夜まで待てない



※「君の一番に」の続きです。ひどい内容なのは相変わらず



 燭台切光忠がの近侍になってから一週間が経つ。不慣れなこともあるようだが、持ち前の器用さを発揮して、今のところ卒なくこなしているように見える。あと一週間もすれば慣れるだろう。
 今日は、光忠は出陣する部隊には含まれていない。報告書やらの書類と戦っているのそばに待機している。昼から始めてそろそろ二時間ほど経つ。光忠がの背後でため息を漏らした。
「どうしたの? ため息なんてついて」
「ねえ、そろそろ休憩しない?」
「あ、さては退屈なんだ」
「……うーん、まあ、それもあるけど」
「あるんだ」
 確かに、が書類を書いている最中はほとんどやることがない。退屈といえばそうなのだが、光忠がこのように素直に不満を口にするのは珍しいことで、は思わず光忠を振り返った。光忠は苦笑いすると、のすぐ後ろに寄ってきた。
「近侍って、忍耐力が試されるんだね。予想外だったよ」
「予想外に退屈だったってこと?」
「ううん、退屈なのはまだいいんだ。僕が言ってるのはね、がこんなに近くにいるのに触れられないってことが、予想外にきついってこと」
「……そ、そう」
「しかも、君は仕事中は全然構ってくれないし。二人っきりの密室で普段みんなに見せない仕事姿って、胸にぐっと来るものがあるんだけど、僕のほうには見向きもしないし」
 光忠が不満げに口を尖らせた。そんなことを言われても、仕事はしなくてはいけないのだからしょうがない。仕事はの直筆で提出しなければいけない以上、そこは諦めてもらうしかないのだが。
「それはどうしようもない……わっ」
「君の後ろ姿、特にうなじとかチラチラ見えてムラムラするんだよね。でも、仕事中は邪魔しちゃいけないから夜までずーっと我慢してるんだよ」
 不満をかわそうとすると、後ろから光忠に抱きしめられた。うなじにくちびるを寄せられ、熱い吐息が首筋をなでる。光忠の言葉で思い出す。そういえば、彼は近侍になってから毎晩のように部屋に忍んできている。
「え、そういうことだったの?」
「そうだよ。ああ、抱きしめたら余計にムラムラしてきた。ねえ、エッチしようよ」
「いや、ダメだよ」
「ええー、昼からずっと仕事してたんだからちょっと休憩しようよ。息抜きも必要だよ」
「それはそうかもしれないけど、エッチは息抜きにならないから!」
「ええー……」
 流されないように毅然と言い放ち、机に向き直る。光忠が不満の声を上げるが、簡単には振り向いてやらない。ここで前例を作ってしまって、これから事あるごとに休憩と称して行為を迫られては困るのだ。
 のつれない態度に、光忠は再びうなじに顔を埋め、ぎゅっとに抱きついた。うなだれているのか甘えているのかわからないが、その様子がまるで餌のお預けをくらった犬みたいで、笑いがこみ上げてきた。
「あれ、どうしたの?」
「いや……なんか光忠くんが大きい犬みたいに見えてきちゃって」
「犬、ねぇ……確かに、主が大好きだし、主のこと舐めるのも大好きだしね?」
「ひゃっ」
 光忠が低くつぶやいたかと思うと、うなじをぺろりとひと舐めされた。ぞくりと体を震わせた隙に、光忠がの体を押し倒し、その上にのしかかった。
「み、光忠くん、やめ……」
「僕って忠犬じゃないかな? 主のためなら家事でも雑用でもなんでもするよ。あ、でも」
「あっ」
「待てとお預けはどうしても苦手なんだ。だから忠犬じゃない、駄犬だね」
 うつ伏せのまま押し倒されてのしかかられ、は身動きできないでいる。抵抗しようにも手が使えず、何もできない。その状態のまま後ろ髪をかき分けられ、うなじを舐められ続ける。時折、いたずらに歯を軽く立てられたり肌を吸われ、はびくりと体を震わせた。
「はあ……、可愛い、好きだよ……」
「あっ、や、ダメ」
「無理、もう我慢できない。ねえ、いい?」
「ん、ふぅ、だ、め……」
「ずっとこの背中に飛びつきたかったんだ」
 光忠がの体に手を回し、服を乱していく。うつ伏せのままでは上手く脱がせず、まどろっこしくなった光忠はを仰向けにした。そしての上に馬乗りになり、服を少々荒い手つきで剥いでいく。
「あ、だめだってば……!」
「仕事は立て込んでないし、提出期限が迫ってるものもないよ。だから、休憩がてらエッチしても問題ないよ」
「問題あるって! しかもエッチは休憩じゃないってば……んっ」
 せめて口だけでも動かして抵抗を試みるが、それも光忠の口でふさがれてしまった。光忠の舌で口内を愛撫されている間に、の服はすっかり取り去られてしまっていた。
「や、待って……!」
「ごめん、カッコ悪いけど、余裕ないからのお願い聞けない」
 舌で首筋を舐めながら胸を揉みしだかれる。その手つきも本人の言うとおり、普段より荒々しい。いつもなら丹念に耳やら脚やらを舐められるのに対して、首筋はそれほどでもないように思えた。上半身への愛撫をそこそこにして、もう脚を開かせられる。
「あれ、濡れてるよ?」
「や、やだ……!」
「まだそんなこと言うんだ。素直じゃない口はふさいじゃおうか」
「ん、う……!?」
 と言うと、光忠は手袋を取り、左手をの口元に当て、その人差し指と中指をの口の中へ入れた。突然口の中へやってきた異物に、声を出せなくなる。
「そう、いい子だよご主人様、そのまま……あ、歯は立てないでね」
「ん、は……」
 右手での秘所をいじりながら、左手の指で口の中をそっと撫でる。光忠の指に歯を立てないように口を開けていると、その様子を楽しむようにまた指を動かしてくる。思わず光忠を睨むが、彼はうっとりと目を細めるだけだった。
「いいね、すごくいいよ、その顔……睨んでる君って誰も見たことないよね。そんな表情が見られて嬉しいよ」
「ふっ……んんっ」
「ああ、口を閉じられないから口の中に唾液がたまってるね。僕の指が君の唾液でべとべとになってる……」
 そういいながら、光忠は愛撫で濡れた割れ目に指をつっこんだ。普段舌で舐められることが多いので、中を指でかき回されることは珍しい。次第に早くなっていく指の動きに脚がはねる。
「ふぅっ、んんっ」
「いきそう? もう素直になったよね」
 光忠は中を擦っていた指と口の中に入れていた指を抜いた。左手の指がの唾液でてらてらと光っている。その指をうっとりと眺めた後、唾液を舐め取るように自分の口の中へ入れた。
「間接キスだね。の唾液、おいしいよ」
「っ……!」
「照れちゃって、可愛い。こっちのエッチな汁もおいしい」
 に見せ付けるようにゆっくりと両方の指を舐め取る。恥ずかしくてまともに見られないが、その光景を見て、なぜか下腹部がうずいた。こんな反応をするあたり、の体はもう光忠に慣らされてしまっているのかも知れない。
 光忠は自分の服を脱ぎ、硬く反り返った自身の先端をの割れ目に擦りつけ、ゆっくりと中へ侵入した。慣らすように二、三度出し入れすると、強く腰を突き上げた。
「あっ、やあっ、強、いよ……!」
「ごめん、もう、余裕ないんだっ……」
 そう言うと、激しく腰を律動させる。挿入してからはよく回る口を閉じ、動きに集中していることからも余裕のなさが伝わってくる。の脚を自分の肩にかけさせると、ぐっと上半身を倒してのしかかってきた。の嬌声をふさぐかのように口にキスをする。
「んっ、んんっ」
っ……!」
 舌の絡め合いを存分に味わった光忠は、口を離して首筋に噛み付いた。行為の冒頭と同じように首筋を舐めては吸いつく。その間もの中を激しく蹂躙する。
「ああ、出すよ、の中でいくよ……!」
「あっ、光忠くん、ああっ!」
 光忠が息をつめると、中の彼自身が脈打った。じわりと熱い精が中に広がっていくのを感じながら、は荒くなった息を整えた。一足早く息を整えた光忠が、首筋に吸い付いてきた。最後にくちびるへ軽くキスをすると、体を起こした。はすっきりした様子の光忠を見上げ、憮然とした表情になる。
「……結局、エッチしちゃったし…」
「ごめん、また中に出しちゃった」
「んもう……夜ならまだいいけど、昼間に中はダメだってば……」
「ごめんごめん。でも、やっぱり中に出さないと満足できないのかなぁ。中以外だと、どこなら出していい? 顔?」
「なっ、なんで一番に出てくるのが顔なの!? 普通にお腹に出してよ!」
「えーっ、それじゃつまらないよ。どうせ出すなら顔か胸にかけたいよ」
「む、胸はまだしも顔なんて絶対やだ!」
「顔にかけられた、すっごくやらしいと思うな。あ、想像したら興奮してきちゃった」
 またしても、射精した後なのに勃ち上がり始めた光忠のものを見て、は後ずさる。
「ねえ……」
「しないからね。見抜きもだめだから。トイレに行って自分でして」
「えーっ、冷たいなぁ。口でするのもだめ?」
「なおさらダメに決まってるでしょ! もう夜まで我慢してよ……!」
 恐ろしいことを言い出した光忠をきっぱりと拒絶する。口でするなんて、絶対にその流れで顔に精液をかけるつもりだ。こんな昼間から人前に出られない格好にされるわけにはいかない。
「んー……じゃあ夜まで我慢するから、夜はまず口でしてよ」
「ええ……顔にかけるつもりでしょ、それ……」
「えっ、じゃあ口の中に出してもいい? 僕の精液飲んでくれる?」
「ぜ、絶対やだ!」
「えー、わがままだなぁは」
「どっちが!?」
 いつの間にか最悪の二択に絞られつつあることに危機感が募る。しかし目の前の男には、他の選択肢を飲むという考えはないようで、しきりにこの二択を迫ってくる。彼の下半身を見るといつの間やら完全に反り立っており、この二択を選ばないとこのまま二回戦目に突入しかねない。じりじりと近づいてくる光忠と距離を取りつつ、はこの男を説き伏せる言い訳を考えることに苦心し始めた。


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