伏羲とその後。初夜


 が伏羲と共に放浪の旅に出て三ヶ月が経った。
 仙道のいない平和な人間界を見て回るついでに、ジョカとの最終決戦の影響が人に及んでいないかを確認している。言ってしまえば。ぶらぶらしているだけである。
 この日は、用水も整っているのに作物が育たない村でが土壌を改良していた。こういうときは石灰をまけばいいのだが、あいにくそのようなものはないのでが宝貝を使うことにしたのだ。畑の前で大地に集中すると、土の色がゆっくりと変わっていく。驚く村人たちを尻目に、そっと気配を消して去った。
 一息ついて、村はずれの木の上で寝ている伏羲の元へ向かった。彼の真下には桃の種が数個散らばっている。

「望ちゃん、お待たせ」
「む? もういいのか?」
「うん。行こう」

 伏羲は木から飛び降りると、木陰にをいざなった。が素直に応じて近寄ると、不意にくちびるを奪われた。

「……ん!」
「隙ありだ。かかか」
「んもう……」

 伏羲とともに旅立って以来、キスやくちびるを舐められたり、体に触れられたりするようになった。伏羲を男性として意識し始めてからまだ間もないので慣れず、今も、顔を真っ赤にして伏羲の胸を押してしまった。そんなの反応を伏羲は笑って流しているが、本当のところはどうなのだろう。心を寄せる相手にそんなことをされて喜ぶ人間はいない。
 彼を大切に思う気持ちは以前と変わらないのに。異性を意識させる行為に過剰に反応してしまう自分が嫌になってくる。かといって、以前のような関係にはもう戻れない。
 俯いてしまったを見て、伏羲は小さく息を吐いた。

、そんなに落ち込む必要はない。わしが、おぬしの心の準備が出来るのを待たずに手を出すからいかんのだ」
「望ちゃん……」
「おぬしの気持ちはわかっている。心配せずともよい」
「……うん」

 優しく頭を撫でられ、は目尻を下げて笑った。
 伏羲はさりげなく手を止めて、目線を反らした。可愛い。つい手を出してしまうのは無理もないと自分で思ってしまった。
 伏羲がに思いを告げてから三ヶ月。そろそろ、口づけ以上のこともしたい。ふたり旅の最中、我慢できなくなりそうな瞬間が何度かあった。正直言うと、これから先、衝動を抑えられるかどうか自分でもわからない。思いを寄せる太公望的には待ちたいと思っているのだが、魂魄の三割を占める王天君は理性を保つことを面倒がっている節がある。

(照れておるのか、それとも本気で嫌がっているのか)

 の反応は、まあ当然と言えば当然のものだ。今まで家族のように接してきた伏羲――太公望から突然愛を告白されて、たいそう戸惑っている。三ヶ月経ってキスに応じてくれるものの、舌まで入れるディープなほうはまだダメだった。以前試みた時に突き飛ばされてしまい、それ以来舌は引っ込めている。その時のは、顔を真っ赤にさせて涙目になっていた。その反応が傷つかないといえば嘘になるが、それ以上に愛しく思う気持ちのほうが強い。
 とはいえ、三ヶ月待ってもこの状態だ。一体いつまで待てばいいのか。手を出したくて仕方がない伏羲は、明晰な頭脳を以って策を講じた。

***


「そろそろ行くとするかのう」
「うん」

 が伏羲の背中にしがみつくと、伏羲がふわりと浮いた。移動するときは大体伏羲の背中に乗っている。伏羲が空間移動することはあまりない。

「おぬし、もしや天化に操立てしているのか?」

 風を受けて目を細めているに、伏羲が問うた。唐突な質問だったが、はすぐに質問の意図を察して顔を赤くした。つまり、を抱くタイミングを暗に計っているのだ。

「う……そういうわけじゃない、けど、まだ天化のことは好きだし……」
「わしよりもか?」
「……そんな聞き方しないでよ、いじわる」

 明確な返事をする代わりに、が強くしがみついてきた。そんなこと明言させようなどと、我ながら趣味が悪い。でも、いつかは言ってほしいとも思う。

「すまんすまん」

 伏羲は軽く笑って、朝歌へ向けて飛んだ。朝歌を訪れるのは、旅に出る前に訪問したきりである。
 禁城に着くと、武王と邑姜、周公旦が走ってきた。国のトップが揃いも揃って走ってきては執務に支障はないだろうかと、思わず心配になる。

「太公望、ちゃん! 久しぶりだな!」
「スープーちゃんたちが探してましたよ」
「む……ま、まぁ、あやつらにはそのうち連絡を入れるとしよう」

 あいまいに返事をして茶を濁す。本当は連絡するつもりなど毛頭ない。

「お久しぶりですね。今度は何日ほど滞在されるのですか?」

 周公旦の問いに、からの視線を感じた。なにせ、ここまで来たのは伏羲の一存である。ぽりぽりと頬をかいて、またあいまいに返した。

「うむ……まぁ、一週間ほどかのう」

 かくして、朝歌滞在が決まった。は、久しぶりの布団に目を輝かせていた。伏羲と同室ということも知らずに。

***

 その夜、武王らが宴会を開いた。内輪だけの小さなものだったが、久しぶりの仲間と酒に、は限度を超えて飲んでしまったようだ。
 がつぶれてしまったところでお開きとなり、伏羲はを抱えて与えられた部屋まで戻った。
 計画通りの状況に、自然と口の端が緩んだ。を寝台に寝かせると、手袋をはずし、の服を乱し始めた。
 はすでに夢うつつの状態で、服がはだけられても反応しない。可愛らしい寝顔にキスしたくなったが、我慢した。今は一刻も早く彼女の体を溶かさなければ。
 あらわになった乳房を揉み、その先端を口に含んだ。舌で愛撫し、時折優しく吸ってやれば、すぐに赤く熟れた。もう片方も、同じように舌で転がして硬くさせて指でつぶした。

「……ん、ぁ……」

 が小さく声を上げた。目は閉じられたままなので、起きたわけではなさそうだ。伏羲は引き続き乳首を吸う。今度はもう少し強く吸うと、一層ぷっくりと膨らんだ。
 意識がなくても愛撫に反応する体。できれば恥ずかしがっている顔や感じている様子が見たかったが、それは起きた後のお楽しみだ。
 膨らんだ乳首を甘噛みすると、から甘さを含んだ吐息が漏れた。伏羲が体を起こしてみると、が両脚を動かしているのに気がついた。

「こっちを触ってほしいのか?」

 口の中でつぶやき、左手をの下半身へと滑らせる。太ももから内股にかけてゆっくりと撫でさすり、そっと脚を開かせる。その動きに焦れたように、は自分から脚を開いた。伏羲は顔が緩むのを止められなかった。

「おぬし、こんないやらしい体をしておったのか」

 と出会ってからおよそ十年。その大半はぬるま湯につかっているような家族的な関係だったが、恋情に気が付いてからは欲しさのあまり苦しむことのほうが多かった。日夜想像の中で彼女を抱いていた時に、彼女がこんな体をしていると知ったら。自分はどうしていただろう。狂っていたかもしれない。過去の仮定など無意味だが、そう思わずにいられなかった。
 のズボンを下ろし、下着越しに局部を触ると、そこはしっとりとしていた。割れ目をなぞるように指を動かし、時々一番敏感な箇所を引っかく。伏羲の指が往復するたびには脚を動かした。

「ん、んっ……」

 陰核が膨張し、下着の湿りが増した。下着をずらし、直接指をそこへ入れる。

「ぁ……ん」

 中に指を入れるだけで愛液が滴ってきた。くちゅくちゅと淫らな水音が立ち、の体もうっすらと紅潮してきた。
 そろそろいいだろうと、伏羲はの下着を脱がせた。濡れた秘所があらわになる。伏羲も、沸き上がる熱を感じて服をすべて脱ぎ去った。
 いよいよだ。いよいよ、を自分のものにする。興奮を隠しきれず、の上にのしかかってキスをした。すると、は自分から口を開いて舌を求めてきた。伏羲は迷わず舌をねじ込んだ。の口内で唾液が音を立てて混ざり合う。

……」
「ん、ぁん……え、え……?」

 名を呼んで起こしてやる。は、覚醒してしばらくはなにが起こっているかわからない様子で目を瞬かせていた。やがて、目が暗闇に慣れて、自分の上に乗っているのが伏羲だと気がつくと驚きの声を上げた。

「え……!? 望ちゃん!?」
「そうだよ、

 伏羲は返事をしながら、またの内部に指を入れた。いきなり襲った快感に、は体を反応させながらも困惑しきりだった。

「あっ、や、んっ……や、やだ、望ちゃん、なにこれっ……」
「やだ? こんなに溶けているのにか?」

 愛液を中から掻き出すように指を動かす。ぐっと奥まで指を入れられ、は嬌声を上げた。

「あっ、あ、あぁっ……!」
「気持ちよさそうだのう。そろそろ入れるぞ、

 伏羲は指を抜くと、すばやくの脚を掴んで開かせ、己の怒張を割れ目にねじ込んだ。が声を上げる間もないくらいの早業で、彼女はなすすべなく伏羲を受け入れた。

「あ、ああっ……! 望ちゃ、ぁん」
「はぁ……、おぬしの中にすべて入ったぞ」
「あっ、だめ、だめだよ望ちゃん……!」
「なにがだめなのだ、早速わしを締め付けてきておるぞ」

 伏羲がゆっくりと腰を動かし始める。肉棒の出し入れで愛液があふれてきて、ぐちゅぐちゅと湿った音も立っている。伏羲の動きに合わせて中が収縮している。感じているのは間違いないのに、口だけで抵抗するがひどくいじらしくて、もっと淫らに乱したくなった。

「あっ、はあっ、ぁんっ……!」
「どこが好いところかのう」

 伏羲は出し入れの速度を一旦緩め、の中を探るようにゆっくりと腰を動かした。いろんな角度から中を突いていると、そのゆるゆるとした動きに焦れたが自ら腰を動かした。ほとんど無意識に近いその行動に思わず腰を止める。

「あ、望ちゃん……」
「……ん? どうした、わしに腰を押し付けて。嫌なのではないのか?」
「! 押し付けてなんか、ない……!」
「そうかのう? では、やめるか。そんなに嫌なら仕方ない」

 そう言って腰を引きかけると、は切なげな顔で伏羲の腕をつかんだ。余裕の笑みを崩さずに見つめ返すだけでなにも言わずにいると、が泣きそうに顔を歪めた。
 いきなり伏羲と交わることになって心がついていかないのに、一旦燃え上がった体は自分だけではどうしようもない。伏羲という男を体が求めていることに、自身が一番戸惑っているのだ。
 は伏羲を見つめて口を開閉させていたが、伏羲が見つめるだけでなにもしてこないことを悟り、羞恥で顔を赤くしながら言った。

「ち、ちがう……望ちゃん……ゃ、だ、やめないで……」
「ほう?」
「や、じゃない、嫌じゃないから……だから……」
「だから?」
「……っ、だから、続き、して、望ちゃん……」

 の切ない声を聞いて、一気に体の熱が上がった。少々ずるい手を使った気がするが、そんなことはどうでもいい。最終的にから行為の了承を得たのだから、あとはこっちのものだ。

「いいぞ、。おぬしもようやくその気になったか」
「あっ、うぁっ、はあっ」

 が切ない声を上げてねだるように腰を動かすと、伏羲のモノが性感帯を突いた。大きく跳ねた体と甘い声に、伏羲はにやりと笑った。そこを集中的に突いてやると、が一気に乱れた。

「あっ、あっ、だめっ」
「ここがいいのか、ん?」
「あんっ、気持ちいいっ、あうっ、だめぇ……!」
「おぬしはだめばっかりだのう」

 伏羲は一旦体を離すと、を四つん這いにさせて後ろからの体勢でもう一度挿入した。より奥深くまで入った剛直に、の声がますます高くなる。

「あぁっ! 望ちゃ、ん、ぅあっ」
「後ろからが好きなのか? いいぞ、思う存分突いてやるとするかのう」

 と言いつつ、彼女の性感帯の把握が最優先なので、また探るように腰を動かす。後ろからの体制が一番感じるらしいは、そんな動きでも強く感じてしまい、やがて体を支え切れなくなって肘を折った。

「あっ、はぁっ、」
「ここの辺りか? ほれ、ほれ」
「あぅっ、ああっ」
「やはりな。おぬしの好いところは大体わかったぞ」
「あんっ、ひ、あっ、だめぇ……」
「おお、締まる。たまらんのう、おぬしの体は」

 伏羲は締まる中を、性感帯めがけて集中的に突いた。感じやすい体制で激しく責め立てられたは、一気に絶頂へと駆け上がった。

「ああっ、あうっ、望ちゃ、イ、くぅ……!」
「気をやったか、。わしはもう少しだ」

 が絶頂の波に耐えている間も、伏羲は容赦なく腰を動かす。緩急をつけて律動し、しつこくを責める。過度の快感には髪を振り乱して叫んだ。

「あんっ、も、だめえっ、望ちゃ、ああっ!」
「はあ、可愛いのうおぬしは……」

 夢にまで見た光景だ。恋い焦がれていたを、この手で抱いている。伏羲の名を呼びながら快楽に乱れている。気が付いた時には別の男のものになっていたが、今は伏羲を受け入れている。これが興奮せずにいられようか。
 伏羲は腰を引き、再びを仰向けにする。脚をつかんで挿入すると、腰を高く持ち上げた。挿入部分がに見えるような体勢だ。目の前に晒されたいやらしい光景に、は釘付けになった。快楽で溶けながら自分の股間を見つめている。

「見えるか? わしと、ひとつになっておるぞ」
「あっ、やだ、恥ずかしい、よ……」
「どうだ、わしのものになった気分は? 気持ちいいか?」
「ふ、あんっ、気持ち、いいっ……!」
「いい子だ」

 その返答に満足した伏羲はの腰を下ろした。恥ずかしがる顔も見れたことだし、そろそろ果ててを解放してやるか。そう思い彼女の脚を自分の肩にかけると、律動のスピードを上げた。ぶつかり合った肌が、ぱんぱんと鳴った。

「わしも、そろそろいくぞ」
「あっ、ああっ、望、ちゃんっ……!」
っ……は、っ……!」
「んっ、あっ、ああぁっ!」

 伏羲がの中で果てると、も一段と高い声を上げて達した。彼女の体の上に覆いかぶさって、の中に放ったものが広がっていくのを感じ、得も言われぬ満足感を覚えた。が本当に自分のものになったと実感できた。
 伏羲が息を整えて上体を起こすと、が涙目で伏羲をにらんできた。
 可愛い。いや、そうではなく。これはさすがに怒っているようだ。

、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ、もう……ばか、望ちゃんのばか……!」
「す、すまぬ、我慢の限界でのう……」
「禁城に来たのもこのためだったんだね」
「うむ、初めての夜が野外ではさすがにかわいそうかと」
「もう、このエロじじい! ばかぁ!」

 伏羲のあけすけな言葉をさえぎるようにが非難した。それでも伏羲から離れようとしない。離れようとしなくなった。一度受け入れてしまって、色々と諦めがついたのかもしれない。

「すまぬ、嫌だったか?」
「……そ、そういうわけじゃない、けど、恥ずかしくて死にそう……」
「そうかそうか、すまぬ。今度からはちゃんとおぬしが起きているときに襲うとしようかのう」

 伏羲が茶化すと、は遠慮なく大きなため息をついた。やはり色々と諦めたようだ。伏羲はがたまらなく愛しくなって、再び強く抱きしめた。

「……もう、なんか、怒ってるのが馬鹿らしくなってきちゃった。に、二回もいっちゃったし……」
「ニョホホホホたいそう感じておったのう? そんなにわしのがよかったか、ん〜?」
「や、やだ、恥ずかしいよ、望ちゃん……」
「ほれほれ、早く言わんとここをこうしてしまうぞ」
「あっ、やだ、そこは……! んもう、望ちゃんのえっち」
「ニョホホホホ可愛いのう、可愛いのう」

 乳繰り合いで夜は更けていく。
 この後一週間、甘い夜が続くことになる。



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