太公望、一服盛る

※媚薬イチャイチャ

「望ちゃん、好き、好きぃ……」
……おぬし、ん、っ」

 欲にとろけた瞳、甘える声、赤く火照った肌。
 太公望の上に乗ったは、一言で言うと発情していた。太公望に抱きついて胸を押し付けると、太公望のくちびるに吸い付いてきた。ちゅっ、ちゅう、とリップ音を立てながら夢中で口を吸っている。
 そのあまりの発情ぶりに、太公望は計画通りになったことを安心しつつも動揺していた。

「こら、、ちょっと、待て、」

 喋ろうとしてもが口をついばんでくるのでろくに喋れない。彼女を押しとどめようと肩を掴んだが、それより早く寝台へ押し倒されてしまった。

「だめ、待てない……えっちしたい、しよ、望ちゃん」
、む、」

 は自分の言いたいことを言って、また太公望にキスをしてきた。さっきからまともに喋らせてもらえない。

(待て待て薬の効果が予想以上すぎるっ、計画通りだがなんか違う!)

 焦っている間にもは太公望の下腹部に腰を押し付け、さらに舌を口の中に入れてきた。普段のからは想像もできないほど積極的……というか、もはや主導権を握られてしまっている。

***

 一体なぜがこんな状態になっているのかというと、太公望が媚薬を盛ったからである。
 の体は快楽に弱い。理性が弱まってくると一気に太公望が与える快感に従順になる。気持ちいいことが大好きな証拠だ。
 それと、恥ずかしがっていても恥ずかしいことをしている状況を嫌悪したり、恥ずかしいことをさせてくる太公望を嫌がったりはしない。ということはつまり、恥ずかしいと思う理性とは裏腹に、本能では恥ずかしいことが好きということではないだろうか。

(こやつ、むっつりスケベだな)

 と、太公望は推理したのである。
 しかしそれを言ったところでが素直に認めるはずがない。顔を真っ赤にして否定しまくるだろう。それはそれで可愛いが。
 夜の営みもいつもと同じではつまらないということで、太公望は趣向を凝らしてみることにしたのだ。
 がもう少し積極的に、奔放になったらどうなるのか。そんな好奇心も手伝って、太公望は仙人の薬を使ってみることにしたのである。
 それに。太公望だってに求められたい。いつも褥の中で見せる、恥じらいを残しつつ求めてくるも好きだが、たまには別の顔も見てみたい。
 媚薬の取説によると即効性のようだし、夕食後、宿の部屋で一服するタイミングで盛るのがちょうどよさそうだ。
 ちなみにこの媚薬は王天君が家出する前、最初の人の力を駆使して蓬莱島の薬品庫からくすねてきた薬のひとつだ。なにかあった時のために仙人の薬を持っていたほうがいいだろうと、と旅に出た直後ぐらいに失敬してきたのだ。薬品庫の棚で媚薬を見つけた時は軽い気持ちで懐に入れたのだが、こんなタイミングで使うことになるとは。
 がいつものようにお茶を入れようとする。そこへ自然な感じを装って太公望が声をかけた。

「まて、今日はわしが入れてやる」
「え?」
「たまにはいいだろう。おぬしは座っておれ」
「え、いいの?」

 に頷いてみせると、彼女は素直に座った。太公望が細工をするなどと疑ってもいない様子だ。
 からは見えない角度で彼女の分の湯呑みに薬を入れ、蒸らし終わった茶を注ぐ。熱いお茶で薬はすぐに溶けた。

「ほれ」
「ありがとう、望ちゃん」

 湯呑みを受け取ったは、息を吹きかけてお茶を冷ました。それから、じっと湯呑みを見つめて言った。

「……望ちゃん、なんか入れてないよね?」
「……なんか、とは?」

 図星を刺されて危うく表情に出るところだった。寸でのところで頬が動くのを堪えた。

「いや、望ちゃんが理由もなくこんなことするかなーと思って」

 鋭い。さすがに付き合いの長さは伊達じゃない。並の男であれば図星を二度も刺されて動揺するかもしれないが、そこは騙し合いなら一流の太公望である。すぐに呆れの表情を作ってに言い返す。

「おぬしなあ……わしがおぬしにお茶を入れたくなってはいかんのか?」
「え、いや、そういうわけじゃないけど」
「夫が妻を労うことのどこが不思議なのだ」
「つっ……! いや、ふ、不思議じゃない、けど」

 の顔が一気に赤くなった。先程までの冷静さはどこへやら、あたふたと視線を泳がせている。ダメ押しの優しい笑みを浮かべて見つめてやると、さらに赤くなった。

「……ありがとう」

 と言って、はお茶をすすった。その嬉しそうな顔に少々罪悪感を覚えたが、お茶とともに飲み込んだ。目的を忘れてはいけない。
 薬が溶けていても味に変化はなかったようで、はそのまま湯呑みを空にした。即効性ということだが、果たして。太公望がさりげなくの顔色を伺う中、は席を立った。

「じゃあ、体拭いてくるね」
「……う、うむ」

 部屋を出ていくの顔色も足取りも普段と変わらない。即効性だというからには、飲んですぐに体が熱くなったりするのかと思っていたのに。

(うーむ、使い方を間違えたか、それとも薬効が切れていたか……?)

 薬品庫にあったものをかっぱらってきただけなので、それが今も使えるものなのかどうかはわからない。もしかしたらもう効き目がないものを取ってきた……ということも無きにしも非ずである。

(仕方ないのう……わしも湯を使ってくるか)

 薬を使ったことがバレるかどうか、薬が効いたらはどう変わるのか。期待した通り積極的になるのか、それとも。
 それらのドキドキワクワクは肩透かしを喰らって急速に萎んでいった。一気にやる気をなくした太公望は、のろのろと立ち上がった。
 まあ、媚薬なしでもいつものようにを抱けばいい。そのために宿を取ったのだから。
 体を拭きながらそう思い直した太公望だが、部屋に戻ってみると、の姿がなかった。
 太公望より先に体を清めにいったはずだが、まだかかっているのだろうか。いつも太公望と同じようにさっさと済ませることが多いので、珍しいといえば珍しい。
 まあ、も女だし身支度に時間がかかることもあるだろう。しょうがないと小さく息を吐くと、太公望は寝台に寝転んだ。部屋でひとりでいてもやることはない。ここで彼女を出迎えてやろう。
 そう思い、目を閉じて待っているうちにうとうとした太公望であった。

「……ちゃん、望ちゃん……ねえ、望ちゃんてば」
「……う、ん……む?」

 不意に体に降ってきた重さに目を開けると、目の前にの顔があった。

?」
「やっと起きた。ねえ、望ちゃん……」
「ん……!?」

 仰向けに寝っ転がっている太公望の上に馬乗りになっているは、太公望が起きるなりキスをしてきた。強くくちびるを押し付けてちゅぱ、と音を立てて離れ、またくちびるをくっつけてくる。
 一体なにが起こっているのか太公望にはよくわからなかった。いやわかるのだが、一体なぜに迫られているのかよくわからなかった。

「まっ、、む、っ」
「望ちゃん、好き……ねえ、えっち、しよ」
「……!!」
「体、あつい、すごくあつくて……なんか変なの、望ちゃん……もう我慢できないの、すごくえっちしたい、欲しいよ、望ちゃん……」
、おぬし……」

 まさか、これが媚薬の効果なのでは。お茶を飲んだ直後ではなく、湯を使っている間に効き出したのではないだろうか。媚薬によって体に訪れた変化に戸惑っていたから、部屋に戻ってくるのも遅かったのだろう。やっとの思いで部屋に戻ってきて、そして今太公望に襲いかかっているというわけだ。

、はむっ」
「ん、望ちゃん、好き、望ちゃん……」

 それはわかった。わかったが、太公望が手を出すよりも早くが動いた。ひっきりなしに太公望の口に吸い付いて、太公望になにもさせない。起き上がろうとしても腰を押し付けられてしまい、動けないのである。
 こんなふうに好きを連発されるのも、息をするのも難しいほどにキスをされるのも、腰を押し付けられて雄を刺激されるのも、そのどれもがと男女の仲になってから初めてで、太公望は色々と追いついてこれない状態だった。しかも、太公望がこれをしろだのと誘導したのではなく、が自らやっている。仙人の薬がすごいのか、それとも。

がいやらしいのか……)

 どちらにせよ、これがの側面には違いない。媚薬といえど人格まで変わりはしないのだから。
 つまり、好き好き言いまくっているのは、の本心なわけで。

「〜〜っ」

 そう思った瞬間、への愛しさが爆発しそうになった。わしも好きだ、ずっと愛している。そう言ってやりたい。なのに、はキスで太公望の口を封じてそれをさせてくれない。嬉しいのに、なんとももどかしかった。

「ん、、っ、ま、っ……」

 ちょっと待て一旦落ち着こう。そう言いたかったのに、口を開いた隙に滑り込んできた舌に言葉がとろかされてしまった。の舌が太公望の舌に柔らかく絡んでは引いて、またそっと刺激してくる。その絶妙な押し引きが気持ちよくて、そしてじれったい。こちらからも舌先を伸ばして捕まえようとするが、するりと逃げられてしまう。落ち着きたかったことも忘れての舌に夢中になる。気がつけばの後頭部に手を回して、べろべろとお互いの舌を舐め合っていた。
 濃厚に混ざった唾液を最後にちゅっと吸い取ったは、やっと太公望のくちびるから離れて上体を起こした。

「ん、ふぅ……あつい、望ちゃん……」

 太公望の上で、自ら腰紐を解いて夜着をはだける。夜着の下にはなにも身につけておらず、火照った肌とぴんと立ち上がった乳首、晒された茂みが目に入った。

「お、おぬし下着は……!? こ、こら、なにをするっ!」

 は太公望の下腹部の衣服をくつろげると、半勃ちの性器を手に取って、そのまま口に含んだ。

(うおおお、こ、これはっ……!)

 今まで口でさせたことは何度かあったが、すべて太公望が促してが恥じらいながらするという形だった。こんなふうに自分から口淫をしたことなんてない。しようと言ったこともない。

「ん、望ちゃん……」

 こんな、蕩けた表情で肉棒を咥えるなんて、想像の中でしか見たことがない。これが興奮せずにいられようか、いやない。が舌を使い始めてからそう間を置かずに、興奮と快楽で太公望のものが硬くなった。
 根元を手で適度な力で扱きながら先端を口内で可愛がっている。唾液をたっぷりと絡ませた舌で竿を舐め上げ、唾液が垂れる前に口の中で吸い上げる。時折喉の奥まで肉棒を咥え込み、肉棒全体を締め上げる。じゅる、ぢゅぱっ、じゅるる、と卑猥な音がひっきりなしに上がっていた。

「ちょっ……! ま、て、っ、そんなにすると、うっ……!」

 あまりの巧みな愛撫に悲鳴を上げざるを得なかった。このままの勢いでは射精してしまいそうなのだ。せめて喘ぐまいと必死で堪えているが、興奮で射精の衝動まで抑えきれない。こんな口淫を一体どこで覚えてきたんだ。

「んっ、ほうちゃん、きもちい?」
「っ、こら、咥えたまましゃべるなっ!」

 不規則に動く口の壁面と舌が気持ちいい。もう咥えるか喋るかどっちかにしてほしい。

「ふふ、きもちいいんだ」

 と言って嬉しそうに笑う。していることは淫乱なのに、笑った顔が無邪気で不覚にもときめいてしまった。
 はまた太公望の性器を咥えて容赦なく口の中で愛撫してきた。それだけではなく、今度はもう片方の手で睾丸を転がしてきた。

「ぅあっ、や、め、っ……!」
(お、犯されるっ!)

 思わず腰が浮いた。その反応には手応えを感じたのか、口内をいっそう絞ってきた。根元を扱く指も休ませず、舌で裏筋を刺激しながら頭を上下させている。この娘、なにがなんでも太公望から精を搾り取る気だ。

「望ちゃん、出していいよ、全部飲むから……ね、ちょうだい、はやく」
「こっ、この淫乱娘っ、ぐ、うっ……!」

 もう耐え切れない。出してしまうのはいい、せめての口には出すまいと抵抗しようとするも、腰を引くよりも早く暴発してしまった。頭の中を射精の快楽が満たす。波が去った後に目を開けると、の顔が太公望の目の前にあった。出された精をすべて飲み込んだは、自分のくちびるを舐めながら艶然と笑っていた。

「もう知ってるくせに」

 正直めちゃくちゃいやらしくてめちゃくちゃ可愛かった。けれど、今の太公望は一度射精して冷静さを取り戻しつつある。なんだか無性に悔しくなって、がばっと勢いよく体を起こした。

「ひゃっ……!? あっ、んっ、望ちゃん……!」

 の体を捕まえると、無防備に晒された乳房を鷲掴みにしてむしゃぶりついた。

「わしとてこのままやられっぱなしではないぞ、
「あっ、んっ」

 すでに汗ばんでいるの肌を舐めると、おもしろいように体が跳ねる。硬く尖った乳首を指や舌で転がしてやるだけで甘い声を上げている。仙人の薬とはやはりよく効くらしい。
 半開きで嬌声を上げる口に吸い付く。の息が乱れる頃におもむろに股間へと手を伸ばすと、派手にの腰が浮いた。

「ひゃあっ!」
「おぬし、もうこんなになって……湯を使っている時にひとりでいじっておったな?」

 下の口に少し指を這わせただけで愛液が滴り落ちてきた。そしてこの反応である。湯を使っている間に媚薬が効き始め、異常な体の熱をなんとかしようとひとりで体を慰めたのでは。
 果たして、太公望の読みは当たっていた。は頬を赤くしながらも素直に頷いた。

「だって、体になにかが触れるだけで、すごいきもちいいんだもん……へんだよ、こんなのはじめて」
……」
「私の体、おかしくなっちゃったのかな……」

 熱に浮かされたような声に、怯えが少し混じった。突然体がこんな反応をするようになってしまったら、怖いと思うのが当然だ。

「大丈夫だよ、なにも怖がることはない。わしに任せるのだ、
「望ちゃん……」
「わしが今楽にしてやる」

 を安心させるように軽いキスを落としてから、中指を膣内に入れた。中はとろとろに溶けており、太公望の中指をゆるく締め付けてくる。お腹側の壁面を擦りながら奥へと進むと、指先に少し硬いものが当たった。

「うっ……!」
「痛いか?」
「痛い、のかな……感じすぎてる時と似てるような……」
「ふむ。これは痛いか?」
「ん、っ……痛くない、大丈夫」

 ここだ。女の体で一番感じる部分だ。普段は奥に引っ込んでいる部分だが、今夜は媚薬のせいで体が十分に感じているので指が届くところまで降りてきたのだ。そこを中指の先でちょいちょいとくすぐると、が両脚を擦り合わせた。痛くないようにの表情を見ながら、徐々に指先の動きを変えていく。だんだんとの声が大きくなり、やがて腰を浮かせるようにまで快感を拾い始める。

「なん、か、そこ、むずむずする、やあっ……!」

 あまりの快感にの脚がばたつく。頃合だ。ゆっくり優しくぐにぐにと押すと、が悲鳴のような嬌声を出した。

「ああぁっ、や、だめ、い、っ……!」

 あっという間に果ててしまった。しばらく経っても体を波打たせていて、普段の反応とは一段違っていた。

「はあ、はあ、望ちゃん、望ちゃん……」
「どうした、ここに欲しくなったか?」
「う、ん……ほしい、望ちゃんの、ほしい……」

 太公望のいきり立ったモノを目にしたは、息が整わないうちに体を起こして太公望に跨った。

「あ、こら、っ……!」
「は、あん……望ちゃんの、入ってくよぉ……」
「この、淫乱娘っ……!」

 自分で肉棒をあてがって腰を沈めていく。中を押し広げていく感触に恍惚とした表情を浮かべる彼女を見て、太公望の体もカッと熱くなった。は自分から腰を振り、快楽を貪り始めた。

「あ、あっ、望ちゃん、はあっ」

 エロい体をしているのは手を出した時から知っていたが、理性がなくなるとここまで奔放になるとは。恥じらいつつ太公望のなすがままに体を開いている彼女も可愛いが、この淫らさは下半身にダイレクトすぎる。気を抜くと出そうだ。

(まだまだわしの知らん顔があるとはのう)

 褥でのも知り尽くしたと思っていたが、この状況は予想外だった。せいぜいいつもより積極的になるだけだろうと予想をつけていたが、積極的どころの話じゃなかった。
 ――天化も、こんなを知っているのだろうか。
 ふとよぎった考えを、頭を振って強引に振り払った。
 それは、考えるだけ無駄だ。に聞く訳にはいかないし、太公望が知る余地もないことだ。
 愛しくて愛しくて、気が狂いそうだ。出会った頃から自分こそが彼女の一番だと、ずっと無意識に思っていた。彼女が頼れるのは自分だけ。無条件に彼女のそばにいられるのも自分だけ。なのに、いつの間にか太公望の意識と現実は違いが生じていた。それを自覚した時、あまりのことに足元がガラガラと崩れていくようだった。
 いつも心の奥底で彼女と関わる男達に嫉妬して、触れている時だけが嫉妬から解放される瞬間だった。なのに、こうして抱いている時でさえ頭をよぎる。淫蕩に染まった顔を他の男が知っているなんて、想像するだけで腹の底が煮え滾る。
 だから、考えるだけ無駄なのだ。

「あっ! あっ、やぁっ、望ちゃ、ああぁっ!」

 そんなことを思っていると、無意識にを下から突き上げていたらしく、先ほど指で愛撫していた性感帯を攻められたが派手に達した。そんなに激しくしたつもりはなく、むしろ押し当てるような動きだったのだが。倒れ込んできたの体がびくびくと跳ねていることからすると、それがよかったのかもしれない。

、気持ちよかったのか、ん?」
「きもちいい、すごいよぉ……さっきのこと、とんとんされると、すごい……」
「そうか、優しくされるのが気持ちいいのか」
「うん、好き……」

 好きの言葉に胸が高鳴った。優しく突き上げられることについて好きと言っているとわかっているのに、太公望に向けて好きと言っているみたいに聞こえたのだ。胸の片隅で密かに燃え続ける嫉妬に苦しむ太公望とって、のその一言はつかの間の癒しだ。
 上に乗ったままのの体を強く抱き締めて突き上げを再開する。奥に当たるように左手での腰を押さえつけて、ゆっくりと先端をねじ込む。たちまちは甘い声を上げて悶え始めた。

……好きだ、愛している」
「はあっ、あうっ、望ちゃん、私も好き、好きぃ……!」

 が悶えながら太公望の口にキスをしてきた。愛しさでたまらなくなって、いっそう強く抱きしめてくちびるを貪った。キスを交わしながら腰を押し当てていると、また中が極まった。

「んんっ、ふ、あっ、あっ――!」

 達したと同時にの股から透明な汁が飛び散った。太公望の腹に滴り、シーツにも垂れていくそれを、太公望は呆然と眺めた。

「おぬし……潮まで噴いてしまったのか?」
「はあ、は、っ、ん、」

 当の本人は息も絶え絶えに体を痙攣させている。あまりの絶頂の深さに、なにが起こったのかはまだわかっていないようである。目を閉じて気を失いかけているが、その閉じたまぶたからは涙があふれ、薄く開いた口からは涎が垂れている。

「女の体とはつくづく業が深いのう。潮を噴いたのは初めてか?」
「はあ、う、望ちゃん……こんなの、はじめて……すごいよぉ……」
「! ……そうか、初めてか」

 の言葉に優越感を覚えた。潮を噴いたのが初めてならば、こんな姿を見たことがあるのは――
 の体を仰向けに転がすと、正常位の体勢で再び繋がった。意識が薄れかけていただったが、挿入されて再び身を捩らせた。

「あ、ああ……も、だめ、望ちゃ、あっ、はんっ……!」
……」

 中の性感帯をコツコツと優しく叩きながら、に覆いかぶさった。過度の快感に涙を流してよがり狂うを見ていると、彼女をこんなに乱すことができて達成感やら満足感でいっぱいである。自分の欲を満たすことよりもよほど男冥利に尽きる。

「はあっ、望ちゃ、んっ、好き、すきっ……!」
「わしも、愛している。おぬしが好きで好きで――苦しいよ」

 この苦しみも奥底にくすぶる炎も、完全になくなることはおそらくない。愛しているがゆえに増す苦しみだ。通じあっているからこそ、過去のことでも気になって嫉妬する。完全に自分のものにならない彼女を想って苦しくなる。
 が太公望を想って不安になるのと同じだ。通じあっているからこそ、いつか訪れる別れを恐れてしまう。いつかその恐怖に耐えきれなくなる日が来るのではないかと恐れている。
 愛しいから、余計に苦しみや恐怖が増す。心とは本当にままならない。
 けれど、その苦しみや恐怖よりも、心を通わせて体に触れ合って得る幸せもまた大きいことも事実だ。

「あっああっ、また、いくっ……! ひゃ、ああっ!」

 が叫び声を上げて果てた。体が折り曲がるほどの深い絶頂では今度こそ気を失った。それを見届けた太公望は、腰を振って中に精を叩きつけた。さすがに疲れてしまい、すべて出し切ってからの上にへたりこんだ。最低限の身繕いだけ済ませると、太公望もすぐに寝入った。

***

 翌朝。

「望ちゃんのバカ、エロじじい」

 目を覚ましたは、昨夜の行為のせいで動けなくなっていた。太公望に背を向けたまま布団にくるまって、顔を見せようとしなかった。

「媚薬を盛るなんて……あのお茶、怪しいとは思ってたのに、望ちゃんを信じた私がバカだった……」
「まあなんだ、騙したことについてはすまんかった。、怒っておるのか?」
「…………は、恥ずかしくて、しにそう……です……」

 前後不覚になっていた時を除いて、行為中のことはちゃんと覚えているらしい。好き好き言いまくって太公望に迫ったことも、自分から太公望の性器をしゃぶったことも、潮を吹いたことも、そのほか恥ずかしいことをたくさん口走ったことも。
 その恥ずかしがる様子が可愛くてたまらない。やはりは恥ずかしがっている時が可愛い。太公望は布団の上からのしかかり、を抱き締めた。

「はあ……おぬしの今の言葉だけでも媚薬を盛ってよかった」
「もう、人が真剣に落ち込んでるのに!」
「落ち込む? なにに?」
「だ、だって……あんな、い、淫乱なの、みっともない……あんなはしたないのが私の本性なんだって、望ちゃんに嫌われるんじゃないかって……」

 太公望はこの日、好きすぎてキレそうになるということがどういうことなのか思い知った。いや、今までもと一緒にいて愛しさのあまりなにもかもを投げ出して襲ったりしたことはあったが、それも好きすぎてキレていたのかもしれない。腕力が強いほうではないが、キレた今ならこの布団を剥ぎ取るぐらい簡単なはずだ。

「ひゃっ! ぼ、望ちゃんやだ、」
「おぬしなあ〜〜媚薬を盛っておいて淫乱だから嫌いになるなど、そんな本末転倒をわしが起こすか! ていうかわしがおぬしを嫌いになるはずがないっ! そんなこと天地がひっくり返っても有り得んと、何度言えばわかるのだ!」
「ぼ、望ちゃん、苦しい……」
「罰だ、おしおきだ!」

 布団を剥いで出てきたを、おしおきとして力いっぱい抱き締めてやる。孔宣の一件の際に、を嫌いになるはずないとあんなに盛大に言ったのに、まだこんなことを言うが憎らしくて可愛くて、愛しくてどうしようもなかった。
 しばし後に腕を緩めて顔をのぞき込むと、は息苦しさと羞恥心と、そして嬉しさで顔を真っ赤にしていた。

「……おぬしは恥ずかしくて死にそうと言ったが、わしはおぬしが可愛くて、幸せで死にそうだよ」
「望ちゃん……わ、私も、幸せ」

 そう言っては太公望に軽くキスをしてきた。自分からしておいて恥ずかしくなったのか、顔をさらに赤くしている。太公望はまたキレそうになった自分を抑えるために、を抱き締めて衝動をやり過ごした。

「人の心とは不思議なものよのう。そばにいるのがたまらなく幸せなのに苦しくなったり、底なしに嫉妬して身を焦がしたり……」
「……望ちゃん?」
「だが、やはりわしは、おぬしとこうしてともにいられることが幸せだ」

 自分の幸せなど、封神計画を遂行していた時には考えたこともなかった。ただ理想の実現のために前だけを見ていた。
 への想いを自覚してからだ。もし、が元の世界に帰らずに自分のそばにいてくれたら。自分の想いを受け入れてくれたなら、どんなに幸せだろうと。
 それが叶った今は、幸せの一言に尽きる。

「……私も、望ちゃんと一緒にいられて幸せだよ」
……」
「ずっと大好きだよ、望ちゃん。望ちゃんも、その……ずっと私のこと、好きでいてね」
「〜〜っ! おぬしとおると、心臓が持たんよ……」

 もう愛しさ爆発しまくりだ。わざわざそんなことを言うが可愛くて可愛くて、どうにかなってしまいそうだ。可愛いことを言うくちびるを奪ってやることにした。
 そうやってイチャイチャしているとあっという間に日が暮れてしまい、もう一晩この宿に世話になることとなった。
 空気の読める霊獣四不象は、一向に顔を見せずなにも言ってこない主人がどうなっているのかをなんとなく察して、部屋に行ったりせずに外で過ごした。



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