思いをライトに打ち明けようとも思わない。
 両想いになることなんて、そんなことはないから。
 別の世界の人だから。
 だから、帰れるようになって、本当によかったと思うべきなのに。
 なのに――ただ、胸が痛い。
 自宅に着いて、玄関を静かに開ける。リビングに向かっている途中で、キッチンにいるバッツとジタンが驚いたように声を上げた。

! 今日は早かったんだな」
「あ、うん……ちょっとね」
「夕飯は? 今からでも作れるけど、食べるか?」
「……え、っと」

 食欲はない。どう答えて、どうコスモスの話に持っていこうかと考えていると、リビングの戸が開いた。



 一気に心が浮足立った。なにも考えないように振り返った。そうしないと、逃げ出してしまいそうだった。自分で言うと決めたのに。
 ライトはなにも言わず、ただを見ていた。彼の後ろに、スコールの姿も見える。

「……ただいま、ライトさん」
「……おかえり」

 が久しぶりにただいまと言うと、ライトが目元を柔らかくした。彼の表情が柔らかく変化するところを見るのは、あの夜以来だ。
 以前は彼のこんな反応が、ただ嬉しかった。今は、ただつらいだけだった。

「みんな聞いて。コスモスの夢を見たんだ。もうすぐみんな、元の世界に帰れるって言ってたよ」

 コスモスの名を聞いて、四人が息を呑んているうちに言い終える。誰がなにを言おうと、余計なことをしゃべりたくなかった。

「――そうか。コスモスは、回復したのだな」

 その声の、なんと穏やかなことか。
 その表情の、なんと安堵に満ちていることか。

「そっか、それを言いに早く帰ってきたんだな、
「ようやく、戻れるのか」
「戻れるってわかって安心したぜ。こっちの世界も楽しかったからさびしいけどな」
「まあ、それはそうだな」

 バッツとジタン、スコールがさびしさを滲ませつつ話しているが、の頭にはまったく入ってこなかった。

「じゃあ、伝えたから。ごめん、部屋で卒論やってるね。夕飯はいらないや」

 誰のことも見ないように、二階へ上がった。駆け上がりたい気持ちを抑えて、いつも通りの足音になるように務めた。
 手に持っていた荷物をクッションの上に投げ捨てて、着替えもせずにベッドへと倒れ込む。
 ライトの反応は当然のものなのに、ただライトが好きというだけで、こんなにも胸が痛い。
 わかっていたはずだ。ライトにとっては彼の使命が、彼の女神が最優先だということを。それをまざまざと見せつけられて、涙を堪えきれない。
 行ってしまう、どうして、こんなに好きなのに!

(どうして私に触れたりしたの、ライトさん!)

 あの夜のことがなければ、気づかないふりをしてやり過ごすことができたかもしれないのに。
 こんな気持ち、知りたくなかった。気づかなければよかった。
 いっそのこと嫌いになりたい。避けているうちに彼もを煩わしく思ってくれればいいのに、ライトは決してそんな態度にはならなかった。常にのことを気遣っていた。けれど一方で、の態度の変化になぜと問うこともしない。
 優しいから踏み込んでこないのか、ただ関心がないのか。
 もうわからない。
 好きという気持ちをどうしたらいいのかもわからず、嫌いにもなれない。
 避けることでしか、取り繕えない。
 そうしているうちに、ライトは行ってしまう。一生見えることができない世界へ帰ってしまう。

(わからない、わからないよ。どうすればいいの)

 心の内の混迷はただ深まるばかりで、一筋の光明すらも見出せなかった。


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