伏羲とその後。太公望と再会



 その日は宿を取った。もちろん、情事のためだ。基本的に野宿が多いが、情事に及ぶ際には、を気遣って宿を取る。
 情事を終えて、は少しの間眠っていた。隣にある体温が、不意に自分を抱き寄せたことで、は目を開けた。隣に視線をやると、いつものように伏羲がこちらを見ていた。お互い、まだ裸である。
「ん?起こしてしまったか?」
「ん……大丈夫……」
 は目を瞬かせて、暗闇に目を慣らした。体に残る熱は、もう大分冷めている。一時間ほど眠っていたようだ。伏羲が微笑みを浮かべて、の髪をすく。情事が終わった後の彼は優しい。というより、情事以外は、からかうことはあれど、概ね優しい。
 目をこすりながら伏羲を見返していると、はあることに気がついた。まじまじと彼の顔を観察する。
「あれ……?望ちゃん?」
「うん?」
「望ちゃん、だよね?伏羲じゃない」
 が自信なさげに言うと、彼は目を見開いた。めったに驚くことがない彼にしては、珍しい表情だ。
「驚いたのう……さすがに、おぬしはわかるか」
「うん……やっぱり、そうなんだ?」
「うむ。わしは、今は太公望だよ」
 そう言って、太公望は微笑んだ。懐かしい笑顔に、は嬉しくなって太公望に抱きついた。
「望ちゃんだ」
「いつも、一緒であろうが」
「うん。でも、ちょっと違うもん」
 太公望は、を抱く腕に力をこめた。嬉しいことを言ってくれるもので、ますます愛しさを感じる。も、懐かしい感触に目を細めた。伏羲のときとは違った安心感が広がる。彼の顔を見るのは、およそ一年ぶりだ。
「でも、どうして?王天君は?」
「それがのう……散歩に行って来る、といって出て行ったのだ」
「散歩って……大丈夫なの?」
「まぁ、いずれ戻ってくるよ。少し離れたぐらいでは問題ない」
「そっか」
 太公望は、の額や頬にキスを降らせた。背中や腰、腕にも、肌の感触を味わうように手を滑らせる。
「あ……望ちゃん」
「おぬしと二人きりになるのは、久しぶりだのう」
「う、んっ……んぅ……」
「感じておるのか?」
「あっ」
 太公望が、つんと立った胸の飾りを指でつぶすと、が甘い声を上げる。体の熱が上がっていく。太公望も、肌を撫でていてわかっているはずだ。
「いやらしい体になったのう」
「あ、ん……だって、望ちゃんが、あんなにいかせるから」
「いかせてほしいくせに」
「んっ、はぁ……」
 太公望は両方の乳首を立たせると、片方を口に含み、片方をつまんだ。ちゅう、とわざと音を立てて吸う。強すぎるぐらいが、は一番感じると知っているので、吸う力を強くする。
「あっ、あん……」
「いい声で鳴くのう」
「ん、望ちゃん……」
「どれ、こちらも……」
 もう片方の乳首も銜え、時々歯を立てながら吸う。はたちまち太公望の肩をつかんで、体をのけようとする。両脚を擦り合わせているので、感じているのだ。
「あっ、だめぇ」
「感じておるのだろう?」
「そんなに、胸ばっかり……」
「わしはおぬしの、桃のような胸が好きでのう。腹は膨れんが、別のところは膨れるのでな」
「んもう、エッチぃ……」
「ニョホホホ。昔、ずっとおぬしの胸を触りたいと思っておったのを、思い出したのだよ」
「そうなの?」
「おぬしへの思いを自覚したのは、封神計画の終盤だったが、それ以前から、無意識に、おぬしを女として見ておった。スープーに乗るときは、いつも胸が当っておったからのう」
「う……しょうがないでしょ」
「くくく……はじめてキスした日を覚えておるか?」
「初めて?伏羲と、旅に出た日?」
「おぬしは、そうかもな」
「……え?」
 が目を瞬かせると、太公望はにやりと笑った。悪巧みをしている時の顔だが、それでも伏羲のときよりかは、腹黒さが軽減されている。伏羲の笑みは、性悪のそれだ。
 太公望は、手を太ももへと滑らせながら、語る。
「おぬしが、呂岳のウイルスで熱を出した時、わしは口移しでおぬしに薬を飲ませたのだよ」
「え?本当に?」
「それを、ばっちり楊ゼンに見られてな。貸しにしてやる、と脅されたわ」
「そ、そうだったんだ。そんなに前から……」
 太公望は太ももから内股へと、ゆっくりと手を這わせた。やんわりと与えられる快感に、は目を細める。自分の秘所の潤いを感じて、脚を動かした。しかし、太公望は、秘所を触ろうとしない。胸や脚を触るだけである。
「あ……望ちゃん……」
 はもどかしくなって、太公望を見上げた。自身は自覚していないだろうが、物欲しそうに、切なげな表情をしている。太公望は笑い声をもらした。
「くくく……よ、目線だけでねだるのは、おぬしの悪い癖だ」
「え?」
「ねだる時は、ちゃんと言葉で言うのだ」
「あ……」
 太公望の言わんとしていることに気付き、は頬を赤らめた。恥ずかしいことを言わされるのは毎回だが、慣れることはない。ましてや、今回は太公望相手なのだ。しかし、ここで躊躇していても、望むものは得られない。は羞恥心を押し込めると、口を開いた。
「……お願い……あそこ、触って……望ちゃん」
 太公望は、笑みを消すと、しばしを見つめ、それから強く抱きしめた。が戸惑っていると、太公望はそのくちびるを奪った。
「んっ……」
「はぁ……おぬしは、なんと可愛いのだろう……」
「望ちゃん?」
「おぬしが可愛くて仕方ないから、辛抱たまらんよ」
 太公望はそう言うと、いきり立ったものをの割れ目に擦り付けた。先端を潤し、ゆっくりとの中へ侵入した。いきなりの行動に、は目を瞠る。
「あっ、望ちゃん……そんな、いきなりっ……」
「わしの精が、まだ中に残っておるだろう?それに、十分濡れているよ」
「あ、はぁん……んぅ」
「直接触らんでも、こんなにぐちょぐちょだ」
「あっ、あっ、やぁっ」
「いやらしい体だのう」
 太公望は、徐々に腰の動きを早めた。中を突くたびに、先の情事の名残が掻き出される。言葉による辱めで、の中が狭まる。膣内がもたらす快感に、太公望は息を吐いた。
「おぬしとこんなことをする仲になるとは、あの時は夢にも思わんだのう」
「あっ、ふ、望、ちゃん」
「おぬしへの思いを断ち切ろうと必死だった。気付いとらんかっただろう?」
「あっ……う、んっ」
「憎らしいやつよ……めちゃくちゃにしてやりたいわ」
 太公望は、思いをぶつけるかのように、体勢を変え、動きを変え、を責めさいなんだ。は、何度も果てて、息も絶え絶えになった。
「あっ、あん……望、ちゃ、もう……」
「ん……?」
「もうっ、だめぇっ……おかしく、なっちゃうよぉっ」
「狂ってしまえ……わしも、いくぞ」
 後ろからの体勢から、を仰向けに返すと、太公望はどろどろに溶けた中を、めちゃくちゃに突いた。一段と高い嬌声が上がる。
「あんっ、ああっ、だめぇっ、も、いくっ」
っ」
「ひぃっ、ああっ!」
 が全身を痙攣させ、頭を振り乱した。太公望は、逃げそうになる腰をつかみ、一気に絶頂へと駆け上った。はしばらく、小刻みに痙攣し、荒い息を整えていた。絶頂がいかに大きなものだったかを物語っていた。太公望もまた、深く息を吸った。
「はぁ……よ」
「んっ……望ちゃん……」
 息が整う頃に、の体を抱きしめると、まだ敏感な体は、その感触にも反応した。切ない声を上げるに、太公望は笑みを浮かべた。
「すごい乱れようだのう」
「っ……望ちゃんが、あんなにするからっ……あ、ん……」
「たまらんのう……愛撫だけで、気をやってしまいそうだぞ?」
「やぁっ、だめぇ……」
 太公望は、何度も赤いくちびるを吸い上げ、舌を絡ませた。胸を手で包み、指で硬くなった先端をつぶした。びくびくと、の体がはねる。
「んぅっ……ん、ん」
「……おぬし、わしを寝かせんつもりか?そんなにいやらしく誘って……」
「やん、ちがうっ、あっ」
「わしも、狂いそうだよ……」
「あぁっ、あんっ」
 その後、空が白む頃になって、が気を失うまで、情事は続けられた。太公望も、さすがに疲れてうとうとしていると、王天君の魂魄が帰って来た。王天君は、のぐったりした姿を見下ろし、呆れたように口を開いた。
「……あんた、結局こんな風にしちまうんじゃねぇか」
「むう……こんなはずではなかったのだが」
「なにが、わし一人だったら優しくできる、だよ。てんで逆だ」
「むむ……」
 伏羲が、いつものようにを責め抜いた後、太公望が王天君に、もっと優しくできないのか、と突っかかったのがことの発端だ。王天君は、ためしに伏羲から抜け、太公望一人にしてみたのだ。そして、その結果がこれである。
「おら、さっさと戻るぞ。あんたのまんまじゃ、にいいように怒られるだけだからな」
「むむむ……」




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