風呂場にて



※「くちびるの味」→「君の一番に」→「夜まで待てない」の続きです。例によってやってるだけ



「次の近侍を選ばれるつもりは、まだ主にはないのか?」
 燭台切光忠が、主人であるにお茶を入れようと母屋へ戻ると、打刀のへし切り長谷部が声をかけてきた。唐突に切り出された話を噛み砕いてから、光忠は長谷部の顔を見返した。
「長谷部くん、近侍になりたいの?」
「ああ。お前などより主をお助けする自信はある」
 なんの衒いもなく現在の近侍である光忠に向けて言いのける長谷部に、光忠は苦笑を返した。主命とあらば、が口癖の男だが、本当は主をどう思っているのか計りかねるところがある。本当に主人に対して心酔し忠誠を誓っているのか。
「あの御方の命じられることなら、俺はどんなことでも成し遂げてみせる」
 それとも、主命を果たす忠臣を演じているのか。はたまた主命を完璧にこなすことで満足を得ているのか。
「いや、主は命ずることを嫌うからな……命じられなくとも、この俺が主のそばにいて、思うところをすべてやってみせる」
 または、主のことを、忠誠を越えて想っているのか。光忠は笑みから苦味を消した。長谷部ににっこりと笑いかける。
「そうだね。長谷部くん、熱心だし、次は選ばれるといいね」
 ───でも、の一番は僕だから、君が近侍になることはないと思うけどね。
 心の中でそう付け加えると、光忠は台所へと歩き出した。今日も、主のためにおいしいお茶を入れなければ。
「僕の愛情を、たっぷり入れてあげないと」



 その夜の情事は一段と激しいものだった。最中に光忠がのいうことを聞いてくれないのはいつものことだが、それでもの反応を見て楽しんでいるような節はあるので、基本的にはに合わせた行為をする。だが、今夜はそんな様子もあまり見受けられなかった。途中から考えることも許さないような光忠の動きに翻弄されるばかりで、よく覚えていないが。
 互いの汗や体液でべたべたになった身体を洗うため、光忠に抱きかかえられて風呂に入る。もう丑三つ時で、母屋は静まり返っていた。風呂場にも、この時間はさすがに誰もいない。
 湯で身体の汚れを洗い流してから湯船につかる。光忠がを抱いて離さなかったので、は光忠の膝に座っている。今は、の世話を焼いて上機嫌に見える。
「ねえ、今日はどうしたの?」
「え?」
「なんか、いつもと違ったから。何かあったのかなと思って」
「ごめん、痛くしちゃった?」
「痛くはなかったけど……」
 執拗に焦らされたかと思えば容赦なく攻め立てられたりと、少しきつかった。それを言外に読み取ったのか、光忠は自嘲するような笑みを浮かべた。
「気にしてないつもりだったけど、やっぱり気にしてたのか……」
「ん?」
「いや、長谷部くんが、君の近侍になりたがっててさ。俺のほうが近侍にふさわしい、みたいなことを僕に真っ向から言ってきたんだよね」
「長谷部くんが?」
「そう。そのときは適当に流したんだけど、長谷部くんがあまりにも主、主って言うから、やっぱりヤキモチ焼いちゃったんだね。ヤキモチっていうか独占欲かな」
「そうだったんだ」
「まあ、僕も彼は優秀だと思うから、寝首を掻かれないようにしないとね。君は、僕が恋人だからってそういう面で贔屓したりはしないだろう?」
「光忠くんを近侍にしたときは、思いっきり贔屓だったけどね。今のところ、近侍を変える気はないけど」
 は小さくため息をつく。
「うーん……こんなことが起こるなら、他の本丸でやってるローテーションにしたほうがいいかな」
「ローテーション? って何?」
「決まった順番で当番を回していくってことなんだけど、そっちのほうがいいかなぁって思ってさ。平等に回っていくから、それなら長谷部くんだって何も言わないでしょ?」
「うん、たぶんね。でもそれだと、順番がまわってくるのって結構間空いちゃうんだよね? 本丸にいる刀剣男士全員で回すから」
「そうだね」
「うーん……それだと、僕が耐えられないかも」
「なんで?」
「順番が回ってくるまで、毎日君のそばには僕以外の男がいるんだろ? 想像するだにぞっとしないね」
 暗に自分がずっと近侍でいたいということをほのめかしてくる光忠に、は苦笑いを返した。意外とヤキモチ焼きらしい。嫉妬されるのは嬉しいが、それを考慮していては仕事にならない。
 そろそろ上がろうと立ち上がり、湯船の桟を跨ごうとしたところで、後ろから腰に抱きつかれた。腰から背中にかけてゆっくりと舐め上げられ、は小さく声を上げた。
「あっ、ちょ、光忠くん? ん、や、何して……」
「上がるんだったら、僕が身体を拭いてあげる」
「拭いてあげるって……んっ」
 の身体についた水滴を舐め取るように、肌の上を光忠の舌が滑っていく。いたずらに吸い付いては所々を舐め、背中から腰が終わると臀部のほうに下がってきた。
「あ、やだ、だめそんなとこ」
「だめ? だってほら、お尻にも水滴がついてるし」
 柔らかい尻の弾力を楽しむかのように舌を押し付け、強く吸い付いて肌を弾ませている。
「ここにも痕つけちゃおうかな」
 なんの、と反応する間もなく痛みが走った。鬱血の痕を残した光忠は、の手を取るとそれも舐め始めた。
 手から腕へと上っていくと、立ち上がって胸に舌を這わせる。が逃げないように腰を抱き寄せて、胸の上部から下部へ、そして最後に、舌の感触に反応して尖ってしまった先端を口に含んだ。
「ひゃ、あ、ぅ」
 先端を舌でつぶすように押した後は、もう片方の手を舐め始める。そうして上半身をくまなく舐められたはすっかり反応してしまっていた。光忠がの股の間に指を滑らせると、湯ではない液体が滴っていた。
「あれ、これもお湯かな?」
「んっ、ふぅ」
「とろとろしてるからお湯じゃなくて、のエッチな汁だね。ただ身体を舌で拭いてただけなのに、こんなになっちゃってるよ。見て」
 光忠が粘液がついた指をの顔の前に持ってくる。指の間で糸を引いた液体を恥ずかしさで見ていられず、目をぎゅっとつぶる。光忠はその様子に小さく笑い、愛液がついた指を音を立てて舐めた。
「舌出して」
 光忠がの顎をつかんで言った。は何をするんだろう、と思いつつ大人しく舌を出した。
の唾、飲ませて」
 そう言っての舌を自分のそれで絡め取る光忠。きゅう、と舌を吸い取られる。いや、の唾液を吸っているのか。舌を伸ばしていることに疲れ、徐々に口内のほうに引っ込むの舌を追って、光忠の舌が口内に入ってきた。唾液をかき集めるように下顎を愛撫してくる。
「ん、んんっ……!」
 力が抜けてしまったは思わず光忠の身体にしがみついた。口が離れていく際に、二人の間に銀糸が糸を引いた。それも余さず舐め取ると、光忠はの身体を抱き寄せて、湯船に座りなおした。自分の上にを跨らせると、いきり立ったものをの割れ目に擦り付け、ゆっくりと中へ侵入していった。
「ん、あっ……また……」
「また欲しくなっちゃったから、仕方ないよ。ほら、こっち向いて。もっと唾飲ませて」
 また口を合わせて舌で唾をかき出しながら、ゆっくりとの中を擦り上げる。光忠が徐々に腰の動きを速めていくと、二人の口の隙間からの嬌声が漏れた。湯船の端から光忠に揺らされた湯が音を立ててこぼれている。
「ふ、んう、んんっ」
 の部屋での情事に比べればの上げている嬌声は小さいものだが、浴室にそれが反響して普段よりも大きく聞こえてくる。自分の耳でそう感じるのだから、光忠にとってはもっと大きく聞こえているかもしれない。そう思って声を我慢しようとするのだが、そういうときに限って光忠が中を強く突いてきたり、性感帯を刺激してくる。
「あっ、やぁっ……!」
「しーっ……静かにしないと、浴室の外まで聞こえちゃうよ」
 誰のせいで、と光忠を睨むが、その反応もこの男にとっては興奮の材料でしかない。
 の腰を立たせると、光忠はを後ろから貫いた。腰をつかんで小刻みに中を突いてくる。強すぎる快楽に、声を我慢できない。光忠が後ろから手を伸ばしての口をふさいだ。そうかと思うと、の口に指を入れてくる。これでは声が漏れてしまう。自分で声を抑えるしかなくなったを、後ろから光忠が容赦なく攻め立てる。
「ああっ、はあ、あぅっ」
「ほらほら、もっと頑張って声我慢しないと、みんな起きてきちゃうよ?」
「ふっ、んん、んぁっ……!」
「こんな状況で興奮してる? 僕をぎゅーって締め付けてくるよ、君の中。エッチなんだから」
 浴室にぱんぱん、と肌を打ち付ける音が響くほど、光忠が強く突き上げてくる。自分が一番感じる体勢で攻められ、の膝ががくがくと笑い始める。
「いきそう? じゃあ僕と一緒にいこう、、ああっ、出る、出る……!」
「ああっ、ふ、んんんっ!」
 が達しそうになると、の口の中に入れていた指を抜き、今度こそ口をふさいで、深くの膣内をえぐった。達した瞬間は嬌声を我慢できず、光忠の手でそれは幾分かかき消された。急激に狭まり、精液を搾り取ろうとする膣内の動きに逆らうことなく光忠は射精する。何度か腰を振って精液を出し切ると、達した直後で敏感なの身体がはねた。の中から出ると、白い液体がの内股をゆっくりと伝っていった。
「さすがに、出る量も少なくなってきたね。今日は打ち止めかな」
「……あ、当たり前でしょ……何回したと思ってるの……」
「えーっと、部屋で……」
「数えなくていいから! もう、ふらふらだよ……」
「大丈夫? のぼせてない?」
「それは、大丈夫だと思うけど……すごくだるい……」
 疲労でぐったりとしているの身体を支えると、光忠は洗い場へを連れて行った。のすぐ後ろに座ると、後ろから手を伸ばして内股を撫でた。
「え、な、なに?」
「何って、中に出した精液をかき出さないとね。それから僕が身体洗ってあげる。隅々までね」
 耳元でねっとりと囁かれ、いやな予感を覚える。しかし疲労で腰が立たない上、光忠の腕に身体を捕らえられてしまっているので、逃げようがなかった。
「お風呂だと後始末がすぐにできるから楽だね」
「み、光忠くん? あの、もうしないからね? さすがに私も限界だからね!?」
「やだなぁ、なんか誤解してないかい? するのは後始末だよ。でもはエッチだから、その後始末にも感じたりするよね。その姿に僕がムラムラして、その結果エッチに突入しちゃっても、それは僕のせいじゃないよね」
「そ、それは光忠くんが感じさせようと指を動かしてくるから……!」
「えー、そんなことないよ? 僕は純粋にのエッチなところを洗おうとしてるだけだよ」
「絶対嘘だ……!」
 にっこりと笑っている光忠から逃れる手段がないは、なすすべもなく一晩中光忠に付き合わされることになった。翌朝、疲労で重い身体を引きずりながら仕事に励むの隣には、満足感で晴れ晴れとした表情の光忠が控えていた。


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