伏羲とその後 その3 ついに陥落
その夜は、雨が降っていたため山間の小さな洞穴で野宿することとなった。土砂崩れ等の危険がないか宝貝を使って調べた後、洞穴に入って雨露を払った。濡れた服や髪を乾かすことも、
の宝貝を使えば簡単だった。一通り終わったところで伏羲のほうを振り返ると、彼はすでに寝ていた。
伏羲は、なんの影響なのかはわからないが、とにかくすぐに寝る。どこであろうと、座って目を閉じれば、次の瞬間には寝ている。そんな時、
は特に彼を起こしたりせずに自然に目を覚ますまで待っている。元始天尊の千里眼や武吉の嗅覚から逃れるために、始祖の力を使っているせいかもしれない。伏羲の口からそんな話が出たことがないので、
の予想でしかないが。
伏羲が寝てしまったのでやることもなく、
もまた眠ろうとした。しかし、ひとつ問題があった。
(これは、今夜もなにもない、ってことだよね……)
禁城で初めて関係を持って以来、三日に一度ぐらいのペースで体を重ねてきた。だが、ここ一ヶ月ほどご無沙汰だった。けんかをしたとかそういうこともなく、普段はいつも通りである。夜の営みだけがないままひと月が経ってしまった。
いざ行為に及ぼうとすると恥ずかしさのあまり逃げ腰になってしまう
だが、彼に抱かれる快楽を知った後に放置されてしまっては、さすがに欲求不満になってくる。かといって、寝てしまった彼を起こして、セックスしたいなどと言う勇気はこれっぽっちもない。
は不満げに伏羲の寝顔を見つめていたが、ふとあることを思いつき、辺りを見渡した。洞穴はそんなに大きいものではなさそうだが、まだ奥に空間が広がっている。ある程度奥まで行けば、ここから姿も見えなくなるし、声も届かないだろう。
(……仕方ない、よね。望ちゃん寝ちゃったし、私も、そろそろ限界だし……)
要するに、自慰をしようとしているのだ。相手がもう寝てしまっていつ起きるかわからないのだ。自分で自分の体を慰めるなんて恥ずかしいことこの上ないが、もう熱がくすぶってしまっているのだから仕方ないのだ。
は、伏羲が起きないように足音を忍ばせながら奥へ進んだ。少し入り組んだ造りになっており、入口から光がほとんど届かなくなった。この分だと、昼間であっても奥まで光が差すことはないだろうなとぼんやり思った。入口のほうから見えにくいとなれば、
にとっては好都合である。
適当なところで腰を下ろし、背を岩肌に預けた。しばらく耳を澄ませて様子を探ってみたが、伏羲が起きて来る気配はない。
はおずおずとズボンを脱ぎ、下着を下ろした。左手で自分の胸を揉みながら、そっと秘所に右手の指を這わせる。まだ湿っていないそこを撫でると、じわじわと体が熱くなってくる。
一ヶ月間ご無沙汰だったせいか、自身での慣れない愛撫でも、すぐに濡れ始める。くちゅ、と音が鳴るようになると、さらに刺激を求めて敏感な突起に指を動かした。途端に、電流のように快感が走り、
は声を上げそうになった。上着も脱ぎ去ると、露出した胸の飾りをつまんだ。
「んっ……」
思わず声が漏れ、
は慌てて口を閉じた。伏羲が起きたような気配はないが、我慢せずに声を上げていたらさすがに起きてしまう。極力口は閉じなければ。
秘所から滴る愛液が、尻のほうまでつたってきた。指を中に入れてかき混ぜる。
(あっ、ん……こんなのじゃ、全然足りない……望ちゃん……)
女の指では長さも太さも物足りない。けれど、今は自分の指しか手段がない。過去の行為を思い出しながら指を動かして、なんとか快感を得ようとする。指を出し入れしながら敏感な場所をつまむと、体がはねた。
(あ……もう少し、かも……)
くちゅくちゅ、と水音が立っていることにも構わず、自慰に没頭する。
熱のこもった息を吐き出したその時だった。押し殺した笑い声が聞こえてきた。
振り返ろうとした
は、ほの暗い闇の中で抱きすくめられた。耳元で聞こえる笑い声は伏羲のものだ。笑いをこらえきれないといった様子の伏羲に、カッと顔が熱くなった。
が自分で体を慰めているところを見られたのだ。
「ぼ、望ちゃん……!」
「くくく……
よ、体がこんなに熱くなっているぞ。自分で慰めておったのか?」
「こ、これは……ちがう、違うの!」
「なにが違う? ほれ、こんなに」
伏羲の指が
の秘所を撫でると、にゅるりと指が滑った。指についた愛液を見て、また伏羲が笑い声を上げた。
「……のう?」
「っ……! ぼ、望ちゃん……」
「可愛いやつよ。したければしたいと正直に言えばよいものを、わしに隠れて自慰とは」
「……っ!」
伏羲の言わんとしていることを察して、
はまた頬を赤くした。自分から誘えと言っているのだ、伏羲は。今まで彼の求めに応じるだけだった
にとって、自分から誘うなんてとてつもなくハードルが高かった。
が黙り込んでいると、伏羲が耳たぶを甘く噛んできた。
「ひゃっ!」
「なにも言わぬのなら、わしはまた寝るぞ」
「あ……や、だ、だめ……!」
「だめ? ではちゃんと言うのだ、どうして欲しいか」
「う、うう……」
「おぬしが言うことを、わしが拒むものか」
の耳に、吐息と共に吹き込んでくる。
この間まで家族同然だった彼を、性行為に誘うなんて。数ヶ月前の自分に、彼とそんな関係になったなんて言っても到底信じないだろう。恥ずかしさでどうにかなりそうだが、それ以上に、熱がくすぶる体をどうにかしてほしかった。
は羞恥心を押さえ込むと、蚊の鳴くような声をなんとか絞りだした。
「望ちゃん……えっち、したいの……抱いて、お願い……!」
暗くてよく見えないが、伏羲がにやりと笑った気がした。彼は
の顎をつかんで自分のほうを向かせると、くちびるをふさいできた。
「舌を出せ」
一旦くちびるを離し、伏羲が言った。
が大人しく舌を口の外に出すと、伏羲も同じように舌を出し、
のそれに絡めた。口の外で舌どうしを押し付け、絡ませ合う。ざらざらとした舌の感触が気持ちよくて、
は夢中で彼の舌を求めた。
「いい顔だ、
。ところで、わしは寝起きでな……」
伏羲は
の右手をつかむと、自身の下腹部へと導いた。
はびっくりして手を引こうとするが、彼は手首を離さなかった。
「おぬしはもう準備万端のようだが、わしはまだなのでな。勃たせておくれ」
「え……?」
「手でも、口でもいいぞ」
つまり、
が伏羲のモノを勃起させるまで、
には触れてくれないのだ。伏羲は両手を下ろして悠然と座っている。そこから動く気配はまったくない。
は、くちびるをかみ締めて羞恥心を押し殺すと、伏羲の下腹部へ身をかがませ、前をくつろげる。取り出した伏羲の性器は半勃ちにすらなっておらず、柔らかい。
恐る恐るそれに触れる。根元をそっと握り、裏筋を刺激するように先端に向けて手を動かす。芯が通ってきたところで
は先端を舐め、舌で裏筋をなぞる。口の中に含んで、苦しさを覚える寸前まで咥える。伏羲が息を吐いた。
「ん、っ……は、ぁ……
……」
「ん……は、ん……」
「こんなことをさせるのは初めてだが……中々上手いのう、おぬし」
「んっ、望、ちゃん……」
咥えたまま頭を前後に動かすと、じゅぷじゅぷと唾液の音がした。気がつけば、伏羲のそれはすっかり張り詰めている。伏羲は
の頭をなでて、腰を引いた。顎が途端に楽になった。
「いい子だ。さて……」
「あっ……」
の体を抱き寄せると、伏羲は秘所へと手を伸ばした。口淫させたことで少し間が空いてしまったにもかかわらず、そこは変わらずに濡れそぼっている。伏羲がにやりと口角を上げた。
「
よ。わしのを咥えながら興奮しておったのか?」
「あっ……! やだっ、違うっ……!」
「では、これはどういうことかのう。さっきより濡れておるぞ?」
割れ目をなぞり、指を中に入れかき回すと、愛液が伏羲の手を濡らした。手首まで滴ってきたそれを見せつけてやると、
は羞恥と興奮に顔を真っ赤に染めた。再び指を中に突き入れ、中の性感帯をぐにぐにと押してやると、
はあられもない声を上げた。
「あっ、あうっ、そ、こ、ああっ!」
「咥えながらコレが欲しくなってしまったのか?」
「あんっ、んんっ、ちが、うっ……あぁっ!」
「
は淫乱だのう。ほれほれ、ここはコレが欲しくて仕方ないようだぞ」
「あっ、やん、ちがうのっ、んぅっ」
「では、やめてもいいのか? ん?」
「あ……や、やだ、やだぁ……!」
伏羲が楽しそうに指を引き抜いた。求めていた刺激を断たれ、
は思わず切ない声を上げてしまう。暗闇に慣れた目で彼を見つめると、伏羲は意地悪げな笑みを浮かべた。喉の奥で笑いながら、乳房を舐められる。
「あっ、んっ……」
「どうして欲しい? ちゃんと言葉にしたらその通りにしてやろう」
ちゅ、と音を立てて乳首を吸って、伏羲は
を見つめる。なにがなんでも
の口から誘わせたいのだ。今までは伏羲の求めに応じる形だったが、今回は
の自慰が発端だ。ここで
が言葉にしたら、完全に自分から伏羲を誘ったことになる。
羞恥心が邪魔してなかなか言葉にできずにいる
を、伏羲は笑みを隠そうともせずに見つめている。
のこの顔がたまらない。今まで口で嫌だのだめだのと言っていたが、体はこの通りだったのだと実感して恥ずかしがっている、この顔が見たかったのだ。
やがて、体の熱に屈した
は、羞恥心をねじ伏せた。
「望、ちゃん……望ちゃんのが、欲しい……」
「どこに?」
「っ……! 私の、中に……望ちゃんの、入れてほしいのっ……!」
伏羲は、その言葉に目も眩むような満足感を覚えて笑みを深くした。
を立たせて岩肌に手をつかせると、後ろから
の腰をつかみ、ゆっくりと挿入した。
「あ……あ、ぁっ……」
「は、ぁ……
……」
根元まで差し込むと、伏羲は動き出した。いつもなら最初は慣らすように動くのだが、今夜は入れた直後から中を深くえぐるように動く。いきなりの強い快感に、
は喉をのけ反らせた。
「ああっ! あん、望、ちゃ、ひ、んっ」
「どうだ
、久しぶりのわしのモノは」
「は、ぁん、気持ち、いいよぉっ……!」
「もうコレなしではおれんようだのう、おぬし」
「あっ、あんっ、言わないでぇっ……!」
「いやらしい子だ」
甘く高い嬌声を我慢しようともしない
を、伏羲は容赦なく責め立てる。伏羲の律動で、繋がったところからぐちゅ、ぬぷっと卑猥な水音が立っている。性感帯をぐにぐにと突き上げられ、行き過ぎた快楽に
は目を白黒させる。
「
よ。ひとりで慰めておった時、なにを考えていた?」
不意に、伏羲がこんなことを聞いてきた。
「え……?」
「誰のことを考えて体を弄っておった? 正直に言うのだ」
快楽によって思考能力が低下した頭で、先ほどのことを思い出す。あの時は、確かに伏羲との性行為を思い出しながら体を慰めていた。彼の指がしていたように、自分の指を動かしていた。思い返している間もひっきりなしに突き上げられる中、
は必死に口を開いた。
「んっ、は、あんっ……う、望ちゃん、のこと……」
「天化ではなく?」
「うんっ……あ、んっ、望ちゃんとの、えっち、思い出しながら、はあっ」
「ほう、わしとのことを?」
「ん、望ちゃんの、えっち、すごい、の……いっぱい感じて、変になっちゃうから、だから、あ、あぁっ!」
いきなり奥深くを突かれて、
の口から一段と高い声が上がった。もう足にほとんど力が入らず、膝が曲がってしまう。そんな
の体を支えながら、伏羲は
の耳に熱い息を吹きかけた。
はただ質問に答えただけかもしれない。けれど、伏羲にとってはそれだけではなかった。
が自慰の際に伏羲を思い浮かべた――それは、男としての伏羲の存在が、
の中で天化よりも大きくなったことを意味するのではないか。今、
の心も体も支配しているのは伏羲だということを――
「おぬしは……本当に、可愛い。わしのほうがどうにかなってしまいそうだよ」
「あんっ、だめっ、も、むりぃっ、いっちゃうっ……!」
「いいぞ、何度でもイけばいい」
伏羲がダメ押しで小刻みに腰を動かすと、
は腰を震わせて果てた。こぶしを強く握り、全身に走る快感に耐える。波が去ったことで脱力してしまいそうになるが、伏羲が再び動き出したことで、また岩肌にしがみついた。
「あっ! や、あっ、望、ちゃんっ……!」
「
、わしはまだ果てておらぬぞ」
「やん、そんなにしたらっ、またっ……!」
伏羲が腰を打ち付けるたびに、
の肩がぶるぶると震える。極まったばかりの中をなんの手加減もなく責め抜く律動に、必死で耐えているのだ。伏羲はその背中を抱き込むような体勢で、楔を打ち込む。
の内股には、
のいやらしい液体がつたっていた。
「わしは、ずっとその言葉を待っておった。おぬしがわしを求める言葉を」
「あっ、うっ、んぅっ」
「おぬしは、わしのものだよ」
「あっ、はぁん、望ちゃんっ……!」
「おぬしはこれからずっとわしのものだ。よいな?」
「はぁっ、うん、伏羲……っ」
「いい子だ。そろそろいくぞ、
」
「あっ、はっ、ああんっ!」
伏羲がまた小刻みに動き、腰をぐっと奥まで押し付けると、
が再び達した。伏羲もそう間を置かずに息を詰め、白濁が中に満ちていく。肉棒の脈動が収まると腰を振って残りの精を出し、伏羲は腰の抜けた
を抱えて座った。口の端から涎を流し、まだ呼吸荒く体を震わせている
を見て、伏羲は笑った。まさにご満悦といった表情だった。
「ニョホホホホ! 一ヶ月も焦らしたかいがあったわ! おぬしはもう、わしなしでは満足できん体になったようだのう?」
「なっ……!? や、やっぱり一ヶ月もえっちしなかったの、わざとだったんだ!」
「おぬしが中々音を上げんから、今回はわしもなかなかきつかったぞ。だが、おかげでおぬしからわしを欲しいと言わせることができて結果は上々! さすがわし! ハーッハッハッハッハ!」
「〜〜んもうっ、このエロじじいっ!」
が憤慨のあまり、力の入らないこぶしで伏羲の胸をぽかぽかと叩いた。顔を真っ赤にしてそんな可愛いことをするものだから、伏羲は笑いが止まらない。エロじじい丸出しの表情を隠すために
を抱きしめて、機嫌を取るために頭を撫でた。
「そう怒るな。どうしてもおぬしからの言葉が欲しかったのだよ」
「んもう、望ちゃんてば……」
「
、愛している」
「ん……私も、大好き、望ちゃん」
愛を告げあってキスを交わす。目を合わせると、互いに愛しさのあまりに破顔した。
「はあ……可愛いのう、おぬしは。わしはもう、たまらんよ」
情事の後の色っぽい
を見ていると、伏羲は歳甲斐もなく燃え上がってしまう。抑えきれずに
の胸を触る。乳首をつまんだり吸ったりして、再び
の体に火をつける。
「あ、ん、望ちゃん……」
「ご無沙汰だった分だ。もう一度くらいはいけるだろう?」
「もう一回、するの……?」
「わしとて、おぬしを一ヶ月も我慢しておったのだ。今夜は、たっぷり可愛がってやるとするかのう」
「あ、あん……望ちゃんの、えっちぃ……」
「ニョホホホホ!」
その後、洞穴に響く嬌声は、空が白む頃まで絶えなかったという。