めんどくさい女2



 京にねだって抱きしめられたまま、部屋の照明をリモコンスイッチで消して、お休みモードに入る。かと思いきや、は中々目を閉じられなかった。普段こうして京と甘い雰囲気になることが少ないからだろうか、自分で思っているより興奮しているらしく、眠るのがもったいない、もう少しこの胸の中を堪能していたいと、目を開けていた。すると、中々力を抜かないを不審がって、京が目を開けた。
「……寝ないのかよ」
「ん……もう少ししたら……もうちょっと、こうしてたい」
 先ほど京が言ったとおり、寝入ってしまえば腕枕など関係なく、自分はあちこちに転がっていってしまうだろう。そうなれば、次にこの体勢を堪能できるのは明日の夜になる。明日の夜まで待てばいい話だろうが、京がいつ気まぐれを起こして日本を発ってしまうかわからないにとっては待つものも待てない。今がずっと続けばいいのにと思わざるを得ないのだ。
 こうして京が、手が届く距離にいて触れ合っていても、完全にはその恐怖をぬぐえない。いつも軽口を言ってふざけあっているが、心の奥底ではいつも寂しさを感じている。引き止めても無駄だとわかっているし、じっとしている京はらしくないとも思っているが、やはり本心ではずっとそばにいて欲しい。今だけでもそれを叶えようと、は京の胸に甘えるように擦り寄った。
「なんだよ、今日はやけに素直じゃねえか」
「うん……あのね」
「ん?」
「こうしてると、一番幸せだよ」
 が素直に今の気持ちを伝えると、京はぴたりと動きを止めた。何かおかしなことでも言っただろうかと、がいぶかしんでいると、京がぐっと力をこめてを抱き寄せた。
「俺だって……
「っ、京……ん……」
 腕の力が強く、痛みで思わず顔をゆがめると、京がの顎を持ち上げてくちびるをふさいできた。すぐさま舌がの口内に割り入ってきて舌を絡めとる。そのまま強く吸われ、は一気に体の芯が熱くなるのを感じた。のどで声をつぶすと、京はくちびるを離し、熱い息を吐いた。暗闇の中で瞳を覗き込まれ、は体を震わせた。
 鋭くはない。けれど瞳の奥に燃えるような情欲がぎらぎらと光っている。
 京は、今度は柔らかくくちびるにキスを落とすと、音を立ててついばんだ。くちびるや頬を温かい感触が走り、心地よさにが目を閉じていると、いきなり下くちびるを噛まれた。
「いっ、ちょっ、と……」
 抗議しようとしたの声は、すぐに熱っぽい吐息に変わった。いつの間にか乱されていた寝間着を剥ぎ取られ、下着を着けていなかった胸を揉まれたのだ。胸をもてあそぶ手は、くちびるや吐息と同じように熱い。
「ん、んっ……」
 ひさしぶりの快感だが、声を何とか我慢していると、京の視線がを一瞥した。その後、京が胸の頂点を口に含み、容赦なく吸ってきた。声を我慢したのがお気に召さなかったようだ。
「ひゃっ、あっ、強い、よ……!」
「声、出せよ」
「や、あっ」
「我慢してるところもそそるが、今は声聞かせろ」
 の乳首を吸ったまま、右手でズボンを脱がせ、下着の中に指を滑らせる京。くちゅ、と湿った音がすると、にやりと口角を上げた。
「おい、もうこんなになってんぞ」
「んんっ、やだ、あ」
「俺がいない間、ここ、寂しかっただろ」
 指で入り口をほぐしたかと思うと、胸から顔を上げ、下着を素早くずり下ろしての股の間に顔を埋めた。舌全体での一番敏感な部分をなめしゃぶると、が我慢を忘れて声を上げた。
「ひゃああっ! あっ、ああっ」
「そうだ、もっと声上げろよ」
「や、それやだぁっ」
「やだ? そんな風には見えねえけどな」
 の拒絶とは裏腹にあふれ出している愛液を、京がわざと音を立てながらずるずると吸い上げると、その感触と音にも感じてしまい、が腰をくねらせる。目尻に涙がにじんでいるが、本気で嫌がっているわけではない。刺激が強すぎるのだ。
「は、あっ、もう……」
「そうだな……そろそろ、俺にもお前をくれよ」
「あ、あっ……」
 気付けば、京も服をすべて脱いでいた。服は脱いだ後そのまま放られたようで、布団の周りに散らかっている。すっかり息の上がったを見て、京は口元を拭うと、熱くたち上がったものをの割れ目にこすりつけた。がびくり、と体をすくませるのを見てから、ゆっくりと挿入する。指や舌とは比べ物にならない熱と圧迫感に、が息を詰まらせる。
「あつ、い……京の、あついよ」
「お前の中も、な……っ!」
「あっ!」
 すべてをの中に収めると、の脚を抱えなおしてから京が腰を動かし始めた。最初は慣らすようにゆっくりとした動きだったが、やがて我慢できなくなったとでも言うように激しくの腰を突き上げる。はただ、京がなすがまま揺さぶられ、嵐のような衝撃を受け止めるだけで精一杯だった。
「ひっ、ああっ! もっ、と……ゆっく、り……!」
「手加減なんざ、できるかよっ!」
「っう、あっ!」
 体の奥に響いてくる炎のような熱が、の意識も、二人の境界線も溶かしていくような錯覚さえ覚える。肌のぶつかり合う音と、京の荒い息を耳で聴きながら、だんだんと頭の中が白くなっていくのを感じていた。
 京がの脚を自分の肩にかけるようにすると、両手をのそれと重ね合わせ、ぐっと身をかがめて腰を押し付けた。さらに奥までえぐられ、がひっ、と息を吐いた。
「あ、だめ、そんな、奥だめっ」
「ぎゅうぎゅうに締め付けてきてるやつが言うことか、よ!」
「ああっ……!」
 胸元まで京の体に押しつぶされ、さらに中の奥を突き上げられ、は一層意識を白くさせる。激しさの波がの何もかもを押し流していく。ただ、貝殻のように合わせた両手の感触と、顔に降ってくる京の汗が現実へととどまらせていた。
 やがて、京のもたらす炎のような熱は、の内側を焼き尽くした。が体を痙攣させると、京も腰を引き抜き、絶頂の証をの体の上に放った。



「あつい……」
 息が整って間もなく、がぼんやりとしたままつぶやいた。ティッシュで自分の出したものを拭っていた京が、の頬に手を当てる。
「ま、久しぶりだったしな。燃えたろ?」
「……ばか」
「誰がばかだよ」
 の頭を軽く小突くようなしぐさをした後、京はティッシュを丸めてゴミ箱へ放った。見ると、汗のせいで彼の顔に髪が張り付いていた。彼の行為はいつも激しいが、今日は一段とすごかったように思う。
「さて、シャワーあびんぞ。風邪引くぜ」
「う、ん……」
「なんだ、一回で腰砕いちまったか」
「……んもう、ちょっと手加減してくれてもいいじゃん」
「もっと体力つけろよ、そんなんじゃこれから持たねえぞお前」
「え」
 京に支えられて風呂場に行くと、京がそんなことを言い出した。意図をはかりかねて彼を見返すが、の脳裏には嫌な予感が走っていた。まさか、この後二回戦をする気ではないだろうか。
「え……この後は、シャワー浴びるだけ、ですよね……?」
「いや、これから先ずっと一緒にいるんなら、もっと体力つけたほうがお前のためじゃねえかと思って言っただけなんだけどよ。そうか、期待されちゃあそれに応えなくちゃな?」
「……!」
 にやり、と意地の悪い笑みを浮かべた京を見上げて、は京に乗せられたことに気がついて顔を青くした。ああ、口は災いの元だ、と後悔しても時すでに遅し。京に風呂場へ押し込められ、シャワーを浴びながらの二回戦となった。
「違うし! 期待してないし!」
「遠慮すんなよ。滅多にない大サービスだぜ? 愛しい彼女のために一肌脱いで……ってもう全部脱いでるか」
「もう十分サービスしてもらったから! 大体お風呂場でしたら声がご近所に聞こえるかも……!」
「お前が我慢すればいいんじゃね? それとも、俺がふさいでてやろうか」
「……! ……!」
 ますます笑みを深める京の表情から、何を言っても逃れられない状況だと悟り、声にならない悲鳴を上げる。結局、早朝といっていい時間まで愛を確かめ合うことになった二人であった。


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