鏡の中に落ちる


※お題箱より「王様のお風呂に一緒に入ることになったキャスギルぐた」


 ある日の夜更け。
 その日は珍しくキャスターのギルガメッシュの部屋に連れ込まれた。本当にカルデアの無機質な部屋なのかと思うほどに空間を広く改造された室内には、毛が長いふかふかの絨毯が敷かれた床と、豪奢に飾られた天蓋つきの寝台。寝台にはクッションが敷き詰められていて、少々乱暴に押し倒されても痛みは感じなかった。
 熱のこもった赤い瞳に見つめられ、くちびるを貪るように食まれた。まさしく食べられる、という表現があてはまる口づけだった。くちびるも舌も口の中も、呼吸すらも奪っていくような。
 そこからあとのことは朧にしか覚えていない。下に上に横に、体勢を入れ替え角度を変え、何度交わったかもあやふやだ。ただ、無我夢中でギルガメッシュの体温を求めた。
 ずるり、と少し体積を減らしたものが抜けていった。途端にとろとろとした体液──もうどちらのものかもわからなくなった──が股の間をつたう。寝台をこれ以上汚したくなくて、体液が外に出ないよう割れ目に力を込める。もう散々汚れているので無駄な努力かもしれないが。
 息を整えたギルガメッシュが少女の体を抱きあげ、部屋の入り口とは反対方向のドアに向かって歩き出した。突然の浮遊感に、小さく悲鳴を上げて男の首の後ろに手を回す。何時間も嬌声を上げていた喉はからからに乾いていたが、まだ声は出る。

「王様……? どこいくの?」
「風呂だ。そのままではさすがに寝れんだろう」
「そっか、お風呂……お風呂……? あの、もしかして、このまま一緒に?」
「当たり前だ。別々に入ってどうする」
「えっ……む、むり! 明るい!」
「今更過ぎるぞ。貴様の体など貴様以上に見尽くし、知り尽くしておるわ。大体貴様、自分で動けるのか」
「うっ……そ、それは……」

 少女は今、いわゆる腰砕けの状態で、腰から下にまったく力が入らないのだ。そんな状態では、風呂場までたどり着く前に力尽きて寝落ちてしまう。仮に風呂場までたどり着いたとしても、自分でちゃんと入浴できるのかあやしい。自分の体調を考えると、ギルガメッシュの言葉に甘えるしか選択肢が残されていない。

「お……お願いします……あっ、でも明るいの、恥ずかしい、から……その……ちょっと暗くしてもらえると……」
「……まあ、よかろう」

 ダメ元で明かりを絞ってもらえないかと乞うと、意外にも了承の返事が返ってきた。てっきり「暗いと貴様の隅々まで洗えんだろうが」とか言われると思ったのに。なにかよからぬことを企んでいるのではないかと疑心暗鬼になる。だが、風呂の中で恥ずか死だけは避けたい。まあ、なにか企んでいても薄暗いならそんなにひどいことにはならないだろう。そう思い、少女は小さく息を吐いた。
 少女が見ていない瞬間を見計らって、ギルガメッシュが凶悪な笑みを浮かべていたことに、最後まで気が付かなかった。



 ギルガメッシュがパチンと指を鳴らすと、風呂場の照明が薄明かりになった。どこになにがあるかがわかる程度の光量に、少女は安心して薄目にしていた目を開いた。自分の体を堂々と見られるのも恥ずかしいが、ギルガメッシュの体を見るのもまた恥ずかしいのだ。本当に今更であるし、普段ほとんど裸のような服装でいる男相手に、なにを恥ずかしがっているのかと不思議だが。

(だってだって、やっぱり王様、か、かっこいいし、体も、男の人って感じだし……)

 情事の最中にしがみつく広い背中や、少女の腰を抱くたくましい腕、体を押しつぶしてくる厚い胸。褥の中の彼を思い出して、思わず頬が熱くなる。そんなのを理性のある状態で直視してしまったら、どうなってしまうんだろう。ギルガメッシュを好きという気持ちが爆発して、どうにかなってしまうのではないのか。

「なにを百面相している」

 浴室の入り口で立ち止まっていたギルガメッシュから声をかけられる。目を慣れさせるために時間を取っていたのだろうか。

「な、なんでもない!」
「ほう? なにやら愉快なことを考えていたのではないだろうな?」
「かっ、考えてないです!」
「さて、どうだかな?」
「もう、なんでもないってば……!」
「まあ、後でゆっくりと聞かせてもらおうか。貴様の口を割る方法などいくらでもあるのだからな」

 と言うと、額にキスをする。不意打ちで優しいキスをされた少女は、どくりと胸を弾ませた。
 目が慣れてくると、浴室全体の広さがわかるようになる。入り口の手前に洗い場、奥に円状の湯船がある。湯船はギルガメッシュが足を伸ばしても余りある広さで、ふたりで入っても十分広いと言える。洗い場にはシャワーとカラン、その脇にはシャンプーやソープと思われるボトル類が置いてある。シャワーの目の前には全身が映るような長方形の大きな鏡が貼ってあった。
 ギルガメッシュはまず洗い場に腰を下ろすと、シャワーを手に取って少女と自分の体を湯で洗い流した。

「さすがに汁まみれの体で湯に浸かるわけにもいくまい。先に体を洗うぞ」
「し、汁まみれって」
「汗やら唾液やら、我の精液やら貴様の」
「わーーー詳しく言わなくていいですごめんなさい」

 なぜこの男は息を吐くようにセクハラをしてくるのか。それも、年頃の娘にするようなレベルではないひどいセクハラである。惚れた身分とはいえ、付き合うのにも精神力を必要とする。一体なぜこんな歩くセクハラ王の暴虐が許されているのか。王様だからか。そうか……ならば仕方ない。
 ギルガメッシュはスポンジにソープを染み込ませると、くしゅくしゅと泡立たせながら少女の後ろに座った。そのスポンジで少女の背中を擦り始める。

「王様、もしかして背中洗ってくれるんですか……?」
「まあ、たまには悪くなかろう。喜べ、王たる我が直々に洗ってやるのだからな」
「あ、ありがとうございます……」

 これは単純に意外だった。自分で自分の体を洗うのも意外な気がするのに、他人の背中も洗うなんて。どうしたんだろう、明日は天変地異でも起こるのか。少女が素直に礼を言うと、ギルガメッシュは後ろで満足そうな笑い声を上げた。
 肩から背中、背中から腰へ、腰から腕へ。
 泡とスポンジの柔らかい感触に心地よさそうに目を細めていた少女だったが、スポンジが思わぬ箇所を撫でたことによって目を見開いた。背面を洗っていたスポンジを持つ手は、前面にある胸を撫でていた。

「お、王様、そこは自分で……ひゃっ」
「遠慮するな。もののついでだ、前も洗ってやる」

 耳元で聞こえてきた低い声に、体がびくりと反応する。薄暗くて鏡にはなにが映っているのかわからず、ギルガメッシュの顔が耳の近くにあることに驚いたのだ。スポンジを持った右手は、鎖骨や胸を撫で回してくる。つい先ほどまで快楽に溺れていた体は、腋や胸の頂上を擦られると素直に反応してしまう。

「あ、う、王様、」
「どうした? 我はただ体を洗っているだけだぞ?」
「う、ん……洗ってる、だけ……」
「そうだとも。ああ、だかな……」
「ひゃっ!?」
「こう暗くては貴様の体がよく見えんのでな、あらぬところに触れてしまうかもな。だがまあ、仕方あるまい? 貴様が暗くしてと頼んできたのだからな」

 スポンジで体を洗いながら、空いた左手がいたずらに背中を撫で上げた。ぞわぞわとした感覚が体を走り、思わず甲高い声を上げる。左手は少女の背中から肩を撫で回すと、胸に降りてやわやわと乳房を揉み出した。泡を塗りつけるように手のひら全体で胸を揉んで、時折長い指が乳首を掠める。

「ん、や、だめ、王様」
「風呂場で暴れると危ないぞ? 泡で滑る。なにより、暗いからな」
「っ……! あっ、ん……!」
(絶対、これが狙いだったんだ!)

 爪が乳首を引っ掻いた。下腹部が確実に疼いていくのを感じ、後ろの男から逃げようと身をよじる。だが前面に回っている腕はびくともしない。手の動きは優しいのに、腕は確固たる拘束力を持って少女に絡みついていた。
 少女の言うことをあっさりと聞き入れたのは、最初からこれが狙いだったに違いない。暗くてよく見えないなどと言っているが、冷静に考えるとサーヴァントの視力をもってしてよく見えないというのは有り得ない。まして、少しは慣らしてからここへ座ったのだ。
 スポンジがゆっくりと下腹部へ降りていく。その手の向かう先はひとつしかない。少女は両脚を閉じて抵抗しようとするが、不意に耳たぶを食まれて意識を逸らした。

「ひゃあっ、や、だめ、耳はだめっ……!」
「ここも洗ってやらねばな。さすがに泡をつけるわけにもいかんからな、我の舌で存分に洗ってやろう」
「ん、んんっ、しゃべっちゃ、やあっ」

 耳の後ろを細くした舌先で舐められた。耳の穴に舌先が入ってきて、唾液の水音とギルガメッシュの低い声が鼓膜を打つ。それだけでまた腰が砕けそうになる。耳のしわを舐めた後、耳たぶに音を立てて吸い付くと、ようやく口を離した。

「さて、次はこっちだな」
「ひゃうっ、あ、またっ……!」

 反対側に頭を移動させると、まだ乾いている耳を舐め始めた。その間、左手が少女の脚を開かせ、スポンジをボトル類がある棚に置いた右手が脚の中心へと滑る。茂みをかき分けて、立ち上がった突起を指が押し潰した。

「あっ! や、そこ、つぶしちゃだめっ」
「こら、脚を閉じるな。上手く洗えんだろう」
「ああっ! ひらく、ひらくから、そこはだめぇっ……!」
「いい子だ」

 ぐりぐりと敏感な突起を潰され、びくびくと体をはねさせる少女。力が入らない両脚を震えながら開いた少女は、暗くてよかったと思った。こんな自分の姿を明るいところで見るなんて、想像しただけで恥ずかしくて死んでしまいそうになる。
 ギルガメッシュは反対側の耳たぶもちゅうっ、と吸い上げると、泡が付いてない首筋をべろべろと舐める。少女の左足の付け根に左手を添えて閉じないように押さえ、右手は突起の下に潜り込ませる。男が散々注いだ精液と、少女の性感の証である透明な液体が、ぬるぬると割れ目を汚していた。

「ここは特に、丁寧に洗わねばな」
「んっ……あ、ゆび、んん……」
「泡が入ると沁みてしまうだろうからなあ、我の指で中まで洗ってやろう」
「やん、んぅ……王様のゆび、えっち……」
「なにを言うか。我はただ洗っているだけだぞ? それを言うなら貴様であろう。そら」
「きゃうっ……!」

 ぐちゅり、と付け根まで中指を入れられると、嬌声とともにぎゅうっと中が狭まった。声はもはや掠れてしまって喉が痛い。なにより浴室内で声が反響して、自分のものではないような声に聞こえる。こんな高く甘ったるい声を自分は出しているのか。そう思うと、余計に下腹部が疼いた。

「我の指を締め付けおって、この淫乱め」
「あ、ちが、違うの、淫乱じゃないの……!」
「中の精液をかき出しているだけだというのに、こんなに締め付けておいて、まだ言い訳をするのか」

 精液をかき出すために鉤爪状にした指が、縦横無尽に内壁を擦り上げる。くちゅくちゅ、といやらしい音と、自分の嬌声が耳に入り、否応なしに淫らな気分に支配される。こんな、ただかき出すための指の動きで。

「あっ、あっ、だめ、なか、かき回さないで……!」
「なんだ、もしや貴様、イきそうなのか?」
「だめ、だめっ、ゆび、イっちゃう、こわい、やだっ……!」
「怖いだと?」
「やだ、暗いのやだぁ、王様が見えないの、こわいの……!」
「暗くしろと言ったり暗くて怖いと言ったり、どっちなのだ貴様」

 呆れたようにため息を吐いたギルガメッシュは、少女が果てる前に指を抜いた。荒い息の少女を支えながら指を鳴らすと、浴室内が明るくなった。鏡越しにギルガメッシュの姿が目に入り、思わず安心してしまう。

「ご、ごめんなさい……なんか、急に不安になっちゃって……」
「もうよい。それよりも、これで終わりだと思っておらんだろうな?」
「え……?」

 くもり止め加工がしてあるのか、目の前の大きな鏡は浴室内でも表情までよく見える。鏡越しに見たギルガメッシュの顔は、色気たっぷりに笑っていた。
 ギルガメッシュは少女の右手を掴むと、自分の股間に導いた。触れたものの熱さに手が引っ込みそうになるが、ギルガメッシュがそれを許さず、逆に握らされる。

「あ、熱い……」
「熱いだけか?」
「熱くて……か、硬くて……おっきい……」

 少女が顔を赤くしながら言うと、鏡の中の男は満足そうに頷いた。凶暴に育った性器を握らせたまま、軽く上下に動かす。何度か扱いた後で男が手を離しても、少女の手は動きを止めなかった。

「あんなに、したのに……」
「あんなにとは、貴様が果てた回数か? それとも我が貴様に中出しした数か?」
「も、もう、王様のえっち……」

 そう言いつつもギルガメッシュの肉棒から手を離さない。少女はまったくの無意識で気づいてなかったのだが、その様子にギルガメッシュはにやけが止まらなかった。顎をつかまれてギルガメッシュのほうを向かせられると、くちびるに吸い付かれた。

「ん、ふぅ……んっ……」

 口内を男にひとしきり舐め回される。少女が舌に集中していると、男の空いた手が乳首をつまむ。絶頂の波が引いた下腹部が再び熱を持ち始め、少女は期待に腰を揺らした。
 最後にちゅっとくちびるに吸い付いてキスを終えたギルガメッシュは、少女の腰を支えながら立たせる。後ろから尻に勃起したモノを擦り付けられ、少女は小さく喘いだ。

「そこの鏡に手をつけ。後ろから犯してやる」
「えっ、王さま、ちょっと待って、あっ……!」

 鏡に手をつき、腰を男のほうへと突き出すような体勢になる。腰をつかまれたかと思うや否や、熱いモノで後ろから一気に貫かれた。

「ああっ! や、待って、おうさまっ……!」
「待たん。第一、貴様の中は我に食いついて離れんぞ」
「あっ、ひ、あん、はげしっ……!」

 腰を激しく強く突き上げられる度に、ぱんぱんと肌がぶつかり合う音が反響する。自分の嬌声が響いているだけでも恥ずかしいのに、その音を聞くとまぐわっていることを思い知らされてどうにかなりそうだった。

「そら、鏡を見てみろ」
「んっ、鏡……? えっ、やだっ、うつってる、やだあっ」
「目をそらすな! よく見るがいい、なにが映っている?」
「あうっ、うしろから、王様に、あっ、つかれてるの、いっぱい、つかれて、あん、ぱんぱんて、いってるぅ……!」

 快楽で理性が擦り切れてきたのか、思うがままを口にする少女。その声も当然浴室内によく響いている。鏡に映った、後ろから激しく犯されている姿。それを言葉にしたことに胸が熱くなり、興奮が高まっていくのがわかった。こんな恥ずかしいところを見せつけられて、本当なら見たくないのに。自分の股間からギルガメッシュの剛直が出たり入ったりするところなんて、見たくないのに。その光景から目が離せなくて、どうしようもなく興奮してしまう。

「っ……今ので中が締まったぞ、やはり好き者だな……!」
「やあんっ……! ちがう、ちがうの、こんなの、ああんっ、やだっ、だめなのぉっ……!」
「涎を垂らしながら言うことか!」
「あっ、あふぅっ、んっ、も、むりぃっ……!」

 あまりの激しさに、壁から手が離れそうになる。それに加え、快感が強すぎで肘も膝もがくがくと震えてきた。絶頂が近い。ぐりぐりと奥を抉られて、視界がチカチカと明滅する。

「ああっ、も、だめ、イく、イきますっ、ぎる、さまあぁっ……!」
「、出すぞ、く、うっ……!」

 強すぎる快感を鏡に爪を立てて耐える。びくびくと勝手に痙攣する腰を強引につかまえて、ギルガメッシュが中に精を放った。精を出し切るように脈動する性器を二、三度打ち付けると、ずるりと中から抜き去った。
 限界を迎えてへたりこむ少女を支え、ギルガメッシュは自分も床に腰を下ろした。少女の喉は枯れてしまっていて、荒い呼吸をするたびにひゅうひゅうと喉が鳴った。
 少女は一連の行為で疲れ果て、今にも眠ってしまいそうになる。かろうじて起きていられるのは、ギルガメッシュが顔中にキスを降らせているからだ。

「なんか、お風呂に入る前に、のぼせた、ような……」
「今から入るのだぞ、もう少し耐えぬか。もっと体力をつけよ、マスター。これでは我は満足できんぞ」
「いやいや王様の体力と比べないでくださいっていうか本当に何回したと思って、ひゃっ!?」

 しゃべっている途中で膣内に指を入れられ、危うく舌を噛むところだった。なにしてんのこの王様、と信じられないような気持ちで男の顔を仰ぐと、口の端を吊り上げていた。

「湯船に浸かる前に、精をかき出さねばな」
「い、や、あの、ちょっともう本当にむりです待って待って」
「なにを言っている? 我は風呂に浸かるだけだぞ? なにも必ずセックスするとは言っておらん。まあその気になればその時は致し方ないが?」
「やる気満々だこの絶倫王ーーー!!」
「はははそう褒めるでない、こやつめ」
「褒めてないっ!!」

 翌日、文字通り精も根も尽き果てた少女はベッドから動けず、やむなく休みを取ることとなった。恋人の激しすぎる性行為が原因で少女がやむを得ず取る休みのことを、カルデアスタッフの間では「ギルガメッシュ休暇」と呼ばれていることを、少女は知らない。



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