遅れん坊のクリスマス


 十二月。晴れても気温はさほど上がらず、体を冷やす風ばかりが吹く都心。マフラーに顔を埋めながら、はウルク商事ビルに出勤する。会長であるギルガメッシュの計らいで、総務部長の言峰の秘書となったは、出勤するとまず言峰のスケジュールを確認する。今日の予定を見て、頭の中で段取りを決めると、メールをチェックし、言峰に確認するもの、他部署に共有しておくものなどを分けていく。
 十二月に入ると、一気に増えるのが取引先などの年末の挨拶だ。総務部は行政や警察などの窓口でもある。取引先やそれらの挨拶を含めると、日によっては挨拶だけで終わっていく。毎年のことらしいので、言峰が慣れている分には心強かった。ではどうしても慣れない部分がある。
 ふと、ギルガメッシュのスケジュールを開いてみる。
 社内で使用しているスケジューラーは、基本的に役員のものであっても誰でも見られるものだ。しかし会長のスケジュールだけは、秘書であるシドゥリしか確認できないようになっている。というか、ギルガメッシュはほぼ名誉職のような立場であり、自身も経営からは一線を引いている。ほかにも店のオーナーであったり株主であったりと色々なことに手を出しているので、この会社のみのスケジューラーなどほとんど無意味なのだ。だから、最近まで会長のスケジューラーにはなにも書かれることはなかった。
 ギルガメッシュの予定が逐一書かれるようになったのは、が言峰の秘書になってからだ。ギルガメッシュと離れていることが多いのために、シドゥリが気を利かせているのだ。が会長の予定を見られるようになったのも、シドゥリの許可が出たからである。

(シドゥリさん、忙しいのにほんとマメというか、痒いところに手が届くような気配りだなあ……私も見習わなきゃ)

 いきなりシドゥリのような秘書になれないことは、もギルガメッシュもわかっている。それでも、こういう何気ないところで差を感じてしまう。頑張らなくては、と気を引き締める。

(うわあ……予想はしてたけど、ギルの予定、年末までびっしりだ……)

 年末どころか年始も、その先の決算まで埋まっている。日によって仕事の件数の違いはあれど、ほぼ毎日なんらかの予定が入っている。これは、クリスマスなどと言っている場合ではなさそうだ。

(クリスマス、やっぱりだめかあ……)

 月の半ばから二十四日までギルガメッシュは海外に飛んでいて、二十五日に日本へ戻ってくると書いてある。しかし、飛行機の時間によっては日本に着くのは二十五日とは限らない。クリスマスイヴも当日も、日本にいる可能性は少ない。
 ギルガメッシュの忙しさは理解しているつもりだったし、クリスマスも年末年始も、特に期待していないつもりだった。けれど、実際に一緒に過ごすのは無理だとわかってしまうと、どうしても消沈してしまう。

(わかってたけど、ギルと恋人になってから初めてのクリスマスだし……)

 自惚れかもしれないが、ギルガメッシュはにベタ惚れだ。ギルガメッシュに一言、クリスマスを一緒に過ごしたいと言えば、なんとか予定を空けて日本へ帰ってきてくれるだろう。しかし、ただでさえ働きすぎのギルガメッシュにそんなことを言えば、倒れる寸前まで仕事をして予定を空けるに違いない。一緒にいたいけれど、無理をしてほしいわけじゃない。
 はあ、とため息をつくと、メールの返信作業に戻る。今年もひとりのクリスマスになりそうだ。



 昼休み。食堂でランチを済ませると、携帯端末に着信が入った。着信音のパターンは、最近ギルガメッシュから新たに与えられた彼専用の端末のものだ。つまり、ギルガメッシュからの着信。

「もっ、もしもしっ」
、昼飯は済ませたか」
「う、うん、今終わったところだけど……ギル、日本にいるの?」
「ああ、今ビルに着いた。会長室に来い、
「うん……!」

 電話を切ると、急いでエレベーターに乗る。エレベーターの中にある鏡で身だしなみを整えていると、あっという間に最上階に着いた。
 もはや勝手知ったる会長室フロア。厚い扉をノックしてから開き、中に一歩踏み出した瞬間、腕を取られて引き寄せられた。
 あっ、と思う間もなく、胸の中に閉じ込められる。一瞬遅れて嗅ぎなれた香水のにおいに包まれ、ああギルガメッシュのにおいだと安心する。

「ギル、おかえりなさい」

「んっ……」

 顔を上げると、目の前にはギルガメッシュの整った顔があった。赤い目が近づいてきた、と思った時にはくちびるを吸われていて、目を閉じる暇もない。くちびるどうしを角度を変えて重ね合って、ちゅ、とリップ音を立てて離れた。見ると、ギルガメッシュはコートを脱いでいない。会長室に着いてからコートも脱がずにを待っていたのだ。

「ギル……」
「どうした、熱く見つめおって。そんなに我が恋しかったか?」
「……うん」

 の返答を満足そうに笑って聞くギルガメッシュ。このままでは離れがたくなってしまうので、から体を離し、ソファへと向かう。ギルガメッシュもコートを脱いだ。

「ギル、ちゃんと寝てる? 今月は一段と忙しそうだし」

 ギルガメッシュの膝の上に乗せられて話をするのはいつものことだ。としては恥ずかしいから普通に座りたいのだが、ギルガメッシュが離そうとしない。離れている時間を少しでも埋めようとしてくれているようで、嬉しくもあるのだが、甘やかされているなあとも思う。
 ギルガメッシュの目の下にうっすらと差す青みを見て、言外に心配をにじませる。海外の滞在先は、日本よりも気温も低く、大陸となると乾燥もする。つまり、ウイルスをもらいやすいので心配なのだ。休んでいる暇があれば仕事をするこの男は、基本的に元気だからこそ自分の体調を過信する傾向がある。

「貴様が心配するような生活はしておらん。まあ、一段と忙しいことは確かにそうだが、倒れるような下手は踏まん」
「ほんとに?」
「なにしろ、貴様とのクリスマスがかかっているからな」
「え……えっ!?」
「なにを驚く。クリスマスと言えば、この国では恋人と過ごすのであろう。ならば我と貴様が一緒にいなくてどうする」

 驚きのあまり口をあんぐりと開けたままのに、当然だと不敵な笑みを浮かべるギルガメッシュ。

「えっ、ほ、ほんとに? でもお仕事が」
「今から調整すれば、クリスマスの一日二日ぐらい空くだろう」
「む、無理しちゃやだからね? 本当に、電話だけでも嬉しいんだから……」
「自分の仕事量なぞいくらでも調整できるわ、たわけ。二十四日は空けておけ、腰が抜けるほど甘いクリスマスイヴにしてやる」
「腰が抜ける……!? なにそれこわい」

 ギルガメッシュの不吉な予告に戦慄しながらも、こうやって約束をしてくれることが嬉しかった。諦め半分、いや、諦め九割ぐらいの気持ちだったのが、嘘のように心があったかくなっている。昼休み中とはいえ勤務中のに、堂々と腰や太ももを撫でまわすセクハラも笑って見逃せた。

(やったあ……! ギルと一緒のクリスマスイヴだ!)

 プレゼントはなにがいいだろうか。きっとこのセレブのことだ、の手の届く高級品などは腐るほど見てきただろう。それならば、なにか特別な意味のあるもののほうがいいだろうか……

(手作り……とか? いやでも服とかもいっぱい持ってるしな……)

 などと頭を悩ませつつも、約束の日を待ち遠しく思っていた。
 果たして、イヴ当日。

「うそでしょ……」

 ギルガメッシュは約束通り昼過ぎには日本へ帰ってくる予定だ。も予定を入れないようにしていた、はずだった。ギルガメッシュを空港まで迎えに行っている、はずだった。

「すまないな藤丸くん。聖夜前日に仕事とは」
「……………………いいえ、仕事ですから。私のプライベートのことは気にしないでください」
「そうか」

 の隣に立っているのはギルガメッシュではなく、上司の言峰だった。言峰の仕事──ウルク商事のボランティア活動の一環に付き合って顔を出している。資源回収やらフリーマーケットやら炊き出しやら、総務部以外の社員も意外と多く参加していて、わりと大きい規模である。クリスマスイヴということもあって出歩いている人も多く、なかなか盛況だ。
 このボランティア自体は前々からわかっていたことで、ギルガメッシュの帰国時間に合わせて切り上げることになっていた。が、総務部のメンバーが何人かインフルエンザで欠席となり、急遽が切り上げる時間を延長して手伝うことになったのだ。

(一応ギルにはメッセージ送っておいたけど……そろそろ日本に着く時間だし、電話してみようかな)

 と、携帯端末を取り出して画面に触れるが、画面は動かなかった。

(え……あれ? うそ、まさか充電切れた!?)

 ボタンを押しても、うんともすんとも言わない。これは、完全に充電が切れている。昨夜は普段通り充電した、はず。
 しかし今ひとつ自信がない。ギルガメッシュ専用の端末は、その名の通り用途はギルガメッシュに連絡を取ることのみ。使う頻度は私用のものと比べて少ないことから、充電は毎日せずに減った時のみにしている。だから、昨日本当に充電したのか、いまいち記憶が定かではない。

(つかないってことは、充電忘れてたんだな……うう、どうしよう、ギルに連絡取れない……)

 真っ黒な画面の端末を握りしめて項垂れる。待たされることがこの世で一番嫌いなあのギルガメッシュが、わざわざ予定を空けた日に待たされたら。一体どんな罵詈雑言がに浴びせられるのか。そもそも、口をきいてくれるだろうか。

「藤丸さーん、ちょっといい?」
「あ、はいっ」

 総務部の先輩に呼ばれて顔を上げる。今はとりあえず、仕事に集中して少しでも早く終わらせるようにするしかない。ギルガメッシュに連絡できないのは不安でしかないが、今はどうすることもできない。



 一方、ギルガメッシュといえば。

め、イヴとクリスマスを我と過ごせるなどさぞ嬉しかろう……ギル、クリスマスプレゼントは私だよ、今夜は手加減しなくていいから、好きにしてくれていいよ、とか言ってくるやもしれんな……ふ、ふははははははどう可愛がってやろうか……!」

 飛行機の中、端末に保存してあるの画像(隠し撮り)を見ながら、ルンルンで大きな独り言を言っていた。
 空港に着き、の仕事が長引くというメッセージを見ても、ルンルン気分は削がれることなく。

「この我にお預けを食らわす女は貴様くらいだぞ……今夜は望み通りハードにしてやろう」

 どこか満足そうな笑みを浮かべて、空港を後にするギルガメッシュ。全身をブランド物で固めた長身の金髪がうきうきと歩いていく様は、人でごった返す空港ロビーでもかなり目立っていた。
 一足先に御用達のホテルに着いたギルガメッシュは、を待つ間、自分を待たせた罰としてどんなことをさせようかと考えてそわそわしていた。このドアを開けてやってきたらどんな言葉をかけてやろうか、それとも渾身の力で抱きしめて、この胸にずっと閉じ込めておいてやろうか。
 を待つことおよそ五時間。一時間、二時間、三時間と、時が経つごとに彼から楽し気な空気が抜けていく。



 がホテルに着いた時には、もう十八時を回っていた。猛ダッシュでホテルへ走ってくる姿を見たドアマンが、戸惑いつつもしっかりと職務を果たしてくれた。の顔は、すでに従業員に知れ渡っているのだ。フロントもなにも言わずに頷いてを送り出した。急いでエレベーターに駆け込み、スイートルームの階数を押した。動き出す箱の中で息を整える。いつもより上昇速度がゆっくりしたものに感じて、焦りが募る。

(はやく、はやく……!)

 エレベーターの扉が開くのも待ち切れない。飛びつくように部屋の扉を開けると、中はしんと静まり返っていた。ギルガメッシュの姿を探すと、リビングのソファにうつ伏せの状態で寝転んでいた。

「ギル、ギル……! ごめん、本当に、ごめん……!」

 ギルガメッシュの近くに寄る。の声にぴくりと動いたかと思うと、うつ伏せのままの脚に抱きついた。

「わっ、ギル……?」
「ばかものぉ……れ、連絡もなしに、この我を、こんなに待たせおってぇ……! 遅い、遅すぎるわ、たわけぇ……!」

 の太ももにぐりぐりと顔を押し付けて、唸るような声を出している。その声は恨みがましいが、同時に泣きそうなほどに震えている。彼のそんな声は、当然ながら今までに聞いたことがない。連絡もなく五時間以上も待たされては、ギルガメッシュといえど、さぞ不安であっただろう。胸が締め付けられるように痛んだ。

「ごめん、ごめんなさい、ギル……! 携帯、充電切れてて電話できなかったの……仕事も、なかなか後片付けが終わらなくて」
「仕事なぞ断れ、ばかもの……! この日のために、どれだけ……! この我を誰だと、なんだと思っているのだ! 貴様は仕事と我と、どちらが大事なのだっ!」

 ぎゅうぎゅうとの脚を締め付けてくるたびに、膝頭が当たって痛い。彼の頭が動くとさらさらの金髪が脚をくすぐる。そのどちらも気にならないくらいに、胸が痛い。ギルガメッシュに無理を言って、無理をさせて、日本へ帰ってきてもらったのに、自分の落ち度で台無しにしてしまった。待たされたことに怒っている、というよりも、に連絡もなく約束を破られてしまったことの悲しみのほうが大きいという、さびしい声音をしている。いつだって自信満々で傲岸不遜な声をしている彼が、こんな弱々しい声を出すなんて。──出させたなんて。

「ごめんなさい、ギル、本当に、ごめんなさい……!」

 ごめんなさいしか、言葉が思いつかない。ギルガメッシュを抱きしめてあげたいけれど、今はこの腕を振り払うことはできないから、精一杯謝ることしかできない。
 ギルガメッシュに謝り続けると、にばかばかと言い続けるギルガメッシュ。しばらく、そんな時間が続いた。
 幾分落ち着いたギルガメッシュが、の脚を放し、起き上がってソファに腰掛け直した。も、ギルガメッシュに手を引かれて隣に座る。座った瞬間に、すぐさま胸の中に閉じ込められた。

「ギル……本当に、ごめんなさい」
「……ばかもの、そう簡単には許さぬぞ……貴様、本当に我を好きなのだろうな?」
「すっ、好きだよ! 好きに決まってる!」
「我を愛しているか?」
「う、ん……愛してる、ギルだけだよ」
「っ……我を、もっと大事にすると言え! 世界で一番大事にすると誓え!」
「……!」

 苦しいくらいに、抱き寄せるというよりはしがみつかれて、の心はじくじくと痛んだ。こんなふうに、に好きと言わせるのはいつものことだが、ここまで執拗にねだることは今までになかった。それだけ不安にさせてしまったという証拠である。抱きしめられているので、彼の表情はこちらからは見えない。なんとしてでも情けない顔を他人に見せない、意地っ張りとプライドの高さがこんな場面でも表れていて、ギルガメッシュらしいなと息を吐いた。

「うん……うん、これから、もっとギルのこと……世界で一番、大事にするから……世界で一番、大好きだよ、ギル」

 さびしがり屋の彼に、安心してもらえるように、精一杯の力を込めて抱きしめ返す。

「好き、大好き」

 先程ギルガメッシュがにしたように、もギルガメッシュの胸にぐりぐりと顔を押し付ける。額を胸にくっつけると、とくん、とくん、とギルガメッシュの鼓動が伝わってくる。

「……ふん、まだ許してはおらんぞ」
「う、うん……埋め合わせ、必ずするから」
「……ほう? どのような埋め合わせだ。内容によっては来年のクリスマスまで許さんからな」
「う、えっと……年末年始のお休みは、ギルとずっと一緒にいる……とか」
「ほほーう? 一月三日の二十四時まで我と一緒にいると、そう言うのだな、

 二十四時まで、とわざわざ指定してくるところに、が最近翌日が仕事だと終電前に帰ってしまうことへの不満が感じられる。仕方ないだろう、ギルガメッシュに付き合って朝チュンの後に一日仕事とか体が持たないのだから。有り余る精力を持ったギルガメッシュと比べないでほしい。
 が、今はそれはそれとして。お許しをいただかなければならない立場である。ここは体が持たないなどと言っていられない。は、うん、と深く頷いた。

「一月三日まで、我の行くところに片時も離れずに付き合うのだぞ。今度こそ違えてはならんぞ、
「約束する。今度こそ、ギルとずっと一緒にいる。……今日は、ごめんなさい」

 の約束を聞き届けてからやっと、ギルガメッシュが腕の拘束を弱めた。この部屋に入ってきてから初めてまともに見た彼の顔は、少し目元が赤くなっていた。けれど、満足げに笑っていて、もうすっかりいつものギルガメッシュに戻っていることがわかる。

「うむ」

 その顔を見て、知らず強張っていた体から力が抜けていく。
 ギルガメッシュとのクリスマスイヴは台無しになってしまったけれど、まだ、これから。聖夜をともに過ごす時間は、まだ残されている。



「ところで、我へのクリスマスプレゼントは忘れずに持ってきたのだろうな」
「あ、うん……持ってきたけど、ギルが気に入るかどうか……」
「よい、よいぞ、照れずともよい。献上を許す、我にその身をゆだねろ、クリスマスプレゼントは……貴様自身なのだろう、……!」
「はい?」

 興奮を隠しきれず、に飛びかかろうとしたギルガメッシュだったが、はさっさと自分の持ってきた手荷物を探りに席を立っていたため、見事にスカった。振り返ったには、ギルガメッシュがクッションに向かってダイブしたようにしか見えなかった。ギルがまたひとりで楽しそうにしてるな……とそれを受け流すと、ラッピングが少し崩れてしまった包みをギルガメッシュに渡した。

「はい、プレゼント」
「む……」

 ギルガメッシュがラッピングを盛大に破って開封すると、中から出てきたのは、シックなワインレッドのマフラーだった。

「もしや、手作りか?」
「うう……そう、一応、私が編みました……あの、本当に、毛糸のマフラーなんてギルには似合わないと思うし、毛がコートとかについて大変かもしれないから、気に食わなかったら」
「もうひとつ同じものを作れ、
「使わなくても……はい?」

 今どき手作りのマフラーなんて、このセレブに向かって。どうにも気恥ずかしくて、色々と言い訳をしていたは、ギルガメッシュの言葉に目を瞬かせた。なんて言ったんだろう、今もう一個マフラーを作れって言わなかったかこの男。どういうことだ、と顔に疑問符を浮かべるに向かって、すでにマフラーを首に巻いているギルガメッシュが怒ったように言った。

「保存用と使用用にするためだ! もうひとつ保存用に作らぬか!」
「え、ええええ?」
「これから毎日使うのだぞ、いかに丁重に扱おうともくたびれることは避けられまい! ならば保存用にできたてほやほやを取っておかねばならんだろう!」
「まっ、まいにち、って……!」

 編んだからにはそりゃあ、使ってほしいものだが。どう考えてもカジュアルっぽいものに出来上がってしまったし、仕事をしている彼が着けるには不釣り合いだから、使ってくれなくても、思い出の品にしてくれればいいなあ、なんて思っていた。それが、あのギルガメッシュが、こんな安っぽいものを本気で毎日着ける気でいる。予想外もいいところだ。予想外で、嬉しくて、恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ。

「あの、保存用に取っておかれるより、使ってくれた方が嬉しいから……その、ダメになってきたら、また、作るし……むぎゅっ」

 恥ずかしさと感動で、顔を真っ赤にしてぼそぼそとしゃべっていたら、突然力いっぱい抱きしめられた。ちゅうちゅうと顔中にキスが降ってくる。我の嫁可愛いゲージを突破させたギルガメッシュが、今度は耳元を赤くしてに吸い付いている。

「では、毎年我のために作れ。それしか使わん」
「う……うん、がんばる……」
「……やはり、貴様も今からクリスマスプレゼントに」
「………………それは、もう、ギルにあげちゃってるから……今更プレゼントには、むぎゅぅ」

 我の嫁可愛いゲージが爆発した。ぎゅうぎゅうと、たくましい腕に痛いほど締め付けられて息が苦しい。けれど、同じくらい、たまらなく嬉しい。そのままソファに押し倒されそうになり、は慌ててギルガメッシュの胸を押した。

「ギル、まって……! あの、おなか空いた……」
「なにをぅ……! この期に及んで、貴様……!」
「だ、だって! えっちの最中におなか鳴ったら恥ずかしいでしょ……!」
「ぬうぅぅ……まったく、この我にお預けを食らわす女は貴様くらいだぞ、。後で覚えておけ」

 憎まれ口を叩きながらも、の要望は聞いてくれるようで。高級食材を惜しみなく使ったクリスマスディナーを、すぐさま部屋に運ばせたのである。
 窓の外に広がるネオンと、美味しい料理と、その後のとびきり甘い夜。ふたりで楽しむのなら、時間など関係ない。



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