会長からセクハラを受けています 1.5話
※『会長〜』1話後、翌朝の話。お風呂で朝えっち+金ぴかカードを渡す会長の話
目を覚ますと、厚いカーテンに陽の光がにじんでいた。
今何時だと無意識に枕元のスマートフォンを探るが、いつまで経っても望みのものが見つからない。それどころかいつもと枕の質感もシーツの肌触りも違う。ぼんやりしていた目を開けると、そこは自分の部屋ではなかった。
広いベッドに広い室内、そこはかとなくだるい全身、なにも身につけていない体。
(あ……そうか、私、昨日会長と……)
やっと自分の部屋ではない理由を思い出した。昨夜、勤め先の会長にこの部屋に呼び出され、一夜を共にしたのだ。
人の気配に首を回すと、隣にその会長が寝ていた。
と半身ほど離れているせいか、が起きたことには気づいていないようで、まだ寝ている。きつい印象を与える目は閉じられていて、今は単純にものすごく顔が整っているとしか印象がない。通った鼻梁、薄く開いたくちびる、妙に色気の漂う首筋と鎖骨、筋肉がついた胸、シーツの隙間から覗く、完璧な形の爪がついた指先。
なんというか、寝ている時まで腹が立つほどかっこいい。指先まで美しいとは一体どういうことなのだろう。ただ黙っていると誰もが認める極上の男なのに、見ているとだんだん腹が立ってくる。中身がアレだと知っているからだろうか。
このくちびると舌、指に、昨日はさんざん好き勝手にされたのだ。
(――っ……!)
なにが起こっているのかよくわからないまま、嵐のように散らされてしまった。ギルガメッシュからなにを言われたかもよく覚えてないが、彼が与える熱と快楽と痛みだけは鮮明に覚えている。
指とは違う大きなモノで、体の中を激しくかき回されて――
「……っ!」
思い出すと、また下腹部が熱くなってきそうだ。ごまかすように自分の体を抱きしめてから、はそっとベッドを抜け出した。
ギルガメッシュはまだ起きない。寝息にも乱れはない。
起きる気配がないことにこっそり安堵の息を吐くと、シャワーを浴びに浴室へと向かう。足元にの下着やらが散らばっていた。まずは体を洗い流すのが先だと思い、簡単にたたんで浴室に持っていくことにした。素っ裸で歩き回るのは少々恥ずかしいが、やむを得まい。
スウィートルームというものに初めて足を踏み入れたのだが、ホテルの一室がこんなに広いものだとは思わなかった。リビング、ダイニング、シアタールーム、そしてベッドルーム。贅沢に空間が使われていて、家具のひとつ、クッションのひとつをとっても質が良く上品で、が触れたこともないような高級品に違いない。至るところに生花が活けられていて、それだけでこの部屋の価格が高いことがわかる。後で一泊の値段を調べてみると、のひと月の給料の三倍以上することがわかって頭を抱えた。
洗面所のドアを開けると、大理石が惜しげもなく使われた広い洗面所に出た。奥にジャグジー付きの丸い浴槽、その隣にシャワーブースがある。
洗面所の空いたスペースに服を置く。鏡に映った自分の体を何気なく視界に入れると、胸元を中心にいくつもの赤い鬱血が残されていた。
(これ、か、会長の……会長が付けた、キスマーク……)
指先で触れてみる。痛みはない。けれど、これをつけた時のギルガメッシュのくちびるの熱さを思い出して、カッと体が熱くなった。
『いたっ、ん、や、あ』
『む、痛むか。仕方ない、慣れろ』
『そんなこと言ったって、はじめて、なのに』
「〜〜っ」
羞恥心が悲鳴を上げ、これ以上思い出すのはやめた。ぶんぶんと首を横に振って思考を断ち切り、さっさとシャワーブースに向かう。
熱いシャワーでも浴びて、体をきれいにしたら、軽い混乱状態にある頭もすっきりするだろう。湯の温度を少し熱めに設定すると、頭からそれを浴びる。
(今は、なにも思い出さないほうがいい……恥ずかしくて、爆発しそう……)
今はただ無心で体を洗おう。そうしよう。それまでには、今すぐこの場から走って逃げ出したい衝動も落ち着くはずだ。
ふう、と一息ついて、シャワーを止めたその時。
シャワーブースのドアをいささか乱暴に開く音が背後から聞こえてきた。
「わあっ!? な、なに!?」
「貴様は同衾した相手の顔も覚えておらんのか」
「か、会長……!」
大理石に湯が落ちる音でギルガメッシュが近づいて来ていることに気づかなかった。ブースの磨りガラス越しにも姿が見えるはずだが気が付かなかったし、いくらなんでも頭が働いてなさすぎだ。
「我の許しなく褥を抜け出しおって」
「許しなくって……ただシャワーを浴びてただけなんですけど」
「まあ、起き抜けのセックスがベッドから風呂に変わっただけではあるが」
「え? あっ、ちょ、んんっ」
相変わらずこの男がなにを言っているかわからない。しかし問い返す間もなく距離を詰められてくちびるを奪われてしまう。滑り込んできた舌は、昨夜よりも乾いていて若干ざらつきが増している。そのせいか、口の中の性感帯を擦られてぞくぞくとしてしまう。
「ん、ふう、ぁっ……」
「ふ、キスひとつでいやらしい顔をするようになったではないか。我が目をつけただけはある」
「や、なに言って……それに、さっきのせ、セックスって」
「そのままの意味だが? コレの昂りを見ろ」
「……っ!」
下腹部に押し付けられたギルガメッシュの屹立した性器を見て言葉を失った。男性の性器を見たことはあっても、勃起状態のものを見るのは初めてだった。昨夜は薄暗かったし、無我夢中で見る余裕もなかった。改めて明るいところでソレを突きつけられ、色々とショックを隠せなかった。
(お、男の人のコレって、こ、こんなになるの!?)
顔を真っ赤にして口をパクパクとさせることしかできない。まじまじと見ていると、の混乱を察したギルガメッシュが耳元で低くささやいた。
「コレが昨夜、貴様の中に入っていたのだ。貴様の処女を奪い、中の快楽を教えたものだ」
「……!! や、やだっ、そんなこと言わないで……!」
「ほう、ここで逃げようとするとは、我を誘っているのか?」
「あっ、や、ちょっと……!」
耐えきれなくなったがギルガメッシュに背を向けるが、あっさりと腰を取られてしまう。はまだ知らなかった。嫌がる相手に嫌がることをして、目の前に逃げようとする獲物がいればなんとしてでも捕まえる男がギルガメッシュなのだと。
の尻を掴み、尻を突き出すような体勢にさせられたかと思うと、双丘の間にいきり立った肉棒を挟み、戯れに腰を動かし始めた。恥ずかしい格好に加え、肉棒を扱くのに尻を使われるという状況に、羞恥心が悲鳴を上げるどころではない。
「や、やだ、そんなとこで、」
「貴様の尻は良い。適度に引き締まり、我好みの良い形をしている。それが我の目の前で揺れて我を誘っている。まさに背徳の桃よ」
「ほんとになに言って、ひゃっ、あっ、ちくび、つままないで、あっ」
「胸は我の好みからすれば大きすぎるが、この感度よ。ここを調教すれば乳首だけで果てるだろうな。まったくはしたない胸よな……!」
「あっ、あん、だめぇ……!」
興奮したように乳首をつままれ、胸を弄び始める。昨晩もさんざんいじられまくったそこは、敏感に反応してしまう。ギルガメッシュの言う通り、はしたない胸なのかもしれない。
(こんな、触られただけで、濡れちゃうなんて)
大理石の壁についている手に力を込めても、腰が震えるのは止められない。思わず両足を擦り合わせてしまうほどに、の体は高められていた。それはの体をいじっているギルガメッシュにも筒抜けで、彼はにやりと口の端をつり上げると肉棒を尻の間から股の間へと滑らせた。
「んっ……! あ、や、そこは、ぁ」
素股のようにの性器を熱いモノが滑った。割れ目にも敏感な突起にも肉棒が当たり、甘い声を上げてしまう。
「この短い時間で濡れておるわ。やはり貴様は淫乱だ、」
「んっ、やあっ、違う、淫乱じゃない……!」
「ほう、では我と貴様の相性がバッチリということだな……!」
などとわけのわからないことを言って、そのまま先っぽをの割れ目にあてがった。にちゅにちゅと先端を愛液で潤している。この男、本当にここでセックスするつもりだ。
「あっ……!? だ、だめ、入れないで! 大体昨日三回もしたのに、なんでまた……!」
「我の精力を甘く見るな、たわけ! 貴様がもう無理だの死ぬだの言うから三回で勘弁してやったのではないか! 貴様に手を出すために我がどれだけ我慢したと思っている!」
「そ、そんなの知りませんから! 一ヵ月も焦らしたのは会長の勝手じゃないですか! あ、ちょっと、まって」
「今更逃げられると思っているのか? 観念しろ、我はなにがなんでもここで貴様を犯す!」
「あ、だめ、入れちゃ、だめぇ……!」
入り口に亀頭を擦り付けていたギルガメッシュが、なにやら最低なことを叫んで挿入してきた。愛液で濡れているものの、中はほぐされてないのでまだ狭かった。そこにギルガメッシュの大きな性器が押し入ってくる。
「あ、い、いたい、そんなおっきいの、いきなり入らない……」
「む、まだ慣れぬか」
処女喪失ほやほやのを捕まえてなにを言っているんだろうか。あんなに自分の性器のサイズを誇っておいて。朝勃ちの勢いのまま犯しに来るなんて、処女を捧げる相手を間違えたかもしれない。というか、コンドームもなしである。昨日あれだけはきっちりと付けていたのに。
「仕方あるまい、舌を出せ」
「あ、んっ……」
顎を取られ、くちびるを吸われた。舌を出す間もなく勝手に入ってきたギルガメッシュの舌が絡みついてくる。その舌を伝って、男の唾液が流れ込んでくる。くちびるを塞がれて口の中に溜まっていく唾液を飲み込むと、褒めるように歯列の裏を舌でくすぐってくる。そこがどうにも弱い。またそこをくすぐって欲しくて、ギルガメッシュの唾を飲み込む。今度はぞくぞくとするような動きで上顎を舐められた。
「は、ぁん、ちゅっ……ふ、あっ」
唾を飲むのに夢中になっていると、乳首を擦られた。硬い先端をコリコリとつままれて、また下腹部がきゅんと切なくなった。口内と胸の性感帯をいじくられて濡れないわけがなかった。
くちびるを離したギルガメッシュが、今度こそ奥まで押し入ってきた。キスと愛撫で先程よりもほぐれた中は、男を受け入れてしまった。
「あ、ああ……」
「すべて入ったぞ、。わかるか、我のモノが」
「や、やだ、そんなの恥ずかしい……」
「ああ、まだ少し狭いな」
会話が成り立っているのかいないのかにはよくわからないが、ギルガメッシュはご満悦な様子で中を慣らすように腰をゆっくりと動かし始めた。数回の出し入れで彼の大きさに慣れたのを確認すると、今度は激しく律動した。
「あっ、ああっ」
「良い眺めだ。貴様の白い桃が我に突き上げられて揺れているぞ、」
「あっ、や、なに言って、あんっ」
「どうだ、初めての立ちバックは。貴様はバックのほうが奥まで届く中をしているから気持ちいいだろう」
「は、ン、わかんない、や、あっ」
冷静な時に聞けば、なんてひどいセクハラ発言をしているんだろうこの男とドン引き必至である。処女を捕まえて一晩で三回もした挙句、翌朝シャワーブースで半ば無理矢理立ちバックとはハードすぎないだろうか。実際、の体力も思考能力も限界に近く、ひどいセクハラ発言につっこむ気力すらない。
ただ、中を突かれることが気持ちいいことなのだと、ぼんやりした頭で思っていた。
「あん、は、あっ、かいちょ、」
「名を呼べと教えたはずだ、」
「はあ、あっ、ギルっ……!」
ぱんぱんと、肌を打ち付ける音が激しくなっていく。硬さと体積を増した肉棒がいっそう奥を抉る。奥を突かれるたびに快楽が理性を焼く。そのあまりの快楽に腰を引こうとするが、逆に引き寄せられてさらに奥を穿たれる。
こんなの、気持ちよすぎて無理だ。
息が上がって体が震え始めたを、ギルガメッシュが見逃さずに責め立てる。
「イきそうか、」
「あっ、あっ、はあっ、はーっ、や、だめ、イっちゃう……!」
「昨夜まで処女だった女が、もう中イキか。我らの体の相性は本物だぞ、……!」
「あっ、ああんっ、イ、あああっ……!」
頭が真っ白になった。ついに理性が焼き切れてしまったのかと思うほどに、なにも考えられなくなった。体が勝手に震えて、足がガクガクして力が入らない。膝が落ちそうになるをギルガメッシュが支えていなければ、硬い大理石にへたり込んでいたところだ。
「く、は、っ……!」
絶頂の余韻で気づかなかったが、ギルガメッシュも達していた。寸前に中から肉棒を引き抜き、の尻に精をぶちまけていたのだ。荒い息のまま、の尻に肉棒を擦り付けて精液を塗りたくってご満悦だったことは、結婚することになった数年後もの知らないことである。
***
シャワーで互いの体液や汗を洗い流した後、ふたりで湯船につかった。
情事の後で体がだるく、あたたかい湯に浸かっていると寝てしまいそうになる。そんなが意識を保っているのは、ひとえにギルガメッシュがをじっと見つめてくるからだ。
濡れた金髪をかき上げて額が露わになったギルガメッシュは、水も滴るいい男だった。額の形まで完璧に美しく、骨格からして常人とは違うのだと思い知らされる。すぐ隣に座るのは照れるだろうと、ひとり分ほどスペースを開けて座ったはいいものの、正直目の毒すぎてつらい。たくましく盛り上がった筋肉とか、水滴が肌をつたっていくところとか、とてもじゃないが直視できない。でも、目が離せなくて、結果チラチラ見ては視線を外すということをしている。ギルガメッシュはそんなの様子を楽しむように見ている。
なんかもう、どうしたらいいかわからない。どんな顔をしていればいいのか、どんなことを話せばいいのか。
「体は痛むか」
体の芯まで温まったころ、ギルガメッシュが言った。彼のほうから口を開いたことに安堵しつつ、は首を振った。
「すごくだるいですけど、そこまで痛くないと思います。でも、まだ……」
入っているような気がしてならない。そこまで言ってしまうと、変な展開になってしまう気がして言わなかった。
「なるほど、まだ我が中に入っているような感覚がするというわけか。それは我のサイズを体が覚えようとしているのだ」
「見透かした上に恥ずかしいこと言わないでもらえます!?」
「ふ、良い反応だ。十時から仕事の予定だったが、貴様を抱いて一日を過ごすというのも悪くない。我のサイズだけでなく我の味もしっかりと教え込んでやろうか」
と言って、ギルガメッシュは距離を詰めてきた。するりと腰に手を回し、いやらしく撫でてくる。
こいつは正気なのだろうか。昨夜三回、今朝一回も致しておいてまだ足りないとか、いくらなんでも性欲魔神すぎないか。体力の限界に近いからすれば、とんでもないことだ。
「む、むりむりむり……一回だけでももうしんどいのに、一日中なんて」
「激しくするだけ、挿入だけがセックスではない。一日かけて互いの体を知るのもよかろう」
そう言って、の体に触れてくる。
それは、今は仕事よりものことに興味を持ってくれているということなのだろうか。
わからなかった。この発言を喜んでいいのか、どんな反応をすればいいのか。
今になってなぜこんなにも戸惑うのか。体を重ねる前は、もっとはっきりとギルガメッシュの言葉に返していたはずなのに。
「どうした、のぼせたか?」
ギルガメッシュの問いには首を横に振って応える。
わからない、わからないから少し戸惑ってしまっていると、正直に話してしまったほうがいいのだろうか。恋人、とは違うかもしれないが、少なくともこの男はをないがしろにしようとはしていない、と思う。後々気が変わったと言って捨てられるかもしれないが、少なくとも今は。
「なんだ。言いたいことがあるならはっきり言わぬか」
もじもじしていると、ギルガメッシュがしびれを切らせた。その短気に促されて、はやっと口を開く。
「……その、会長の言葉に、なんて返せばいいか、よくわからないんです」
「む?」
「会長みたいな人、初めてだから、どんな反応をすればいいのか、よくわからなくて……仕事よりも私と一日過ごすって言われても、喜んでいいのかも」
言葉がまとまらないまでも、なんとか自分の気持ちを伝えてみた。ギルガメッシュからどんな言葉が返ってくるのかが不安だった。戦々恐々としつつ言葉を待っていると、鼻を鳴らす音が聞こえてきた。
「はっ、我のような男などこの世でただひとり、我しかおらんわ! 甘く見るなと言ったであろう、たわけ!」
そこなのかよ。まず言いたいことがそれなのか。そうつっこみそうになるが、堪えた。話が絶対に脱線する。
「よ、我の顔色を見るなどとつまらぬことはするな。取り繕った態度など、今更我らの間に必要あるまい」
「え……」
「わからぬ、と言ったな。それは貴様が我のことを知らぬからだ。知らないものはわからぬのが道理だ。貴様のその戸惑いはある意味当然のことだと言えよう」
確かに、その通りかもしれない。ギルガメッシュとは出会った矢先に体の触れあいばかりで、ろくな会話をしていない。普段の彼がどういう男なのか、どういう会話を好むのか、それすらも知らない。
「知らぬことばかりなのは当然だ。これからの時間で互いのことを知っていけばよいのだ。好むもの、嫌うもの、これまでの生。知りうるところはそれこそ多い」
「か、かいちょ……は、ん……」
くちびるを食まれた。ちゅう、と少々強めに吸われて思わず顔を背けて逃げる。今度はあっさりと逃がしてくれた。
「名を呼べと言ったはずだ」
「ぎ、ギル……」
うむ、と満足そうに笑っている。もうふたりの間の距離は詰められていて、ほとんどぴったりとくっついている状態だ。そんな間近で口元を緩めたギルガメッシュを見て、不覚にも胸が高鳴ってしまった。
(気まぐれに私に手を出したのかと思ってたけど、少しは私のことを考えてくれてる、のかな)
この男のイメージとしては、このまましばらくを弄んでからあっさりと捨てそうな気がしていたが、存外に心を砕いてくる。まるで口説かれているような気分になる。
――ならば、もっとギルガメッシュのことを知るのも、怖くないかもしれない。
どうせ一晩だけの相手だろうと、どこかで思っていた。けれど、ギルガメッシュがを見てくれるなら――
「我の好みになろうとするのは努力の方向性が違うと言っておこう。貴様は心配せずともよい」
「え?」
「貴様を我好みに調教するのは我の愉しみでもある。じゃじゃ馬を我の女に躾ける、これが愉しみでなくてなんとするか!」
「なっ……!? じゃじゃ馬!?」
「じゃじゃ馬だろう。この我に茶をぶっかけた女は貴様が初めてだ!」
「〜〜っ帰る!」
「待て、なぜそこで怒る? おい待てどこへ行く」
「帰るんですっ! 会長もお仕事お忙しいでしょうから!」
「帰すわけなかろう、この昂ったものを見るがいい。なんなら握ってもよいのだぞ?」
「ぎゃー! なななんでまたそんなに大きく……! と、とにかく私は帰ります!」
「ほう、我から逃げられるとでも思っているのか? おもしろい、我から逃げられたら大人しく帰してやろう。ただし我が貴様を捕まえたら一日セックスだ」
怖すぎる提案をして凶悪な笑みを浮かべるギルガメッシュ。何度も言うがは昨夜まで処女である。それなのにこの仕打ち。この男の前世は悪鬼かなにかに違いない。
「今から十秒数える。その間に死ぬ気で逃げろよ」
と、余裕たっぷりにゆっくりと十秒数え始めた。その余裕の表情が腹立つ上に十秒とか短すぎる。しかし今は一刻も早く逃げなければ。飛沫を上げて立ち上がると、浴槽から出てバスタオルを取る。とにかく急いで体を拭いて……
「あ、れ」
ぐらりと平衡感覚が失われた。とっさに洗面台に手をついて転倒は免れたものの、足に力が入らない。
(立ちくらみ……?)
くらくらとする頭をなんとか上げて鏡を見ると、まだ十秒数えているはずのギルガメッシュが映っていた。へたり込んでいたの腰を持ち上げて、洗面台に腹ばいのような体勢にする。
「急に立ち上がるからだ、馬鹿者」
「そんな、誰のせいで……ひゃっ!?」
ぴと、となにかが膣口に当てられている。後ろを振り返って確認するまでもなく、ギルガメッシュのイチモツである。
お尻を突き出すような体勢にもっと早く気づいていればよかった。この体勢はまずい。
「早く逃げなければ入ってしまうぞ?」
ぴたぴた、つんつんと肉棒で割れ目に擦り付けたり突っついたりしてくる。十秒数えるとは一体なんだったのか。
「や、あん、擦り付けちゃ、やだぁっ……なんで、まだ十秒たってないのにぃ……」
「我は数えるとは言ったが、待つとは言っておらんぞ」
「そ、そんなぁ……あ、ン、や、あ、ああ……」
「そら、入っていくぞ、……」
「あっ、は、あん、やめ、もうやだぁ……!」
「こら、そのようにすぼめるでない、つい激しくしてしまうではないかっ……!」
「あっ、あぁんっ」
肌がぶつかり合う乾いた音が、大理石の壁に反響する。
その後、十時すぎに秘書のシドゥリから鬼電を食らったギルガメッシュが、渋々仕事に行くと決めるまで情事にふけっていた。この時どれほどシドゥリに感謝したか。シドゥリさんは女神、はそう思った。
は帰宅の準備、ギルガメッシュは出社の支度をして、ふたりで遅い朝食兼早めの昼食を取った。
軽くつまむ程度に食事を終えて、食後に出されたコーヒーを飲んでいる時のことだった。
「貴様にはこれを渡しておく。好きに使え」
と言ってテーブルクロスの上に置かれたのは、金色に輝くカードであった。
「え……は!? え、いやいや、好きに使えって」
「我がそばにいる時であれば好きに買い与えてやるのだが、常に日本にいるわけではない。我がいない間、代わりに使え」
「代わりにって……欲しいものなんてないし、こんなの受け取れない、です……」
「受け取るかどうかを聞いているのではない。それはすでに貴様に与えたものだ」
つまり、ギルガメッシュにとってこのカードがどうなろうと知ったことじゃないということか。がこのカードを使おうと捨てようと、どちらでもいいのだ。
(こんな人、本当に存在するんだ……)
金持ちという人種に出会ったことがないので、これが世の金持ちの常識なのかもわからない。ただ、とは価値観も住む世界も違う。そう、強く印象付ける出来事だった。
ギルガメッシュは、カードを前にして困惑するばかりで触ろうともしないを、少々物珍し気に見つめていた。今までの女はカードを差し出すと目の色を変えて喜んでいたからだ。だが、は顔色を青くするばかりで、まったくその気配はない。
「ふん、そう不気味そうにするな。そうさな、使うことに抵抗があるならこう思っておけ。我がいない間のお守りのようなものだと」
「お守り……」
「持っておけ。貴様に与えたものだ。二度は言わん」
と言うと、彼はカップを置いて立ち上がった。
「また連絡する。会う時はここだ」
「あ、あの」
「貴様はゆっくりしていくがよい」
がなにかを言う間もなく、ジャケットの裾を翻して颯爽と去っていった。
残されたは困惑しきりである。
(これ、どうしよう……)
こんなものをポンと渡されて、わーいありがとうと喜べるのなら楽だっただろう。こんな恐ろしいもの、どうやって使えばいいのかもにはわからない。慣れた手つきで差し出してきたことからすると、今までの女性たちにも渡してきたものなのだろう。
――本当に、住む世界が違うんだな。
ギルガメッシュと出会ってから何度思ったかもわからない感想だが、改めて思う。出会って、こんな関係になったことがなにかの間違いなのではないだろうかと。
テーブルの上に乗った金色のカードを見る。
「お守りって。失くしたらどうしようって、おちおち持ち歩けもしないってば」
そう言って、プラスチックのカードを鞄の中にしまった。
カップの中のコーヒーはまだ半分以上残っている。すっかり冷めてしまったそれを一気に飲み干すと、は席を立った。