ダイエット



(うーん……やっぱり増えた、よね……)
 は体重計の表示を見て頭を抱えた。食べた量や時間によって体重の増減はある程度仕方ないものだと思っているが、一キロも増えているとなると話が別である。体重計が壊れたのだろうかと疑ってみたが、何回計っても結果が同じなので、いたって正常らしい。電池が少ないということもない。ならば、体重増加は現実ということだ。
 生理前に体がむくみやすくなって体重が増えることもあるが、生理は一週間前に終わっている。特に暴飲暴食をした覚えもないので、周期の乱れもないだろう。
(ていうか、暴飲暴食してないのに増えてるって問題じゃない?)
 本格的な夏を前に気候が蒸し暑く、ついつい運動不足になっていたのは認めるが、そこまでだらけているつもりもない。基礎代謝はそう変わらないはずだが。
 原因究明のためインターネットブラウザを開き、二つ三つとウェブサイトを調べてみるが、今のところぴんとくる記事はない。
「うーん……何が原因なんだろう……」
「なに一人でぶつぶつ言ってんだよ」
「うわあっ!?」
 背後から突然声をかけられ、は飛び上がるほどびっくりして後ろを振り返った。声の持ち主は、恋人の草薙京だった。
「なんで? いつの間に? どうやって入ってきたの?」
「なんでって、お前んとこ行くって言ってただろ。だからさっき来た。呼び鈴鳴らしても出ねえから、鍵壊してきた」
「壊した!?」
「冗談に決まってんだろ。鍵開いてたから入ってきたんだよ」
「なんだ……冗談か……」
 ほっとして息を吐くと、京がそれはこっちのセリフだ、とでも言うように呆れた表情をした。
「お前の声は聞こえるのに呼び鈴鳴らしても出ねえから、男でもいるのかと思っちまったじゃねえか」
「あ、ははは……ごめん」
「別に、いいけどよ……何うなってたんだよ」
 テーブルの上のパソコン画面を覗き込みながら、京がの後ろに座った。ちょうどを後ろから抱きしめるような体勢だ。
「それが、最近太ったみたいなんだよね。体重増えちゃって」
「太ったぁ? んで、痩せる方法でも調べてたのかよ」
「うん、そんなとこ……」
 京はパソコンの画面から目を離し、の体つきを品定めするかのように上から下まで視線を滑らせた。その遠慮のない視線に、は居心地悪く身じろぎする。
「太ったようには見えねえけど、別に痩せなくてもいいんじゃねえ?」
「え、なんで?」
「女の体ってのは柔らかいからいいんだろうが。ここら辺とか」
 というと、京はの二の腕をふにふにと揉んだ。京の言う理屈は男なら誰しも思っていることなのだろうが、男の痩せなくていいという基準と女のそれは違う。揉まれている、イコール揉めるような贅肉があるという意味にも取れる。
「ちょっ、ふにふにしないでよ」
「この感触がいいんだよなぁ。俺はこっちも好きだし」
「ひゃっ」
 京は二の腕から手を放すと、左手での腹部に手を回してを抱き寄せた。空いた右手はの胸を遠慮なく揉んでいる。
「ちょっと……!」
「でかけりゃいいってもんでもねぇが、やっぱりある程度の揉みごたえは欲しいよな」
「んなこと聞いてないし……ん……」
 京はそんなことを言いながら座りなおし、との距離をつめる。体が密着して、京の両脚で体を挟まれるような形になり、自然と逃げ場がなくなる。身をよじっても逃げられそうもない、とは力を抜いた。それをいいことに、京はの腹部にまわしていた左手も胸に移動させた。両方の乳房を揉まれ、の顔が赤くなった。
「お、いいこと思いついた。俺がダイエットに協力してやろうか?」
「はい?」
「簡単だぜ? お前は俺の下で喘いでりゃいいんだからよ」
 思いついた、の時点で嫌な予感はしていた。の経験上、この流れで京が言い出すことはただ一つ、「セックスがしたい」だけだったからだ。そしてその予感は見事に的中した。京の得意げな表情を横目で見て、全くありがたみを感じられずに脱力した。
「…………それ、ダイエット違う……」
「遠慮すんなって……」
「ん……」
 耳たぶやうなじを吸われ、が体を反応させると、京の手はTシャツの下にもぐりこんできた。ブラジャーの上から乳首の辺りをさすられる。声を我慢していると、彼はまどろっこしくなったのかブラジャーのホックを外そうと右手を移動させてきた。その隙になんとかこの体勢から逃れられないかと思ったが、京はそれも見越していたのか、両脚でがっちりとを挟み込んだ。結局、されるがままブラジャーを外される。
「汗かいてるな」
「ん……暑いし、ひゃっ」
 ぺろりとうなじを舐められ、突然の湿った感触に肩をはねさせた。京は「しょっぺえ」といいながらも、そのまま背中のほうまで舐めている。
「京、するなら、シャワー浴びたい……」
「んなもん待てねえよ」
 と、時間稼ぎの言葉も通じない。ぐっと肩を引かれて押し倒される。京はTシャツを捲り上げると、の胸をじっと見下ろした。
「……やっぱり、揉んでるときから思ってたけど、お前胸でかくなってねぇか?」
「え?」
「その分体重が増えただけじゃねえ?」
「そう……なのかな?」
「お前の胸を毎日のように揉んでる俺が言うんだから、間違いねえよ」
「そこは誇らなくていい……んっ」
 京は再度大きさを測るように両方の胸を手のひらで包むと、そのまま乳首に吸い付いた。時折歯を軽く立てられながら舌で愛撫される。の声も甘みを帯びてくる。
 いつの間にか下ろされていた短パンと下着が、の片足に引っかかっている。ぐちゅぐちゅ、と京の指がの中をほぐす音と、の甘い声が室内に響く。だいぶとろけてきた中から手を離し、指についた愛液を舐めると、京は自分の服を手早く脱いで傍らへ放った。部屋に置きっぱなしにしてある避妊具に手を伸ばし、一つ手に取ると、その包装を開けるのもわずらわしい、といった性急な様子で破り、同じく性急にそれを自分のものにつけた。先端をの入り口に擦りつけ、一気に挿入してきた。
「あっ、きょ、う」
「ん……もっと力抜け、入んねぇ」
「ん、は……」
 一旦挿入を止めて、京はにキスを降らせた。が京のくちびるの感触に安心して、程よく力が抜けたころに、すべてをの中に収めきる。そして、ガツガツと勢いよく腰を動かし始めた。
「あっ、やっ、激し、すぎっ」
「激しくしねえと、ダイエットになんねえだろっ」
「あ、あっ……!」
「……でも、それだといつもと変わんねぇよな……よっ」
「わっ、ちょっ……」
 独り言のようにつぶやくが否や、つながったまま京はを抱えて後ろ側に寝転がった。を上で動かせようという魂胆だ。
「ほら、俺の上で腰振ってたら効果抜群だろ」
「えっ、マジ……?」
 滅多にしたことのない騎乗位に戸惑っていると、京はマジだよ、と言って軽くを突き上げた。ぬるい快感を与えられ、徐々にもどかしくなってきたは、京の両脇に足をつき、しゃがむような体勢で腰を動かし始めた。
「ん……あ、っ……」
「お、これ結構いいな」
「え?」
「いい眺め」
 と言って、京はにやりと笑みを浮かべ、の胸を愛撫してきた。下から胸が揺れている光景がいい眺めらしい。それからは、京に胸をいじられながら腰を振っていたが、快感に押し負けたのか、それとも体力不足か、やがて京の胸に倒れこんだ。
「はぁ……もう、ダメ……」
「おいおい、もう終わりか? 俺は全然満足できてねえぞ。ほら、もうちょっと頑張れよ」
 と、京が下から突き上げて促してきた。が再び腰を動かそうとするが、すぐにまたへたり込んでしまった。
「ったく、しょうがねえな……おらっ」
「ああっ……!」
 京はため息を吐くと、の腰をつかんで下から激しく突き上げた。強すぎる快感から逃げようと、が腰を浮かせようとしても、腰をつかまれてはそれができない。京の動くままに嬌声を上げるのみだった。
「ひゃあっ……! 突き抜け、ちゃうよぉっ……!」
「いいぜ、いけよっ!」
 ぐっと腰を押し付けられ、が軽く痙攣して浅い絶頂を迎えた。痙攣が治まっても息の荒いを再び仰向けに引き倒すと、激しい律動が再開した。先の騎乗位での顔には汗が光っているが、それは京も同じだった。彼の汗が顔から滑り落ち、のそれと交じり合う。
「ああっ、あっ、きょ、うっ……!」
っ……俺も、いくぜっ……!」
 腰への激しい衝撃と肌を打ち付ける音が大きくなっていく。再び迫りくる絶頂に頭の中を白く染められながら、京の息が詰まるのを聞いていた。



「……汗、すごいぜ。これで体重元に戻ってるんじゃねぇ?」
「……だといいけど。でも胸、大きくなったんならそのままでもいいし……」
 京がの顔に張り付いた髪をよけて、の頬にキスを落とすと、はくすぐったそうに目を閉じた。まだつながったままで、体もくっつけたままなので暑いが、お互いそれが気にならないから不思議だ。の言葉に、京が眉をしかめた。
「俺は、お前がお前のままならどっちでもいいけどよ」
「京……」
「ダイエットなら、また付き合ってやるぜ? 今度はもっと激しくしてやるよ」
「ええっ……いや、結構です……」
(体いくつあっても足りないよ……!)
 先の京の発言に感動しかけたが、その後にされた提案に顔を青くして首を横に振る。遠慮すんなよ、という京の言葉を適当にお茶を濁してかわしながら、これから毎日体重計に乗って体型を維持せねば、と心に誓うであった。


inserted by FC2 system