伏羲とその後 その2 ほだされ始める


 禁城に滞在してから早三日。
 今夜も伏羲とは褥を共にしている。いまだには伏羲と寝所をともにすることに慣れずにいる。彼が太公望だった時には、一緒に寝てもなんの問題もなかった。だが、告白を受けてからは、彼の顔を見るだけで恥ずかしくてどうしようもなくなってしまう。

「なんだ? まだ照れておるのか?」

 寝台の前でもじもじしているに、伏羲が痺れを切らした。彼はすでに上半身裸だ。それを見て、はますます顔を赤くする。これから肌を合わせるのだということをまざまざと感じさせられてしまった。

「だ、だって……」
「ん?」
「……は、恥ずかしいんだもん」

 伏羲は目を瞬かせると、おもむろに笑い出した。伏羲の笑いに首をかしげていると、腕をつかまれてあっという間にベッドへ引きずり込まれた。

「わっ……! ぼ、望ちゃん」
「くくく……おぬしは本当に可愛いのう」
「ん……」

 伏羲は笑いながらを抱きしめると、くちびるを重ねてきた。が抵抗する間もなく、くちびるが軽く触れあってすぐに離れる。腕の中に収めたを見下ろして、優しく微笑んでいる。その目は、太公望の時と似ているが同じではない。含まれている意味が違うのだ。

「封神計画の時を思い出すのう。あの時はわしが隣に寝ておっても、おぬしはまるで意識せんだのに。あまりにも無防備すぎて、こっちがやきもきしたわい」
「あの時とは、状況が違うもん……」

 伏羲が可笑しそうに目を細めた。太公望の割合が大きいといっても、太公望とまったく一緒という感じはしない。は不思議な感覚で伏羲を見つめ返した。


「ん?」
「愛している」

 と言うと、伏羲はまたにキスをした。ゆっくりと近づいてきた彼のくちびるを大人しく受け入れる。くちびるの感触を味わうように触れあった後、湿ったものがの口の中に入ってくる。
 伏羲の手が自分の服を手際よく脱がしていくのを感じながら、は目を閉じた。

***

 ぐちゅりと音を立てて、秘所に指が入っていった。そのほぐれ具合に、伏羲はの乳首をしゃぶったままにやりと口角を上げる。

「なんだ、もうこんなに溶けておるのか」
「ん、やぁ」

 揶揄するような伏羲の言葉に、は首を振る。違うと言いたかったが、彼が中をかき回したので言葉にできなかった。中からあふれてきた液体は、中がもう準備万端だということを表している。

「あ、あっ、望、ちゃ」
「いきなり二本も飲み込んでおるぞ。いやらしい子だ」
「んっ、や、あっ」

 伏羲は指を動かしながら、胸の赤い飾りを強く吸った。鬱血を残す時と同じように強く吸われて、痛みで顔が歪む。

「いっ……! あっ……あ、やぁ……」

 強く吸った部分を舌でじっとりと舐め上げられた。じんじんと疼くそこは、より一層舌の感触を拾い上げる。

「痛みを感じた後はより感じるであろう」
「ん、あ、あんっ……!」
「ふむ、おぬしはこっちのほうが正直だのう?」

 伏羲が指で中をかき出すと、液体は先ほどよりも多く指に絡みついた。感じている証拠を突きつけられ、は羞恥で顔を背けた。の赤く染まった頬を見て伏羲は満足そうに笑い、体を起こした。の両脚を大きく開かせると、股の間に口を当て、膨張した部分を強く吸った。

「あっ、ああっ! だ、だめっ、そこ、」

 がたまらずに叫ぶが、伏羲は舌を休めることなく動かす。突起を舌で嬲り、くちびるで吸い、指で中をかき回した。一番感じるところを容赦なくいじられてはたまらない。はあっという間に腰を浮かせた。

「やっ、ああっ!」
「気をやったのか。良すぎたか?」

 全身が紅潮したの肢体を見下ろし、伏羲は愛液で濡れた口元を拭った。中をかき回して濡れてしまった指を、の口元まで運ぶ。

、口を開けるのだ」
「ん……ふ、ぅ」

 がおずおずと口を開くと、伏羲はそこに濡れた指を突っ込んだ。指でそっと舌を撫でてやると、は意図を汲み、その指を舐める。

「いい子だ、

 伏羲の意のままに指をきれいにするを見下ろし、また笑った。
 指を舐めているだけなのに淫らに映るのは、どこか物欲しそうな表情だからか、それとも普段とのギャップからか。おそらくその両方だ。恥ずかしがってなかなかガードを緩めないが、一旦快楽に溶かされると途端に淫らになる。この淫らな体をこれから自分の好みに塗り替えられる、その征服感といったら。

「やけに物欲しそうだのう。指を舐めながらなにを考えている?」
「ん、や……! そんな、なにも……!」
「そう言いつつしゃぶり続けておるではないか。おぬし、淫乱の気があるのう」
「やあっ……ちが、淫乱なんかじゃ……!」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがるを見てぞくぞくする。この顔がたまらない。羞恥に瞳を潤ませつつ、その奥では快楽を求めている。その証拠に、言葉で嬲られながらも指をくわえて離さない。この子は羞恥に染まっている時が一番淫らだ。もっと辱めて乱れさせてやりたい。
 の目がとろんとしてきたところで伏羲は指を引き抜き、指についたの唾液を彼女に見せ付けるように舐め取った。赤く熟れた頬がさらに深まる。けれど、目を反らそうとはしない。そんなところにも欲を掻き立てられる。
 伏羲はの両脚を持って開かせ、自身の張り詰めたものを秘所に当てた。十分すぎるほどに濡れたそこは、すんなりと伏羲を受け入れた。

「あ、ああ……望ちゃんっ……」
「中も、とろとろだのう」

 根元まで怒張を差し入れると、伏羲はゆっくりと腰を動かした。まず中を慣らす。数回出し入れを繰り返し、窮屈さを感じなくなってから徐々にスピードを上げる。怒張を引き抜くたびに中の液体があふれ出てきて、シーツを濡らした。

「あっ、はぁ、ん」
「わしのものにも、大分慣れたようだのう」
「ん、うん、あっ……!」
「どんどんあふれてくるぞ」

 甘い声を上げるを抱きしめて、伏羲は寝転がった。が伏羲の上にまたがるような状態になった。

「望ちゃん……?」
「おぬし、自分で動いてみよ」
「そ、そんな……恥ずかしいよ……」

 自分から快楽を求めて動くことに抵抗を感じ、首を縦に振らない。伏羲は少しだけ腰を動かして中を擦り上げてやる。は途端に甘い声を出して表情を崩す。伏羲の腰が止まると、切ない顔で見つめてきた。

「あっ……ん、望ちゃん……」
「ほれ、おぬしが動かんと、おぬしもわしも気持ちよくなれんぞ?」

 はなおも抵抗感があるようだったが、伏羲に動く気配がないことを悟ると、ゆっくりと腰を動かし始めた。最初は擦り付けるように前後に動くだけであったが、やがてしゃがむような体勢になり、腰を上下に動かして本格的に肉棒をむさぼり始めた。

「あっ、ああっ、あんっ」
、気持ちいいか?」
「う、んっ、気持ちいいっ……!」

 自分の上で腰を振っているを見上げ、伏羲は笑みを深くした。快楽に溶ける表情、紅潮し汗ばむ肢体、自らの動きで揺れる乳房。そのどれもが伏羲を煽る。の腰をつかむと、の動きに合わせて突く。嬌声が一段と切羽詰まったものになった。

「ひゃあっ……! あっ、あ、ンっ」
「わしもだ。気持ちいいぞ、
「あん、望、ちゃんっ、はあっ……!」

 突き上げられる快楽にの動きが鈍り、腰が震え始めた。極まりそうになっているのだ。伏羲はを再び押し倒し、勢いよく奥までえぐる。深い挿入に、はたまらず伏羲の腕にしがみつく。

「言うことを聞いたいい子には褒美をやらんとな。わしが今イかせてやるぞ」
「あっ! ああっ、はぁっ」
「ここが好きなのか、ん?」

 伏羲が性感帯を狙って突くと、が髪を振り乱して叫んだ。

「だめ、そこ、だめぇっ……!」
「よく締まるのう、おぬしの中は」
「やぁっ、あんっ、伏、羲ぃっ……」

 伏羲は思わず腰を止め、を見た。が今甘く呼んだ名は、確かに伏羲のものだった。こんな不意打ちはさすがに予想してなかった。こみ上げる愛しさに任せて、腰を強く打ちつけた。

「おぬしは本当に……愛いやつよ」
「あん、だめっ、ああっ!」
「わしも、いくぞ」

 が体を震わせた。膣内が絶頂で収縮している間も構わずに突き続け、伏羲は一気に上り詰めた。白濁をすべて出し切り、熱を孕んだ息を長く吐く。腰を引くと、たっぷりと流し込まれたものがあふれてくる。
 はまだ絶頂の余韻から抜け出せておらず、伏羲がの顔や体にくちびるを降らせても、ぼんやりと彼を見つめ返すだけだった。

「ん、望ちゃん……」

 今度は伏羲とは呼ばなかった。先ほどのあれは、情事の熱に浮かされたものだったようだ。伏羲としては残念だったが、行為の最中にしか呼ばれないと思うと、それはそれで特別な感じがした。は狙ってやっているのではないだろうが、なかなかどうして男心をくすぐる。

、わしのことは好きか?」

 伏羲が突然こんなことを口にした。は戸惑いつつも素直に頷く。

「うん、大好き」
「わしとこういうことをするのは嫌か?」

 この質問には、は言葉を詰まらせた。

「う、ううん……嫌じゃない、けど、すごく恥ずかしくて……どうしていいかわからなくなっちゃう……」
「なにをそんなに照れておる。天化に対してこんな状態になったことはないであろう」
「うん……なんていうか、天化に対する好きと、望ちゃんに対する好きは、ちょっと違う……どう違うのか、自分でもはっきりとわからないけど……」

 それはそうだろうなと伏羲は思った。太公望――伏羲と天化とではと築いてきた関係性が違う。最初からを恋愛対象としてアプローチしてきた天化と、十年近く性差を感じさせない接し方をしてきた太公望とでは、差が生まれて当然だ。太公望に対して愛を感じていても、それは親愛という表現のほうがあてはまる感情だ。
 ただ、こんなふうに恥ずかしがっていても受け入れているということは、その親愛も変わりつつあるのではないか。伏羲が促したとはいえ、自分で腰を振ったのだ。その気がなければできない行為をしたということは、心の奥底では家族から恋人へと意識を変えているのだ。
 伏羲を男として認め求めつつも、太公望を家族のように慕う心。そんな複雑なものを抱えたままでは、どうしたらいいのかわからなくなっても無理はない。
 それを責めるつもりはない。それなら、こっちが先にを女として身も心も塗り替えてやるだけだ。
 伏羲は腕枕を作り、の頭がそこに収まるように抱き寄せた。

「まあよい、おぬしが悩む必要はない。わしがおぬしの身も心もモノにすればいいだけだからのう。どうせわしからは逃げられんのだ、じきに攻め落としてやる」
「う……お、お手柔らかにお願いします……」
「ニョホホホ! どうやら体の相性も抜群のようだからのう! あの手この手を使ってじっくりと体に教え込んでやるぞ、
「んもう、えっちなんだから……」

 その後、禁城で甘い日々を過ごしたふたりは、再び世界を放浪する旅へと戻った。
 その数日後、ふたりを探しに来た四不象と武吉が禁城へやってきた。

「御主人たち、なにをしにまた禁城へ寄ったんスか?」

 その問いに、武王も周公旦も邑姜も口を閉ざさざるを得なかった。連日連夜派手にいちゃついていただけ……などと、本気でふたりを心配して探している四不象たちに言えるわけがなかった。



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