WOL襲来


 日付も変わろうかという時間、はアルバイトを終え、自宅へと帰路についていた。
 大型総合ショッピングセンター内のケーキ売り場でのアルバイトである。
ケーキ屋にしては遅い閉店時間だが、ショッピングセンターの閉店時間が二十三時なので、それに合わせて営業が二十三時までとなっている。
 それから掃除などの閉店作業を終えて、着替えて店を出ると早くて二十三時半、遅くて二十四時近くなる。ケーキの廃棄が多い日はさらに片付けに時間がかかる。自宅からバイト先までは自転車で十五分なので、帰宅する頃には大体日付を超えている。
 は現在大学四年。親元を離れ、一人暮らしをしている。
 就職はなんとか決まり、大学の単位も残るは卒業論文のみ。今はバイトと所属サークルの友人と遊ぶ以外、基本的に暇であった。社会に出る前の平穏な日々を送っていた――はずだった、今この瞬間まで。
 自宅まであと三分くらいの距離まで帰ってきたところで、小さな公園を通りすぎようとして、通り過ぎてからブレーキを引いた。視界の隅に異様な人影らしきものが映りこんだのだ。

(……なんか、変な格好の人が、いた、ような……)

 時間帯が時間帯である。変な格好の人間がうろついていても、まあまあありうることだった。
 帰宅が深夜になってしまうバイトについて、両親からたびたび注意されていたが、「チャリですっ飛ばして帰ってるから大丈夫!」と追及を逃れてきた。
 事実、徒歩で帰っていると年に一回くらいは変質者に遭遇するのだが、自転車の時はまったくなかった。変質者も自転車で中々のスピードを出している女を捕まえようとはしないらしい。たまに様子のおかしい人を見かけても、基本はスルーして自転車を飛ばして帰ってきた。
 だが、今回スルーできずにブレーキを引いたのは理由があった。人影には止まらざるを得ないほどの異様さがあったのだ。
 自転車を完全に停め、恐る恐る公園内を伺うと、およそ現代社会になじまない服──鎧姿をした男性が立っていた。

(気のせいじゃなかった……)

 まじまじと観察してみる。
 紺地に金の装飾が施された鎧を身に纏い、腰から長剣を下げている。薄いレモン色のマントが所在なさげに揺れている。後ろ襟からはみ出ている髪は、街灯に照らされて銀色に輝いているように見える。
 なんというか、ゲームに出てくるような戦士然とした格好だった。
 それだけだったら、世の中には変わった趣味の人もいるなと見なかったことにした。しかし、彼の後姿にどうしても興味を引かれてしまうものを見つけてしまった。見つけてしまったというか、嫌でも目に入ってきたというか。

(あの人がかぶってる兜の角……すんげー長い……!)

 彼の被っている兜には、とても長い角が生えていた。四、五十センチはありそうだ。
 彼は遠目に見ても長身であったが、兜に生えている角まで入れるとなんだかやけにシルエットが長く見えてしまう。

(どうしよう……見なかったことにして帰りたいけど、あの角があんなに長い必要があるのかってことに突っ込みたい……!)

 いやだって絶対部屋のドアとかそのままだと通れない。まさか角で攻撃するわけでもあるまいし、あんな長いのつけていても重いだけでは……?
 などと、色々聞いてみたい。でも明らかに怪しい、少なくとも常人ではない気がする。でも聞いてみたい――自分の中の葛藤が体に影響して、の体がうずうずしてしまう。
 そのちょっとした動きでも戦士(仮)に悟られてしまったようで、彼が唐突にのほうを振り返った。

(やば、目が合った)

 彼は戦士らしく眼光鋭くこちらを睨んでいる。右手はいつでも剣を抜けるように柄にかけられている。

(……格好もおかしいし、一体どこの国の人? ていうか、なにこの美形!?)

 後ろ襟からはみ出ていた長い銀髪、透き通った青い瞳、通った鼻筋。
 目つきは多少……いや、はっきり言って悪い。三白眼といっても過言ではない。が、その険しい目元を差し引いてもとんでもなく美形である。美形+鎧姿で、どう見てもなにかのファンタジーから飛び出してきた騎士にしか見えなかった。
 美形で三白眼の長身から睨み付けられれば迫力もすごいもの。怖さは変質者に遭遇するそれとは比べ物にならない。先ほどまで頭を占めていた好奇心はなりを潜め、今は恐怖しか感じない。
 これは今度こそこの場から逃げるべきか──がそう考え足の裏に力を込めたと同時に、彼が剣の柄から手を離した。見ると、彼の目つきも警戒を解いたように少しだけ和らいでいる。
 思わずほっとするだが、彼がこちらに近づいてきたことで再び体を強張らせた。
 真正面から見た彼は、やはり戦士然としている。重そうな盾も持っていた。

(これは……逃げられない! ってやつ……!?)

 恐怖が顔に出ていたのか、彼の第一声は、を気遣うものだった。

「そんなに怖がらなくていい。危害は加えない」

 冴え冴えと通る、心地のいい低音。声音が思ったより優しかったので、は体の硬直が解けるのを感じた。

「少し、道を尋ねたい」
「は、はあ」
「ここはどこだ?」

 なんとも不可解な質問だった。
 が住んでいるこのあたりは、郊外のベッドタウン。コンビニぐらいはあるが、大きな商業施設などはなく、ホテルなどもあまりない。そのような土地の公園で深夜にたたずんでいた理由が「道がわからない」?
 すぐにうまい返答が浮かばず、彼を見つめ返してしまう。怪しいことこの上ないし、近所にこんな風貌の男が住んでいるなんて、下宿しているマンションの管理人にも聞いたことはない。浮きまくっている格好はともかくとして見た目は超がつくイケメンなのだ、女性のうわさにならないはずがない。

(あやしい、怪しすぎる……けど、なんか、この人……本当に困ってるように見える……)

 と向き合っていても、視線はあたりを見回してばかり。まるでいきなりこの公園に放り出されたような、心許ない視線にも見える。見覚えのない景色を、自分の記憶と照らし合わせて、しかし記憶のどこにもない。そんな仕草のような。
 しかし、彼の質問に答えようにもは下宿生。地元住民ではないので、彼の聞きたいことがわからない可能性が高い。
 それに、彼の国籍不明な見た目のせいで、話の前提が見えない。彼が聞きたいのはどこからだろうか。町内、市、県名、国名?
 そのあたりがわからないと答えようがない。とりあえず、そのあたりから確認してみることにした。

「えっと……国名から言ったほうがいいですか?」
「細かく説明してもらえるなら助かる」
「えっと、じゃあ、日本という国の……」

 詳細な県名、市名、住所番地まで答えた。それを聞いても彼は表情を変えなかった。納得した様子はない。沈黙してしまった彼に、さらに質問してみる。

「あの、どちらから来られたんですか?」
「秩序の聖域から出て、他のエリアに移動しようと歩き出したところで、ここに飛ばされた」
(なんのこっちゃ)

 返ってきた簡潔な答えに、今度はが固まる番だった。彼の口から出てきた単語に聞き覚えはない。というか、明らかに現代社会の地図に乗っている地名ではない。
 ただひとつ明らかなのは、いつまでもこんなところに突っ立って話していてもどうしようもないということだ。話し声を聞いた付近住民がこんなところを目撃しては、彼もも不審者に思われかねない。
 彼の境遇をが理解するのも、現在地について彼に説明するのも、それなりの時間がかかりそうだ。彼の疑問をほっぽって帰ることはできない。
 となれば、がする提案はひとつだ。

「あの……立ち話もなんなんで、うちに来ます?」
「……いいのか?」

 いきなりの申し出にもかかわらず、彼は意外にも乗り気だった。どうやら、彼のほうも長話になりそうだと思ったらしい。

「はい。ここであなたを放り出すのも嫌ですし、私も気になりますから」
「すまない。では、上がらせてもらおう」

 どうやら珍しいのは格好だけでなく性格もらしい。見た目から察するに、年齢は二十代半ばといったところだが、現代の若者らしからぬ潔さと判断の早さである。
 言葉を交わしてみて、この現代社会とはかけ離れている印象を受けた。ともすれば、まったく別の世界からいらっしゃったような感じが。

(まさかね。そんな、まさか……)

 バカげた思考を心の中で笑い飛ばすが、この発想は思いのほかしっくりきて頭の中に住み着いた。というか、それ以外で今のところ説明がつかないような、そんな気がした。
 マンションに着いて自転車を停め、オートロックの入り口を開ける。カードリーダー式のオートロックだが、カードを取り出すのが面倒なのではいつも暗証番号を打って開けている。
 ダイヤルを打って開錠すると、後ろにいる彼が首を傾げた気配がした。オートロックの動作が不思議といわんばかりに凝視している。はあえて自分からはなにも話さなかった。この男が別世界からやってきた説の信憑性が高まりそうなマネ、自分からしたくなかった。
 各部屋の郵便受けがあるエントランスを抜けて、エレベーターの上昇ボタンを押す。ちょうど一階に止まっていたのですぐに乗れた。今日は運がいい。中に乗り込んで四階のボタンを押すと、ドアが閉まり、箱は上昇し始める。
 箱を吊るケーブルを巻き上げる音がする中、彼が口を開いた。

「これは、なんだ?」

 まるっきりエレベーターとかオートロックを知らない……というか、機械全般を知らないような様子さえある。
 は、わかりやすく説明するために言葉を選んでから口を開いた。

「これは、エレベーターというものです。上下の階層に移動できる昇降機です。電気という動力で動いていて、階段を上らなくても上の階にいけるんですよ」
「そうなのか」
「一応階段もありますけど、私の部屋は四階なので、ほとんどこれを使ってます」
「わかった。もうひとつ、たずねたいのだが」
「はい」
「玄関の扉は、どういう仕組みなのだ?」
(やっぱりそっちもか……)

 今度の質問にも、はなるべくわかりやすく伝わるように説明した。
 部屋に着くと、は部屋の電気をつけ、背負っていたリュックを適当に置いた。

「あ、狭いところですが、どうぞ上がってください」

 玄関で突っ立っていた彼に声をかけると、彼は頷いて、ブーツを脱ぎ始めた。このブーツは鎧とそろいのものらしく、歩いている時も金属音がする。脱ぐ時も少々手間取りそうだなとぼんやり思った。
 は部屋に出しっぱなしだった服などを片付け、狭いキッチンでティーポットを取り出して紅茶を入れる。

(緑茶なんて飲んだことなさそうだからなぁ。紅茶……あってよかった)

 はどちらかといえば緑茶派で、普段紅茶はあまり飲まない。少し前に別れた男の好みが紅茶で、その男が買ったものが残っていたのが幸いした。さっさと捨てなかった自分を褒めたい。

「失礼する」

 ブーツを脱ぎ終わった彼が部屋に入ってきた。
 ベッドと、食事用の低くて小さいテーブル、勉強机兼化粧台のデスク、小型のテレビがある普通のワンルーム。その部屋の中にあって、彼の格好はなお浮いていた。
 とりあえず、話をしなければ。テーブルに乗っていたノートパソコンをどかし、紅茶を置くスペースを作る。自分がいつも座っているところとは反対側にクッションをひとつ置いて、彼の座るスペースも作る。

「あ、座ってください」
「ああ」

 台所に戻り、沸かしたお湯を注ぐ。立ち上る茶葉の香りで少しだけ落ち着いたような気がした。
 しゃれたティーカップなんてこの部屋にはない。少々不恰好だが、マグカップに入れる。
 ちらりと視線を投げると、長身の男はが用意したクッションにちょこんと座っている。兜をつけたままおとなしく座っている様子がおかしくて、はあわてて視線を逸らした。

(だめだ、話をする時はあの兜取ってもらおう)

 笑い話をしているわけでもないのに、いきなりが笑い出したらさすがに失礼だ。変な女だと思われるだけならいいが、最悪怒らせかねない態度である。

「どうぞ。粗茶ですが」

 マグカップを彼の前に置き、自分の分も彼の向かい側に置いて、は座った。

「ありがたくいただこう」

 その言い回しも、今の若者らしいとは言い難い。カップを持とうとした彼に、はすかさず声をかけた。

「あ、その前に」
「なにか?」
「その兜も外してもらえませんか? 室内だと不便だと思うので……見ての通り、狭い部屋ですし」

 どうしてもその角に突っ込みたくなる、とは言えなかった。
 彼はふむ、と頷いて、素直に兜を取った。兜を取ると、今度こそ紅茶を一口すすり、彼は小さく息を吐いた。混乱している様子は表に出していなかったようだが、心の内はかなり戸惑っていたのだろう。
 も紅茶を飲もうとして、目の前の青年を見て思わず手を止めた。カップが思いのほか熱かったのもある。だが、それ以上に晒された彼の容貌に見惚れてしまったのだ。
 明るい蛍光灯に照らされた彼は、紅茶を飲む仕草も絵になるいい男だった。
 銀髪に灰色がかった碧眼、通った鼻梁、シャープなラインの頬、形のいいくちびる。すべてのパーツは黄金比の配置で、彼の顔はどの角度から見ても美しく整っていた。
 光を受けて輝く銀髪は、毛先がはねている。くせ毛なのだろう。兜をかぶっていたせいか、根元のほうはペッタリしている。整いすぎていると言っても過言ではないような彼の容姿の、今のところ唯一の隙だった。

(こんな男前を捕まえてかわいい、とか思ったら失礼かな)

 彼の視線は厳しいものを含んでいるし、を前にして緊張は解いているものの、警戒は怠っていないのはでもわかる。全体的に隙というものが存在しない青年だからこそ、そのぺったりした美髪が可愛く思えた。
 彼がカップを置く音で、は視線を彼の容姿から離した。いつまでも見つめていてはさすがに不躾だ。

「えっと、まず、私の名前はといいます。と呼んでください。あなたは?」

 が自分の名を名乗ると、彼は逡巡するような間を置いた。

「私は、ウォーリア・オブ・ライトと呼ばれていた」
「呼ばれていた?」
「私は、自分の生い立ちや、本当の名がどういったものなのか――自らに関する過去の記憶がない」
「…………………………はい?」

***

 彼の語る境遇は以下にまとめる。
 自分を含む十人の戦士たちは、調和の神・コスモスと混沌の神・カオスが戦っている世界に召喚された。
 自分たちはコスモス側に属し戦っていたが、カオスに敗れてしまった。
 世界に再び調和を戻すためにクリスタルを探していたが、道中でひどい眩暈に襲われ、気づいた時にはここにいた。
 自分は、コスモスに召喚される前の世界での記憶がない。それこそ自分の名前もわからない。

「はあ……それで、ライトさんはウォーリア・オブ・ライトと呼ばれていたんですね」
「そうだ」

 はどう呼ぶか迷って、結局「ライト」と呼ぶことにした。
 ライトの話が終わると、今度はがこの世界のことを話す番だった。できるだけわかりやすく、かいつまんで今いる世界のことを話した。ライトがいた世界――コスモスとカオスが戦っている世界とも、ライトが本来生きていた世界とも、おそらく違っていることも。

(なんか、どっかで聞いたことあるような話なんだよなぁ……なんだっけ……ゲームのやりすぎ?)

 は思い出せそうで思い出せない引っ掛かりを感じた。
 ライトは突然違う世界に飛ばされても冷静さを失ってはいないようで、の話を淡々と聞いていた。むしろ、のほうがテーブルをひっくり返したい衝動に駆られている。そんなことをしても自分が困るだけなのでしないけど。あまりにも非現実的な話すぎて、頭を抱えたくなるのはしょうがないのだ。
 気分を落ち着かせようと、大分冷めた紅茶を一口飲んだ。

(なにこれ、どこのファンタジー? なんていうラノベ? ……でも、実際にいるわけだし。とりあえず、話を進めないと……)

 時刻は午前一時を回っている。バイト後の疲労とこの話の疲労が重なって、まぶたが重くなってきた。
 そろそろ休む準備を、と口を開きかけるが、その前にライトが立ち上がった。

「私はそろそろ行く。色々と世話になった」
「え……行くって、どこへ? あてがあるんですか?」

 ライトはなにも言わなかった。あてがないのだ。
 それでも歩き出そうとするので、はとっさにマントをつかんだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なにか?」
「あてもないのにどこへ行くんですかこんな夜中に! しかもお金も持ってないでしょ!」
「だが、今晩の宿を取らねばなるまい」
「ここでいいですよ、ここで!」
「なに?」

 ライトがやっと訝しげに振り返った。

「だから、ここに泊まればいいじゃないですか。ライトさんがよければですけど」

 の言葉にライトが返したのは、険しい表情だった。

「それはできない。初対面の女性のひとり住まいにいきなり世話になるなど」
「でも、今から地理もわからない土地で宿を探すのなんて、もっと難しいんじゃないですか? 大体、この辺はベッドタウンだからホテルとかありませんし、お金もない上に身元がはっきりしないライトさんを泊めてくれるところなんてないに等しいと思います」
「しかし……」
「あの、さっきも言いましたけど、ここであなたを放り出すなんてできません。それこそ気になって眠れませんから」

 ライトの言葉をさえぎるようにが言うと、ライトは視線を落とした。
 何度も言うが、この辺りにあるのはコンビニと単身向けのマンションやアパート、そして鈍行しか止まらないローカル線の駅だけ。ホテルなんてないのだ。
 宿がなければ野宿しかねないこの男を、ここまで来て放っておくほどは非情でも無関心でもない。

「私のことはお気になさらず。というか、元の場所へ帰れるまでいればいいですよ」

 さらにが言うと、ライトは今度こそ驚いたような顔をした。その表情も、すぐに険しくなる。

「君は、人がよすぎる。私のような異邦人に、どれほどの期間にわたるかわからない滞在を許すなど、あまり感心しない」
「そうですか? まぁ、これもなにかの縁ですし。ライトさんは悪い人には見えませんし」

 むしろその逆だろう。正義とか誠実とか質素倹約とか、そういう言葉が似合う男だと見た。見ず知らずの出会って一時間ほどの男に同居を許すなど、確かに字面だけなら貞操観念を疑われそうではある。
 けれど、実際はライトには深い事情があるし、偶然といえどその事情を知ってしまったからには、助けになってやりたい。元の世界に帰れる方法なんてにもさっぱり見当がつかないし、ライトの言った通りいつまでになるかわからない。けれど、この青年が路頭に迷っているところは見たくない。具体的な手助けはできずとも、せめて衣食住に困らない環境くらいなら提供できるのではないか。はそう思ったのだ。
 ライトはしばしの顔を凝視した後、あきらめたように頭を下げた。

「すまない。では、その言葉に甘えることにしよう」

 はライトの了承に、無意識に胸をなでおろした。この見るからに頑固そうな青年を納得させることができた。

「不束者の家主ですが、これからよろしくお願いします、ライトさん」

 が差し出した右手を、ライトは迷いなく取った。こうと決めれば切り替えは早いようだ。

「ああ、こちらこそよろしく頼む、。私にできることがあれば、遠慮なく言ってほしい」

 が彼の手を握ると、彼は以上の力で握り返してきた。触れた手が温かい。まるで現実感がないのに、触れてみるとちゃんと体温がある。ライトはの現実に現れた人間なのだということを、この時やっと実感した。
 こうして、不思議な異世界人との不思議な関係が始まったのである。


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