いけないおもちゃ 続き


 キャスターのギルガメッシュがどこからともなく入手した玩具でのプレイから十日。ギルガメッシュは少女が「しばらく王様はマイルーム出入り禁止」と言い渡したとおり、マイルームへは一切近寄ってこなかった。もちろん少女のほうからも彼との接触は避けている。ということは、性行為をしなくなってから十日経ったということを意味する。

(自分からしばらくえっちしないって言っちゃったから、私から王様を、さ、誘うなんて……)

 普段は三日と空けずに褥を共にしているためか、体が疼いて仕方がない。つまり、十日もギルガメッシュと触れあえなくて欲求不満なのだ。欲求を飲み込んで無理やり眠ってしまうにも、そろそろ限界だった。
 しかし、自分から宣言した手前、少女のほうからギルガメッシュを誘うことは抵抗があった。体が疼いて仕方ないからえっちがしたい──そんなことを言えば、あの男はどんな顔をするか。きっとニヤニヤと笑ってめちゃくちゃに揶揄してくるに違いない。自分から強請るのも恥ずかしいのに、ギルガメッシュから言葉巧みにからかわれでもしたら、本当に顔から火が出るかもしれない。そしてこのネタでしばらくからかってくるに違いない。

(けど、どうしよう……このままじゃ、眠れない……)

 シャワーを浴びて、キャミソール姿のまま、ベッドに腰かけた状態で両脚を擦り合わせる。股の間に右手を差し入れ、突起をいじる。

「……っ、ん……」

 快楽を拾ったのは最初だけだった。擦ろうが潰そうが特に気持ちよくない。ギルガメッシュに触れられているときは、少し触れられただけでも気持ちいいのに。それでも体は徐々に濡れてきて、膣内に指を入れた。くちゅくちゅと指で中をかき回してみても、やはりあまり気持ちよくはなかった。奥まで入っていないせいなのか、それとも自分でいじっているからなのか。
 不意に、ギルガメッシュが先日使った玩具が、洗った後そのまま放置されていることを思い出した。

(あれからまともに王様と話してないからここに置いてあるだけなんだけど……)

 ベッドの下のダンボール箱から、先日散々自分を責め苛んだバイブを取り出す。十日ぶりに見る、無駄にリアルでグロテスクで、男性器を模したそれを手に取る。ギルガメッシュが、自分のサイズに近いものを探したと言っていたことが頭をよぎった。

(王様の、だと思ったら、気持ちよくなるのかな)

 どきどきしながらそれを股間にあてがい、入口に擦り付けて少し濡らしてからゆっくりと挿入した。中を進んでいく感触はしばらく得られていなかったもので、ぞくぞくと快感が走った。

(やっぱり、王様のとは違う……けど、)
「は、ぁ……ん……」

 バイブを起動させると、先端が円を描くように動き始めた。中を機械的にえぐってくる玩具は、気持ちいいことは気持ちいい。だが、やはりなにか物足りない。

(やっぱり王様のじゃないと、ダメなのかな)
「んっ……ん、ふ、ぁ……ここ、かな……?」

 その欠落を埋めるかのように、自分でもバイブを動かす。ギルガメッシュに中を突かれている時はあんなに自分の性感帯がわかるのに、今はどこを突けばいいのかまったくわからない。焦れったい気持ちは埋められないが、それでも性感は徐々に高まっていった。

「あっ……は、ぁん……ん、や、イく、王様、王様……!」

 中に入っているものはギルガメッシュのものだと思い、必死に性感を拾う。時間をかけてやっと達したのだが、後には倦怠感と罪悪感しか残らなかった。
 やはりこんな玩具では満足にイけない。恥ずかしいけれど、自分からギルガメッシュを誘うしか──そう思っていた時だった。

「そろそろ貴様が痺れを切らす頃だと思って見ていれば……ひとりで楽しんでいたな、マスター?」
「……!? 王様……!?」

 少女しかいないはずの室内にギルガメッシュの声が響いた。驚いて俯かせていた顔を上げると、目の前にギルガメッシュが立っていた。ニヤニヤと口角を吊り上げて少女を見下ろしている。

「な、んでここに……いつからいたんですか!?」
「霊体化していただけのことだ。貴様がひとりで遊び始めたぐらいからか」
「ほぼ全部見てたってことじゃないですか!」

 自分で股間を弄って濡らし、彼の名を呼びながら玩具で果てたところをバッチリと見られていた。羞恥心で死ねるのではないかというほど恥ずかしい。ひとまず玩具を抜こうとした少女だったが、目の前の男に厳しい声で止められる。

「抜いてはならん」
「えっ……な、なんで……?」
「なに、ひとりで気をやるほどにそれを気に入っているのだろう? 口では嫌だと言っていたはずだが、あれは虚言だったか? しっかりと使いこなしているではないか」
「え、ちが、」
「なにが違う。先ほどその玩具に腰を振りひとりで果てたではないか。王に向かって偽りを申すとは不敬な」
「や、なに……?」

 ギルガメッシュはベッドに腰掛けていた少女をうつ伏せに倒し、尻を高く持ち上げた。玩具が相変わらず中をえぐっている様子が丸見えだった。それをギルガメッシュに見られているかと思うと、きゅんきゅんと中が狭まった。

「貴様には罰を与えねばな」
「罰……? ひゃあっ!」

 四つん這いの少女の尻を撫でたかと思うと、ギルガメッシュはその白い尻を平手で打った。ぺしっ、という音が耳に入ってきて、衝撃が下半身を襲った。だんだんと痛みを脳が認識して、尻がひりひりとしてきた。

「いっ、や、なに、なんで、あうっ」

 ぱちん、ぱん、すぱん。

「罰だと言っておろう、仕置きともいうか。我に虚言を吐き、ひとりで満足しようとした罰だ」
「ひっ、ちが、違うの、イったけど、王様にイかされるのとは全然違うの、だから、王様にえっちしてほしいの、ふあっ」

 ぱしり、ぱしっ、ぱん。

「罰の意味もわからんのか? はしたなく強請るな、淫乱が」

 ギルガメッシュが大きな手のひらを広げて打擲するごとに、少女の尻が赤く染まっていく。肌と肌がぶつかって痛い上に、幼子のように尻を叩かれて恥ずかしくてしょうがない。痛いのだが、不思議なことに、先ほどひとりで玩具遊びをしていた時よりも甘い声を上げていた。

「あっ、はあ、ひゃあん……!」

 叩かれる衝撃によって中のバイブが性感帯を擦り上げて刺激し、そしてバイブ自身の動きでも感じてしまう。

(お仕置きのはずなのに、痛いはずなのに……お尻叩かれて、イっちゃう……!)

 打擲されて、悲鳴ではなく嬌声を上げる少女を見下ろして、ニヤリと笑みをこぼすギルガメッシュ。純粋に快楽を求めてひとりで性器を弄っていた時よりも、好いた男に尻を叩かれている時のほうがよがっている。その事実はどうしようもなく男の征服欲を満たした。

「あうっ、だめ、だめぇっ……! おしり、たたかれて、イ、ひゃあぁん……!」

 びくびくと下腹部が痙攣し、少女は肘を折ってベッドに突っ伏した。中に玩具が入っているとはいえ、尻を叩かれて絶頂してしまった。羞恥心で涙がこぼれた。
 ぐちゅり、と玩具が引き抜かれる。

「尻を叩かれて果てるとはな。そんなに我に触れられるのが嬉しかったか?」
「ふ、ぅっ……違う、違うの……!」
「なにが違う? 玩具に腰を振り、尻を叩かれ果てたのはれっきとした事実ではないか。そんなに玩具が気に入ったか?」
「やだ、もう玩具は嫌……! ごめんなさい、もう玩具でなんてイきたくないの、王様がいいの……!」
「ほう?」
「だって、王様に抱かれてる時はすごく幸せなのに、玩具はそれがないの……全然、気持ちよくない……だから、お願い、王様ぁ……」

 どんなに激しく突き上げられ、腰どころか全身が痛くても、ギルガメッシュの体温を感じるだけで幸せだった。そのくちびるで、手で触れられるだけで、抱きしめられるだけで、ギルガメッシュが好きという気持ちがあふれて、胸が締め付けられた。玩具で肉体だけ気持ちよくなっても、心はまったく満たされない。一瞬高みへ昇るだけで、あとはギルガメッシュの温もりがないことを思い知って打ちひしがれるだけだ。
 ぽろぽろと泣き出してしまった少女に覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめるギルガメッシュ。少女を落ち着かせるように顔中にキスを降らせ、涙を舌で拭う。

「最初から素直にそう言えばよいものを。我よりも先に玩具になぞ走りおって」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「もうよい。まったく、強情なのか淫乱なのか……つくづく仕方のない女だ」

 そうは言うが、ギルガメッシュの表情は少女を責めるようなものではなかった。頬やまぶた、口に触れるくちびるは優しく。
 いつの間にか魔力で編まれた服を消していたギルガメッシュが、少女の割れ目に熱い剛直をあてがった。ゆっくりと中を押し進んでいき、そのすべてを収めると、再び少女に覆いかぶさってくちびるにキスを落とした。

「ん……ちゅっ……あ、ん……王様の、熱い……」
「玩具では感じれんだろう?」
「うん、ほんものの、王様……熱くて、おっきくて……本当は、ずっとこうしたかったの」

 と言って、少女は男の背に腕を回して抱きついた。ギルガメッシュの体温と、息遣いと、におい。それらを感じるだけで、あんなに焦れて干からびていた心が満たされていく。

「王様、大好き……」

 少女が自分からギルガメッシュのくちびるにキスをする。ギルガメッシュが笑ったのが、くちびる越しに伝わってきた。
 ちゅ、ちゅっとしばらくキスの応酬を楽しむ。どうしようもなく甘い雰囲気の中で、ギルガメッシュが律動を開始する。

「ん、んっ……は、ぁんっ……!」

 お互いのくちびるが触れ合ったままで、腰を小刻みに突き上げられる。今度は舌も絡ませ合う。体の上と下で粘膜どうしを擦り合わせることは、ひとりで玩具遊びをしている時には到底不可能なこと。

「んっ、あ、は、ギル、さまぁ……!」
「悦いのか?」
「う、ん……もっと、ギルさまがほしい……!」
「仕方のない女よ、よいぞ、くれてやる……! 代わりに、我に貴様を寄越せ、っ……!」
「はあっ、あん、ああっ……! いいの、あげる、ぎるさまに、ぜんぶあげるっ……!」

 腰遣いがいっそう激しくなる。膣の最奥に楔を穿つようにガツガ
ツと突き上げられ、ふたりの口の隙間から嬌声が漏れ出る。マイルームの簡素なベッドがガタガタと雑音を立てていた。

「あっ、ああっ、イく、イくの、ぎる、ああ〜〜っ……!」

 少女が全身をしならせて絶頂を迎える。ギルガメッシュもそれに続いて奥へ精を叩きつけた。久しぶりに膣内にギルガメッシュの精を感じ、少女はびくびくと腰を震わせた。

「んっ……王様の、中に出てる……」
「これも玩具では感じられんだろう? どうだ、久しぶりの中出しは」
「……気持ち、いい……やっぱり、王様じゃないとダメみたい……王様がいないと、玩具も全然気持ちよくなかったし……」
「そうか」

 ギルガメッシュは少女の言葉に満足そうに目を細める。

「玩具を使う時は必ず我を呼べ。ひいひい泣かせてやろう」
「も、もう、王様のえっち……どうせ王様がいるなら、王様のでおなかいっぱいになりたいよ……」

 少女としては、もう玩具プレイは当分いいかな、という気分から出た言葉だった。玩具よりギルガメッシュのほうがいいという意味でしかなかったのだが、それを聞いたギルガメッシュは「うぐぅ」と唸った。

「…………………………不意打ちで愛いことを言うでない」
「ひゃっ!? あ、ちょ、また……!」
「望み通り我の子種で腹を膨らませてやるわ!」
「だ、だめ、あん、イったばっかりなのにぃ……!」

 それから、夜を徹して文字通り「おなかいっぱい」まで注がれた少女。翌朝、マイルームの簡素なベッドに沈みながら、満足そうな顔をしているギルガメッシュを見上げる。なんでも自分の受け取りたい方向へしか受け取らない男に対し、うかつに本音をしゃべるのはやめようと決心したのだった。


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