やきもちとナース服


※幸村くん高校一年生のどこかの時期。夢主視点。
※幸村くんの嫉妬とナースフェチ疑惑について。ぬるいナースプレイと口淫。苦手な方はご注意ください。



 成人を迎えた大人には飲み会というものが発生する。
 は特に付き合いがいいほうでもないが、歓送迎会や忘新年会などの要所には出席するようにしている。
 それとは別に、同期や大学の同級生との飲み会もある。社会人となった今、頻繁に行われることはないが、年に何度か誘われることがある。会社の飲み会とは違う気安い飲み会には、比較的参加することが多かった。
 今日はその大学の同級生との飲み会だった。もうそろそろ一次会はお開きというところで、幸村から着信が入った。
 今日の飲み会のことは、詳細が決まった時点で彼に伝えてある。意外と嫉妬心も独占欲も強い幸村は、が仕事以外でほかの男と会うのを嫌がる。しかし、飲み会という付き合いに関しては、ある程度仕方ないと諦めているようだ。がそんなに頻繁に参加するたちではないから、まだ容認してくれているのかもしれない。今回も、同級生との飲み会と言うと、ほかに男は何人いるのかとか、そのうち独り身の男は何人いるのかとか、何時に帰るつもりなのかとか、色々な質問をしてきた。未成年が立ち入ることができない世界だから、余計に気になるのだろう。
 は幹事にひと足早く割り勘代を押し付けると、店の外に出て電話を取った。

「もしもし、精市くん、どうしたの?」
「もしもし、急に電話してすまないね。どうしたってわけではないんだけど、ちょっと気になって。まだ飲み会の途中?」
「うん、でももうそろそろ一次会が終わりそう」
「そう。二軒目には行くのかい?」
「うーん……」

 としては、メンツ次第では二軒目もありかなと思っていたが、電話越しの幸村の声に圧がある。幸村の声は言外に「俺以外の男との付き合いはもういいだろう」と言っている気がした。早く帰ったところで幸村と会うわけでもないし、明日は日曜なので二軒目に行ってもなにも問題はない。まだ終電の時間にも余裕があるのだが。
 が迷った声を出したからか、幸村が怪訝そうな声になった。

「……二軒目、行くつもりだった?」
「え、えーっと」

 幹事になにも聞いてなかったのでどうしようかと思っていると、背中を叩かれた。

「いたっ」
「こんなとこにいた〜! 、もう一次会はお開きだって」

 声の主を振り返ると、サークルも一緒だった仲のいい男友達がいた。どうやら背中を叩いたのはこいつらしい。入口付近にはぽつぽつと飲み会のメンツが来ていた。

「ちょっと、痛かったんですけど。ていうか電話中だからあっち行ってて」

 追い払うように手を振って電話に戻ろうとしたが、酔っ払いからはそう簡単に逃れられなかった。

「なんだぁ男か? ちょっとっ、アタシというものがありながら!」
「はあ!?」
「ひどい! アタシとのことは遊びだったのね!?」
「うわ、酔っ払いうざ……とにかく電話中だから!」

 こいつがどこかにいかないなら自分が行くしかないと、男友達に完全に背中を向けて無視することにした。幸村との電話の最中に邪魔が入るなんて。

「もしもし、ごめん騒がしくて」
「……随分仲良さそうだね?」

 あ、やばい。幸村の声を聞いた瞬間、はそう思った。電話越しでもわかる、声が据わっている。

「あ、いや、別に、ほんとにただの友達だよ」
「うん、友達と仲良いのはいいことだよね。それが同性だったらもっとよかったかな。ああ、でもの交友関係に口を出すつもりはないんだよ」
「う、うん……? とにかく、ごめんね。電話中に酔っ払いが……それで、精市くんの用はなに?」
「たいした用じゃないんだ。ただ、もう帰る頃かなと思って声が聞きたくなったんだ」

 なんとなく圧を感じる声に引っかかったが、幸村の話題が変わったのでそれ以上深く考えなかった。
 この飲み会がなければ、今頃幸村と会っていた。幸村とはこの先の予定が合いそうになく、一ヶ月ほどは会えない。それを聞かされた時に飲み会をキャンセルしそうになったが、幸村がそれを窘めたのだ。先に入っていた予定をキャンセルする必要はないと。
 だか、こうして幸村の声を聞いていると無性に恋しくなってしまうものである。

「そっか……ごめんね、今日会えなくて」
「先約があるのはしょうがないよ。気にしないで」
「うん……」

 幸村の優しい声に癒されていると、背後から肩を掴まれた。

、もうみんな二軒目行ったぞお」

 先程の男友達が間延びした声で言った。いつの間にかも二軒目に行くことになっていて、焦ってつい携帯から顔を離した。

「え、私も行くの?」
「行かねーの? てかなにぃ、電話長いぞぉお前。ほんとに男なのぉ? やだやだ、俺とお前の仲なのにぃ」
「いやほんと勘弁して、電話中だってば!」

 掴まれたままの肩を前後に揺さぶられて、はつい大声を出した。セーブしながら飲んでいたので気分は悪くないが、このまま酔っ払いに揺さぶられていると悪くなるかもしれない。

「俺とあんなに夜を過ごしたお前が……もう別の男のものだなんて!」
「いやその言い方誤解しか生まないからやめて!」

 学生時代一緒に飲んでオールした時のことを言っているのだが、こんな言い方ではもっと深い関係にあったのではないかと思われかねない。焦って突っ込んだだが、時すでに遅しだった。

「……、楽しそうだね。お邪魔しちゃ悪いから、もう切るよ」
「えっ……! ちょっと待って、精市く」

 止める間もなく、ぷつ、という音で通話が切れた。
 まずい。これはまずい。幸村の声が怒っていた。誤解されたかもしれない。
 急いでメッセージアプリを起動して、幸村にメッセージを打ち込む。ここで誤解を解かなければ、変な感じになったまま一ヶ月会えなくなってしまう。

「おーいほんとに行かねえの」
「ごめん行かない! 今日は帰る、じゃあね!」

 もはや二軒目どころではない。声をかけてくる友人にそう言い放つと、背を向けてメッセージに集中した。

「ごめん、今のは友達の悪ふざけだから。本当に、全然そんな関係じゃないし、そんなことになったこともないから」

 とりあえず誤解を解こうと簡潔な文を送る。しかし返事はすぐに返ってこなかった。既読の文字もつかない。駅に向かって歩き出しながらも、無視されたらどうしようかと気が気でない。
 返信が来たのは、が帰りの電車に乗ってからだった。

「今から寝るところだから、明日にしてくれないかな」

 だめだ。完全に怒っている。確かに夜遅い時間だが、こんなふうに取り付く島もない返信を幸村はしたことがない。それだけ、今はからのメッセージが気に障るのだろう。

(ああ……もう、なにやってんだ私……)

 電車の吊革に掴まりながら、がっくりと項垂れる。迂闊な自分を責めつつ、わかった、ごめんとメッセージを打ち返した。これも、既読の文字がついたのは翌朝になってからだった。

 ***

 それから幸村に弁解のメッセージを送ってみたものの、飲み会の一件に関することはすべてスルーされている。朝の挨拶などには返信があるが、それも半日ほど後だったりする。ついには、忙しいからこちらから連絡するまでメッセージを控えてほしいと送られてきてしまった。

(どうしよう……)

 些細な喧嘩はするが、いつもその場で仲直りしていたので、こんなに長引く喧嘩をしたことがないは頭を抱えた。唯一、付き合う前に大きな喧嘩はあったが、その時とは状況が違う。弁解するしかないのだが、その手段を封じられてしまった今、どうすればいいかわからない。誰かに相談したほうがいいのだろうか。

(でも、精市くんとのことを相談できる相手なんて……)

 男子高校生と付き合っているなど、の友人にも職場の同僚にも言える話ではない。一応幸村が十五歳になってから体の関係を持ったが、世間一般的にふたりの関係はあまりよろしくないとの自覚はある。だから、あまり公にはしたくない。
 会えなくなって三週間ほど経つ。もうすぐ会えると待ち遠しくなるはずなのに、一向に打開策が見えない今は、浮かれ気分には程遠かった。
 そんな日々の中、珍しい人物からメッセージが入った。

「こんにちは、柳です。精市のことでお話があるのですが、お時間よろしいでしょうか」

 幸村の友人である柳蓮二からだった。少し前に幸村がを真田と柳に紹介した時に、ふたりと連絡先を交換していたのだ。

「こんにちは。今大丈夫ですよ。精市くんのことというのは……?」
「近頃、精市の機嫌が良くないというか、荒んでいるのです。傍目には普段通りに見えますが、ふとした瞬間に暗い表情が増えました。第一、いつも惚気てくるのに貴方の話をしなくなった。なにかあったのですか」

 やはり、との一件は幸村の生活にも影響が出ているのか。柳の気遣うような文を見たは、先日の飲み会での出来事を正直に打ち明けた。

「なるほど、喧嘩したまま会わずじまいと。精市が荒むわけです」
「メッセージも送るに送れなくて……情けない話だけど、どうやって謝ろうかと悩んでます」
「ふむ。次に精市と会う約束はしているのですか?」
「はい、来週の金曜日、精市くんの部活終わりに会う予定です」
「直接会うのであれば、その時に話すのが手っ取り早いのではないでしょうか。その際、精市の好きなことをする等、まずは態度を軟化させては?」
「好きなこと……」

 は唸った。好きなことといっても、下手なことをすると幸村がますます頑なになってしまう可能性がある。ふざけていると思われたら最後だ。
 頭を悩ませていると、柳からこんなメッセージが届いた。

「お困りでしたら、精市の好みについて、情報をお教えしましょうか」
「え……いいの?」
「ええ。俺たちにとっても、精市の機嫌がいいほうがありがたいので」

 柳をしてこんなことを言わせるとは、今幸村は一体どんな状態なんだろうか。荒んでいるということだが、あの幸村が荒んでいるところはなかなか想像できなかった。
 その後、投下された柳の提案に、は再び頭を抱えることとなった。

 ***

(いや、無理だろこれ……)

 明くる週の金曜、定時よりも少し早く上がったは、あまりの光景に鏡の前で顔を覆っていた。
 柳の提案は「精市の好きな格好をして出迎える」というものであった。としてはそんな方法で幸村が態度を軟化させるとは思えなかったが、柳が太鼓判を押すので半信半疑でその「格好」とやらを購入した。そして、届いた物を試着してみて、あまりの「それっぽさ」に鏡の前で項垂れているのである。
 その「格好」というのはナース服だった。
 なぜナース服なのかと柳に聞いても、「精市が好きだからです」としか返ってこなかった。幸村がナース好きなんて初耳だ。というか病院嫌いなんじゃなかったのか。
 通販で買ったナース服は、スカートが異様に短い上に、生地が薄くて下着の色が透けている。襟からスカートの裾まで一直線にファスナーが通っていて非常に脱がしやすい。腰の後ろでウエストを絞ることができるので、体のラインも出やすくなっている。そして、ピンでとめるタイプのキャップと白のニーソックス。
 いかにも夜のお楽しみ用アイテムである。そんなものに腕を通す日が来るなんて思ってもいなかったし、これを着て鏡の前で立っている自分がものすごく滑稽に見えた。

(いや〜……きついな……)

 改めて、一通り身に着けてみた自分の全身を見て、ないわ、と首を振ってへたり込んだ。床に手をついて盛大なため息をついた。
 これがもっと若い、それこそ二十前後の女の子が着るなら可愛くていいと思う。だが、自分がその範囲に含まれているわけではないし、似合っているとも到底思えない。幸村を喜ばせるために買ったものであるが、こんなんで機嫌が取れるかは怪しいところである。
 と、そこまで考えたところで、後ろからどさっという、なにか重いものでも落としたような音が聞こえてきた。
 後ろを振り返ると、制服姿の幸村がこちらを見て呆然と立っていた。彼の足元にはラケットバッグがあって、さっきの音はこれを落とした音だとわかった。
 いや、そんなことはいい。なぜこんな時間に幸村がここに。部活終わりに来るのではなかったのか。

「せ、精市く……なんでこんな時間に!?」
「部活、今日は早く終わったから、中で待たせてもらおうと思って……」

 呆然としつつも答える幸村に、なるほどと思った。いつもなら定時に上がってから来るのほうが遅く着く時間だから、合鍵を使って部屋に入ってきたということか。
 幸村は足元に落ちた荷物のことも気にならない様子で、を凝視している。とんでもない格好のを。

「あ、ああの、着替えるから、ちょっと待っててもらえるかな」

 注がれる視線に気まずくなったは、とりあえず着替えてしまおうと寝室の引き戸を閉めようとした。こんな格好では自身も集中できず、謝るどころではない。
 と思ったのだが、幸村は引き戸をガッと掴んで開け、を強引に抱き寄せた。そのまま力強く抱きしめられる。

「せ、精市くん、くるしい……」

 普段優しく抱き締めてくれる幸村にしては、まったく力加減がされていないと思うほど息苦しい。やっぱりまだ怒っている、この格好も失敗だったのでは……と不安になっていると、幸村が絞り出すような声を出した。

「ずるい……可愛い……エロい……」
「精市くん?」

 そろそろ幸村の腕が回っている肩がみしみし鳴りそうなほどだったが、幸村はいきなりを解放してそれは免れた。再びじっとのナース服を見下ろしている。

「これ、一体どうしたんだい」
「か、買った……」
「俺のために?」
「…………う、ん」

 自身が思いついたわけではないが、幸村のために買ったのは間違いない。気恥ずかしくなりながらも素直に頷くと、幸村が目の色を変えて胸に手を伸ばしてきた。両手で胸を揉まれると、一層下着の色が透けて見えた。

「ん、精市くん……」
「ブラの色、スケスケだね。今日は黒? いや……紺かな」
「ん……」

 下から持ち上げるように揉んで、透けている色をもとに、ブラの色を当てにくる幸村。が答える間もなく、興奮した様子の幸村がナース服のファスナーを胸の下まで下げた。現れた白い胸と濃紺のブラに、幸村の目が細くなる。

「やっぱり紺だ。ふふ、ナースさんの下着の色、当てちゃった。こんな透けるような色の下着つけて俺に見せつけるなんて、エッチだなあ……」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「ナースさんが誘うから、俺もうこんなに硬くなってるよ。ほら、触って」
「っ……!」

 ブラの上から胸を揉んでいた右手がの左手を取り、自らの股間へと導いた。触らされたモノは、ろくに前戯もしていないにも関わらずギンギンに勃起していた。驚いたが手を引きかけたが、幸村の右手が許さなかった。
 そのまま上下に扱かされ、手の中で怒張がさらに大きくなっていく。幸村の右手が離れてもは幸村のモノを握ったまま、それを擦り続けていた。
 はあ、と熱い息を吐いた幸村が、の腰を抱いたままベッドへ向かう。ベッドに腰掛けて足を伸ばすと、に言った。

「ナースさん、俺のコレ、口でしてよ」
「え……」
「一回出さないときつくて。本当は今すぐ入れたいけど」

 今すぐ入れるなんて、慣らされてもいない今の時点では無理だ。こんなに勃起していては慣らすまでの間もつらかろう。幸村の言い分も理解できることだった。
 は幸村のベルドを緩め、制服のズボンを下ろした。ボクサーパンツは盛り上がり、先走りが染みを作っている。幸村も我慢できないといった様子でパンツを下げ、弾み出てきたモノを握った。もう一方の手をの頭に添えると、の口にそれを差し出した。

「ほら、あーんして」
「あ……ん、」
「はあ、っ……」

 成長し、血管が浮き出ている怒張をも手に取り、口を開けて受け入れた。

(すごい、かたくて、熱い……私で、こんなに興奮してくれてるんだ……)

 舌から伝わってくる熱さと硬さが幸村の溜まった欲望を物語っているようで、舌でモノを嬲るたびにの体も熱くなっていく。
 くちびるをすぼめて怒張を擦るたびに、幸村が気持ち良さそうに息を吐く。口に収まりきらない根元は手で優しく扱いてやり、できる限り幸村が気持ち良くなるように手と口を同時に動かした。

「ん……精市くん、気持ちいい?」
「すごい、気持ちいい……ねえ、こっち見て、俺を見ながらくわえて」

 幸村の言う通りに、咥えながら彼を見上げると、口の中のモノが硬さを増した。

「エッロ……あ、う、っ……」

 顔を歪めて刺激に耐える幸村がなんだか可愛く思えて、握っているモノの先端から溢れてきた我慢汁を吸ってから、裏筋や亀頭についばむようなキスをした。くちびるで軽く吸ってからまた幸村を見上げると、食い入るようにこちらを見つめていた彼と目が合った。
 次の瞬間、幸村のモノが暴発した。
 びゅる、と出始めた白濁がの頬にかかり、慌てて咥え直した。口の中で脈打つたびにどろどろが出てきて、溢れないように何度かそれを嚥下する。脈動が完全に治まるまで待って口から離した。頬にかかった精液をティッシュで拭き取って、ついでに口元も拭った。

(すごい、いっぱい……溜まってたのかな)

 それとも若さ故だろうか。出された量も喉に絡まる感覚も、今まででダントツだった気がする。決して後味がいいとは言えない状態の口を、一旦ゆすいでこようかと思っていると、息を整えた幸村がの体を力ずくで引き寄せた。
 欲望に目をぎらぎらと光らせた幸村が、に顔を近づけてきた。キスされると思ったは、とっさに顔を背けて拒んだ。

「だ、だめ、さっきアレ飲んじゃったから、まだ後味残ってて……」
「俺の唾液も飲んで、それで口直し」
「んっ……!」

 抵抗も虚しく顎を掴まれてキスされてしまう。すかさず入り込んでくる舌が、のそれに絡みついてきた。精液の後味に、幸村が眉根を寄せる。

「うわ、まず……よく飲んだね」
「だって……精市くんのだし……」

 手でも受け止めることはできたが、あの瞬間飲むことしか頭になかったのは、やはり相手が幸村だからだろうか。
 それを聞いた幸村が、ますます興奮したように舌を絡ませてくる。口の中に唾液が溜まり、精液の後味もだんだん薄れてきた。もっと、と強請るように幸村の肩に腕を回すと、幸村がキスしながら体を撫で回してきた。
 短い裾から幸村の指がの秘部を探ってくる。下着の隙間から忍び込んできた指は、くちゅ、と粘着質な音を立てた。

「んっ……!」
「ねえ、濡れてるよナースさん。もしかして、俺のを咥えて濡れちゃった?」
「あ、んっ……!」
「そうだよね、体には触ってないよね? 俺のを咥えて興奮したんだ……ねえ、エロすぎだよ」
「はあっ、ん……!」

 入り込んできた指が中をかき回し、くちゅくちゅと卑猥な音が立つ。中を解していた指が次第に二本になり、入口を広げるような動きになる。それもやがて、三本に。キスで上の口を犯されながら、下の口も指でぐちゃぐちゃにされて、は頭がおかしくなりそうだった。
 口の中に溜まった唾液を飲み込んでぼうっとしていると、いつの間にか避妊具をつけ終わった幸村が制服のシャツも脱ぎ捨てていた。

「パンツ脱いで、俺のに跨って」
「うん……」

 自身も興奮でもはや頭が回らない。そういえば、幸村とセックスするのは一ヶ月ぶりなのだと、思いのほかたくましい彼の裸身を見ながら思った。
 ナース服を着たままパンツを下ろし、幸村の肩に手をついてゴムを被った屹立に腰を下ろす。久しぶりに感じる熱と大きさに、思わずため息が漏れた。
 根元までぴたりと収まり、目線の高さが近くなったふたり。自然とくちびるを重ね、どちらからともなく腰を揺らし始めた。

「はあっ……エロすぎる、こんなのずるいよ……!」

 ガツガツとを突き上げながら、幸村は開いた胸元からブラをたくし上げ、こぼれ出た乳房にむしゃぶりついた。すでに硬くなっていた乳首を吸われ、足の付け根にまでズキンと快感が走った。

「あっ、あっ、精市くん……!」

 一心不乱に自分の胸に吸い付いている幸村の頭を抱える。幸村はもうそれ以上なにも言わず、ただ目の前の快楽だけを追っていた。

「あっ、んぅ……!」

 下からの突き上げに軽く達したは、直後にくちびるを塞がれた。荒い呼吸をも奪うような激しいキスに、いつの間にか押し倒されていたことにも気が付かなかった。
 上になった幸村は、の腰を持ち上げるようにして律動を再開した。達した後の内部を容赦なく責められ、はマンションだということも忘れて嬌声を上げた。少し痛いほどの快楽が中から胴へ、足先にまで波及する。

「あっ、ああっ、精市く、んっ、好き、すきぃっ……!」
「……っ!!」

 うわごとのような好きという言葉に、幸村の顔が苦しそうに歪んだ。直後から腰の突き上げが激しさを増す。奥に打ち込まれるごとに視界がチカチカして、夢中で幸村のほうへと腕を伸ばした。
 その両手を絡め取り、貝殻のようにして繋ぐ幸村。上体を倒してに覆いかぶさると、汗が滴ってナース服に染みこんだ。

「――っ! は、あっ……」

 一気に昇り詰めた幸村は、射精が終わって息が整っても、の上からどこうとしなかった。

 ***

 汗だくになった彼の背中に腕を回して抱き着きながら、は幸村に会ったらまず言おうと思っていた言葉を口にした。

「……精市くん、この前は、ごめんね……」

 そう、元はといえばまず謝りたかったのだ。それがなぜかナース服を着てセックスすることになってしまったが、一番の目的は仲直りすることである。プレイ中の幸村はいつものように思えたが、それでもまだ態度が硬い気がした。
 恐る恐るといった言葉に、幸村は珍しくの目の前でため息をついた。

「俺も、ごめん……本当はずっと仲直りしたかったし、この一ヶ月間に会いたくて、声が聞きたくて仕方なかった」

 と言うと、幸村はやっとの体から離れた。決まりが悪そうな表情でゴムの後始末をして、に向き直った。

「でも、電話とかメッセージ送ろうと携帯を持つたびに、あの電話のことが頭の中でよみがえってきて、できなかった。思い出すだけで嫉妬でおかしくなりそうだった」
「精市くん……」
「いつもは考えないようにしていることを、あの電話は目の前に突きつけてきたんだ。――は、俺が踏み込んでいけないところで生きてるって」

 幸村はまだ未成年で、成人するにはあと数年かかる。社会に出るのも同じように時間がかかる。だから、今の彼にどうしようもないところで、知らない交友関係を持つを見せつけられて、耐えられなかったのだ。

「こんな醜い嫉妬を抑えきれなかったなんて、かっこ悪すぎるから、今日は本当にどんな顔して会えばいいかわからなかったんだけどね。まさか、ナース服着てるとは思わなかったよ。本当に、どうしたんだいこれ」

 中途半端に着たままのナース服をつまんだ幸村に、柳とのやりとりを説明すると、彼は苦笑いをこぼした。

「そうか……蓮二たちにも迷惑かけたな」
「あの、精市くん」
「ん?」
「私は、嫉妬することがかっこ悪いなんて思わないよ」

 もし、あの電話での立場が逆だったら、も絶対にやきもちを焼いている。幸村の友人で、そんな関係にないとわかっていても、恋人とあんなやり取りを目の前でされたら誰だって嫉妬する。元々、彼は思ったことはストレートに言うほうだし、抑え込まれるよりも正直にぶつけてくれたほうがいい。まだ高校生なのだから、変な我慢を覚えなくていい。

「というか、そもそもあれは悪ふざけしてきた友達と、配慮が足りなかった私が悪いし……だから精市くんが気に病む必要はないんだよ。言いたいことがあるなら、今ここで全部言って」
……」

 幸村は少し逡巡するような間を置いた。それから、目を閉じて息を吐き、思い切ったようにに抱き着いてきた。

「俺の知らないところで、俺以外の男と仲良くしないで」
「精市くん……」
「俺の恋人なんだから、ほかの男に気安く触らせたりしないでくれ。――俺だけを見て」

 この部屋に来た時のような腕の力で抱きしめられる。
 これが紛うことなき彼の本音だ。と同時に、が幸村に思っていることでもある。
 私の知らないところで、ほかの女の子と仲良くしないでほしい。精市くんがかっこいいのはもう仕方ないことだけど、あんまりほかの女の子を魅了しないでほしい。私だけの恋人でいてほしい――

(やっぱり、考えることは同じなんだな)

「はい」

 力強く返事をすると、安心したように腕の力が弱まった。顔を上げた彼は、本音を言ったからか少し照れくさそうな表情だった。
 なんというか、幸村はこういうところが可愛いと思う。部活や入院などの経験からか確かに大人びているが、感情を吐露する瞬間は年相応である。ストレートにものを言う性質だが、負の感情は見せたくない。そんな自分はかっこ悪いから。そういうところがたまらない。

「私、今は精市くんのことで頭がいっぱいだから、ほかの男のことなんて考える余地なんてないよ。仕事のこととか日々のやること以外は、余すところなく精市くんで埋まってるから」

 これは本当のことだ。幸村はが冷静だの、もっと俺を好きになってほしいだの言うが、もうすでにキャパシティをオーバーしているくらいだ。なりふり構わず幸村の友人である柳に相談するくらい、幸村に関することは冷静ではいられない。第一、本当に冷静なら彼が高校卒業するまで一線は超えていないだろう。
 笑っているを幸村は目を丸くして見ていたが、やがて耐え切れなくなったように噴き出して、また抱き着いてきた。

「俺も。頭の中、でいっぱいだよ。もうどうしようもない……」

 そのままベッドにふたりして倒れこむ。頬をくすぐる幸村の髪の感触と体を包む体温に、胸の中心から暖かくなっていく。
 想いが通じ合っている感覚だ。自分と幸村が、まったく同じことを思って触れあっている時に広がる感覚。
 この瞬間が、たまらなく幸せだった。
 笑い合って、キスをして、抱き合って、またキスをして笑い合う。この繰り返しなのに、時間がいくらあっても足りないような。
 ――幸村と、いつまでもこうしていたいと思う。

 ***

「この服ほんとエッチだったんだけど、なんで蓮二はナース服をに勧めたんだろう」
「そこまでは聞いてないからわからないんだけど、柳くんは、精市は絶対ナースフェチだから、って……」
「あいつ……いや、誤解しないで。フェチってほどの好みは俺にはないから。でも、こんなエロいナースさんがいるなら、入院生活ももうちょっと楽しかっただろうな」
「そ、そう……」
「ふふ、さっきフェチってほどの嗜好はないって言ったけど、が俺のジャージとかナース服を着てるところはすごく好きだよ。可愛いし、すごくエッチで。一ヶ月会えなかった後とはいえ、見た瞬間もう我慢できなくなっちゃったし。今度、立海の女子の制服も着せてみたいなあ」
「え」
「ああ、想像したら勃ってきちゃった。さ、もう十分休んだよね、もう一回しよう。今日は会えなかった分を取り返さなきゃ」
「あ、ちょっと、精市くん……! 立海の制服なんて、絶対やだぁ……!」
「ふふ……といると、いつか変な性癖に目覚めそうで怖いなあ……」



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