燃え尽きない夜


※房中術ネタ。口淫とかあります


 ある夜のこと。
 情事の後、が寝るまでの間の短い時間、裸のまま寄り添っておしゃべりをしたり肌に触れたりといちゃいちゃしていた。太公望が自分に課していた「一晩に一回だけ」というルールは今夜も守られており、は心地よい疲労感と充足感のもとで眠りにつく……はずだった。
 とあることを思い出し、それからどうにも気になってしまったので、太公望に直接聞こうと口を開いた。

「ねえ、房中術ってなに?」
「え……? い、いきなりどうしたんです?」

 腕枕しながらの髪を梳き、体を撫でていた太公望は、唐突な質問内容に目を開いた。

「この間、張角おじいちゃんが言ってたんだよ。あの若い呂尚と恋仲なら、房中術もお手の物なのかのう、って。房中術ってなにって聞いたら、呂尚に聞いたほうが詳しかろうってかわされちゃって……」
「え、ええー……」

 張角とは最近カルデアに召喚されたサーヴァントで、中国出身の道術を使うキャスターだった。太公望といえば老人というイメージがあったせいか、カルデアにいる太公望を見て「あんな若造が?」と言っていた。確かに、太公望が史実や伝説で活躍した年齢は、老人と言っても差し支えない。その太公望のイメージから考えると、この太公望は外見的にも精神的にも若々しい。若々しすぎるくらいだ。張角が思わず「ジジイをからかうでない」と言った気持ちもわかる。
 それはさておき、房中術のことを聞かれた太公望は、傍目に見ても困っていた。

「ぼ、僕に聞かれても困るんですが……」
「知らないってこと?」
「いえ、そういうわけじゃなくて……なんて言ったらいいかなァ、説明に困るというのが正しいですね」
「それでもいいから聞きたい、って言ったらやっぱり困る?」

 至近距離で可愛い恋人からの上目遣いを食らってしまった太公望は唸った。彼はこの好奇心で輝く目にめっぽう弱いのだ。

「うーん……仕方ない。ものすごくざっくり言うと、修行法のひとつで、古い時代の性教育みたいなものですね。男女の交わりを通して陰陽を補い合うというのは、西洋魔術でも聞く話でしょう? 房中術もそれと同じようなもので、男女の交わりを通して養生、健康を保つ。そのためには男性本位の行為ではいけないとか、節度も守らないといけませんよ、というような教えとか技法のことです。房事に関することだから房中術」
「へえ……」

 説明に困ると言っていた割にわかりやすい。がふむふむと頷くと、これでこの話は終わりかと太公望が息を吐いた。しかし、にはもっと気になることがあった。

「太公望はしたことあるの?」
「は、はい……!?」
「だって、いつだったか房事は苦手って言ってたじゃん。でも太公望は、う、上手いから……そういうこともあったのかな、って……」

 本当の恋人同士になる前に、太公望が「房事は苦手」とぼそっとつぶやいていたことをは覚えていた。その時は房事という言葉を知らず、なんのことを言っているのかわからなかった。後に言葉の意味を調べてひとりで赤面したということもあったのだが、今は割愛する。
 苦手とは言うものの、彼の行為は優しくて丁寧で、なにより行為の中での嫌がることをしないのでストレスがない。常にの様子に目を配っていることがわかる。なにより、彼が一度達するまでには何度も果ててしまうくらいには気持ちがいい。それはもう上手いということだろう。
 だから、房中術を嗜んだことがあってもおかしくないと思ったのだ。妻帯者であったこともあり、そっち方面でも色々な経験を積んでいてもおかしくない。
 顔を赤くして言葉が尻すぼみになっていくに、可愛いのか自分を困らせたいのかどっちかにしてほしいと思う太公望であった。

「んん……上手いと言ってくれるのは嬉しいけど……困ったなァ」
「あ、困るってことは、ある?」
「うーん……あるような、ないような……房中術を推奨していた御方もいましたけど、僕の師匠の元始天尊様はそうではない、とだけ言っておきましょうか」
「むう……またはぐらかして」

 相変わらず明言を避ける太公望に、くちびるを尖らせる。不満げなの頬を太公望がつついてくる。

「まあまあ、昔のことはいいじゃありませんか。こうしてをたくさん気持ちよくできてるんだから」
「ま、まあ、そうだけど……」
「ふふ、そんなことが気になるなんて、好奇心旺盛なんだから」

 太公望は笑いながらの額にキスを落とし、なだめるように頭を撫でてくる。そこに子供扱いのようなものを感じて、は複雑だった。

(前の奥さんのこととか、妲己のこととか……私が知ってもあんまりいい気持ちにならないかもってことは、絶対曖昧にするんだよね……私、そんなに子供じゃないのに……)

 おそらく、が知らないで済むことはあえて濁している。知ることによって、がいらぬ感情に悩まされることを防ごうとしているのだ。だから、特に過去の異性関係は歯切れが悪くなる。
 太公望に守ってもらわなくてはならないほど、自分は嫉妬や悲しみに惑ったりはしない、とは思っている。思いを交わしてから、毎日身に余るほどの言葉や抱擁をもらっているのに、今更過去に嫉妬して沈んだりしない。ただ太公望のことを知りたいだけなのに。それで知ったことでどう感じ、どう自分の中で解釈するかはが決めることだ。
 太公望から見れば、などまだ幼いうちに入るかもしれない。けれど、だってもうひとりの女である。

「……房中術って、男性本位ではいけないって教えがあるんだよね? ってことは、女性が男性を喜ばせる方法もあるってことだよね」
「……え? まあ、なくはない、ですけど……」
「それ、私にも教えてよ」
「え!?」

 の据わった声と発言の内容に、太公望が目を丸くした。驚いている隙に起き上がって太公望の上に馬乗りになると、彼のくちびるに自分からキスした。

「り、つ……んっ……」
「太公望……」

 積極的なに、太公望はたいそう戸惑っていた様子だった。しかし、それはそれとしてからキスしてくれたことが嬉しいのか、が舌を差し込むとすぐに下からも舌が伸びてきた。舌を絡め取られて、ざらざらとした感触に一瞬下腹部に甘い電流が走る。さすが、の体を知り尽くしている。
 キスでは逆に自分が翻弄されかねないと思い、早々に舌を引っ込めて、ちゅっと口に吸い付いてから身を起こす。普段なら、ここからもっと濃厚なキスをして情事の雰囲気と体になるのだが、今は普段とは違うことをしたいのだ。

(私だって、太公望を気持ちよくしたい……翻弄したい)

 太公望の胸元に触れる。細身だがしっかりと筋肉がついた体。ゆっくりと手を這わせると、太公望がぴくりと反応した。漏れた吐息がなんとも色っぽく、の肌まで粟立つ感覚が走った。
 もっと反応が欲しい。もっと、吐息だけじゃなくて声も聞きたい。表情も変化させたい。
 の指が乳首を捉える。綺麗な象牙の肌と贅肉のない体つき。筋肉で薄く隆起した胸は、見た目よりも柔らかい感触だった。けれど、柔らかいだけの自分の胸とは違い、硬い。
 胸全体を手のひらでなぞりながら、時折乳首を捏ねる。すぐに太公望から戸惑いの声が上がる。

「り、……一体、なにを……」

 がなにを考えているのかわからない。太公望の顔にはそう書いてあった。普段も情事の最中もめったに見られないような顔に、の背筋にゾクゾクとしたものが走る。

「私だって、太公望を気持ちよくしたい……もう、子供じゃないよ、私……」
「……!」

 少し怒ったような表情の中にも情事の最中に見せる快楽を求める顔が合わさり、太公望の上に跨っているという状況も相まって息を呑む色気だった。太公望が見蕩れている間に、は平らな胸にくちびるを落とし、愛撫でピンと立ち上がった乳首を舐めた。

「……っ、、」

 未知の感覚に、太公望はただ声を殺すことしかできない。やめさせようとの肩に触れるが、の赤いくちびるが自分の胸に吸い付いているという光景に思わず手が止まる。よく見ると頬や耳も赤くなっており、羞恥心を押し殺して太公望に愛撫を施していることがわかる。

(か、可愛すぎる……)

 胸への愛撫が感じるか感じないかだけで言えば、感じない寄りの感じるといったものだ。しかし、あのが恥ずかしさに耐えながらしているのだと思うと、正直めちゃくちゃに興奮する。児戯のような愛撫も含めて可愛い。可愛すぎてイきそうだ。
 が、の可愛らしさを堪能するのも束の間だった。が太公望の下腹部へと手を伸ばしてきたのだ。ハッと意識を取り戻した太公望は、飛び上がらんばかりに上体を起こした。

「だっ、ダメ!」

 それだけはダメだ。可愛い可愛いがそんなモノに触れるなんて。いや何度もの体内に突っ込んできたものではあるが、直接触ることは太公望が耐えられない。
 いきなり大声を出した太公望にびっくりしていただったが、ここからが肝心というところで止められ、不満そうに口を尖らせた。

「ダメ? なんで?」
「なんで、って、そんな汚いモノに触れさせるなんて……!」
「太公望は私の舐めるくせに」
のは綺麗だし僕が好きでやってるんだからいいんですっ! じゃなくて、あなたにそんなことさせるわけには……!」
「そんなことって……私、そんな純粋でもないよ? 女性から男性へ、って考えた時に思い浮かんだことだし……その、知ってるだけで、やったことはないから、気持ちよくないかもしれないけど……でも、気持ちよくなって欲しいから、したい。ダメ?」
「り、……」

 赤い顔と切なげな表情、手には半勃ちのモノ。そんないやらしいお願いの仕方があるだろうか。好きでたまらない相手にこんなお願いをされて断れる男がいたら見てみたい。少なくとも太公望には無理だった。
 太公望がそれ以上やめさせようとしないと悟ると、は恐る恐る太公望の性器に両手で触れた。こうして触れるのも間近で見るのも初めてで、充血して硬くなっているモノに腰が引けてしまいそうになる。

(えっと……こ、こうかな……)

 そっと右手で竿を包み、ゆるゆると上下に動かす。手の力の強さはどれくらいがいいのか、どんなふうに手を動かせばいいのかもわからない。のぎこちない動きに、太公望も興奮より焦れったさが募る。

「……、もう少し力を弱めて、ゆっくりでいいですよ」
「こ、こんな感じ……?」
「ん……そう、そのぐらい」

 見かねた太公望が手つきの指導をしてきた。太公望としてはこんなこと教えたくないだろうが、が間違ったやり方を覚えるよりマシだと思ったのだろう。こんな知識、覚えてほしくないしやらせたくもないが、どうせ知るなら気持ちいいやり方を知ってほしい。たどたどしい手つきで懸命に男性器を弄っているに、興奮でどうにかなりそうになりながら教えていった。
 手の動かし方を実践するうちに、手の中のモノはどんどん硬く、大きくなっていった。もう完全に勃起していると言ってもいいほどだった。

「口でしてもいい?」
「ん……ええ。疲れたらすぐにやめていいですからね。あと、咥える時は歯が当たらないよう気をつけて」
「う、うん」

 手を離しても屹立したままの陰茎の先端を、試しにペロリと舐めてみる。太公望の腰が動いたような気がして、裏筋に舌を這わせてみると、の頭上から熱い吐息が漏れてきた。

(やっぱり、口ですると気持ちいいんだ)

 思えば、太公望がの秘部を口で愛撫する時、もすごく感じてしまうし、そこで大体一度はイかされる。中を突かれるのとはまた違った快楽で、ぬるく湿った舌で敏感な場所を擦られると、声を我慢できないほど気持ちいい。男性器は一番敏感なところというし、やはり気持ちがいいのだろう。
 根元を右手で支え、先端を口の中に含む。歯が触れないように注意しつつ舌を絡める。

「っ……ん、……」

 太公望の声に視線を上げる。熱のこもった目でを見ていた彼と目が合う。舌や口を動かす度に目を閉じたり息を吐いたりと、わかりやすい反応が返ってくる。

(これ、気持ちいいんだ)

 太公望のこんな色っぽい声は、普段の情事だと彼が達する前くらいしか聞くことがない。それが、口で吸ったり舐めたりするだけで聞けるなんて。
 どんどんと張り詰めていく肉棒に歯を当てないようにするだけでも、初めてのにとっては苦しいもの。それでも、自分だって太公望を気持ちよくさせたいと思ってやり始めたことが実を結んで嬉しい。彼の反応にゾクゾクとした喜びを感じている。
 太公望としては、がしているから興奮のあまり感じてしまっているだけである。可愛くて可愛くて、目に入れても痛くない自分の恋人が――自分に抱かれるまでなにも知らなかった少女が、自ら男性器をその可愛い口で咥えているのだ。の口のサイズからすると少し大きくて、咥え続けるのもだんだん苦しそうな顔になってきた。なのに、自分を喜ばせようと必死に頑張っている姿は、胸にも下半身にも来るものがあった。

「……ちゅっ……太公望、気持ちいい……?」
「んっ……ええ、すごく。すごくいやらしい、……」

 しかし、と太公望は小さく息を吐いた。の勇姿を目に焼き付けておきたいのは山々だが、ただ黙って愛撫を享受することも限界だった。

、一旦口を離して、お尻を僕に向けて」
「……え? おしり?」
「お尻をこっちに向けて、僕の上に乗って」
「こ、こう……?」
「そう、そのままお尻を下げて」

 が太公望に尻を突き出すような体勢で上に乗り、太公望は目の前の白く小さな尻を両手で包み込んだ。自分の口元に引き寄せると、さすがにもこの体勢の意図に気づいたようだ。

「た、たい、あっ……! あ、だめっ……!」

 が尻を引きかけるのを力で押さえ、太公望は目の前に開かれたの秘部に吸い付いて、中から滴っていた愛液をすすった。ぴちゃぴちゃ、くちゅくちゅと、舌と粘膜が擦り合って、卑猥な音が立った。

、濡れてる……えっちだなァ……」
「なめちゃ、やだぁっ……私が、あっ、するのにぃっ……!」
「ごめん、でも、僕もしたいから。も頑張って、ほら」
「んっ、あ、うっ……!」

 太公望が腰を振ると、の目の前で屹立が揺れた。今夜は自分が気持ちよくさせると決めたのだ、太公望に負けていられない。再び肉棒を手に取ると、根元を握って先端を口に含む。鈴口から溢れていた汁を吸うと、少ししょっぱくて苦かった。

「ふ、んぅっ……!」
「はあ、……すごい、どんどん溢れてくる……」
「んんっ……! む、ぅ……!」

 お互いの性器を舐めしゃぶるという卑猥な状況と、太公望の容赦のない舌に、は太公望のモノを咥えたまま喘いだ。舌を使った愛撫では、圧倒的に太公望のほうに経験値がある。の感じることを的確にしてくるのだ。
 いつの間にか口内にたまった唾液が溢れ、竿に伝っている。それを舐め取ろうと、口を離して舌を這わせくちびるで吸う。ちゅっ、と性器にキスをしたようにも見えるその行為は、太公望の胸にも下半身にも多大なダメージを与えた。

「んっ…………!」
「は、あっ、んんっ!」

 元々イきそうだったところに太公望が一番敏感な突起をじゅるじゅると音を立てて吸ったため、は呆気なく達してしまった。力が入らなくなった体をベッドに寝かされたと思うと、太公望が少々性急な動きで覆いかぶさってきた。の両脚を開くと、とろとろに溶けた秘部に張り詰めたモノを挿入した。

「あっ! や、イったばっかなのに……!」
「ごめん、でももう、我慢できない……!」
「はあっ、あん、だめっ……!」
の中、すごい……」

 口淫のせいか、入ってきたモノは硬く熱い。太公望の顔にもいつもの余裕はなく、どこか切羽詰まったものを感じる。それはも同じで、奥を突かれる度に痛いほどの快感を覚えてしまう。時折奪うようにキスをして、肌を堪能するように体を撫で、そして再び腰を掴んで突き上げてくる。どこか急くような動きに、それだけ余裕がないことを表しているように思える。

(太公望も、興奮して……もっと欲しいって思ってくれた……?)

 そう思うと、下腹部の奥がぎゅっと切なくなった。汗がにじむ太公望の背に腕を回し、両脚で彼の腰を挟み込む。

「あっ、あ、んんっ――……!」

 絶頂の後の体を激しく責め抜かれ、はもう一度体をしならせた。

、またイっちゃった?」
「はあっ……ん、ふ、んぅ……」
……可愛い、……」

 せわしなくなる呼吸の中で、太公望のくちびるが覆いかぶさってくる。くちびるどうしの隙間から息を吸いながら、夢中でキスに応えた。
 ゆるゆると律動が再開する。ベッドが軋む音と肌がぶつかり合う音に、にちゅ、ぐちゅ、という粘着質な音が混ざっている。

「あっ、んっ、太公望……!」
「僕も、もう……!」

 合わさった肌も、繋がったところも――触れていない体の中も熱い。熱に浮かされるように互いの体を求めてしがみつく。
 やがて、太公望に強く抱かれながらは絶頂を迎え、太公望も後を追うようにして中に精を放った。

 ***

 荒い呼吸と心臓の音が落ち着くまで、ベッドの上に折り重なる。暑くて苦しいが、離れようとは思わなかった。
 一足先に息を整えた太公望が、の中から出て、の隣に寝そべった。その顔はなぜか複雑そうである。

「……太公望? もしかして、あんまり気持ちよくなかった……?」

 前戯で試みた口での愛撫が、あまり良くなかったのかもしれない。初めてのことだし、途中からなにをどうやったのかもよく覚えてない。もしかすると歯が当たっていたのかもしれないし、単純に良くなかったということも考えられる。
 不安になったが聞くと、太公望はすぐに首を横に振った。

「とんでもない、むしろその逆です。気持ちよかったし、その……えっちでいやらしくて、すごく興奮しました。我を失いかけるくらいに……」
「よ、よかったあ……あれ、じゃあなんでそんな複雑そうなの?」
「一晩に一回だけって自分を戒めてるのに、それを破る形になってしまって……房中術のくだりでも言いましたけど、性行為は溺れすぎず、節度をもって行えば不老長寿の秘訣とも言われてるんです。逆に言うと、際限なくしてしまうことは身を滅ぼすとして禁じられているわけで……」
「な、なるほど……でも、普段は一回だけって守ってるし、今日ぐらいはいいんじゃない?」
「うーん……僕も、今日ぐらいはいいかなって思ってはいるんですけど……この先、自分を抑えきれるかが問題なんです」
「この先?」
「その……またが口で咥えてくれたりすると、どうしても興奮しすぎてしまうというか……もちろん、咥えるのは僕としてもあんまりさせたくないとは思ってますけど。実際してもらうと破壊力がすごいというか、抗いきれないものがあるといいますか……」
「……!!」

 ごにょごにょとはっきりしない太公望の言葉だったが、要するに「大変興奮するのでまたされると我を失ってしまうかも」と言っているのだ。それを理解して、かつ自分がやったことを思い出したは、かーっと頬に血が上っていくのを感じた。

「あ、あの……初めてだったのにそんなふうに言ってくれて、ありがとう。毎回はちょっと無理かもしれないけど、また頑張るから……もっとやり方とか、教えてほしい……」
……も〜またそんな可愛いこと言って……だからこそ、自分を抑えきれるか心配なんです……」
「え?」
「ああ、いえいえ、なんでも。うん、毎回はさすがに僕も持たないので、たまーに、本当にたまに、かつがしたい時にまたしてほしいなァ、なんて」
「う、うん……また、私で気持ちよくなってほしいって思ったら、頑張る」

 と、が顔を真っ赤にして頷いたのを見て、太公望は「可愛い……」とこぼしながらぎゅっと抱きしめた。は嬉しそうに太公望の背に腕を回していたが、太公望の顔は、「恋人の可愛さとえっちさにどこまで自制心を保てるのか」と、の見えないところで非常に複雑そうなものになっていた。
 恋心を見せてくれた時と変わらぬ初々しさも持っているのに、少しずつだが着々と女性として変わっていく。その変化を自分がもたらしているのだと思うと、一層愛おしさが深まっていく。それを楽しみつつも、少々怖くもある太公望だった。


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