慕情、湯けむり、肌の色

※2018年8月19日発行の弓ギルぐだ♀アンソロ寄稿分の再録


(なんで、どうして、なぜこんな状況に)

 藤丸は混乱していた。
 日本の片田舎にできた微小特異点。そこにそびえ立っていた塔に昇るために巴御前が用意してくれた温泉とは別に、こっそりと設えられた温泉。ひとりで入りたい人のためのものだ。
そこに入ろうとしたが見たものとは、機嫌の悪さを隠しもしない黄金の王――アーチャー・ギルガメッシュ。
彼は岩場に片腕を預けながらゆったりと温泉につかっている。普段逆立っている金髪は、今は下りている。水分で透き通った毛先から重力に負けた水滴が落ち、完璧なラインを描く王の白い鎖骨に流れた。
 水滴が流れるさまさえ艶を帯びる、黄金律の美しさ。ずっと見惚れていたかったが、こんな状況を作り出した原因について、は考えなければならなかった。
原因は、おそらく数日前の巴とのやり取りだ。それしか心当たりがないのだ。

 ***

「なんていうか、よくわからないんだよね」

 ある日のカルデア、レクリエーションルーム。モニターの画面をぼんやりと見つめながら、カルデアのマスターであるはつぶやいた。隣で正座してコントローラーを握っていたサーヴァント――マイルーム担当である巴御前は、を横目で見やった。

「わからないとは、一体なんのことでございましょう。マスターはこのげぇむをすでにモノにされていたと思っておりましたが」
「うんそうだね、慣れてきたよおかげさまで。じゃなくて」

 脱線しかけた話を軌道修正する。本当にこの巴という少女、ゲームに目がない。

「その……よくわからないっていうか、つかめないひとがいて」
「ひと? 職員か、それともサーヴァントでございますか?」
「……サーヴァント」

 少々ためらいつつもサーヴァントと言い切ったを見て、巴は珍しいこともあるものだと思った。このマスターは、どんなタイプのサーヴァントでも受け入れてしまうという奇特な性分である。鬼の角を持つ巴の姿を見ても怖がらず、そのままそばに置いている。このマスターによくわからないと言わしめるサーヴァントとは、一体誰なのだろう。巴はにわかに興味が湧いた。

「それは、どなたなのですか」
「……アーチャーのギルガメッシュ王」

 の口から出てきた名に、巴は納得の息を吐いた。

「なんていうか、王様だし気まぐれだし言葉も態度も厳しいのはわかるんだけど、それで止まってるというか。でも、キャスターの王様にはよくわからないなんて思わないんだよね。そっちの王様には第七特異点で慣れたのかもしれないけど」
「クラスで性格が違うのですか?」
「うーん……実は、それもよくわからない……」
「なるほど。そういう、よくわからないという気持ちがもやもやするのですね、マスターは」
「そう、なんだと思う。王様相手に仲良くなんて不敬だぞとか言われちゃって無理かもしれないけど、もう少し」

 そこで、は口ごもった。次の句を言おうとして、自分の中で的を射る言葉が見つからないようなもどかしい表情をした後、やっと絞り出すようにして言葉を紡いだ。

「……もう少し、王様のことが知りたい」

 そう、知りたい。このカルデアに召喚されてから、恐る恐る接してきた。あまりの強さに、すぐにパーティの常連になった。しかし、そこから数ケ月経とうと、そこで終わり。仲良くなる以前に、わからないのだ。
 仲良くするのは無理かもしれないけれど、かの王を知ることは、立場も生まれた時代も生きてきた環境も違うにだってできるはずだ。そのために、カルデアの図書室にある彼の英雄譚を読んだりもしたが、それはあくまで本の中。実際このカルデアにいる王と直接話して、直接彼のことが知りたい。
 あわよくば、少しでも距離が縮めばいいな、などと。
 巴が画面から目を離して主人の顔を見ると、これまた珍しく戸惑った顔をしていた。自分の中の感情を図りかねているような。そんな、年頃の少女のような顔をしていたものだから、ついコントローラーの手を止めて見入ってしまった。

「……確かに、相手を知るということは大事ですね。巴も微力ながらマスターのお力添えをいたします」
「え、いや、そんな改まって手伝ってもらうようなことでもないんだけど……そんな場面もないだろうし」
「ですから、その機会があった時にこの巴が背中を押して差し上げます。この巴にお任せくださいませ!」
「う、うん、ありがとう……?」

 豊かな胸を張る巴に少々気圧されつつ、礼を口にした。その心遣いはありがたいが、そんな機会は本当に訪れるのだろうか。そして、なぜ巴はそんなに張り切っているのだろう。

(ま、いっか)

 今すぐ聞き出さなければならないものでもないし、後で聞けばいい。そう思い、そこで深く考えることをやめたのだ。

 ***

 あれから間もなく微小特異点が見つかったので、その話をすっかり失念していた。自分が英雄王のことで思い煩っていたことも、それを鬼の少女に相談したことも。
 塔に登っていると、サーヴァントはただならぬ疲労を感じ、一度戦うとしばらく休まなければならない。マスターであるはそれほどでもないが、そこは人間、登った分の疲労は蓄積されていく。
 巴が疲労回復の温泉を設えてくれたのはいいものの、疲れている時に、清姫などの熱烈な愛情表現をしてくるサーヴァントがいる湯船に入っていくのは躊躇われた。余計に疲れる展開が目に見えている。疲れを癒すために温泉に入るのに、心身ともに疲れる気がする。しかし温泉には入りたい。彼女らが上がるのを待つか、温泉を我慢するか。

「それでは、こちらへ、マスター」

 唸っていたの手を、巴がこっそりと引いた。みんなが入っている大きな温泉とは少し離れた場所にある、ひっそりとした温泉に案内される。こぢんまりとしていて、その存在を隠すようにして竹林が生い茂っている。

「実は、おひとりで入りたい方のために作っておいたのです。今は誰もいないので、マスターがお使いください」
「え、いいの?」
「はい。ゆっくりと疲れを取ってくださいまし」

 と言って、巴は花が咲くような笑みを浮かべた。はその笑顔にありがとう、と礼を言って、天然の衝立になっている竹藪の傍らで服を脱いだ。
 ――そして、冒頭に至る。
 その時は、本当に誰もいないのだと安心しきっていた。巴は生真面目で嘘をつかない。そんな彼女が言うなら、と。その結果がこれである。

「いつまで呆けている、雑種」 

 先程あったことを回想しているの耳を、低い声が打った。声の主はの全身をじろりと見て、湿気で重く垂れる前髪をかき上げた。

「我に見惚れるのは抗いようもないだろうが、いつまで突っ立っているつもりだ。我の許可なく立ち入ってきた不敬、本来ならば首を落としているところだが。今はそれすら億劫ゆえ、今回は特に許す」
「あ、あああっ!?」

 は今、全裸である。温泉マナーとして手ぬぐいは持っていたが、誰もいないだろうと文字通り手に持っていただけだった。なにも隠せてない体が赤い双眸に晒されていた。

「そっ、そういうことは早く言ってください!」

 慌てて、飛沫を上げて湯につかる。といってもこの湯は無色透明、浸かったところで完全には隠せない。視線から逃れるように、お湯の中で手ぬぐいを体の前に広げた。
 男性経験ゼロの身でいきなり素っ裸の男の前に放り出され、は混乱していた。なぜ湯に浸かってしまったのか。引き返せばよかったものを。
 やってしまった。すぐに上がりたいが、温泉に浸かったことで疲労が一気に出てきたようで、体が重い。尻に根が生えてしまったかのように、腰が持ち上がらない。
 恥ずかしくて逸らしていた視線を、こっそりギルガメッシュに向ける。
 透明な湯の中にあるギルガメッシュの体は、なににも覆われていなかった。長い両脚はリラックスしたように伸ばされ、上体を縁石に預けて片腕を乗せている。股間はおそらくむき出しである。彼の手ぬぐいらしきものは近くには見当たらない。
 とギルガメッシュの間には無色透明な湯と、が持っている薄い手ぬぐいだけ。それしか、裸体を隠すものがない。
 ふたりほどが足を伸ばして入るのが精いっぱいの広さの湯船に、全裸のとギルガメッシュ。状況を改めて認識してしまったの頬が熱くなった。ともすれば黄金律の裸身を視界に収めてしまうので、自然と隣り合うポジションを取ってしまったのだが、それはそれで彼と物理的に距離が近い。

(どうしよう……ちょっと動けば、触れるくらいの距離に王様がいる……で、でも、動けない……!)

 裸を見るか、触れられるほどの距離にいるか。どちらにしても、色々な意味でつらい状況だった。
 隣の男は、の狼狽ぶりにも我関せずといった様子で物憂げなため息をついた。

「わめくな。我は疲れているのだ」
「はあ……」
「どこぞの凡愚が素材回収などとほざき、王たる我をあちこち引っ張り回す上、この塔にも駆り出す故な」
「あー……それって、もしかしなくとも私のせいだと」
「凡愚にしては察しがよいではないか」
「う、ご、ごめんなさい……でも、王様強いから、つい……」

 の言葉に、当然だと言いたげに王は鼻を鳴らす。尊大な態度に反感を覚えようがないほど、この金色の男は強い。彼自身の性能も宝具もピカイチである。

「王様がふたりいれば、交代制みたいにできるんですけど」
「貴様……我をなんだと思っているのだ、王を周回要員のように扱うとは不敬にも程があろう」
「あーーいやいや違います違います、ただ単純に、交代制だと王様がそんなに疲れないんじゃないかと思って」

 鼻白む英雄王に、ぶんぶん首を振って否定する。首の動きで毛先についた水滴が舞った。その必死な様子に呆れたのか、それとも疲労で怒りが継続しないのか、ギルガメッシュはもう一度鼻を鳴らして目を閉じた。
 ギルガメッシュを見ていて、ひとつ疑問が浮かんできた。少し前に、茨木童子に付き合ってウルクを訪ねた時のことを思い出したのだ。そこで会ったギルガメッシュは、途中でキャスターからアーチャーにクラスを変えていた。その時は王様だからそういうこともできるんだ、で納得していたが、よく考えるとどういう理屈なのかさっぱりわからない。というか、それができるのならとんでもなく便利なのだが。

「あの、キャスターの王様って服を着替えたらアーチャーにはならないんですか? 以前にウルクに行った時は、興が乗ったって言ってキャスターからアーチャーに変わってたんですけど」
「……なにを言い出すかと思えば。貴様は本当に魔術師の端くれか。サーヴァントの身であれば、服を着替えただけでクラスを変えられる能力はない。その我はサーヴァントだったのか」
「えっと、それがよくわからなくて。じゃあ、カルデアにいるキャスターの王様はアーチャーの王様とは違うってことですか」
「何度も言わせるな。サーヴァントとは召喚ごとに同一人物の別人だ。同じ英雄王であるが、召喚されたクラスはクラスだ」
「なるほど……」

 疲れていて不機嫌な割にはよく喋ってくれる。要するに、あのウルクの王様は特殊な事例ということだ。そして、あれが例外ということは。

「王様は今まで通り、出ずっぱりということに……」
「おのれぇ……この我をこき使いおって……!」
「わーーこんなところで怒らないでください……! 私にできることならなんでもしますから!」

 こんな、お互いに全裸で、みんなとは離れている温泉に入っているという状況で、ギルガメッシュが怒ればどうなるのか。騒ぎを聞きつけてやってきたほかのサーヴァントになんと思われるか。それらの考えが、に失言させてしまった。

「ハッ、貴様程度にしてもらうことなぞ……いや、待て……」

 鼻で笑い飛ばそうとして、不意に眉をひそめたギルガメッシュ。なにやら思案げにの体をじろじろと見てくる。不躾な視線から逃れるように手ぬぐいを引き寄せたは、怪訝な視線を返す。やがて、王は口元を緩めてこう言った。

「我を癒したければ、貴様がその身をもって癒すがよい」
「え……っと、それってどういう……?」
「察しの悪い雑種め。貴様の魔力を我に捧げよと言っている」
「はあ、……って、それって、まさか……」

 魔力を寄越せ。魔力をサーヴァントに渡す。魔力供給。方法は様々あるが、ができる魔力供給の方法といえば、ひとつしかない。体液を介する魔力供給だ。

「えっ、あの、そんなの本気で、ん、んっ……!?」

 戸惑いの声は、ふたりのくちびるの間に消えた。ギルガメッシュが長い腕をの肩に回して体を引き寄せ、あっという間にの口に自分のそれをかぶせたのだ。キスを覚悟する間も、目を閉じる暇さえなかった。

「ん、ふ、ぅ……!」

 のくちびるの柔らかさを楽しむように食むギルガメッシュ。熱いくちびるを押し付けられている。は彼の体を押すが、体に回されたたくましい腕は力強く、ギルガメッシュの体はびくともしなかった。ちゅ、ちゅ、と吸い付いた後は、準備期間は終わりだと言うかのように、ぺろりとのくちびるを舐める。そして、くちびるの隙間から舌を侵入させてきた。

「はっ、ぁ、ん」

 右手での顎を掴んで固定すると、ぐっと口を押し付けて口内の奥まで舌を入れてくる。キスも、舌を入れられることさえも初めてのにとっては、なにもかもが急すぎた。くちびるから伝わってくる微熱、そして口の中をかき混ぜる自分以外のぬめった舌。心でそれを理解した時には、すっかり口の中を彼の唾液が満たしていた。息苦しさから解放されたくてそれを飲み込むと、一旦くちびるが解放された。
 粘性を持った唾液が舌から垂れ、ギルガメッシュの整ったくちびるに張り付いた。赤い舌がもう一度出てきて、くちびるを汚したものを拭き取る。酸欠でぼんやりするの頭でも、その光景がとてつもなく淫靡なものだということがわかった。
 透き通った赤い目が、をとらえている。魅了されたかのように、その赤から目を離せない。赤に落ちるまつ毛の影、赤の中に走る濃いクレバスのような瞳孔がはっきりとわかるくらいに、近くに英雄王がいる。
 視線を合わせたまま、もう一度くちびるが重なった。まつ毛が触れてしまうような距離。動き回る舌が熱い。今度は、離れ際にきつく舌を吸われた。

「ふ、うぅ……!」

 直後に、全身をなんともいえない倦怠感が襲った。とっさに目の前の体躯にしがみつくと、いつの間にか腰に回されたギルガメッシュの左手が、の体を支えた。

「い、まの、」
「魔力を少々吸っただけだ。つまみ食いだけで腰を抜かすとは、貴様、本当に魔力のやり取りをしたことがないらしいな」

 揶揄するような低い声が耳元に吹き込まれる。今のはやはり、魔力を持っていかれたのか。舌を吸われて痺れるような感覚がまだ残っているから、それのせいかと思ってしまった。

「口吸いのせいではない。まあ、処女には少々刺激が強すぎたかもしれんが」
「な……!? なんで知って」
「これだけで目を白黒させている女が、男を知っているものか」

 喉を鳴らして笑う声に、体が熱くなった。思考を見透かされていたこともそうだが、処女ということを見抜かれ、キスひとつで翻弄されたことが、恥ずかしかった。
 赤くなったにまたキスが降ってきて、唾液を交換する。唾液から伝わってくるギルガメッシュの魔力は、華やかで、濃い。飲み込むと頭がぼうっとして、そして魔力を少し吸われる。唾液のやり取りで魔力を交換し合う形になる。

「よいぞ。魔力をつまみつつ、貴様の体に男の味を教えてやる」
「え、……や、なに言って」
「まったく好みではないと思っていたが、なかなかどうして、手を出してみればそそる顔をする。くちびるも肌も柔らかいではないか、なあ?」
「ひゃ、ぁっ」

 左腕一本で腰を捕えられてしまい、いかに胸板を押そうと拘束が緩む気配はない。キスのせいか、湯の熱のせいか、腕に力が入らない。それをいいことに、ギルガメッシュは右手で胸元に貼り付いていた手ぬぐいを取り去って後方に放る。無防備になった白い胸を手の中に収め、柔らかさと弾力を楽しむように揉み始めた。同時に、顎の下から首筋、胸元を舐め、肌のきめ細かさを味わっている。指先が胸に食い込むたび、舌が肌を滑るたびに、微細な電流のようなものが体の中に走る。

「あっ、や、王様……!」
「なかなか敏感ではないか。もうこんなに硬くしおって」
「ひゃ、あん、そこ、ダメっ……!」

 揉んでいた胸の頂上が、硬くなってピンと立っていた。そこを親指で押し潰されると、また電流が走った。さらにコリコリと親指で弄ばれ、体がびくびくと揺れた。白い首筋が紅潮し始めているのを見たギルガメッシュは、楽しそうに目を細めた。
 粒のようになった乳首を口に含んだギルガメッシュは、の羞恥心を煽るように、わざとはしたない音を立てた。ちゅぱ、ぢゅう、と吸って、れろれろと舌で嬲る。

「や、あっ、だめ、だめぇっ」

 と言いつつ、はギルガメッシュが自分の乳首を吸っている光景から目が離せなかった。刺激を与えられるたびに、電流のようなものが腰を、下腹部をキュンキュンとさせる。時折赤い目をこちらに向けて、の反応を見ている。の体も心も、この男に翻弄されて、支配されていくような、そんな錯覚に陥る。

「甘い声を出すようになってきたな、雑種。胸をいじられるのが相当好きと見える」
「やぁ、ん……そんなの、わからない、あっ」
「そうか。ではわかるまでいじってやらなくてはな」
「あっ、あ、ンっ、だめ、へんになっちゃう」
「変になる、か。それは気持ちいいということだ。男に欲望のまま胸をいじられて感じているのだ、貴様は」
「感じて、る……?」
「そうだ。男にいじられなくともここまではしたなく育ったのだ、無理もない。ここを好きにしてほしくて仕方ないのだろう」
「そん、な……! ちが、あうっ」
「ではこれはなんだ、ん? 処女のくせにこのように乳首を立たせおって……!」

 もう腰を掴んでなくともが逃げないと悟ったギルガメッシュは、両手での乳房を鷲掴みにした。ギルガメッシュの手の動きに従って、形を変える自分の胸。代わる代わる舐め回されて唾液で濡れる両方の乳首。それらを見て、の体は興奮していた。背後の縁石に体を預けても痛みを感じないほど、興奮で頭と体がどうにかなりそうだった。
 初めての性感に酔いしれるを見て、ギルガメッシュの右手がそろそろと下腹部へと迫る。誰の手も触れたことのない花園は、湯ではないヌルヌルとした粘液が覆っていた。

「ひゃっ!? な、に、王様……?」

 いきなり秘所を触られ、強ばるの体。頬どころか首筋、胸元に至るまで紅潮している。興奮と湯の熱さもあって、心臓はばくばくとうるさく脈打っていた。
 ギルガメッシュはの体を支えて立ち上がり、ひときわ大きい縁の岩が背もたれになるように、縁石にを座らせた。ひんやりとした外気と岩の感触が、茹だった体に気持ちいい。ふう、と一息ついていると、そんな暇すら与えないと言うようにギルガメッシュがの脚を開かせ、再び秘所を弄り出した。

「や、そんなとこだめっ、」
「なにを言っている、ここが肝心なところだぞ。そら、濡れているぞ、貴様のここは」

 ギルガメッシュが茂みをかき分け、突起から割れ目までを晒すと、そこにはの中から分泌された愛液が光っていた。まじまじと恥ずかしいところを見られ、の頬に朱が散った。

「やだ、そんなとこ見ないで、あっ」
「なんと淫らな女よ。胸への愛撫だけで外に垂れるまで濡らすとは。もしや、経験済みであったか?」
「ちが、ちがう」
「淫乱を否定しているのか、それとも経験済みをか?」
「あぅっ、そこ、やあっ」

 割れ目の上部の突起をクリクリと押され、今までで一番強い刺激がを襲った。ギルガメッシュの言葉を否定したいのに、そこをいじられては甘い声を出すことしかできない。そんなの様子を、男はニヤニヤと笑いながら見ている。翻弄されるを楽しんでいるのだ。

「ち、がう……わたし、えっちなんかじゃ、ない」
「ほう? では、誰ぞと寝たことがあるか」
「ちがう……こんなの、はじめてなの、はじめてなのに、気持ちよくて、ひゃん、からだ、えっちになっちゃう……!」

 だって、こんなの、ギルガメッシュにしか許さないのに――彼だから、こんなに。

(あ……)

 唐突に理解した。そこまで言われて、考えて、やっと。

(そうか……私、王様のことが好きなんだ)

 好きだから、知りたくなった。好きだから近づきたかった。
 好きだから、触れられるとこんなに気持ちがいい。――胸がうるさいほど脈打って、苦しくなる。

「なんだ、つきものが取れたような顔をしおって」

 ギルガメッシュがの顔を見上げて言った。確かに、胸がすっきりしたような気がする。

「王様、私」
「ふん、どのような変化が起きたのか、貴様の顔を見れば察しがつく。言わずともよい。そのような言葉、無粋であろう」
「王様……」
「今はただ我に酔わされていればいい。貴様に求めることはひとつ、気持ちいいならば気持ちいいと、痛むなら正直に言え」
「あ、ああっ……!」

 そう言い放ったギルガメッシュは、の両脚を抱えて開かせると、性感で勃起した突起を舐め始めた。指で押し潰されるよりも、ざらざらとした舌で撫でられることのほうが、には耐え難い快楽だった。腰を引こうとしてもそれをギルガメッシュが許すはずがなく、より激しくそこを舐めしゃぶられる。

「あっ、ああっ! おう、さまぁっ……!」
「気持ちいいか、雑種」
「きもち、いいっ、あっ、はあっ、きもちいいっ」
「あまり大声を出すと、あの鬼の娘に気づかれてしまうぞ」
「ひゃうっ、だって、こんなの、ああっ」
「どれ、中はどうなっているか。ふむ、よく濡れているが、狭いな。少々解すか」

 花芯を舐めながら、ギルガメッシュがおもむろに指を一本、の中に入れてきた。温かいの膣内を楽しむように指を動かした後、中を慣らし始めた。中をぐにぐにと押されたり広げられたりするのは、一言で言うと変な感じだ。気持ちいいことなのか、よくわからなかった。
 指の大きさに入り口が慣れてきた頃、もう一本入ってきた。それをまたゆっくりと出したり入れたり、中を探ったり。二本で慣れてきたら、三本目を入れて、また同じようなことを繰り返す。その間も突起への愛撫は止まず、は性感と中の異物感に声をあげ続けた。
 中をぐるりと指が回転すると、ぞくりとした電流が走った。

「あっ……! や、っあ!」
「ふむ、少し右か?」

 が反応したところを探し当てようと、内部を押される。少し右側にずれたところを押されると、おのずと高い声が口から出てきた。ぎゅうっと中が狭まるような感じがして、下肢全体に電流が走ったようになって、勝手に足がはね動いた。

「ここか」
「ひゃ、ああっ……! まって、あうっ……!」

 そこを指で突きながら花芯を嬲られ、は強すぎる快感に目を白黒させた。なにを言ってもギルガメッシュはやめてくれなかった。強烈な責めからは逃れられなかった。
 やがて、限界を迎えたの性器は、高みへと昇る。

「なん、なに、いや、へんになる、やだあっ」
「変になるのではない。そら、我慢せずイけ!」
「や、あ、あああっ……!」

 声にならない叫びを上げて、の体は果てた。一体、なにが起こっているのか。声が出なくなって、視界が白んだかと思うと、下腹部がぎゅーっと痙攣していた。全身が心臓になったのではないかと思うほど脈動が大きく感じられ、下腹部はがくがくと痙攣している。ギルガメッシュの大きな手が支えていなければ、湯船にずり落ちていたことだろう。

(これが、イくってこと……?)

 息が荒い。一気に体が重くなった一方で、頭の中はふわふわとしていて、上手く思考できない。ただ、ついさっき好意を持っていると自覚した相手に性器をほじくられたということだけはわかる。少々肌寒い外気に晒されているにもかかわらず、体を暴かれた羞恥と絶頂によって、の肌は赤く染まっていた。
 息を整えている最中、ギルガメッシュの指が愛液を割れ目に擦り付けていた。くすぐったさに身をよじろうとしたが、絶頂の後でうまく体に力が入らなかった。霞がかったように頭がおぼろで、くちゅくちゅ、と粘着質な音が自分の股の間から立っているのが、どこか他人事のように感じられた。
 の息があらかた整うと、ギルガメッシュが立ち上がった。ちょうどの目の前に、ギルガメッシュの腰がある。湯に隠れていた下腹部のそれは、膨れ上がって腹につかんばかりに反り返っていた。赤黒く充血して、凶悪なまでに体積を増したそのたくましい性器から、なぜだか目が離せなくなった。見るのは恥ずかしいと思っているのに、それを視界に収めると胸がどきどきして、つい視線を向けてしまう。そんな少女をギルガメッシュがおかしそうに笑いながら、の額に張り付いた髪をかき分けた。

「どうした、男のモノを見るのは初めてか」
「え、う、初めてじゃ、ないけど……でも、こんなになってるのは、初めて……」
「熱く見つめおって。やはり貴様は淫らな女よ、
「――!」

 ギルガメッシュがの名前を呼ぶのは、これが初めてだった。雑種とか凡愚とか罵倒する語彙で呼ばれることはあったが。
 思わずギルガメッシュを見上げると、意地の悪い笑みを浮かべていた。こんなことで動揺するを笑っているのかもしれない。そんな笑みさえ、今は艶を含んでいる。

「情交の時は名を呼び合うものだろう。許す、我の名を口にしてもよいぞ」
「ぎ、ギルガメッシュ王……?」
「まあ、それでもよいが。男と女の関係だと言っていよう」
「……ギルガメッシュ」

 王の名前だけを口に乗せると、彼は満足そうに頷いた。それからの手を引いて立たせると、自分は縁石に腰かけた。

「ここでは交わるのもままならん。我の上に乗るがいい」
「え……こ、こう? やだ、恥ずかしい……」

 ギルガメッシュの手が導くままに、彼と向かい合わせになるような形で腰を合わせる。の入り口に、そそり立った硬い肉の感触。指とは違った大きさに、こんな大きなものが入るのだろうかと恐怖を覚えた。

「案ずるな、貴様は我のことだけ見ていればよい。我のことだけを考えろ、
「――っ、あ、うあぁっ……!」

 入り口を何度か先端で撫でた後、ギルガメッシュはの腰を落とした。あれだけ慣らしていたのに、身を裂かれるような痛みが走る。痛みにおののくをなだめるように、細かいキスがくちびるや頬に降ってくる。その心遣いが嬉しくて、はギルガメッシュの背にしがみついた。いいよ、と小さくつぶやいた瞬間、怒張が一気に入ってきた。痛みに慣らすように小刻みに腰を動かしながら、ギルガメッシュは内部の狭さを堪能する。

「痛むか、
「うう……い、いたい……」
「そうか。だが、それは今だけだ。男に慣れぬ若い肢体も、色恋に惑う青い心も、今だけだ。痛みもろとも存分に楽しめ」
「そんなこと、言ったって……!」
「そのうちよくなる。痛みなど感じぬほどにな」

 そう言って、ギルガメッシュは小刻みに中を突き続ける。そうしているうちに、だんだんとの内部がギルガメッシュの大きさに慣れ、痛みが麻痺してくる。の声が甘みを帯びてきたことに気づいた男は、腰の動きを激しくした。

「あっ、あっ、なんか、へん、あン、おくが、じんじんする……!」

 ギルガメッシュはそのまま中を、緩急を変え、角度を変えて突き続けた。の腰に力が入らなくなろうと、の腰を両手でつかんで固定し、好き勝手に楔を打ち込んだ。
 どれほど中を突き上げられたのか、わからなくなってきた頃。ギルガメッシュの息も上がり、耳元が赤く染まっていた。の肢体を打ち付ける音が、パン、パン、と響いていた。

「はあっ……そろそろ、種をくれてやるぞ、
「あっ、あっ、ぎる、ギルガメッシュ、あ、あああっ……!」

 もうほとんど力が入らない両腕でギルガメッシュの肩にしがみつくと、彼もの腰をきつく抱きしめて息を詰めた。じわりと内部になにかが広がるような感触がする。ふたりとも、すっかり息を乱していた。肌の色も、全身に赤が広がっている。
 次の瞬間、急にひどい倦怠感が降りてきた。

「カルデアの魔力にも飽きた。これからは我の求めに応じて貴様の魔力を寄越せよ、

 意識を失う前に、耳に吹き込まれた声。それになんと応えたのか、は覚えていない。倦怠感の正体――高まった直後に魔力を根こそぎ奪われたのだと気づいたのは、次に目覚めてからだった。

 ***

「巴!」
「マスター。もうお体の具合はよろしいのですか」
「あ、それはもう大丈夫。……じゃなくて!」

 の言わんとしていることに察しがついているのか、巴はの怒った顔にも動じなかった。どこか満足げな笑みを浮かべてを見つめている。

「巴、どうして、あ、あんな、王様と」
「どうしてと言われましても。男女が仲を深めるには、肌を重ねるのが一番でございましょう」
「か、確信犯だった……!」
「だってマスター、恋をしているお顔でした」

 振り上げたこぶしの行き場を失って、はそろそろと手を下ろした。
 恋。確かに、巴の言う通り、ギルガメッシュに恋をしていた。自分でもわからぬままに、恋い焦がれていた。知りたい、近づきたいと。その心は、レクリエーションルームで相談した際に、すでに見破られていたのだろう。そう思うと、なんだか恥ずかしいような気がした。

「マスター。巴のしたことは、余計なことでしたか?」

 そう、無垢な赤い瞳を向けられて、は考えるまでもなく、首を横に振った。
 背中を押すどころか、背中を蹴り飛ばされたといってもいいほどのお膳立てではあったが、悪いものではなかった。自分の心に気が付いたのも、英雄王と――サーヴァントと情を交わしたのも、良いことなのか悪いことなのか、にはわからなかった。けれど、巴に相談した時のようなモヤモヤをずっと抱えて、どうすればいいのかと途方に暮れているよりはマシだった。

「そんなことない、余計なことなんかじゃないよ」
「よかった。今後も、巴が応援しておりますよ」
「う、いや、今回みたいなことは、もういいから……」
「でも、なにごとも節度ですよ、マスター。かの王とあまり遊ばれてはいけません。まだ年若い身なのですから」

 それは、けしかけた側が言うセリフなのだろうか。だが、確かにギルガメッシュのような男にハマりすぎるのはよくないだろう。素直に頷いておいた。
 もっとも、そう思いつつも、溺れていく心と体を自戒できるかどうかは、また別の話だが。



 ギルガメッシュが名前を呼ぶときは、魔力供給をするという合図だった。こんなふうに合図をしてくれることもあれば、なんの予告もなく勝手に部屋にやってくることもある。
 体を抱き寄せられた。近づいてくる王の口元を手で遮ると、キスを邪魔された王の柳眉が不機嫌に寄った。

「む、拒む気か」
「いや、もうそういうのはちょっと……」
「まだ魔力供給の性行為に抵抗を持っているのか。魔術師とサーヴァントの性行為に意味などないと、何度言えばわかる」
「だって、そう簡単に割り切れないですよ。こ、こういうことは、好きな人とするものだって思って生きてきたんだから」
「ならばなんの問題もあるまい。貴様は我に惚れているのだからな。そうであろう?」

 やはりばれていた。巴にもばれているのだから、恋心を寄せる本人にはさぞわかりやすい態度だっただろう。恥ずかしさに顔を赤くしていると、ギルガメッシュの手がの顎をつかんできた。顔を強制的に上げさせられた先には、至近距離に迫った美しい顔があった。

「単なる魔力のやり取りで終わることが嫌ならば、意味など見い出そうとするだけ無駄だ。王が寵愛をくれてやろうというのに、なにを嫌がることがある。あまり駄々をこねるようなら、貴様のその心を摘み取ってやってもよいのだぞ」
「つ、摘み取る……?」
「その首ごとな」

 恐ろしげなことを言いつつ、ギルガメッシュの口元は笑っていた。目を弓なりに細めて、ニヤニヤとを見下ろしている。

「まあ、それはまだ先の楽しみに取っておくとしよう。今は、貴様をこのまま女にし、快楽漬けにするとどうなるか興味があるのでな。我らがマスターの魔力を、この我が独占するというのもなかなかに悪くない」
「え」
「せいぜい我に溺れろ、。溺れきったのちに、我に心を散らされるか、我を誑し込めるか。そのどちらかだ」
「なっ……なんでそんな不穏な二択しかないんですか! 心を散らされるなんて、嫌ですよそんなの」
「ならば貴様自身で選択肢を変えてみせよ」

 くつくつと喉を鳴らして、金色の王様は笑っていた。なぜだろう、ギルガメッシュはいつになく上機嫌だった。を翻弄しているのが面白いのか、それとも独占状態の関係が優越感を満たしているのか。こんなによく笑っている彼は珍しく、はこんな時だというのにどきどきしてしまった。

「どのみち、我をこき使いたければ貴様の魔力をもらわなくてはな。この我が力を振るってやっているのだ、魔力ぐらいすべて我に捧げるのは当然。その凡庸な魔術回路では十分な量を供給できんだろうが、まあ仕方あるまい」
「むっ……!」
「まったく、不出来なマスターを持つとままならんものだな。この我に気を遣わせるとは。まあいい、たまには寛容さを見せつけてやるのも王の役目よ」
「むむむっ……!」

 文句を言いつつ、機嫌が悪そうには見えない。口を尖らせたを満足げに見下ろしてふんぞり返っている。いちいちをけなしてくるので腹立つが、事実なので反論しようがないのが痛いところだった。

「さあ、ごちゃごちゃと言い逃れせずに、今宵もおとなしく我に身をゆだねるがよい」
「うぐぐ……! わ、わかりました、わかりましたよ! 服くらい自分で脱ぎます、破かないでいいです、脱ぎますから!」

 の必死な叫びがマイルームに響く。殺風景で無機質な部屋に、甘い空気が満ちるのは、もう少しかかりそうだ。

「我以外に魔力を使うでないぞ、。貴様は身も心もすべて我のものになったのだからな」

 ごく普通の恋する少女――カルデアのマスターと、神秘の時代を生きた最古の王。
 ふたりが結んだ関係に少女が答えを見つけるのは、まだもう少し先の話である。




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